3-2 新たなメンバーと迷宮へ
それは、タルガットと共に迷宮での狩りを終え、自宅に戻った後のこと。
夕食の支度をしているアルマ達の元へ、大家が現れたのだ。
「やあやあ、夜分にすみませんなあ。」
「あら!大家さん、どうしたんですか?」
アルマ達の住まいは借家で、大家が親戚ということでかなり安い家賃で借りていた。その後、大家は息子の代に移り、家賃は上げられたが。
「いやなに。実はお前さんとこに新しい住人がいるって聞いたもんでなあ。」
「あ、はい。彼女たちです。」
アルマは玄関扉の前から下がり、奥にいるシャムスとランダを紹介する。
「あ!すみません。ごあいさつにもいかず。」
「いやいや、それはいいけどな。その、爺さんに言われてたし、お前さんにはこの家をかなり安く貸してるわけでな。けど、そっちの二人、うちと関係ないからなあ。」
「え!あ、はあ・・・」
「よその家を貸してる住人への手前、あんまりここだけ特別ってわけにもいかんのよ。いや、けどあんまり無理言うのも忍びない。そんでな、一人頭300コルンってことにしたげるわ。」
「ええええ!」
「いやいや。以前のことはもういいから。今月から、900コルンで頼むわ。そんだけ言いに来たんよ。ほなら、10日後に家賃取りに来るから。」
用件だけ告げると大家は帰っていった。そしてアルマは。
「き、緊急事態です!緊急事態宣言を発令します!」
『どんまいリーダー』
「落ち着いてリーダー。」
「そ、そうですよリーダー。お水でも・・・」
「こんな時だけリーダー扱いはやめてください!これは、パーティ存亡の危機ですよ!」
アルマ達は現在、森への遠征時につくった借金を抱えており、生活必需品にすら困っている有様だ。家賃の分はもちろん考えていたが、倍以上となるととても払えない。ではどうするか。
「・・・で、黒雷蛇を狩りたいと?」
前日と同じく生協売店の飲食スペースにて。アルマはタルガットに頭を下げる。
「一生のお願いですタルガットさん!無理は承知ですが、他に手立てもなく。お願いしますううう!」
「おねがいしまーす。」
「お願いいたします。」
「シャムスちゃん、ランダちゃん、心がこもってないよ!」
「私たちはまあ、いざとなったら野宿でも・・・」
「野宿はダメ!絶対!許しませんよ!」
「しかしなあ。マイヤの奴も連れて行かなきゃいけない状況では無理があるぞ。」
「そこはもう、最終的にはタルガットさんの判断で構いません。ただ、狙うつもりで迷宮を進んでたら、それなりに素材もたまるでしょうし。ここはひとつ、強化期間くらいのつもりで!つもりで!」
「わ、わかったわかった。だが無理はしないぞ。」
「はい!よろしくお願いします!」
アルマの勢いに押されてタルガットが承諾したところで、エリシュカがやってきた。後ろにいるのが従妹のマイヤだろう。
アルマ達は立ち上がって迎えようとする。だがそれよりも早くマイヤが駆け出すとタルガットに抱き着いた。
「タルガット!!!会いたかったぞおおおお!」
「わ!馬鹿止めろマイヤ!」
「な、なんぞ?」
『まためんどくさそうなのが来たな・・・』
満面の笑みでタルガットに抱き着くマイヤと嫌がるタルガット。額に手を当て、ため息をつくエリシュカ。そして状況が呑み込めず、だがタルガットが微妙に嫌がっていた意味は分かってしまい、互いに顔を見合わせるアルマとシャムス、ランダ。
こうして、当面のパーティが一堂に会することとなった。
そして。
マイヤが満足してタルガットから離れるのを待ち、互いに自己紹介を済ませ、タルガットが当面の目的を伝える。
「黒雷蛇か!いいぜ、あたしに任せとけ!お前らも大船に乗った気でいろよな!」
マイヤは快活にそう言って笑った。どうやらエリシュカとは随分性格が異なるようだ。
顔立ちはエリシュカによく似た金髪碧眼の美人で、すらりとした体つき。だが見るからに勝気そうで、というかむしろ血気盛んという言葉が似合いそうだ。
「こ~ら。調子に乗るなよ~」
「大丈夫だって。冒険者になるために、ずっと修業してきたんだ!やれるやれる!」
エリシュカは不安そうではあったが、アルマ達にとってはありがたい。ともあれ、無理のない範囲で連携を試そうということになり、パーティ登録を行って迷宮に向かうことにした。
受付はもちろんジョーガサキだ。
「それでは、こちらがマイヤ・アールブルさんの冒険者証となります。ステータスをご確認ください。」
【名 前】 マイヤ・アールブル(エルフ族)
【年 齢】 25
【階 級】 銅級
【レベル】 22
【体 力】 177
【魔 力】 301
【スキル】 剣術Lv.4、弓術Lv.5、魔法Lv.7 (火Lv.3、水Lv.7、風Lv.5、土Lv.3、木Lv.5)、気配察知Lv.2、隠密Lv.2
【固 有】 聖盾、聖援
【称 号】
【加 護】 エイルの加護
「おお、マイヤさん強い!」
「どうだ、タルガット!見たか!すごいだろ、頑張ったんだぞ褒めてくれ!」
「お、おう。」
マイヤは見た目はアルマと同年代のように見えたが、だいぶ年上だった。だが、長命のエルフとして考えれば、それほど年上というわけでもないのだろう。
マイヤは、ステータスをタルガットに褒めてもらいたくて仕方ないようだ。そういう仕草は、実に子供っぽい。
当のタルガットは、遠くから冒険者たちの「タルガットがまたハーレムメンバーを増やしている・・・」というやっかみの視線が気になって、それどころではなかったが。
「皆さん、これから迷宮ですか?」
「はい。あ、ジョーガサキさん、これから当分は迷宮に通おうと思ってますので、生協の指名依頼はお休みでお願いします!」
「分かりました。黒雷蛇を狙うおつもりですか?」
「おつもりです!報奨金のご用意をお願いします!」
「・・・くれぐれも、無理をなさらないように・・・。」
鼻息荒く宣言するアルマに何がしかの不安を感じたのか、ジョーガサキが顔をしかめる。
だがもちろん、当のアルマは気付かない。ジョーガサキの感情の機微に敏いシャムスだけがそれに気づいていた。
その後、「お前らのステータスも見せろよ」と騒ぐマイヤを適当にいなして、一行はギルドを出た。アルマは現在、変な称号が生えているのでジョーガサキには見せられないのだ。
もちろんそのことは、タルガットとエリシュカにも伝えている。
エリシュカは店番があるのでその場で別れ、ラスゴーの迷宮へと向かう。
初めてパーティを組んだ時と同じく、1階層はさっさと通り過ぎ、2階層へ。
「よし、それじゃあ、とりあえずマイヤがどの程度できるのか、見せてもらうぞ。」
「おお!任せろ!」
マイヤは自信たっぷりに答えると、なんの気負いもなくスタスタと先頭を歩き出した。
右手に長剣、左手には盾。そして皮の胸当と手甲、足甲。タルガットと同じスタイルのようだ。
と、角から突然現れる小鬼の群れ。
そのうちの一匹が手に持った剣で襲い掛かってくるが、マイヤは武器も防具も構えることなく叫ぶ。
「聖盾!」
すると空中に盾が現れ、小鬼の攻撃を防いだ。これがマイヤの固有スキルなのだろう。小鬼が体勢を崩したところで、マイヤが長剣をふるう。
ボグン!と音と立てて打ち据えられる小鬼。そこを狙って別の小鬼が飛びかかるが、空中に浮いていた盾が移動し、その小鬼の攻撃を防ぐ。そこにマイヤの一撃。同じく3匹目も打ち据えるが、いずれも致命傷ではない。
倒れ伏す小鬼たちに剣を打ち下ろすマイヤ。だが、彼女にとって長剣は重過ぎるのだろう。剣がぶれてうまく切れないようで、肉片が周囲に飛び散る。
結局、切るというより殴り殺すような形で小鬼たちを倒したときには、マイヤは全身に血しぶきを浴びていた。
「どうだ!タルガット、見ててくれたか?」
「お、おう・・・。ちょっ、近寄るな!」
「なんでだタルガット!ほめろ!ほれ!」
『なんだありゃ。馬鹿娘よりひどいな。』
「いや・・・でも、強いんじゃないかな・・・。」
「な、なんと表現したらいいんでしょうか。」
「猟奇っす・・・。」
とりあえず、マイヤの実力はわかったものの、今後の活動に一抹の不安を覚える一同だった。
そして、タルガットがマイヤに告げる。
「よし、マイヤ。お前はとりあえず支援な。」
「なんでだよ!」
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※誤字修正しました!