閑話 ジョーガサキさんの秘密②
ジョーガサキの秘密を暴くべくジョーガサキ邸に押し掛けたアルマ達だったが、意外にも彼は手ずから料理した昼食でもてなしてくれた。ものすごく不機嫌そうな顔で。
だがその料理があまりにも美味しかったものだから、アルマたちは夢中で食べてしまって秘密を暴くどころではなかった。
そして今は食後のティータイム。
これまた、すこぶる良い香りが漂っていて、茶菓子は繊細な意匠がこらされたもので、食べるのがもったいなく感じられるほど。だが、ここで誘惑に負けてしまうわけにはいかない。アルマはお菓子に集中したい心を無理やりジョーガサキに向ける。
「このお茶もお菓子も、すっごく高そうですよね。ジョーガサキさんてお金持ちなんですねー。」
「いえ、このお茶はそこの中庭で栽培し、手もみ・発酵・乾燥・火入れは自分でやりましたので無料です。菓子の方は主原料は5コルンで購入したものですが、それ以外はやはり中庭産ですから。」
「え、じゃあこれどっちもジョーガサキさんの手作りっすか?」
「そうですがなにか?」
なんなのこの人。なんでこんなに女子力高いの?
思わぬジョーガサキの特技を知って驚愕の一同。特に料理が苦手なシャムスなどは茶菓子を手に取って呆然としている。
この切り口はダメだ。下手をすると普段料理を担当する自分の尊厳が失われかねない。ランダが機転を利かせて話題を変える。
「それにしても、立派なお宅ですよね。こんなところに家があったなんて知りませんでした。」
「いえ、これは私が勝手に建てたものです。」
「は?ジョーガサキさんが?自分で?」
「もちろん大工さんにも手伝っていただきましたよ。」
「いや、そういう意味じゃないんですけど・・・どうしてまたこんな場所に?」
「不動産屋を5軒、92の物件を見せてもらいましたが条件に合う住まいが見つからなかったためです。この辺は誰もいないから勝手にしろと町長がおっしゃったので。」
「町長・・・ジョーガサキさんて何者なんですか?」
「質問の意味がわかりません。ただのギルド職員ですが?」
ランダはため息をつきながらも食い下がる。
「質問を変えます。ここで、一体何をなさっているんですか?」
「牛や豚、植物の品種改良ですが?」
「ままま、魔改造?悪魔の実験施設?」
「アルマ・フォノンさん。あなたには一度脳の魔改造をお勧めします。」
「ひいい!」
シャムスの後ろに隠れるアルマ。それを見て、ジョーガサキの表情が一段と険しくなる。
「どうもよくわかりませんね。何を聞きたいのですか?」
『ああもう。埒があかねえな。こいつらはジョーガサキが何か悪いことをして金儲けをしてるんだろうって思ってんのさ。そんでそのヒミツがここにあるって踏んでんだよ。』
「あ!マルテちゃんちょっと!」
「ああ、なるほど。そういうことですか。」
「ジョ、ジョーガサキさん・・・?」
ジョーガサキはため息をついて一同を見まわした。
「ランダさんが精霊召喚を使えるように、私にも固有のスキルがあります。」
「こ、固有のスキル・・・!」
シャムスの背後に隠れたままゴクリと息を呑むアルマ。
「はい。『育種』というスキルです。その効果は、私が生育に携わったものの生長を助けるというものでして、大したスキルではありませんが、これを使って美味しい食材を作り出す実験をしているのです。といっても、飼料や養分を与えているだけですが。そのなかで比較的うまくいったものは町の商店に卸していますし、その生育方法も提供しています。その対価をいただいているので、他のギルド職員よりは比較的裕福と言えるでしょう。基本的に自給自足ですしね。」
「そんなスキルが・・・」
「それじゃ、牛6号もその結果ってことっすか?」
「あれはちょっと予想外の方向に成長してしまった例ですね。食用に適さないので通勤牛として活用しています。」
「やっぱり牛に乗って通勤してるんですね・・・」
シャムスとランダは呆れた口調で互いに顔を見合わせる。
「疑問は解消しましたね。ではみなさんお帰りを。」
「ままま、まってください!そんなスキルがあるのなら、なぜギルド職員を?そっちでお金を稼げばいいじゃないですか。」
「アルマ・フォノンさん。あなたは何もわかっていない。私が品種改良を行うのは、私自身が余暇のお茶や料理を楽しみたいからです。他人の余暇を楽しませるためではありません。」
「え?・・・いや、え?」
「私が以前暮らしていた国では、お茶は何十種類もの中から選ぶことができました。茶菓子は無数。食品はあらゆる素材が一年中手に入ります。そういう環境下でなくては、その日の気分に合わせて満足のいく余暇を楽しめないでしょう?」
「そ、そうですか、ね?」
「この町の食糧事情はあまりに貧しい。生産者には、もっといいものを作ろうという意欲がない。そこで私がちょっと良いものをつくっても、それが普及して終わりでしょう。それでは私は、結局あらゆる食品を無数につくり続けなければなりません。とても余暇どころではなくなります。」
「・・・はあ。」
ついていけなくなりそうになったので、ランダが話しをまとめる。
「つまり、ジョーガサキさんの育成知識をすべて公開することで、生産者さんが自発的に美味しい食品をつくりだす環境づくりをしているということですか?」
「そのうえで、私の予想を覆し、私を楽しませてくれるものが生まれることを期待します。」
『・・・何言ってんだこいつ。』
みんなの思いを、マルテが簡潔な言葉でまとめてくれた。
「ともかく、私が小銭を稼げているのはそういう理由です。納得したのでしたら、どうぞお帰り下さい。」
理解はできなかったが理由はわかった。であれば、これ以上居座る理由はない。
「おじゃましました・・・ごちそうさまでした・・・」
3人は虚ろな礼を言ってジョーガサキ邸を辞す。
しかし、ジョーガサキ邸訪問の余波は思わぬところで現れることになる。
それは、ジョーガサキ邸訪問から数日後のこと。
とある依頼を受けた3人はラスゴーの森に入っていた。そこに群れからはぐれた灰狼が現れ、襲いかかってきたのだ。
アルマたちは当然応戦しようとしたのだが、それよりも早く、召喚していたネズミの雪さんが針のように逆立てた背中の毛を飛ばし、灰狼を撃退してしまったのだ。
「ゆ、雪さんこんなことできたんだ。」
「いえ・・・今まではこんなことは・・・」
「姉さま、シノさんを召喚してみてください。」
ランダは掌に魔法でつくった水を溜め、その中にサカナのシノさんを喚びだした。
すると、なんとシノさんはふいっと自ら水を飛び出て、空中を泳いで見せた。
「こここ、これは・・・!」
「雪さんもシノさんも・・・進化してるっすね。」
「なぜこんな・・」
『そりゃどっちも、ジョーガサキからごはんもらってたからなあ』
雪さんとシノさんの成長が、ジョーガサキのスキル【育種】によるものかはわからないが、タイミング的に考えればその可能性は高い。
そして、3人もまた同じ日、同じ場所で、ジョーガサキの手料理を食べている。
「なんか・・・すごく嫌な予感がするんですが?」
3人は不安を解消するために、冒険者ギルドでステータスの確認を行うことにした。
だが、ジョーガサキがいる日はまずい。念の為、ジョーガサキが休みの日を狙い、新人職員のルスラナを捕まえて鑑定用のオーブを使わせてもらう。その結果は・・・
【名 前】 シャムス(狐人族)
【年 齢】 15
【階 級】 銅級
【レベル】 12
【体 力】 224
【魔 力】 118
【スキル】 剣術Lv.5、斧術Lv.5、槍術Lv.3、投擲Lv.5、格闘Lv.4、魔法Lv.3(身体強化Lv.3)、気配察知Lv.2、隠密Lv.3
【固 有】
【称 号】
【加 護】 ウトゥの加護
【名 前】 ランダ(狐人族)
【年 齢】 15
【階 級】 銅級
【レベル】 11
【体 力】 128
【魔 力】 203
【スキル】 杖術Lv.4、弓術Lv.4、精霊魔法Lv.7、気配察知Lv.3、隠密Lv.2
【固 有】 精霊召還(鼠、魚)
【称 号】
【加 護】 ナンナの加護、ケリドウェンの加護
【名 前】 アルマ・フォノン(人族)
【年 齢】 17
【階 級】 銅級
【レベル】 15
【体 力】 189
【魔 力】 191
【スキル】 剣術Lv.2、槍術Lv.4、魔法Lv.4 (火Lv.3、水Lv.3、光Lv.2、身体強化Lv.2)、気配察知Lv.2
【固 有】
【称 号】 勇者の卵
【加 護】 サウレの加護、ヌアザの加護、バリガンの導き
3人共に、森への遠征などを経て、レベルは上がっていた。
だが問題は、アルマだ。
「な・・・なぜ私だけ、妙な称号が・・・?」
「アルマさんは、ジョーガサキさんにとって・・・育成の対象ということですかね?」
「つまり、ペットあつかいってことっすか?」
『ぶ!ぶはははは!』
「ななな、なんだとー!」
叫び出すアルマの口を慌てて抑えるランダとシャムス。
「ルスラナさん。どうか、この件はご内密に。」
「・・・どうせ、ジョーガサキさんがらみですよね?わかりました。他言はいたしません。」
「ルスラナありがとう!」
そうしてシャムスとランダはアルマの口を抑えたまま、こそこそと冒険者ギルドから立ち去るのだった。
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週末は。。。お休みの予定ですが。。。
※ステータスに誤りがありましたので訂正いたしました。