表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/155

閑話 ジョーガサキさんの秘密①

薬草探しの遠征から戻り、テシャ少年にサリムサクを届けてから数日後の夕刻。

生協のお得意さんになりつつある薬屋の主人からの素材採集依頼を終え、アルマとシャムス、ランダはラスゴーの森から町へと戻るため草原を歩いていた。


この間、アルマたちはひたすらジョーガサキからの依頼をこなしていた。

金がないのだ。


初遠征にあたって、野営セットをはじめ、武器、防具など、かなりの経費が掛かっていた。それらはすべて、ジョーガサキからの借金という形になっている。

当初は薬草を探すついでに森で魔物を討伐して、その素材を換金することでまかなう予定だった。だが、迷宮騒ぎで素材を獲得する間もほとんどなかったのだ。


「セーキョーの指名依頼をこなしていただけるのであれば、返済はお待ちしましょう。」


いつもの如く不機嫌そうな顔でジョーガサキはそう言った。


「なんか、ジョーガサキさんの良いように転がされている気がする・・・。」

「あのとき、ジョーガサキさんすっごい嬉しそうだったっすからね。」

「シャムスちゃんには、あの顔のどこが嬉しそうに見えるの?」


ジョーガサキの感情の機微については、なぜかシャムスは異常に察しが良い。シャムスが言うのならそうなのだろう。


「それにしても、ジョーガサキさんはどうしてそんなにお金持ちなんでしょうね?」

「そういえば・・・何か裏でやばい仕事でもしてるんすかね?」

「そそそ、それだ!それだよランダちゃん、シャムスちゃん!」

「「んん?」」


ランダとシャムスの何気ないやりとりに、アルマが食いつく。


「ギルド職員があんなにお金を持っているのはおかしい!きっと、裏で良くないことをしているに違いありません!その秘密を暴いて、それをネタに強請(ゆす)れば私たちの借金は帳消し。強制労働もなし!ズバリ!ジョーガサキさんの弱みを握ろう大作戦です!」

『お前は本当に残念な頭をしているな。』

「な!マルテちゃんに言われた!」

『おい、どういう意味だ。』

「とにかく!明日は久しぶりの休日!そして、聞くところによるとジョーガサキさんもお休み。まずは探りをいれますよ!」

「探りって、何すんの?」

「ふっふっふ、『お宅訪問』です!」


そんなわけでアルマ、シャムス、ランダの3人は休日中のジョーガサキ宅に押しかけることにしたのだった。


そして、翌朝。

タルガットから聞いたジョーガサキの家をめざして、アルマ達は南門へと向かう。


「それにしても、お家が町の外だったなんて・・・。」

「牛6号がいるから、街中だと狭いんすかね?」


牛6号はジョーガサキが飼っている牛だ。異常に発達した体躯(たいく)と筋肉の持ち主で、先日の迷宮騒動では人の運搬から木の伐採まで、大車輪の活躍を見せていた。牛6号がいなければ、迷宮騒動は解決できなかっただろう。


「そういえば、こっち側って来たことないですね。」

「きっと家を見つけられるのが嫌で、私たちには依頼を回さないようにしていたんだよ。」


そして、町の外に出てみると、荒涼とした平野の向こうに家が建っているのが見える。


「こりゃあ迷いようがないっすね。」

「ジョーガサキさん、あんなところから毎日通ってるの?」

「牛6号に乗って通勤しているのでしょうか?」


町の南側はかなり危険な魔物が出没すると聞いていたので、警戒しながら進んでいく。しかし、なぜか魔物の姿はまったくない。


「全然いないね、魔物。」

『牛6号が駆逐しちまったんじゃねえか、全部。』

「あり得る・・・。」


そんな話をしているうちにジョーガサキの家の全容が次第に明らかになっていく。

それは、なんとも形容のし難い住居だった。

町の出口から見えた小屋は、牛舎のようで、牛舎の横には牧草が植えられていた。その奥に四角い石づくりの家が建っている。そちらがジョーガサキの住まいなのだろう。だが随分でかい。


と、突然背後から複数の魔物が地面を蹴る音が聞こえてきた。

見れば、異常に体格の良い牛や豚の群れが迫ってきている。


「のわあ!戦闘態勢!」


だが動物たちはアルマに目をくれることもなく、その横を通り過ぎて牛舎や豚舎をめざして駆け抜けていく。先頭を走っているのは牛6号だろうか。規律正しいその動きはまるで軍馬のようだ。


「ど、どうやらジョーガサキさんの飼育している動物みたいですね。」

「こんなにいたんだ・・・。」

「森でも、牛6号が何頭か家来つかまえてたっすからね。分担で木を倒させて、作業が終わったら放逐してたけど。」

「賢すぎない!?」


自由に牧草を食べたり寝そべったりしている動物たちの横を抜け、いよいよジョーガサキの家へ。


「こ、ここが悪の本拠地か。」

「アルマさん、悪ってそれは・・・。」

「じゃあ、いくよ!」


ドアを叩くアルマ。何の反応もない。だが、しばらく叩き続けると、ようやく奥から物音が聞こえ、扉が開いた。


「こんにちは、ジョーガサキさん!突然ですが遊びにきました!お家に入れて閉めないでください!」

「・・・アルマ・フォノンさん。どうして私の家を?」

「タルガットさんにお聞きしました!上がらせてもらっていいですか?お邪魔します!」

「お断りし、ちょっと、勝手に上がらないでください。」


タルガットに家の所在を聞いた時、「どうせ追い返されるから、行くなら勝手にあがれ」と言われていたので、アルマは先頭に立って3人は中へと入る。

入ってすぐは広めのホールになっていて、正面奥には中庭が見える。中庭ではさまざまな植物が植えられていた。いずれも食用の植物のようだ。


「うわ、すご!」

「・・・仕方ありませんね。どうぞこちらへ。お茶をだします。お茶を飲んだら帰ってください。」

「お茶菓子もお願いします。てか、意外と遠かったのでお腹が減りました、ごはんください!」

「アルマ、つええ・・・。」

「・・・どうぞこちらへ。」


ジョーガサキに連れられて右手奥の部屋へ。そこは食堂になっていて、さらにその横に厨房があるようだ。

どうやら、この家は上から見ると完全な四角形になっているようで、すべての部屋から通路を挟んで中庭へと出られる構造になっているらしい。

ジョーガサキが厨房で準備をしている間、アルマ達は一人で使うには広すぎる食堂で庭を眺めながら家の様子を観察する。


「まさかこんな豪邸とは・・・これは何かありそうですね。」

『お前の方が悪人ぽい発想だけどな』


そんな話をしていると、厨房から何やらいい匂いがしだす。


「・・・本来なら追い返すところですが、生協メンバーということで特別です。食べたら帰ってくださいね。雪音さんと東雲(しののめ)さんはこちらをどうぞ。」


不機嫌そうな顔をしながらも、ジョーガサキは食事の用意をしてくれた。パンに野菜のスープ。何かの動物のステーキ。ネズミの雪さんとサカナのシノさんには、パンのかけらだ。


「雪さんて、正しくは雪音さんていうんだ。今知ったよ。」

「ええ。歩く姿が、雪が舞うようだったので。」

「ちなみに東雲は?」

「夜明け時の、薄焼けの空を指す言葉なんです。シノさんの鱗の色と、夜の女神さまにとっての希望の光となるようにって思いでつけました。」

「そんな意味が・・・姉さまは本当にすごいです!」

「ありがとう。でも雪さんの名前は、ジョーガサキさんにはお教えしてなかったはずなんですが・・・?」

「お気になさらず。それよりも、冷めないうちにどうぞ。」


ジョーガサキに促されて、ひとまず3人は食事に専念する。気が付けばもうお昼近くなので、本当にお腹は空いていたのだ。


「それじゃあ遠慮なくいただきます!・・・うま!!」

「この肉、めっちゃおいしいっすね!」

「お肉もですけど、このパンも・・・スープもおいしいです。」

「ジョーガサキさん、これ何のお肉ですか?」

「これは牛6号ですね。」

「「「ぶはー!!」」


口に含んでいたものを一斉に吹き出すアルマ達。

その様子を見て、ジョーガサキは満足したのか、悪魔のような笑みを浮かべて言う。


「冗談です。」

「そ、その顔で言われると、冗談に聞こえないんですけど!」

「牛6号ではなく、8号です。兄弟牛ですね。ほら、冷めないうちに食べてください。」

「は、はは。」

「いただきます・・・。」


思わぬ逆襲にあって急激に食欲が萎えてしまったアルマ達。

だが、その味はやはり食堂で食べるものよりもはるかにおいしく感じられ、結局すべて食べ切ったのだった。


お読みいただきありがとうございます!

なんか、長くなってしまったので分けます。

ブックマーク、評価、ご意見、ご感想、ご罵倒、なんでも結構です。お寄せいただけると小躍りして喜びます!


※文章がおかしいところをご指摘いただいたので直しました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ