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9-1 新たな旅立ち

建国記念ならびに新勇者と新魔王誕生を祝う式典からさらに数日。

この間、アルマたちはさまざまな作業に忙殺されていた。


王国公認の勇者の所属するパーティとなった「銀湾の玉兎」は、今後は王国からの直接依頼などもこなしていくことになる。

また、ラキは王国との和平をめざす魔族の代表として、さまざまな公務を担うことになる。


また、アルマたちはベリト関連の査問も受けなければならなかった。

ベリトはいまだ行方をくらませているが、収監中に彼が話した内容は決して看過できない情報も多く含まれているため、手を抜くことはできない。


そうした雑務をこなしているうちに、あっという間に日が経ってしまったのだ。


だが、それらの雑務にもようやく一段落がつき、アルマたちはいったんラスゴーへと戻ることになった。

形式上は、ユグ島に新設される魔族村へとラキを送り届けるという、王宮からの直接依頼を受けることになる。


そして今日。

いよいよ旅立ちという段になって、アルマたちは迷宮へと足を運んでいた。

実体化したバリガンやルシたち迷宮の住人と別れを告げるためだ。


「うわあ!村が大きくなってる!」

「ラスゴーに続いて、迷宮村第二号ってわけね~。こっちは大分寒そうだけど~。」


思わず嘆声を上げたアルマに、エリシュカが答える。

わずか数日しか経っていないというのに、雪山ゾーンにあった村はかなり拡張されていた。

村人となる迷宮の住人たちが、今も忙しく動き回っているのが見える。

アルマたちと一緒にそれを見ていたバリガンが、満足そうに説明を加える。


「いまじゃ百数十人っていう大所帯だからな。以前の村じゃ寝床が足りねえ。まだまだ大きくするぞ。」

「人族と魔族の融和を象徴する最初の村となるのですから、見た目にもしっかりした村にするつもりですよ。」

「おお、ルシさん!あ、ルシ村長!」


遅れてやってきたルシが会話に加わる。

バリガンは迷宮核と融合してしまっているため、ルシがこの新しい迷宮村の村長となったのだ。

ルシはそのままラキの元へと歩を進め、頭を下げる。


「改めて、あなたには、いえ、あなたのご両親も含めて、迷惑を掛けましたね。魔物を引き付ける能力のせいでさぞかし苦労したことでしょう。本当にごめんなさい。」

「・・・いえ、ルシさんのせいじゃ、ないです。それに・・・いまでは、この力を得て・・・良かったと思っています。」


その言葉を聞いたルシは、頬を緩める。


「ありがとう。あなたがつくる新しい村も、多くの人でにぎわうといいですね。」

「・・・この村に負けないよう、がんばります。」

「まあ、こっちの村は俺もちょくちょく顔出すし、心配すんな。」

「でも、実体化がいつまで続くかはわからないんですよね?お体の方は問題ないんですか?」


バリガンに、ランダが尋ねる。

バリガンたちは元々大戦時代の記憶だ。それが実体化したのは、大量の瓦礫や魔物の死骸を迷宮が吸収したことによる。

しかも、吸収させる際にジョーガサキが固有スキル【育種】を使った影響が大きい。


「まあ元々俺たちゃ過去の記憶。もう死んでるも同然なんだ。あの世に行く前のおまけくらいに考えて、気楽に行くさ。」

「村人たちもそれは理解しています。だからこそ、かつてのいざこざを忘れて協力しあえているのです。」

「なるほど~。あ、もしかしたらバリガンさん、今度こそ神さまになるかもですよね~。実体化した上に、市民にまで姿を見せたんですから。」

「んん?まあ、その可能性はなくはないな。実際、今も妙な信仰ができつつあるらしいしなあ。」


口の端を上げて尋ねるエリシュカ。

対してバリガンは、空を見上げて言う。


「けど、多分俺は神にはならねえよ。」

「え?そうなんですか?」アルマが声を上げる。

「神っつうのは独自の理ってのがあんだよ。お前らのとこの神さま、ヌアザさまとケリドウェンさまは、なんつうか人間っぽいだろ?あれも、神さまをやめかけてるからなんだよな。」

「そういえば、最初に会ったときにそれっぽいことを言ってたような???」

「神が堕ちる場合と、人から神に上がる場合はまたちがうんだろうけど。ともかく俺は、俗っぽすぎるみてえだな。てか、俗っぽさを捨てるくらいなら神になんぞなりたくもねえ。」


バリガンは、そこで槍マルテに目を向ける。


「お前も少しずつわかってきてんだろ、マルテ。」

『・・・まあな。』

「神格を得たと言っても、お前はまだ厳密には神じゃあねえ。いずれお前は選択しなきゃいけえときがくる。そんときまでに、よく考えておけよ。」

『け。んなこたわかってるっつの。』

「え?え?マルテちゃん、まだ神さまじゃなかったの?崇めなくて良かったー!」

『お前は崇めろよ!もっとあたしに感謝して丁重に扱え!』

「えええ!わたし丁重だよ?」

『どこがだよ馬鹿アルマ!』

「私はうすうすわかってたっすよ。」

「あたしもだぜ?マルテが神だなんて、おかしすぎる。」

『よおしお前ら表出ろ。アルマ、実体化するから魔力寄越せ。』


槍マルテとその相棒、そして仲間たちとのやりとりを、バリガンは温かく見つめていた。

ずっと心残りだった。

まさかマルテが、こんなに素晴らしい相棒を得ることができるなんて。

さらに目を村に向ければ、人族と魔族とが力を合わせている。


こんな日が来るとは思ってもいなかった。

記憶となり果ててまで、この世界にしがみついてよかった。

この思いを大切にしていたい。

そのために、神に至れないのだとしても、まったく構わない。


と、そこへエヴェリーナがやってくる。


「わざわざ挨拶に来るとは殊勝なことですね。今日、出発ですか?」

「エヴェリーナさん!はい、今日出発します。」

「エヴェリーナさまは、本当にここに残るんですか?」


ランダに問われたエヴェリーナは、ジロリとバリガンを一瞥して答える。


「この馬鹿は、ほっとくと何しでかすか分かりませんからね。」

「おいおいエヴェリーナ。そりゃねえだろう。」

「なにがですか?そもそも、あなたが記憶庫なんてものをつくったからこんなことになったのでしょう?大体あなたは昔から、説明がなさすぎるんです。ベイルガント近くの隠れ里だって私がどれだけ・・・。」

「わ、わかった。悪かったエヴェリーナ。」


どうやらバリガンは、エヴェリーナには頭が上がらないようだ。

そんな二人の様子をエリシュカが興味深げに眺める。

その隣では、タルガットが苦笑いだ。


人間とエルフ。

その関係のひとつの形を見せられて、それぞれに思うところがあるのかもしれない。


「ともかく、私はこの村がある程度形になって、迷宮が安定するまではここに残ります。皆さんも、一旦は故郷に戻っても、早々に王都に戻ってくるのでしょう?でしたら、またすぐ会えますよ。」

「そうか。そうですね。それまで、教えていただいたことをしっかりと身に付けておきます。」ランダが答える。

「そうしなさい。私の方は、いいリハビリ相手が見つかりましたから、錆を落としておきましょう。戻ってきたら、きっちり成果を見てあげましょう。」

「お、おいエヴェリーナ。リハビリ相手ってのはまさか俺じゃねえよな?俺は迷宮核だぞ?もしなんかあったら・・・。」

「大丈夫。手加減はしますから。」


そう言ってエヴェリーナはにやりと笑う。

それは、往年の猛々しさを思わせる笑みで、アルマたちまでが思わず後退るほどだった。


ともあれ、こうして別れを告げた一行は、再び迷宮前に戻った。

そこにはすでに牛6号と2頭の牛が牽く牛車が到着していて、不機嫌そうな表情を浮かべたあの男が立っていた。


「ようやく戻りましたか。では、出発しますよ。」


会話らしい会話もなく、さっさと牛車に乗り込むあたりが、いかにもジョーガサキらしい。

アルマたちは互いに顔を見合わせながらも、いそいそと牛車に乗り込んだ。

馭者台にはタルガットだ。


そして牛車はまだ復興が始まったばかりの西部新市街を進んでいく。

更地となった市街には、アルマたちの出立を見送ろうと、多くの市民が駆けつけていた。

アルマたちは寝台車輛の屋根の上から、手を振って観衆に応える。


新市街を抜け、西門を出る。

生協が冒険者ギルドの正式サービスとして認められたため、今回は鉱山都市ドルグサイズなどの往路では立ち寄れなかった町や村にも立ち寄る予定だ。


つい先日、魔物たちの間を突っ切った道を、今度は多くの市民に見守られて進む。

重量級の牛車が進んだ後には、車輪の轍が道に刻まれていく。


そんな光景を、アルマは不思議な気持ちで眺めていた。


「また新しい旅の始まりだね、マルテちゃん!」

『ん?ああ、そうだな。』

「今度の旅は、どんなことが起こるかなー?」

『さあな。』


アルマの問いかけにぶっきらぼうに応えるマルテ。

だがそこでマルテは、アルマの魔力を使って人の姿になる。

バリガンの母親の姿をまねた、美しい女性像。

そんな印象を吹き飛ばすように、マルテは豪快な笑みを浮かべて言う。


『どんな旅だろうと、退屈することはねえだろ?なんせ、あたしの相棒がワクワク担当だからよ。』


その言葉に、アルマははじけるような笑顔を浮かべて答える。


「そうだね。よおし、ワクワク担当がんばっちゃうぞー!」

「いやアルマ、それは勘弁してほしいっす。」

「おう。あんまやりすぎると、あたしらも身の振り方考えるからな?」

「そうですよアルマさん、反省してください。」

「え?え?ちょちょちょっとまってまって。今良い感じで旅立ちムードだったでしょ?」

『ぶははは!負けんなアルマ。』

「マルテちゃん他人事!?」


騒ぎ出すアルマたちを、ラキとエリシュカが、呆れたような顔で見つめる。

青く澄んだ空に、いつまでも賑やかな少女たちの声が響いていた。


ここまでお読みいただきありがとうございました!

彼女たちの旅はまだまだ続きますが、一つの区切りということで、本作はひとまず閉幕とさせていただきます。

ベリト君のその後や、勇者と魔王の秘密、生協のその後、タルガットさんとエリシュカさん・・・

まだまだ書きたいところはたくさんあるので、いずれ、第2幕を書きたいと思っております。


ただ、その前にもう少し文章の書き方を勉強しないとですね。。。

描き切れなかったところ、伝えきれなかったところ・・・

この作品を通じて、力量の足りなさを痛感いたしました。

最後までお付き合いくださった方には、この場をお借りして深く感謝申し上げます。

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