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8-30 ジョーガサキさん、ベリトと語る

「それで、一体何の用ですか?」

「急かすね。こういうのは世間話から入って、少しずつ互いの腹のうちを探りあうものではないかね?」


冒険者ギルドから一時的に与えられた執務室で、ジョーガサキとベリトは向かい合ってお茶を飲んでいた。

だが、打ち解けた様子のベリトとは対照的に、ジョーガサキは不機嫌そうな表情を隠さない。


「そういう無駄な時間の使い方は好みません。」

「ああ、そうだった。君はそういう男だったね。まあいいだろう。要するにちょっと答え合わせをしたいと、ただそれだけのことさ。」

「答え合わせ?」

「今回の一連の騒動のさ。これでも、今回は君の計画がうまくいくようにお膳立てをしたつもりなんだけどね。」


その言葉に、ジョーガサキの表情がわずかにくもる。


「そのようなことをあなたにお願いした覚えはありませんが。」

「だが、実際にはうまくいっただろう?魔王が勇者と手を取り合って、市民の目の前で王国の危機を救った。魔王さまを認めさせるためには、これ以上ない舞台だったじゃないか。」

「そのためにラキ・ミゲルさんに嘘を信じ込ませ、彼女の魔力を暴走させるために角を折っても良いと?そんなことをしなくても、彼女を魔族の代表として王国に認めさせることはできました。」

「もちろん君ならそれも可能だったろう。だが、市民の前でラキに力を使わせるという手段は、君だって考えていたはずだ。」

「あくまで最後の手段として考えていただけです。彼女の力で魔物を集め、彼女の力で遠ざける。そんなマッチポンプのような手段はとりません。」

「ああ、なるほどね。だが、こっちの方が劇的で分かりやすかっただろう?君たちには採れない手段だろうから、僕が代わりに憎まれ役を買って出たんだぜ。」

「余計なお世話ですね。」


その言葉にジョーガサキは思わず表情をゆがませる。

ベリトが言っているのは、先日の魔物襲撃の件だ。

ベリトによってラキは魔力を暴走させられ、王都を逸れるはずだった魔物は結局王都に集結した。


その後、ラキが魔力のコントロールを取り戻して事なきを得たのだが、ベリトは最初からそうなることを予見して、事を起こしたのだという。

【未来視】というスキルを持つベリトならば、確かに事前に予測していたはずだ。


だが、だからと言ってラキを傷つけて良い理由にはならない。

その意味で言えば、ラキを救国の英雄として仕立て上げたジョーガサキは、いわばベリトの企ての片棒を担いだようなもの。

あの時は確かに、わかりやすい状況になったと思っていたのだから。

ベリトの作戦にまんまと乗せられたことに、苛立ちを覚えたのだ。


そんなジョーガサキの思いを読み取ったのか、ベリトはにやりと笑う。


「まあいいさ。こんなやり方で君たちの歓心を買えるとも思ってはいないからね。ただまあ、今回の騒動については純粋に僕の動機はそれだけだよ。そのことだけ、覚えてくれてればいいさ。」

「・・・わかりました。覚えておきましょう。話はそれだけですか?」

「おいおい。そりゃあないだろう。なぜそんな親切を?とか、聞きたいことがあるんじゃないか?」

「ありませんね。今のお話しで大体の答え合わせは済みました。」

「ほうほう?ならばそれを聞かせてもらえるかな?」


ジョーガサキの反応を気にも留めず、ベリトは食い下がる。

ジョーガサキはそれを見て不機嫌そうな表情を浮かべるが、どうやら説明しないことには引き下がりそうにないことを見て取り、ため息をつく。


「そもそもあなたがラスゴーやオーゼイユでなぜ神を貶めようとしていたのか。それはあなた自身が【魔王】になりたかったからでしょう。なぜそんなものになりたかったのかはわかりませんが。」


ジョーガサキの説明を受けて、ベリトは満面の笑みを浮かべる。


「なるほど、続けて。」

「だが、残念ながら今世の魔王が現れてしまった。しかもその魔王は人族との交渉相手として私たちが擁立しようとしていた。それを知ったあなたは、その状況を利用しようとした。魔王になるのがムリなら、せめて魔族が暮らしやすい世の中にしてもらおうと。」

「ふむふむ。」

「先ほどは恩着せがましいことをおっしゃってましたが、要するにあなたは自分の都合の良い方に持って行っただけだったということです。」

「まあそうとも言えるが、一応これでも本気で魔王をめざしていたんだがね。長年の夢の芽をあっさりと君に潰されたんだ。文句を言いたくなる気持ちもわかるだろう?」

「なるほど。本当の目的はそっちですか。」

「まあ目的の一つではあるかな。僕が見いだせなかった魔王に至る道を、君はあっさりと見つけて見せた。せめてもの詫びとして、その方法とやらをご教示いただけないかね?」


柔和そうな表情を浮かべてはいるが、ベリトからはそれまで感じられなかった圧力のようなものが噴出し始めていた。

それだけ本気という事なのだろう。

だがジョーガサキは、柳に風といった様子で答える。


「単に、私の手料理を食べさせただけですが。」

「・・・は?」

「私のスキルです。私の料理を食べると、成長するんですよ。人も、魔物も。」


ベリトからさらに圧が増す。


「なるほど。そんな便利なスキルがあったとはね。【勇者】も【魔王】も君の手駒になるわけだ。」

「手駒にした覚えはありません。」

「ふうん。まあいいだろう。ところで僕はいま、君が点てたお茶を飲んでいるのだけど、これはカウントされるのかな?」

「成長に必要な条件は、私に深く感謝すること、というのが私の仮説です。」


そう言うジョーガサキを、ベリトはじっと凝視する。

だが、数瞬の後、ベリトが噴き出す。同時にその圧力は霧散した。


「ははは。これは愉快だね。僕には、魔王になる芽はなさそうだね。」


ベリトはティーカップを机に置くと、立ち上がる。


「この世界はやたらと神がいるから、僕らの価値観とは違うのかもしれない。だが、勇者と魔王という役割が与えられているのは、明らかに争わせようということだろう?その中で高め合えと。少なくとも僕は、種の進化に貢献するつもりで立候補したのだがね。」

「神の意向など、忖度すること自体が不遜というものです。種の進化というのも、人の手に余ると私は思いますが。」

「そうかもしれないね。ならばそこは置いとくとしよう。だけど勇者と魔王は、いずれ必ず決裂する。相容れない存在なんだよ。その時、君はどうするつもりだい?」

「どうもしません。」

「なんだって?」

「どうもしませんよ。争わなければならないのであれば、争わせればいいのです。ただし、それは私の目の前で、本人たちだけでやってもらいます。」

「なるほど。では仮に、彼女たちの間で決着がつかなければ?」

「決着がつくまでやらせますよ。9時から18時の間で、何日もかけて。週休2日は厳守で。」

「ははは!勇者と魔王の決戦まで定時制なのかい?そりゃいいね。」


ベリトは心底愉快そうに笑うと、扉へと向かう。


「ならば魔王になれなかった僕は、せいぜいその決戦を盛り上げる役に回ろうかな。そうだね、たとえば君の隣の席を争わせる、なんてのはどうだろう?」

「くだらない。」

「はっは。そうかな?意外とあり得る展開だと思うけどね。二人を派手に争わせることができれば、私の望みにも合致するということか。ふふふ、ジョーガサキくん、僕は何が何でも君に残業をさせてみせるよ。楽しみにしておきたまえ。」


そして、ベリトは部屋を出ていく。

それと同時に、また窓の外から沸き立つ市民の歓声が聞こえてきた。


ジョーガサキは一瞬だけ窓の外に目を向けると、再び机に戻って事務作業をはじめたのだった。






その後、建国記念式典は滞りなく進行し、アルマとラキは晴れて王国が認める勇者と魔王となった。

会場となった迷宮前は、そのまま彼女たちを祝う祝宴場として開放された。


例年であれば賓客を招いた晩さん会が王宮で催されるのだが、今年はバリガンがいる。

瓦礫や魔物の魔力を迷宮に還元することで実体化したバリガンは、迷宮から離れることができないのだ。


それだけではない。

迷宮に魔力を還元したことで、かつての大戦を生きた人族や魔族のうち百数十人が実体化するに至ったのだ。

そのなかには、ラキの祖先である魔族の巫女ルシ・ミケアレの姿もあった。


実体化した者の多くは、大戦で犠牲になった者たちであった。

なぜ彼らが実体化したのかはわからない。

だが、たとえ記憶であれ、悲しい過去を持つ者たちにさらにムチを打つようなことをすることもない。

彼らが実体として存在している間は、人族と魔族の融和を進める先駆けとして、迷宮内で自由に暮らすことが認められた。


迷宮の入り口を挟んで、時と種族とを越えて、今日という日を祝う人々。

その中には、アルマたちの姿もあった。


そして宴の時間は進み、日も暮れ始めた頃。

タルガットが一人の男を連れて宴の会場へと戻ってくる。

ジョーガサキだ。


その顔に浮かぶのは、いつもと変わらぬ不機嫌そうな表情。

だが、隣に座ったアルマは彼の顔をまじまじと見て言う。


「ジョーガサキさん、今日はどうしたんですか?」

「どう、とはなにがですか。アルマ・フォノンさん。」

「いつもはこういう宴の席、すごく嫌そうなのに。今日はなんだか、仕方ないって感じだから。」

「・・・あなた達と付き合うと、こういう場面もあるということを学んだだけです。」


それを聞いたアルマは一瞬キョトンとした表情をしたあと、笑顔で言った。


「そうですか。それなら良かった!」

「・・・何が良かったというのですか?」

「いえ。今後も、私たちと付き合うのをやめる気はないんだなって思って。」


ジョーガサキは、なぜか虚を突かれたように言葉を詰まらせる。

その表情もやっぱりいつもと変わらないように見えて、タルガットとエリシュカが、少し離れた場所で顔を見合わせていた。


お読みいただきありがとうございます!

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