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8-23 迫りくる危機

王都近郊に埋められた魔道具を発見するため、ラキはエヴェリーナ、タルガット、エリシュカと行動を共にしていた。


エヴェリーナが提案したのは、魔道具の起こすかすかな魔素の流れを逆にたどるというもの。

魔力の流れに敏感なエヴェリーナにしかできない方法ではあったが、これにより、わずかながら魔道具発掘の効率はあがった。


だが、おおよその方向は特定できても、埋められた地点にはかなり近づかなければわからない。

地形によっては埋設場所には大回りしないとたどり着けない場合も多々あり、迂回すると今度は魔素の流れを追えなくなるため、発見までに時間がかかる。


結局、3日をかけて発見できた魔道具は4つだけだった。


そんななか、「三ツ足の金烏」が魔族の数人を捕らえたという情報が齎された。

それによって魔族の狙いは、魔物による王都襲撃だとわかったらしい。

さらに、近郊都市からの異変も伝えられた。


どうやらかなり身近に危険が迫っていることがわかり、タルガットたちは今後の動き方を確認するため、一度王都へと戻ることにした。


だが、そのタイミングがまずかった。

魔族を引き連れた「三ツ足の金烏」が王都に戻ってくる時間と重なってしまったのだ。


先行して王都に戻っていたシャヒダの報告は、その時点ですでに市民にも伝えられていた。

建国記念に向けたお祝いモード一色だったところで突然の戒厳令。

その不満は、両手をきつく縄で縛られ、引きずられるように街中を歩かされる魔族へと向けられた。


石を投げられ、罵声を浴びる魔族の男女。

中には石を受けて頭から流血している者もいる。

そんな彼らを目撃したラキは恐慌状態に陥った。


あそこにいるのは、過去の、そして未来の自分だ。


途端に、ラキは周りにいる人間が恐ろしくてたまらなくなった。

こちらを見る視線が怖い。

心配そうに声をかけられるのすら、自分が魔族だと見透かされているようで、いてもたってもいられなくなった。


そして、彼女は逃げ出したのだ。


走って。走って。走って。

どこをどう走ったのかもわからない。

とにかく人のいないところに行きたかった。


気が付けば、ラキは人気のない裏町の狭い路地にいた。

だが、そこは無人だったわけではなかった。

ひとりの男が、突然やってきたその少女を興味深そうな視線で見つめていたのだ。


男は、彼女の姿に見覚えがあった。


かつては巫女として北部地域で崇拝されていた、魔族の中でも特殊な血統。

遠い昔に見たその一族の特徴が、フードの下に隠されているのを目ざとく見つけたのだ。


「こんばんは、お嬢さん。こんなところで同族に会うことになろうとはね。」


無人と思って一息つきかけたところで声をかけられ、少女は身構える。

薄暗がりの路地から現れたのは、一人の男だった。

見た目は人間。

だが、その瞳に宿る朱い光には、人ならざるものの気配があった。


「おっと、心配は無用だよ。私も君と同じ、魔族なのだから。」

「・・・魔族?・・・あなたが?」

「そうとも。私の名はベリト。ベリト・ストリゴイ。外見は人に酷似しているが、いわゆるバンパイアというヤツさ。」

「・・・。」

「ずいぶんと動揺しているね。そうか、ひっ捕らえられた魔族が街中で晒し物になっているところでも見たのかな?それで怖くなった、違うかね?」

「・・・。」

「実に悲しいね。そして可哀そうだ。彼らには、ああするしか生きる術がなかったというのに。彼らだけじゃない。これから彼らは徹底的に尋問され、家族はまとめて捕らえられ処刑されるだろう。家族はそれこそ、なんの罪も犯していないというのに!」

「・・・あなたは、彼らの仲間なの?」

「いや、私はちがう。彼らのことや、その目的は知っているがね。・・・ふむ。その反応からすると、君は人族の手助けをする側かな。おっと、別に咎める気はないさ。ただ、彼らがなぜあんなことをしたのか、君は知っているのかな?」

「・・・・・。」

「君がどちらにつこうと構いはしないが、理由くらいは知っておいた方がいいと思うがね。」


芝居がかった口調で話すベリトに、ラキは心を揺さぶられた。

同じ魔族であるということ、そして王都襲撃に関わっていないことが、耳を傾けさせる一因にもなっていただろう。

だがそれよりも、ベリトには何か人を惹きつける不思議な雰囲気があった。


その時、少し離れた通りから、ラキを探す声がかすかに聞こえた。

エリシュカの声だ。

喧騒に紛れて逃げたラキを探しにきたのだろう。


その声を聞いた瞬間、ラキは激しい恐怖に囚われた。

逃げ出した自分を、彼らはどう思うだろう。

魔道具の捜索でも、自分は何の役にも立っていない。

迷惑ばかりかけている自分は、もしかしたら捨てられてしまうのではないか。


生まれてこの方、ほとんど他人と接したことのないラキには、叱られた経験がほとんどない。

初めて感じた気持ちに、どう対処すればよいのかわからなかったのだ。


そんなラキの心の変化を、ベリトはその表情から読みとる。

詳細はわからないが、どうやらこの子は使い道がありそうだ。

そして、何の打算もないといった気軽さで、ラキに声をかける。


「さて、このままここで話し込むのもいいが、どうやら人が近づいてくるね。どうだろう、まずは私の隠れ家に来ないかい?彼らがどのようなことを企んでいるのか。そして、これまでどんな目にあってきたのか、教えてあげよう。」


逃げ出したことが露見することへの恐怖。

少しでも新しい情報を得て、役に立ちたいという思い。

自分以外の魔族の暮らしへの興味。

さまざまな思いがラキの心に渦巻いた。


そして少女は、謎の紳士とともに、暗がりの路地に消えた。





「ラキ・ミゲルさんのことは気がかりではありますが、もはや時間がありません。ひとまず捜索は中止して、魔物の襲撃に備えます。」

「そ、そんなあ!そんなのダメですよ!」


そう告げるジョーガサキに反発したのはアルマだった。

だがもはや猶予がないのも事実だ。

タルガットが申し訳なさそうに言う。


「すまんアルマ。俺たちがついていながらこんなことになっちまって・・・。恐らく、捕らえられた魔族を見て動揺したんだと思う。」

「い、いえ、タルガットさんたちのせいでは・・・。」

「その魔族の少女のことなら、あたしたちも聞いてる。少女の捜索はあたしたちが引き続き請け負ってやるよ。」

「ダリガさん・・・。」

「では、そういうことで。役割分担は先ほどお伝えした通りです。いいですか、これは時間との勝負になります。くれぐれもよろしくお願いします。」


結局、アルマたちはひとまず捜索をあきらめ、それぞれに行動を開始した。


まずジョーガサキによって作り上げられた王都周辺の詳細地図をもとに、ルスラナと冒険者ギルドの本部職員イルミスが魔道具の埋設場所の予測地点を示した地図が配られた。


それを受け、実際に埋設場所に向かうのはタルガット、エリシュカ、そして「銀湾の玉兎」の面々だ。

ただし、今回は魔道具の回収はせず、魔道具の向きを変えるだけに留めることが決められた。

魔素の流れを意図的に混乱させ、魔物たちの進路を狂わそうという狙いだ。


一方で「三ツ足の金烏」は、王都へ向かいつつある魔物の規模と位置を把握するために動く。

こちらは王軍もすでに動いているが、彼らにはカバーできないエリアを補う役割だ。


ラスゴーから応援に駆け付けたクドラトとダリガは迷宮周辺の市街地の封鎖とバリケードの設置を指揮する。

王都の冒険者たちは基本的に二人の指揮下に入り、魔物との戦闘に突入した際もその指揮下で動くことになる。


王都の内側は冒険者たち。王都の外は王軍。

さらに遊撃としてタルガット、エリシュカ、「三ツ足の金烏」「銀湾の玉兎」という配置だ。

遊撃として動ける人員は少ないが、いつ迷宮があふれるかもわからない状況ではあまり多くの人数を振ることができないのだ。


一方でエヴェリーナとメルグリムは、迷宮に向かうことを願い出た。

迷宮内はすでにかなり活性化しており危険を伴うが、彼女が暴れれば、それだけ迷宮の脅威も軽減される。

何より、かつてのバリガンを知る自分であれば、バリガンと共闘して迷宮の活性化を抑えられるかもしれない。

エヴェリーナの主張をジョーガサキが受け入れた形だ。


こうしてそれぞれが動き出した翌日。

王都に向かう魔物の群れが王軍と「三ツ足の金烏」のそれぞれから報告される。

王軍は魔物に向けて遠距離での攻撃を行うが殲滅するには至らず。

わずかにその足並みを遅らせるにとどまった。


「三ツ足の金烏」からの報告は、王軍が接触した群れよりもかなり小規模なものであった。

だが、それらの魔物が発見されたのは、王軍が向かった北部、北東部とは真反対。

規模の差こそあれ、魔物は全方位から王都に引き寄せられつつあることが分かった。


こうした報告が次々と上げられる中、アルマたちは山中を駆けずり回って魔道具による攪乱工作を進めた。

ジョーガサキ、ルスラナ、イルミスによる予測は的確で、魔道具の発見に伴ってその精度はますます上がっていく。

うまくすれば、魔素に引き寄せられて王都に近づいた魔物は途中で道を失い、群れは自然崩壊するかもしれない。


じりじりと追い立てられるような焦りのなか、アルマたちはひたすら山中を奔走。

途中からは「三ツ足の金烏」の面々も作業に加わり、翌々日までかけて、ジョーガサキたちが想定したすべての魔道具の発見と移動を完了したのだった。


そして。

その日、アルマたちは合流したタルガットたちとともに、王都近くの山中にいた。

眼下には、埋め尽くすほどの魔物の群れ。


「この先で魔物たちが進路を変えるはず、ですよね?」

「ジョーガサキくんの計算が正しければね~。まあ、あと少しでわかるわ。」


エリシュカの言葉に、アルマは頷いて魔物たちの動きに注視する。

ジョーガサキの計算通りなら、このポイントで魔素の流れは大きく変わり、王都を外れた平野部へと進路を変えるはずだ。

そして、最も数が多いと予測されたこの群れが進路を変えるなら、魔物の脅威はかなり軽減されるだろう。


予定していたポイントに、魔物たちの群れが差し掛かる。

なにかに引き寄せられるように進んでいた魔物の動きが、そこで大きく乱れる。

大きな意志に導かれていた群れが指針を失ったかのように膨れ、一部が進路を変える。


「成功・・・っすかね?」


思わずシャムスがつぶやいたその時。

乱れていた群れが再び大きな指針を見つけたかのように、それまでよりもさらに力強く王都へと向かい始めた。


「な、なんでだよ!全然計算通りじゃないじゃねえか!」


マイヤが声を荒げる。

だが、あのジョーガサキがこの手の計算を仕損じるとは思えない。

だとしたら、何か違う理由があるのかもしれない。


全員の心に、ある少女の顔が浮かんだ。


お読みいただきありがとうございます!

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