表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/155

8-22 異変

「そうか・・・曾祖父はラスゴー迷宮で・・・曾祖父を看取ってくださったこと、改めて感謝申し上げる。」

「いえいえ、そんな!むしろこちらこそ、感謝しているんですから!幽霊のおっさ・・・ジナイダさんが知らせてくれなければ、ラスゴーはどうなっていたかわからないんですし。」

「ははは、幽霊のおっさんで結構。しかし、祖父を看取ってくれた君たちがこうして、今度は王都の迷宮の異変を知らせ、その調査に私が立ち会う。縁とは不思議なものだな。」


王都の新市街にある迷宮内を歩きながら、アルマはラスゴー迷宮での騒動についてメルグリムに説明した。

迷宮で見つけた、不思議な従業員通路のこと。

その先に広がる、幽霊たちの村のこと。

迷宮の異変を終わらせるために自らすすんで犠牲となった幽霊たちのこと。

そして彼らが心を失っている間もずっと孤独に耐え続けてきたジナイダのこと。


メルグリムはその話を、ただ黙って聞いていた。

だが曾祖父の境遇に心を痛めながらも、ラスゴー迷宮の仕組みや成長の条件などにはどうしても興味を惹かれてしまうのが研究者の性なのだろう。


アルマはその様子を、むしろ微笑ましく見ていた。

ジナイダのことを報告できた。しかもそれが今を生きる子孫であり研究者でもあるメルグリムの興味を強く掻き立てている。

そのことで、なぜかジナイダが浮かばれるような気がしたからだ。


そんなアルマの視線に気づいたのか、メルグリムは問わず語りに祖父のことを話し始めた。


「ご存じとは思うが・・・曾祖父は家族からはあまり好まれてはいなかったらしい。大した金にはならない研究に現を抜かし、家庭を顧みない阿呆だと。曾祖父の方も、そんな家族の気持ちが分かっていたからこそ、ますます研究に没頭したのかもしれない。」

「・・・・・。」

「私の父は、特に曾祖父を憎む思いが強かったようだ。あんな風には絶対にならないと言って、学問に打ち込み、王宮に使える文官となった。」

「あ、それでも学問の道を進んだんですね。」

「学究肌なのは血筋なのだろう。当然、私も同じ道を進ませようとしてね。曾祖父の話は、よく反面教師として、父から聞かされたものだよ。」

「そうだったんですね・・・。」

「ところが、今度は私が父親の生き方に反発してしまった。ただ文官になって安定を得て何が楽しいのかと。そうして結局私が迷宮の研究に打ち込んでいるのだから、父も報われないな。」

「それは・・・いえ、そうかもしれません。でもジナイダさんの最後はとても立派でした。それだけは、間違いありません。」

「そうか・・・そうだな。曾祖父の最後のことは、家族にも伝えておくよ。」

「そうしてください。」

「そのためにも、まずはこの迷宮調査を終わらせないとな。曾祖父には負けてられん。よろしく頼むぞ。」


そう言って、メルグリムは嬉々として先頭を行くシャムスの下へと走っていった。

異変の兆候を読み取る能力はシャムスが一番だとすでに見抜いているのだ。

その様子に往年のジナイダの様子を連想して、アルマは苦笑を浮かべたのだった。


だが、そんな会話ができたのも王宮が管理する区画を越えるまでだった。

そこから先、アルマたちが数日前に忍び込んだ備蓄倉庫の奥は、まさに別の迷宮のようになっていたからだ。


迷宮の構造が変わっているだけでなく、魔物が頻繁に出没するようになり、その対応にも時間がとられる。

魔物の活動そのものも活性化しており、かなり攻撃的だと感じられた。


「こうも構造が変わってると、下層に辿り着くのなんていつになるかわかんねえぞ?」

「そうですね。階層が広がってる可能性もありますし。」

「ついでに迷宮の成長が速すぎるっす。仮にバリガンのいる階層に辿り着けたとしても、帰り道はもう別の迷宮みたいになってるっすよ?」

「うーん、そうだね。これは一旦地上に戻って報告した方が良さそうだよね。急いで魔物があふれた時の準備をしてもらわないと。」


魔物たちの襲撃を何とか退け、小休止できそうな窪地に身を寄せたアルマたちは今後の動きについて話しあう。

すでにバリガンから警告を受けてはいたが、ここまで進展しているとは考えていなかった。

バリガンとの再会はひとまず諦めて、最悪の事態に備えた方が良い。

その決断に異論を唱えたのはメルグリムだった。


「備蓄倉庫の辺りはかなり広いし、あそこにバリケードを築けばかなりの数の魔物が来ても防げるのではないか?すでに王宮と冒険者ギルドも対応は始めているのだし、迷宮の変動に立ち会える機会を逃したくはないのだが・・・。」

「お気持ちはわかりますが、この先は、私たちはともかくあなたの安全が約束できません。」


ランダの言葉に、メルグリムは決意の籠ったまなざしを向けて答える。


「私の命などは問題ではない。なにより、今の状態では迷宮の活性化こそ確認できたものの、明確な危険が確認できたとは言えんだろう?せめて一つ下の階層まで確認させてはもらえないか?」

「・・・わかりました。では次の階層までは確認しましょう。ただし途中でこれ以上進むのはムリと私たちが判断した場合は必ず従ってください。」

「よかろう。約束する。」


結局はメルグリムの熱意を尊重する形になったが、今すぐ魔物があふれる兆候がみられるというわけではないのも事実。

加えて、可能な限り魔物の種類を把握しておきたいというジョーガサキの言葉もあったことから、アルマたちは調査続行を決めた。


そして、ほぼ一日をかけて迷宮を踏破し、下の階層へと降り立ったのだった。

そこは、前回アルマたちが訪れた雪山とよく似た場所だった。

唯一つ、以前と明らかに違うのは。


「ま、魔物が谷を埋め尽くしてる・・・。」

「な、なんすか、これは・・・。」

「おいおい、やばすぎるだろう?」

「みなさん静かに。この近くにも魔物の気配があります。」


ランダの警告に、一同は一斉に口に手を当てる。

そんななか。明らかな異変を見せつけられて、アルマは決断を下す。


「可能な限り短時間で魔物の種類のみを調査して、すぐ王都へ引き返します。いいですよね?」

「ああ・・・わかった。」


メルグリムは目の前の脅威に息を飲み、ただ頷くことしかできなかった。



一方その頃。

急ピッチで迷宮への対応を進める冒険者ギルドの対策本部に新たな情報が届けられた。

王都に近い鉱山都市ドルグサイズ、そしてホーエンガルズの冒険者ギルドからの情報で、いずれも町周辺の魔物が姿を消したというものだった。


そして、時を前後して「三ツ足の金烏」のシャヒダが先行して王都に帰還。

直ちに、魔族から聞き出した王都襲撃の計画について報告があげられる。

彼らの報告を、周辺の冒険者ギルドの連絡が裏付ける形となった。


王都の内と外からの魔物の襲撃が近日中に起こる。

もはや疑う余地なしとして、冒険者ギルドはついにこの情報を公表することを決断した。

同時に王宮も緊急事態を宣言。

王都からの人の出入りを厳しく制限し、特に王都から出ることは安全が保証できないとして固く禁止される事態となった。


建国の式典を間近に控え、多くの人が集まっていた王都は、たちまちのうちに混乱状態となった。

アルマたちが迷宮から戻ってきたのは、そんな騒動の最中だった。


すぐに冒険者ギルドに報告に向かったアルマたちは、まず対策室が大部屋に変更していることに驚いた。

ここまで事態がひっ迫していれば、人員の補充は不可欠となるから当然といえる。

だがさらに驚いたのは、そこによく知る人物がいたことだ。


「ル、ルスラナさん?なんでこんなところに?それにえっと・・・ミレンのニコレグさんまで!」

「・・・ジョーガサキさんに呼び出されたんですよ。情報処理能力に長けた職員が必要ということで。」

「こいつらだけじゃねえぞ嬢ちゃん。俺もついにジョーガサキに顎で使われるようになっちまった。」

「ええええ!ギ、ギルドマスター!?」


そこにいたのは、ラスゴー冒険者ギルドの新人職員ルスラナ・クエバリフ。

そして、ラスゴー支部のギルドマスターであるクドラト・ヒージャとサブマスターのダリガ・ソロミンだった。

そんな面々が集まる中、ジョーガサキがいつも通りの不機嫌そうな顔で、対策室に入ってくる。


「皆さんお揃いですね。では、アルマさんたちの報告を聞きましょうか。」


促されるまま大机を挟む形で座った面々に、メルグリムが報告を行う。

迷宮の下層はすでに魔物で埋め尽くされていること。

王宮側はその対策として、備蓄倉庫にバリケードを設けていること。

一方でジョーガサキからは、「三ツ足の金烏」によって明らかにされた魔族の企みについて説明がされる。


「つまり、今回の騒動は長年にわたる魔族の企みによるもの。その主な目的は王都を鎮護する聖獣の弱体化と魔物の誘導。その副次効果として、迷宮にも良からぬ影響が出てしまったということです。」


予想外の展開にアルマたちは言葉を失う。

だが、そんななかでクドラトは不敵な笑みを浮かべた。


「王都防衛となると、現場で荒くれどもを従わせる奴が必要だ。そこで俺たちの出番ってわけだな?」

「おっしゃる通りです。すでに魔道具の回収作業はタルガット・バーリンさんたちが進めています。現在、ルスラナ・クエバリフさんとニコレグさんの協力で、埋設場所の絞り込みを進めていますから、今後は回収作業もはかどるでしょう。それでもすでに移動を開始している魔物を防げるとは限りません。」

「つまり俺たちが最終防衛線てわけだ。いいだろう、現場の仕切りは任せておけ。」


どうやらジョーガサキは、こうした展開を予想してクドラトたちに声を掛けていたらしい。

ジョーガサキの呼び出しを受け、魔族の村づくりに奔走していたクドラトたちは作業を一時中断。

ジョーガサキが手懐けたラスゴー迷宮の怪鳥ヴクブ・カキシュに乗って、王都にかけつけたのだという。

唖然とするアルマたちをよそに、ダリガが発言を求めて手を上げる。


「それで、タルガットたちはどうしてる?魔道具の回収状況も把握しておきたいのだが?」

「彼らには一旦こちらに戻ってくるように連絡してあります。間もなく戻ってくるはずです。」


ジョーガサキが答えたまさにそのとき、タイミングを合わせるように、エヴェリーナが対策室の扉を開けて入ってきた。

だが、彼女の言葉に、アルマたちはまたしても声を失うことになる。


「大変です。ラキが姿を消しました!皆さん、急いで彼女を探してください!」


お読みいただきありがとうございます!

ここのところ、時系列がとびとびの展開続きですみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ