表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/155

8-21 再会

数百年にわたって活動を休止していた迷宮が、突然動き出した。

冒険者ギルド本部のマスターであるティムルからその報を受けたジョーガサキ達は、即座に行動を開始した。


エヴェリーナ、タルガット、エリシュカが、翌日に予定していた魔道具探しを繰り上げ、即座に出発することにしたのだ。

迷宮の異変が謎の組織の企みによるものなのかは定かではないが、魔道具の影響である可能性は極めて高い。

であるならば、迷宮を再び鎮めるには魔道具の発見・発掘を急がなければならないという理由からだ。


彼らは、アルマたち「銀湾の玉兎」が迷宮に忍び込んだことを知っている。

当然、迷宮の異変についても彼女たちが何かしらの情報を掴んでいると考えたが、迷宮周辺は脱獄騒ぎで厳戒態勢が敷かれており、アルマたちもいつ戻ってくるのかわからない。

手遅れになる前に少しでも被害を減らそうというわけだ。


そこで魔族の少女ラキが、同行させてくれと願い出た。

魔族が関わる魔道具によって予想外に大きな事件が引き起こされようとしていることを知り、いてもたってもいられなくなったのだろう。


せめて少しでも、役に立ちたい。


ほとんど自己主張をしたことがないラキの申し出に、タルガットたちは大いに驚いたが、彼女の気持ちもよくわかる。

結局、タルガットたちはラキを同行させることにした。

そもそも野山で逃亡生活を続けてきたラキにとって野営は大した負担にはならない。

王都に残したところで気を許せる相手がジョーガサキだけでは、かえって彼女の心労になるだろうという思いもあったからだ。


こうして迷宮から戻ったアルマたちは、わずか数時間の差でタルガットたちと入れ違いになってしまったのだった。


そしてアルマたちもまた、王都に戻ってからはジョーガサキの指示のもとでさまざまな作業に忙殺されることになる。


バリガンの試練突破の詳細は、もちろん即座にジョーガサキに伝えた。

報告の席にギルドマスターが同席したことにアルマたちは驚かされたが、ティムルもまたバリガンの記憶に会ったという報告に驚いていた。


「迷宮の記憶庫というのは流れる時間も違うらしくて。私たちの感覚では1日くらいしかたってなかったんですけど・・・。」


代表してこれまでの経緯を説明するアルマに、ティムルは首を縦に振って応える。


「なるほどのう・・・。しかし、エヴェリーナさまに続いてバリガンさま本人のご登場とはのう。長生きはしてみるもんじゃ。」

「アルマ・フォノンさんの話を信じるのであれば、記憶から作られたバリガンが迷宮の制御も担っているようですね。その彼に制御ができなくなったのであれば、魔道具の影響は確定でしょうね。」

「あ!そういえば、なんか外部から魔力が入り込んでるって言ってました!」

「・・・そういうことは先に報告してください。」

「ならば迷宮があふれた場合の備えもしておかなければならんか。こりゃ王国始まって以来の大事件じゃな。ジョーガサキくん、対応よろしく。」

「・・・いたし方ありません。ギルド発出の依頼をだして市中の警戒を一部の冒険者に依頼しましょう。迷宮の調査も早急に行いたい。迷宮は刑部と兵部の管轄ですね。王宮との交渉はマスターにお任せしますよ。」

「ひょほほ、儂を顎で使うか。よかろう、お主の指示に従おう。」

「私らはどうしたらいいんすか?」

「みなさんには迷宮の調査をお願いします。変動の規模や魔物の種類などですね。バリガンとの再接触が可能であれば、そちらもお願いします。」

「了解っす。」


迷宮への立ち入りが許可されるまでの間、アルマたちは市中の警戒を行って過ごすことにした。

主には市民に紛れて市中に潜む魔族に対する警戒。

だが、魔族を見分ける方法を持たないアルマたちが容易に魔族を見つけられるわけもなく、半ば王都観光と変わらない、なんとも緊張感に欠ける結果となった。


またタルガットたちの方も、あまり芳しくない状況がヌアザ神・ケリドウェン神を通じて伝えられた。

いたずらに時間だけが過ぎていく状況に、さすがのアルマたちの心にも焦燥が募る。


結局、迷宮への立ち入り許可が出されたのは、3日後のことだった。


いまだ迷宮内に潜む囚人がいるということで、現場に混乱が重なることを王宮側が渋ったためだ。

だがギルドマスターから直々に、迷宮から魔物があふれる可能性があると脅されれば、王宮としても放置することはできなかった。

話し合いの結果、迷宮に立ち入る人数は限定したうえ、王宮から派遣された人物が同行するという形で入場が許可されたのだ。


そして、迷宮への立ち入り当日。

アルマたちは冒険者ギルドに仮設された対策室に集まっていた。

この場で王宮から派遣された担当官と顔合わせを行い、簡単な事情を説明したうえで共に迷宮に立ち入る予定だ。


「どんな人が来るのかな。話の通じる人だと良いけど。」

「おそらくは騎士なんだろうけど、騎士にも色々いるからな。まあ、筋肉バカならシャムスが相手をすりゃいいし、理屈で攻めてくるようならアルマにまかせりゃいいだろ?」

「え?ちょっとマイヤさん、なにそれ?」

「理屈っぽい人の相手はジョーガサキさんのあしらいになれてるアルマさんが適任ですね。」

「私が筋肉バカ担当てのは納得いかないっすけど、アルマが理屈屋担当なのは賛成っす。」

「あれ?これってもしかして、私が賢女と思われてる?」

『いや、ねえからな!?お前が一番理屈の通じないやつってことだからな?」


彼女たちの他愛もない会話に、ジョーガサキは一切の反応を示さず仕事を進めていた。

いまジョーガサキが行っているのは、迷宮入口を含む新市街の把握と王都周辺の地形調査の確認だ。

いずれも王宮の主導で定期的に行われているものだが、過去の報告は精度も低く、ジョーガサキが納得できるものではない。

それらの報告からあいまいな箇所を排除し、確度の高い地理情報を抜き出しているのだ。


ジョーガサキがそんな作業を続けていると、扉を叩く音が聞こえてきた。

音に続いて扉を開けて入って来たのは、壮年に足を踏み入れた辺りといった年代の男性。


「お初にお目にかかる。私はメルグリム・アノマギと申します。迷宮調査に同行いただく

冒険者の方々がこちらにおられると伺ったのだが?」


しっかりとした身なりに、慇懃な態度。

だが、アルマたちにはその顔立ちに見覚えがあった。


「ああああ!幽霊のおっさんだー!!」

「・・・は?」


アルマの声に、紳士はいぶかし気な表情を浮かべる。

その表情は、かつてラスゴー迷宮の変動を知らせた迷宮村の幽霊ジナイダ・アノマギにそっくりだった。


「・・・ああ、そういえばジナイダのおっさんの子孫が王都で迷宮の研究をしているって、あの時ジョーガサキさんが言ってたっすね。」


あの時とは、ラスゴーの迷宮を成長させるために幽霊たちが身を捧げた時のことだ。

迷宮の成長を強制的に速めるには、迷宮の真名を知る必要があった。

真名を教えてくれたのも、ジナイダだったのだ。


シャムスはそのことを思い出しながら、ジョーガサキの方を見やる。

素知らぬ顔で作業を続けているところをみると、どうやらジョーガサキは今日ここに来るのがジナイダの子孫であることを知っていたに違いない。


そしてジョーガサキは、状況が飲み込めず困惑するメルグリムとアルマたちに向けて言った。


「たしかにこの方はジナイダ・アノマギさんのご子孫で間違いないようですが、この場でそのことを話している時間はありません。詳しい話は迷宮調査をしながら彼女たちに聞いていただくとして、まずは迷宮の現状についてご説明いたします。」

「む・・・わ、わかった。よろしく頼む。」


そう言ってメルグリムは、勧められるままソファに腰を預けるのだった。





その頃。


「三ツ足の金烏」の面々もまた、王都近くの山中で因縁深い遭遇を果たしていた。

対峙するのは、数人の男女。

この間彼らが追い続けてきた謎の組織の面々だ。

その拠点は、冒険者でも立ち入らないような入り組んだ谷間の、巧妙に隠された洞窟内だった。


拠点を発見したのは、斥候役のシャヒダだ。

王都内で怪しい商人風の男を見つけて追跡したところ、この拠点の発見に至った。

男は尾行を警戒してかなり慎重に行動していたが、さすがに金級冒険者の追跡は欺けなかったようだ。


「まさかこんなところに潜んでいるとはな。しかも、よりによってお前かよ。」


「三ツ足の金烏」のリーダー、バリが対峙する男たちの一人に向かって声をあげる。

声をかけられた男が魔族であることを、バリたちはとある依頼を通じて知っていた。

だが男には妻子がおり、男自身も善良に見えた。

バリたちは、男のことを冒険者ギルドには報告しなかった。


「あの時、俺はあんたに言ったよな。善良に暮らすならよし。良からぬことを企むなら、容赦はしねえって。」


そう言われた男の顔が苦しそうにゆがむ。


「もちろん覚えている。だがどうしようもないんだ!これ以上、妻や子どもに苦しい思いはさせたくない・・・恩を仇で返す形になったのは申し訳ないが・・・ここを知られた以上、生かして返すわけにはいかない。恨んでくれてもいいぜ。」

「恨みゃしねえよ。ただ・・・残念だってだけさ。俺たちがまいた種がこの結果だってんなら、責任をもって俺たちで摘み取らせてもらう。それだけだ!」


その言葉が終わらないうちに、バリが剣を片手に魔族の男たちへと襲い掛かる。

同時に、他の面々も動き出す。

対する魔族の男たちも、すでに手には武器が握られている。


木々の間に、激しい剣戟の音がこだまする。

魔族たちの抵抗は激しかった。

だが、常に最前線での戦いに身を投じてきた金級冒険者たちとの力量差はあまりにも大きかった。


その差に気づいた魔族たちは、逃げの姿勢に転ずる。

結果、2名ほどの魔族を取り逃がしてしまう。

だがそれも、「三ツ足の金烏」の計算のうちではあったのだが。


「こんな形で再会したくはなかったぜ。」


バリが他の連中とは離れた場所で、捕縛された男に声を掛ける。

最初にバリとやり取りしていた男だ。

男はしかし、なぜか憑き物がおちたような顔をしていた。


「あんたらには悪いと思ってる。だが、こういう運命だったんだろう。むしろここであんたたちに捕まえられて良かったのかもしれない。」

「あん?どういう意味だそりゃ?」

「もう作戦は進行している。どのみち王都はもう助からない。あんたたちはとっとと逃げてくれ。」

「それを防ぐために俺たちがここにいるんだぜ?逃げた仲間はうちのシャヒダが追ってる。他の仲間がいたところでどうしようもねえぞ?」

「そうじゃない。俺たちの役目はもう終わってるんだよ。」

「・・・一体、何をするつもりだ?」

「大方予想はついてるんだろ?魔物に王都を襲わせるのさ。あと数日で、王都は壊滅する。」


聞きたくない、だが予想していた言葉が、魔族の男から発せられた。


お読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ