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8-15 記憶

「ぶはあっ!!死ぬかと思った・・・。」


目の前に現れた枝道に走り込み、転がる巨大岩を間一髪でかわしたアルマたちは荒い息のままその場に座り込んでいた。


「み、みんなごめんね。大丈夫?ケガとかしてない?」


シャヒダと別れた後、現在は備蓄倉庫として使われていた講堂内でたまたま迷宮奥に通ずる扉を発見できたところまでは良かった。

扉の鍵は、ミュルクヴィズ村の試練をクリアした際に手に入れた第2の鍵で開けることができた。


ところがその先は、数多くの罠が配されたトラップゾーンになっていたのだ。

うっかりとアルマが最初の罠を発動させてしまってからは飛んでくる矢や火の玉などに追われ、結局罠を解除する間もなく強引にトラップゾーンを走り抜けることになったのだった。

それでも、すんでのところで殺意の高いトラップをかわし、全員がわずかなかすり傷程度で突破できたのは日ごろの鍛錬の成果ともいえる。


『まったくよう、お前は粗忽すぎるんだよアルマ。粗忽者が。』

「そうそう、アルマは粗忽っす。」

「そうですね。粗忽です。」

「反省しろ粗忽者。」

「うううう。反論のしようもございません。」


素直に非を認めるアルマに対して、仲間たちの口調は怒りというよりも揶揄うようなものであった。

迷宮を管理する近衛の目につくことなく迷宮内部に侵入できたことで、それぞれに少なからず油断があったのは事実だし、大きなケガもなく最初の関門を突破できたのだから。

だが、ここからは気を引き締めなおさなければならない。


「ともかくここからはラスゴーの迷宮と同じように、注意して進むっすよ。」

四海(よつのうみ)四地(よつのくに)、九星、九天、遍く御座す諸神(もろかみ)の御先、祝咒(ほぎまじ)(あえ)とし御象(みかた)為せ。雪さん、シノさん、周囲の警戒をおねがいします。」


シャムスが斥候に付き、その後ろにアルマとランダ、最後尾にマイヤがつく。

さらに前方と後方の警戒に、ネズミの雪さんとサカナのシノさんが入る。

アルマ達が迷宮を進む際の布陣だ。


シャムスがトラップを解除し、ランダは通路を地図に落とし込む。

分岐が現れた場合は雪音と東雲が先行し、場合によっては全員で進んで枝道をつぶしていく。

いざ冒険モードとなれば、さすがにタルガットとエリシュカの薫陶を受けた面々と思わせる動きで、一行は迷宮の攻略を進めていく。


そして、現れた下層への階段。


「まだ下があったんだね・・・行くよね?」

『そりゃ行くだろう。ここで引き返してどうすんだ?』

「そうだよね。よし、それじゃあみんな行こう!」

「アルマは私の後ろっすよ。」

「あ、はい。よろしくお願いします!」


シャムスが先陣を切り、階段を降りていく。

その先に広がっていたのは。


「さささ寒い!」


思いがけない光景にアルマが両の肩を掻き抱いて叫ぶ。


「これは・・・雪ですね。」


ランダが足元を覆う真白な雪を手で掬い上げる。

そこに広がっていたのは、見渡す限り雪で覆われた山の中だった。

と、木々の向こうからかすかに聞こえる音にマイヤが気づく。


「おいおい、向こうでなんか音が聞こえるぞ?」

「え?ほんとに?」

「私にも聞こえるっす。これは・・・誰かが戦ってる?」

「えええ!」

『なんかわからんが行ってみようぜ!』


不慣れな雪に足を取られながらも、アルマ達は急いで音のする方へと向かった。

木々のすき間を抜けた先に現れたのは、山に囲まれた盆地。

その盆地にある小さな村が襲われている光景だった。


襲撃者たちもそれを受ける側も、ある者は剣を持ち、またある者は槍、あるいは鍬や鋤。

統一感も統率感もない諍いは、小さな村同士の抗争といったところか。


「・・・なんすか、これ?」


アルマたちは思いがけない光景にでくわし、ただその場で戦いの行方を見守ることしかできなかった。

だが、状況が変化する。

襲撃者側が徐々に優勢になり、対峙していた村の若者だけでなく、避難していた村人にまで攻撃の手を伸ばしはじめたのだ。


「みんな、止めるよ!」

『よっしゃあ!任せろ!』


諍いの理由がなんであれ、無差別の虐殺を見過ごすことはできない。

アルマたちは逃げ惑う村人を救うべく、割り込みをかけることにした。


一気に斜面を駆け降りる一行。

だが村にたどり着いたと思った瞬間、襲撃者も逃げ惑う者たちも、そして村そのものも初めからなかったかのように消えてしまった。


「・・・え?」


一体何が起きたのか。

訳も分からず呆然とする一行。

だが次の瞬間、またすぐ近くで争う者たちの音が聞こえてくる。

音のする方に目を向ければ、再び争う者たちが少し離れた場所に見える。


「これってなんなの?」

「どうやら、幻覚の類のようですね・・・。」


アルマの問いにランダが答える。

しかし、なぜそんな光景を見せられているのか。


「とりあえず、害はないようだし、行ってみるっすよ。」


これが何かのトラップであれ、放置するわけにもいかない。

一行は再び諍いの現場へと向かった。


それからは、似たような場面をいくつも見せられた。

諍いは次第に規模と激しさを増し、ついには国同士の戦いに発展していく。

次第にそれは、人族と魔族との戦いであることがわかってきた。


「これってさ・・・。あれだよね?」

「ああ。恐らく、かつての大戦の記録なんだろうぜ。魔族との。」


そもそものきっかけは、どちらが攻め入ったのか。

人族だったのか、魔族だったのか、もはやわからないが、最初に見た村の抗争が始まりだったのだろう。

それが次第に種族間の諍いに発展したのだ。


場面は次々に切り替わっていく。

次第に魔族は魔力の高さを生かして、戦局を有利に進めていく。

その侵攻は人族の領域にとどまらず、獣人やエルフを巻き込んだものへと発展する。


いつしかアルマたちは、その映像に釘付けになっていた。

だがそこで、突然場面が切り替わる。

それは鍛冶場であった。

ドワーフたちによって一条の槍が鍛えられてる。

見まごうこともない。槍マルテであった。


その鍛冶場を、魔族たちが襲う。

槍を手にしたのは、見るからに逞しい一人の魔族であった。


槍を手にした魔族を筆頭に、戦局はさらに苛烈さを増していく。

だがそこに、一人の獣人が立ち上がる。

かの獣人は魔族との一騎打ちを求め、槍は獣人の手に渡る。

槍を手にした獣人は、逆侵攻をしかけ、魔族に対抗しうる勢力を築いていく。


そしてついに人族がほとんどの領地を失ったとき、一人の人間が立ち上がる。


『バリガン・・・・。』


ベイルガントでみた石像に命を吹き込んだかのような容姿。

興国の祖、バリガンだ。

彼の登場により、戦局が三度、大きく様変わりする。


獣王を退けて配下とし、槍の新たな持ち主となってからはすさまじい勢いで勢力を拡大。

バリガンの戦いぶりはまさに鬼神の如く。破竹の勢いで、ついには魔王を打ち倒す。

まさに英雄譚である。


だがそこで突然、戦とかけ離れた場面があらわれる。

最初に見た村よりもさらに小規模な、村というよりも隠れ里のような場所。

そこで、一人の巫女が祈りを捧げていた。

巫女の放出する魔力に引き寄せられた魔物が村を取り囲む森から次々と現れ、それを村人が狩っていく。

やがてすべての魔物を狩りつくした村人たちは、その巫女に感謝の祈りを捧げる。


その時。

記録映像の中の巫女が、突然アルマたちの方を向いて語りかける。


「お待ちしておりました。神槍の使い手。」


その容姿は、魔族の少女ラキとうり二つであった。


お読みいただきありがとうございます!

ここんところ、不定期更新で申し訳ないです。

ちょっと忙しいです!

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