8-12 バリガンの後継者
王都に着いた翌朝、アルマたちは再び迷宮につながる洞窟内を進んでいた。
「それにしても、王都に着くなり迷宮探索とは・・・。」
「仕方ありませんよ。ラキさんのためなんですし。」
「うう。それはそうなんだけど・・・。」
『なんだアルマ、バリガンの正統な後継者になれるんだぞ?喜べよ。』
「そうなれたら嬉しいよ?けど、それってすっごく目立つよね?」
「なんだよアルマ、冒険者なんて目立ってなんぼだろ!」
「わ、私はもうこれ以上目立ちたくないんだよぅ。」
「牛姫、鹿姫、蟹姫で、さらにバリガンの後継者。もうアルマには安息の地はないっすね。」
「蟹姫は断じて私じゃないから!?」
ジョーガサキの指示したこととは、魔族の少女ラキを後ろ盾するためのハクを手に入れろ、というものだった。
先日ラスゴーの冒険者ギルドで話し合われていた通り、ジョーガサキはラキを魔族の代表に仕立てるつもりだったのだ。
そして、その後見人として、エヴェリーナとアルマを立てる算段なのだという。
エヴェリーナはかつて魔王軍と戦ったバリガンのパーティメンバーであり、そのエヴェリーナがかつての仇敵である魔族の少女を支えるというのは、政治的なインパクトが大きい。
だが、エヴェリーナはすでに過去の人であるという見方もできる。
そこで、もう一人の後見人としてアルマに白羽の矢が立ったというわけだ。
もちろん今のアルマが後見人を名乗り出たところで、なんの保証にもならない。
だからこそ、アルマたちは急いでバリガンの試練を乗り越える必要があるのだ。
「ところで、バリガンの試練てのは本当に王都の迷宮跡にあるのかニャ?」
「それは間違いありません。王都に来る前、私たちはエヴェリーナさまの村でバリガンの試練を受けてるんですよ。その時に、次の試練についてバリガンさんの残したメモを手に入れてるんです。」
「そこに、王都の迷宮跡をめざせって書いてあったのかニャ?」
「そうなんです。」
「なるほどだニャ。」
道案内役を買って出たシャヒダの質問に、アルマが答える。
バリガンの次の試練についてのメモは、アルマたち『銀湾の玉兎』はもちろん、ジョーガサキやタルガット、エリシュカらも確認している。
だからこそ、ジョーガサキは危険をおしてまで王都で落ち合うことを決めたのだ。
魔族に対する警戒は増しており、いずれラキは見つかる。
そうなる前に、ラキを魔族の代表にでっちあげてしまおうというわけだ。
「さて、ついたニャ。ここから先は迷宮。とはいえ、今はもう王都が管理する巨大地下施設と変わらないから、見つかったら当然厳罰。迷宮内の監獄に直行だからくれぐれも見つからないようにするニャ。」
シャヒダに案内されたのは、王都内に入るときにも通りがかった場所だ。
洞窟の一部が、不自然に途切れ、その先が小さな小部屋のようになっている。
迷宮が拡張する際に、偶然洞窟にぶつかった場所なのだろうという。
小部屋の奥には、重たそうな石の扉がある。
「その扉はこちら側からしかあけられないつくりだニャ。カギはあけっぱなしにしておくから、いざとなったらとにかくここに逃げ戻ってくるようにニャ。」
「とびらの向こうはどうなってるんすか?」
「いくつかの小部屋に囲まれた講堂みたいな場所だニャ。けど今は、緊急時の物資なんかを置いておく倉庫として使われてるニャ。」
「倉庫っすか。」
「武器や食料、薬品なんかだニャ。冒険には便利なものが多いから、うちらはこの洞窟のことを隠してきたんだニャ。」
「わ、シャヒダさんワルー!」
「にゃはは。金級冒険者は国の仕事もさせられるんだから、これくらいはボーナスだニャ。」
アルマが目を丸くするのを見て、シャヒダはなぜか誇らしげだ。
そのシャヒダに、マイヤが問いを重ねる。
「迷宮の一番奥はここからどれくらいなんだ?」
「一応この扉の向こうがそうだと言われてるニャ。バリガンの試練てのを探すなら、まずは倉庫内を探してみるといいニャ。」
「わかりました!よし、それじゃあみんな、よろしくね!」
こうしてアルマたちは、迷宮跡へと、密かに足を踏み入れたのだった。
入ってみると、確かにそこは講堂のようだった。
迷宮として機能していた時は、周囲の小部屋から魔物が次々に現れる仕掛けになっていたのかもしれない。
だが現在はすべての扉は閉ざされ、講堂内は物資がうず高く積み上げられていた。
「よし。それじゃあみんな。まずは手分けしてこの部屋を調べようか。」
アルマの言葉に、仲間たちは無言でうなづき、それぞれに行動を開始し始める。
一方その頃、タルガットとエリシュカは王都近くの山中にいた。
前日の夜から夜通し牛車を走らせ、夜明けとともに山道を外れ、あるものを探していたのだ。
「エリシュカ、こっちに来てくれ。」
タルガットが、少し離れた場所を探していたエリシュカに声を掛ける。
タルガットが示した場所。
そこは一見何の変哲もない地面。
だがよくよく見れば、周囲にはわずかに人の足跡を消したような不自然な跡があり、タルガットが示した場所は、落ち葉を寄せ集めたように見えなくもない。
タルガットが落ち葉を払う。
するとそこには、一度掘り返されたような跡が現れた。
そしてタルガットが地面を掘り進めると、そこからは六角形の板のような魔道具が現れた。
それは、前々日にシャヒダが偶然見つけた魔道具と同じものだった。
「どうやら、エヴェリーナさまの言葉が当たっちまったようだな。」
「そうね~。どうやら、誰かが悪さをしてるみたいね~。」
「魔族か・・・。」
その魔道具の使い道を教えてくれたのはエヴェリーナだった。
エリシュカが解析した通り、それは周囲の魔素を集め、特定の方向に送り出すだけのものだ。
だがその魔道具を効果的に使う術を持った者たちがいた。
魔族だ。
魔族はこの魔道具を数多く用いることで、自分たちが住む場所の安全を確保した。
そして敵陣の周囲に配することで、魔物の群れに敵を襲わせるようなこともしていたのだという。
どういった地形にどう配置すればいいのか、魔族だけが知る独自の知識があるのだそうだ。
エヴェリーナによってそのことを知らされたジョーガサキたちは、とにかく状況を把握するために『三ツ足の金烏』と手分けをして周囲の探索を始めた。
タルガットたちは、シャヒダの見つけた地点をもとにエヴェリーナが予測した地点の周囲の探索を任されていた。
ラキのこともあるので、魔族がらみの騒動は早めに鎮火したい。ましてや、その狙いが王都襲撃にあるのならばなおさらだ。
いくつかの証拠があがれば、王都の冒険者ギルドを介して冒険者たちを動員することもできる。
その証拠が、はやくも見つかってしまった形だ。
「ある程度の設置場所は予測できそうだけど、見つけるのは難しいわね~。かなり巧妙に隠しているし、熟練の冒険者じゃないとこれを見つけるのはムリよ~。」
「まあ、バリ達ならうまくやるだろ。シャヒダも加われば、見逃すこともねえだろうし。」
「そうね~。とりあえずはこの証拠を王都に持ち帰って、銀級以上の冒険者たちを集めてもらいますか~。」
「そうしよう。まあ、王都まで戻れればの話だけどな。」
そういって、タルガットは腰に佩いた剣を引き抜く。
同時にエリシュカが、素早く咒を唱え、タルガットの背後に向けて魔法の火矢を放った。
その火矢はしかし、当たるはずだった対象にかわされてしまう。
「あら~。意外と手ごわそうね~。」
「気を付けろエリ。」
「そっちこそ~。」
気がつけばタルガットたちの周囲には、冒険者のような恰好をした者たちが10人。
いずれも殺気をみなぎらせて、タルガットたちを取り逃がすまいと取り囲んでいた。
お読みいただきありがとうございます!
年末年始は不定期更新となりそうですごめんなさい。