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8-11 王都へ

魔道具というものは、用途がなんであれ高価なもので、それを山中に埋めていくというのはどう考えても怪しい。

魔物除けの類であればその場から立ち去る理由がわからないし、逆に魔物を集める種類のものなのであれば、周囲に罠などを仕掛けなければ役に立たない。

そんな現場に偶然居合わせることになってしまったアルマたちは、相談の上、件の魔道具を持ち帰ることにした。

そして野営を経て、再び山道でエリシュカの乗る牛車に合流したアルマたちは、早速魔道具をエリシュカに鑑定してもらうことにしたのだった。


「う~ん。ちょっと良くわからないわね~。」

「エリシュカさんでもわからないかニャ?」

「仕組みはなんとなくわかるわよ~。この部分は周囲の魔素を集めるところ、それからこっちは魔素を特定の方向に送り出す魔術回路だと思う。」

「周囲の魔素を一定の方向に送り出す装置っすか?」

「そうなるわね。ただ、そんなことをして何の意味があるのかがよくわからないのよね~。」


問題の魔道具は六角形の平たい箱のような形をしており、天板の部分に5つの魔石が据えられている。

そして魔石の周囲にある魔法陣がこの魔道具の働きを決める回路の役割を果たしているという。

箱側面の5辺には魔素を取り込む魔術回路が書き込まれ、それが残りの1辺から吐き出される構造だ。


「魔物は魔素の多いところに集まるんですよね?だったら、魔物を特定のところに引き寄せるためのものなんじゃないですか?」

「洞窟の手前とか窪地とか、魔素が吹き溜まりやすい場所だったらそれもできるかもしれないけど、こんな魔道具じゃかなり時間がかかるわよ~?それに、見つけたのは山の高い場所でしょ。そんなところに置いたって集めた魔素はまた拡散されるから意味ないと思うのよね~。」


アルマの質問に、エリシュカは首をひねりながら答える。


『こいつを複数使えばどうだ?送り出した魔素を次の魔道具で受けてって具合に。』

「あ~。その可能性はあるわね~。その場合、どこに送るつもりなのかってことだけど・・・。」

「これが置かれてた場所から考えると・・・この向きで置かれてたから・・・ざっくり王都の方向だニャ。けど、ここから王都までの間に何かあったかニャ・・・?」

「だったら王都に向かう間は地形に注意しながら進みましょう~。魔素が吹き溜まりそうな場所があったら、調査したらいいんじゃない?」

「そっすね。」

「それじゃそういうことで~。それでラキはどうだったの?夜は問題なかった~?」

「・・・も、問題なかった。はず。」

「そ?それなら良かった~。」


こうしてアルマたちは、それまで以上に周囲を警戒しつつ王都への道を再び進み始めた。

しかし結局、魔道具を使って魔素を溜められそうな場所は見つけることができないまま、王都の誇る長大な城壁が見える場所までたどり着いたのだった。


王都への入場は牛車に乗ったままというわけには行かない。

アルマたちは牛車をエリシュカに任せ、徒歩で王都の西側をめざした。

西側はなだらかに下る斜面が続いており、小さな林が点在している。


シャヒダが案内したのは、そうした林の一つ。特に茂みに覆われた場所だった。

一見する限りはただの茂み。だがシャヒダが茂みをかき分けると、斜面に亀裂が入っているのが見えた。

それを見たアルマが声を上げる。


「洞窟?ここから王都に入れるんですか?」

「そうだニャ。王都の中にある迷宮跡って知ってるかニャ?」

「ああ、聞いたことあるっす。今はもう活動を停止しているので、食料の備蓄なんかに使われてるって。」

「ついでに牢獄なんかもあるニャ。」

「え?じゃあこの洞窟って・・・。」

「そうだニャ、アルマ。ここはその迷宮へと至る、知られざる入り口。ここから迷宮を通って王都に入ることができるんだニャ。」

「けど、王都側の出口はどうなってるんだ?怪しまれずに出入りできるのか?」

「まあそれは入ってみればわかるニャ。」

「ほえええ。」

「じゃあ人目のないうちに入るニャ。ラキ、心の準備は良いかニャ?」

「・・・はい。」

「では、レッツゴーだニャ!」


再びシャヒダの先導で、アルマ達は洞窟を進んでいく。

と言っても、アルマ達の入った側は厳密には迷宮ではないのだとシャヒダは言った。

かつて迷宮が拡大した際に、偶然にも洞窟に行きあたってしまったのだろうという。


「先に進むと急に周囲の様相が変わる場所があるんだニャ。そこで迷宮と洞窟がぶつかったんだと思うニャ。」


迷宮内に入り込んだ小さな魔物を倒しつつ進むと、いくつかの枝道が現れる。

だがシャヒダは勝手知ったるとばかりに進んでいく。

と、その場所はすぐに分かった。

洞窟が突然小さな部屋になっているのだ。

ここが迷宮とぶつかった場所なのだろう。


「今回は迷宮に用はないからこっちだニャ。」


迷宮のぶつかっている場所を通り過ぎ、さらに進むとまたしても人の手でつくられた石積みの空間が現れる。


「あれ?ここって迷宮の別の場所ですか?」

「いやちがうニャ。ここは新市街地の下。新市街の造成時に忘れ去られた、排水溝跡だニャ。」

「はえええ。」


驚くアルマたちにシャヒダが説明を加える。

人口の増加に伴ってつぎはぎのように新市街を築いた王都は、その都度、環状に下水設備も整えてきた。

だが急造の上、管理もずさんだったため、一部の下水施設が工事途中で放置されたままになってしまったのだという。

その多くは新市街の整備に伴って正規の下水施設と統合されていった。

だがアルマたちが現在いる場所は倉庫街に当たっており、再整備が行われないまま取り残されたのだそうだ。


「ちなみに、ここの真上の倉庫は現在、正式に『三ツ足の金烏』の所有物になってるニャ。だからこの地下坑も正式にうちらのもんだニャ。」

「はえええ!」

「よくこんな場所を見つけたな。」


驚きの声を上げるアルマとマイヤを見て、シャヒダは胸を張る。


「以前、王都周辺で盗賊が出没したことがあって、その討伐依頼を受けた時にたまたま洞窟を見つけたんだニャ。」

「でもこれって、仮に敵国なんかに利用されたら大変なことになるのでは?」ランダが問う。

「出入口はきっちりうちらで塞いでるし、いざという時は崩落させられる仕掛けも用意してるから安心するニャ。冒険者たるもの、いつどんな騒動に巻き込まれるかもわからないし、これくらいは冒険者としての備えというものだニャ。」

「さ、さすが金級・・・!」

「さあさあ。上に上がるニャ。今頃、エリシュカと合流したジョーガサキも来ている頃だニャ。」


シャヒダの案内で上層へ上がると、そこはガランとした倉庫の中だった。

薄暗がりの倉庫の中には、3台の牛車と数人の人影。

ジョーガサキたちだ。さらにバリたち「三ツ足の金烏」の姿もある。


「待ちましたよ。アルマ・フォノンさん。」


いつも同様、不機嫌そうな顔を隠しもせず、ジョーガサキが声を上げる。

これは何か嫌なことが始まる合図だ。

アルマたちは思わず身構える。


「お、おつかれさまですジョーガサキさん。」

「色々と情報のすり合わせは必要ですが、少し事情が変わりました。私たちはこれから急いでやらねばならないことがあります。皆さんはその間に、バリガンの残した試練をクリアしていただきます。」

「い、今ようやく王都についたばかりなんですけど・・・。・」

「そうですね。それがなにか?」

「・・・・・。」


これはもういつものパターン。

どんな事情であれ、アルマたちには拒絶する権利などないのだろう。

淡々と告げるジョーガサキの言葉を受け、アルマたちは互いに顔を見合わせながらため息をつくのだった。


お読みいただきありがとうございます!

仕事納めを控え、ちょっと次回の更新は間が空くかと思います。

すみません。。。。

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