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8-10 これからのこと

「・・・というわけで、ジョーガサキの報告によれば『銀湾の玉兎』は現在、魔族の少女を匿っているという疑いをかけられ、逃亡中だということです。」


ラスゴー冒険者ギルドのマスター室。

そこにはいま、3人の姿があった。

集まった目的は、ラスゴー冒険者ギルドに登録されている冒険者およびギルド職員の起こした不祥事への対応を議論するため。

即ち、魔族の少女ラキと行動を共にするアルマ達をどう扱うかを決めるためだ。


ギルドマスターであるクドラト・ヒージャ。

サブマスターであるダリガ・ソロミン。

そしてもうひとりは。


「あらまあ。ご丁寧な説明、ありがとうございます。」


アルマ・フォノンの母親、ローザであった。

ジョーガサキによって病気から快復したローザは現在、家政婦兼飼育係としてジョーガサキ邸の留守を任されている。

今回は彼女の娘が起こした不祥事ということで、こうして冒険者ギルドに呼び出されたというわけだ。

もっとも、娘の起こした騒動が王都周辺でどれほどの騒ぎになっているのかを理解できていないのか、当の本人はいつもと変わらぬ笑顔を浮かべているだけであったが。

あまりにのほほんとしているので、説明役のダリガも思わず毒気を抜かれそうになってしまう。


「いやあの、理解していますか?もしかしたら娘さんは投獄、いや極刑に処される可能性もあるんですよ?」

「ん~。でも、人相や素性がバレているわけでもないんですよね?皆さんも、それを公にするおつもりがないからこそ、こうして私に相談なさってるんでしょう?」


それはローザの言う通りである。

かつての戦争の名残から魔族に対しては存在そのものを許さないというのがこの国の表向きのスタンスだ。

だが、元々人族とともに暮らしていた魔族は多いし、実はラスゴーにも魔族であることを隠して暮らしている者はいる。

にも関わらず冒険者ギルドとして魔女狩りのような真似をしないのは、騒ぎを大きくすることで社会を不安定にする必要はないという政治的な判断によるものだ。

そういった経緯があればこそ、ラキという魔族の少女が人族に対して無害であるという前提付きではあるが、クドラトたちはアルマたちを告発するつもりはなかった。

だからこそ、今後の方策を定めておこうというのだ。


「た、確かにそうですが、彼女たちはいまだにその魔族の少女と行動を共にしています。もし検問にでも引っ掛かれば、逃れようがありません。」

「そうなったら娘たちが間抜けでしたってだけですわね。」

「いやそうですが。」

「聞けば、金級の冒険者さんが一緒に行動してくださってるんでしょう?だったら、気にしたって仕方ありません。」

「そうは言いますが・・・。」

「魔族を匿っている以上、リスクは最初から承知なんでしょうし、だったら娘たちの好きにしたらいいんじゃないかと。」

「・・・なんというか、お母さん肝が据わってますね・・・。」

「娘が訳の分からないことをしでかすのは今に始まったことじゃありませんし、それに何といっても今回はジョーガサキさんがいらっしゃいますし。」

「いや、我々としてはそれが最大の不安材料なんですが・・・。」


ジョーガサキが関わって、まともな結果に終わるわけがない。

だからこそ、最悪の事態も想定しておくようにとの忠告の意味も込めて、アルマの母親をこうして呼びつけたのだ。

だが、アルマの母親はジョーガサキのことを微塵も疑ってはいないようだった。


「あの方なら、きっとうまい事収めてくれますよ。それよりむしろ、ラキさんの今後のことを考えた方がいいんじゃないかって気がするんですけど。」

「というと?」

「隠れ里でしたっけ?誰にも気づかれずに、そこに連れていくのもいいんですけどね。それじゃあ根本的な解決にはなりませんでしょ?」

「それはそうですが・・・。だったらどうしろと?」

「いっそ、魔族の村とかつくっちゃったらどうです?」

「は!?」


予想外のことを言い出すローザに、ダリガは驚きを通り越して呆れた声を上げる。

横で黙って話を聞いていたクドラトも同様だ。

だがクドラトはローザの言葉に、何か一考に値する響きがあるように感じた。

少なくとも当人はいたって大真面目に、それこそ正道であると信じているように見える。


「ローザさん。済まねえがなぜそう思うのか、もうちっと詳しく説明してくれねえか?」

「んー。単にジョーガサキさんが根本的な問題を放置するはずがない気がするだけですよ?」

「それが、なぜ魔族の村につながるんだ?」

「根本的な問題っていうのは、魔族であることを隠さなきゃいけないってことですよね?それを解決しようと思えば、彼女を公の場に出して、認めさせなきゃいけませんよね?」

「そうだな。その場合、どうしたら認めてもらえる?」

「んー。手を出しにくい存在・・・たとえば魔族の親善大使みたいなことにしちゃうとか?」

「し、親善大使てどこのだよ。」

「魔の国ですかねえ?」

「そんな国はもうねえから。」

「じゃあつくっちゃえばいいんですよ。」

「そんな勝手な・・・いや。あることにしちまえばいいのか?」

「遠い大陸とかにあるっていったら、確かめようがありませんよね?」

「・・・あり得る、のか?」

「面倒ごとをもっと大きな騒動にしてしまうのはジョーガサキの得意技ですから、ないとは言い切れませんね・・・。そうなると王都としても、迂闊には扱えない。ベリトのような犯罪者はともかくとして、親善大使を粗末に扱ったことが知れれば、各地に潜伏する魔族が一斉に蜂起する事態まで起こり得ます。」

「少なくとも、親善大使としての正統性が確認されるまでは身の安全は保障されるってことか。いや、あの野郎の事だから、その正統性をでっちあげる算段もついてるのかもしれねえな。」

「となると、後は我が国における魔族の扱いをどうするかでしょう。過去の経緯から平等というわけにはいかない。かと言って融和を求める相手を公に無下に扱えば騒乱の火種になりかねません。」

「落としどころは、魔族を一カ所に集めて隔離しつつ、漸進的な融和をめざしていくってところか。」

「私は、難しいところはよくわかりませんけど。とにかくラキさんの正体がバレたときに、受け入れてもらえる場所を用意しておいた方がいいのかなって。」


のほほんとした調子で語るローザの話を聞いていたクドラトとダリガは、思わず顔を見合わせた。

ローザの説明は拙いものであったが、それでもジョーガサキという人間の本質をついているように思われたからだ。

とはいえ、いきなり村をつくれと言われても簡単につくれるものではない。

ともかくこの件は一旦ジョーガサキと相談してみようということになり、話し合いは解散となった。

ローザは「牛の世話しなくちゃ」と言いつつ、そそくさと帰っていった。

ローザを見送った後に残されたクドラトとダリガは、どことなく放心した様子で呟く。


「なんつうか・・・アルマの親だけあるっつうのか・・・。」

「そうですね・・・。血は争えないということでしょうか・・・。」


それは、褒めているのかけなしているのか。

呟いた本人たちにもわかってはいなかった。


一方その頃。

アルマたちは王都に向け山中を徒歩で進んでいた。


「検問を避けるためとはいえ、まさか王都を目前にして森を進むことになるとは思わなかったねえ!」

「まあ、牛車はエリシュカさんがきっちり運んでくれてるから、合流するまでの我慢だニャ。」

「道具屋ギルドの身分証を持ってるエリシュカさんが一緒で良かったっす。」

「一応安全策を取って大回りするとして、エリシュカと合流するのは明日かな?」

「そうですね。」


迅速な行動でカレンガレンからの追手は振り払ったアルマ一行ではあったが、王都に向かう道はやはり警戒が厳しく、臨時の検問所が設けられていた。

そこでアルマたちは牛車をエリシュカに任せ、魔族の少女ラキを連れて人目のない山中を進むことに決めたのだった。


「考えようによっては、ラキちゃんの魔力操作の成果が確認できたのは良かったよ!」

「ま、それはそっすね。野営する時が心配っちゃ心配っすけど。」

「・・・が、がんばります。」


そういうラキは手に持った笛を強く握りしめる。

魔物を引き寄せる魔力を持つラキは、笛を使って魔力操作を学んできた。

だが人目を忍んで行動する際に笛を吹いて回るわけにもいかない。

そのことをアルマ達は心配していたのだが、いざ山中に入っても、さほど魔物との遭遇は多くはなかった。

どうやらラキは笛を使って覚えた魔力操作を、笛無しでも応用できるようになっているようだ。

思わぬ形でこれまでの練習の成果が見られたことを喜んでいるのだ。


「そのためにも、まずは今日の(ねぐら)を見つけることだニャ。あんまりのんびりしてると、日が暮れるニャ。」


シャヒダに促され、アルマ達が歩を速めてしばらくのこと。

周囲の警戒に当たっていたネズミの雪音が何者かの存在を知らせてきた。


「前方になにかいます。恐らく・・・人間?冒険者かもしれません。」

「全員木の影へ、うちが見てくるニャ。」

「雪さん、先導してあげて。」

「チチ!」


シャヒダが即座に指示を出し、雪音とともに動き出す。

雪音の先導に従い、音もなく進むシャヒダ。しばらく進むと、木々の合間に2人の人影が見えてきた。

見たところは、冒険者のような恰好。

だが二人は、なぜか周囲を警戒しつつ何かを地中に埋めているようだった。


「うちはここで様子を見るニャ。ランダに、そのまま待機って伝えて。」


二人の様子が気になったシャヒダは、雪音に手紙を持たせて、自分はそのまましばらく様子を観察することにした。

その後しばらくして、二人の冒険者は作業を終えて去っていった。

シャヒダは一旦アルマたちの元へ戻ると、今度は全員で冒険者たちがいた場所へと戻る。


「シャヒダさん、ここですか?その冒険者たちがいたのって?」

「そうだニャ。なんか様子が変だったニャ。」

「だったら、そいつらが何を埋めたのか確かめてみようぜ!」


マイヤの提案で、アルマたちは地面を掘り返してみることにした。


「あれ?なんすか、これ?」

「魔道具・・・かニャ?」


土の中から出てきたもの。

それは、5つの魔石が嵌められた、胴回りほどもある平たい魔道具だった。


お読みいただきありがとうございます!

ちょっと諸々バタバタしておりまする。。。

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