2-2 バージョンアップ
冒険者ギルドを出た一行は、その足でまず武器屋へ向かった。
以前アルマが依頼を受けたのとは違うらしく、タルガットが案内する。
「おう、親父いるかー?」
「今日はもう店じまいだ。出直してきやがれ!ってタルガットじゃねえか。」
出てきたのは、ヘルッコという名の、赤ら顔に無精ひげを蓄えた男性だった。
「おお、ドワーフの鍛冶職人さんだ。」
「いや、ただのちっこいおっさんだ。」
「え!ごごごごめんなさい。」
慌てて頭を下げるアルマ。だがヘルッコは慣れているのか気にしてないようだ。
「遅い時間にすまねえな。こいつの武器を見繕ってもらいてえんだ。今回は時間がねえから、ありもんでいいんだが。」
そう言ってタルガットが指差したのはシャムスだ。
ランダは法具を使うのだが、特注になってしまうため今回は見送りとなった。
「そういや、最近パーティ組んでるらしいな。」
「一時的なもんだがな、こいつらだ。」
「あのタルガットが小娘ばかりのパーティとはな。ん?その槍」
「え?こ、これですか?」
「貸してみろ。」
いきなり話を振られ、思わずタルガットを見るアルマ。
だが、彼がうなづくので、そっとマルテを差し出した。
『わ。馬鹿止めろ。酒臭い息吹きかけんじゃねえ。』
「うるせえぞマルテ。鋳溶かしちまうぞ。」
『やってみろヒゲダルマ。もしやったら、お前の子孫全員に身長が伸びない呪いをかけてやる。』
ぎゃあぎゃあと騒ぐマルテを無視して、じっと刃先を見つめるヘルッコ。
やがて満足したのか、アルマを見て言う。
「あんたが、マルテの新しいオーナーか?」
「マルテちゃんをご存じなんですか?」
「長えこと、その辺に転がってたからな。」
と、店の奥を指さすヘルッコ。ジョーガサキはこの店でマルテを買ったのだろう。
「なるほど・・・。あ、はい。マルテちゃんは私の相棒です!」
「・・・相棒か。そういうことか。」
「え?」
「なんでもねえ。ほら、返すぞ。そんで、そっちの小娘だな。ついて来な。」
なぜかタルガットをちらりと見て、アルマに槍を返すとヘルッコは店の奥へ行ってしまう。
タルガットが当然のように入っていくので、アルマたちも追従する。
するとそこは、小さな庭のようになっており、ヘルッコが大きな盾を構えて立っていた。
「はやくしろ。とりあえずお前、今持ってる武器でいい、この盾に打ち込んでみろ。」
「え?あ、はい。」
よくわからないままに、小剣を取り出すシャムス。
何度か盾の持ち位置を変えるヘルッコに合わせて、小剣を打ち込んでいく。
「次はこれでやってみろ。」
ヘルッコは斧を持ちだしてきて、シャムスに渡す。
その次は槍、さらに大剣と武器を変えては打ち込ませていく。
「いいだろう。しっくりくる武器はあったか?」
「はぁ、はぁ・・・。えっと、あえて言うなら斧っすかね。」
「斧か。わかった。」
そう言ってヘルッコはさっきのとは違う斧を二つ持ってきた。
柄は長め。柄とつながる斧腹は細く、刃先は広い。逆に斧頭は尖っていて突き刺すこともできそうだ。
シャムスはその斧を両手に一つずつ持ち、持ち手や振った感触を確かめる。
「これでもう一度やってみろ。」
再度盾に向けて打ち込ませるヘルッコ。
「おお。これ、さっきのより使いやすいっす!」
何故か後輩口調で喜ぶシャムス。
「じゃあそれ持ってけ。あとついでにこれも使ってみろ。」
それは小さな諸刃の投斧と専用のベルトだった。
ベルトの両側には皮でできた袋が下げられていて、そこに投斧を収納できるようだ。
メインの斧をかけるフックもついている。防具にもなりそうだ。
シャムスはさっそく装備してみる。
「うわああ!シャムスちゃんかっこいい!」
「えへへ。そう?」
「しばらく使ってみて、気になるところがあったら持ってこい。料金はジョーガサキに請求しとけばいいのか?」
「ああ、それで頼む。ありがとう、助かったよ。」
「そっちの小娘は?武器はいらねえのか?」
「私は巫術を使うので。いずれ巫術に使う法具を揃えるつもりです。」
「どんなのが欲しいんだ?絵はかけるか?」
「あ、はい。」
ランダはヘルッコに絵をかきながら説明する。
「わかった。一応材料を見繕っといてやる。あとそっちの小娘!」
「ひえ!私ですか?」
「槍の手入れがなってねえ。教えてやるから近いうちにまた来い。」
「は、はい!」
「じゃあ帰れ。次は昼間に来い。」
言うだけ言うと、ヘルッコはさっさと店の奥に戻ってしまった。
だが、とりあえずシャムスの武器が手に入った。
「リーダー。ごちっす。」
「いやまってシャムスちゃん?プレゼントじゃないからね?」
「よおし、ほんじゃあ次は防具だ。」
タルガットの案内で路地を入っていくと、ほどなく小さな道具屋につく。
「ここは道具屋だが、皮の防具なんかも扱ってる。入るぞ。」
「いらっしゃーい。あら?珍しい。タルガットが女の子連れだなんて。」
出てきたのは、エリシュカという名前のエルフの女性だった。
「おお、今度こそ本物のエルフだ!」
「はじめまして、お嬢さんたち。噂のハーレムパーティの面々かしら~?」
「ハ、ハーレムパーティってなんだよ。」
「あら?知らないの~?ずっとソロで活動してきたタルガットが若い娘たちを侍らせてパーティ組んでるって噂になってるのよ?」
「そんなことになってんのか・・・。」
「それで?今日は何のご用~?」
「あ、ああ。こいつらの防具を頼みたいんだ。手甲と手袋、脛当て。あと服の下に付ける着込みも頼みたい。」
「了解~。そんじゃあお嬢さんたちこっち来てね~。」
店の奥へと連れて行かれる3人。
着替えもあるので、タルガットは代わりに店番だ。
もっとも、根も葉もない噂がたっていることを聞かされたタルガットはそれどころではなかったが。
やがて、装備を付けた状態で戻ってくる3人。
ランダだけは巫術の邪魔になるので手袋はつけないようだが、全員体格に合う装備が見つかったようだ。
「御代はジョーガサキに請求すればいいのね~?」
「ああ、それで頼む。」
「リーダーごちっす。」
「ありがとうございますリーダー。」
「シャムスちゃん、ランダちゃん、後で話し合おうか?ね?」
「面白い子たちね~。タルガットが侍らせたくなるのもわかるわ~。」
「おいやめろ。」
新しい装備が嬉しいのか、姦しい3人組。
これって周りからは、俺が装備を贈ったように思われないだろうか。噂が気になるタルガットは、こっそりため息をつく。
「それで~?装備を揃えて、どこにおでかけ?」
「ラスゴーの森です。」
「明日から、サリムサクっていう薬草を探しに行くんす。」
「サリムサク~?あの森では採れないと思うけど~?」
「それは承知の上です。でも薬草を必要とする人がいるので。」
「ふ~ん?」
やはり女同士だと打ち解けるのも早いようで、エリシュカとも気兼ねなく話す3人組み。
エリシュカはサリムサクに興味を惹かれているようだ。
「まあ、ちょっと訳ありなんだ。とりあえず、ありがとう。助かったよ。そんじゃあ行くぞ。」
「はいは~い。またどうぞ~。」
手を振ってエリシュカの店を出る一行。
その後は、市場を回って食料品を買い込んで、解散となった。
そして、翌日。
いよいよ、ラスゴーの森奥地の探索が始まる。
集合場所は、いつもの冒険者ギルド前。
薬草探しは儲けにはならないので、他の依頼をいくつか並行して行う予定だ。
「で・・・なんでお前がいるんだ?」
「えへへ。来ちゃった~。サリムサク探し、ま~ぜて。」
そこには、野営の準備をばっちり済ませ、大きな背嚢を背負ったエリシュカがいた。
「わあ!エリシュカさん、手伝ってくれるの?」
「うん。アルマちゃんたちと探索、楽しそうだし。いいかな~?」
「問題ないっす!」
「異存ありません。」
「いや、お前ら・・・。」
こうして、サリムサク探索に新たなメンバーが加わった。
そしてこの後「タルガットがハーレム拡充計画を進めているらしい」という噂が、この町の冒険者たちの間で広がっていくことになる。
登場人物多くてすみません。。。
次こそ、いよいよ冒険だ!