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8-1 山中にて拾う

バリガンが拓き、エヴェリーナが守ってきたミュルクヴィズの村を出てから数日。

アルマたちは順調に旅を続けていた。

岩場が多かった山道は、ベイルガントの町より南を進むにつれて次第に緑を濃くし、今はまた森の中だ。


次第に温暖な気候になっていくためか、現れる魔物は徐々に大型化し、強力になってきている。

だが、3両編成で進む異様な牛車を襲う魔物はさほど多くはなく、ハイエルフのエヴェリーナという戦力が加わったこともあり、危なげなくこれを退けていた。


この間、ジョーガサキは自身の執務室がある先頭車ではなく、2両目の食堂車に籠っていた。

ユグ島に派遣したナルミナから、新たに開く食堂で提供するメニューの開発を依頼されたので、試行錯誤を重ねているのだ。

食堂車に備え付けの冷蔵庫のなかにはユグ島で手に入れたタオタオモナもしっかり保存されており、それを使って煮たり焼いたりとさまざまな料理を試していた。

おかげでアルマたちはこの間、贅沢な食生活を謳歌することができた。

ジョーガサキの料理はうまいのだ。


もちろん、料理担当のアルマとランダとしては忸怩たる思いもある。

だが、張り合ったところですぐに料理の腕が上達するわけでもない。

折角の機会なのだから味を盗むことに専念した方が今後の為と割り切り、素直に料理を堪能することにしたのだった。


一方でエヴェリーナの指導のもと、アルマ達もまた、新しい力を手に入れるための試行錯誤を始めていた。


「それでは行きますよ。はじめ!」


エヴェリーナの合図で、牛車の屋根上に立ったアルマとマイヤが押し合う。

とはいえ、互いに立つ位置からは手が届かない。

二人は身に纏う魔力を伸ばして押し合っているのだ。


これがエヴェリーナの指導の下で始めた新たな修行。

ルールは簡単で、互いに魔力を使って相手を押し、足を動かした方が負け。

相手の魔力を自分の魔力で防いでも良し、いなしても良し。

そして・・・。


「どわあっ!!!」


マイヤがアルマの魔力に波長を合わせ、アルマの魔力を相殺。

魔力による圧力を失ったことでアルマがバランスを崩し前のめりになる。

そこへすかさずマイヤが自身の魔力を伸ばしてアルマを突き飛ばすと、アルマは屋根上の柵を越えて突き落とされてしまう。

これで勝負はマイヤの勝ちだ。

突き落とされたアルマは、走って移動する牛車を追いかけ、飛び乗ると、再び屋根上へと戻ってくる。


「うははは!どうだアルマ!」

「ぐぬぬぬぬ。」

「アルマ、何度も言っていますが、相手の魔力をしっかりと感じ取ることが大事なのです。相手の魔力の波長に自分の魔力を合わせれば、相殺することができるんですよ。」


エヴェリーナがそう言ってアルマを諭す。

口調は静かだが、そこには厳格な響きがあり、アルマは首をすくめる。


「わ、わかってますけど、波長を合わせるのがどうにも・・・。」

『アルマは魔力の変換は天才的に下手だからな。魔法を使う時もあたしにまかせっきりだしな。』

「そうハッキリ言われると、照れる。」

『ほめてねえからな?』

「ぎぎぎぎぎ。」


相手の魔力の波長を読み取り、瞬時にそれにあわせる。

それがこの遊びのような修行の要だ。

それを繰り返し、さまざまな魔力の波長に瞬時にあわせる力を培うことで、相手の攻撃魔法ですら打ち消すことができるようになる。


実際、エヴェリーナはアルマたちとの模擬戦でそれをやって見せた。

アルマたちのみならず、タルガットとエリシュカまで参戦した1対6の対戦にも関わらず、アルマたち全員の魔法を同時に相殺してみせ、さらには自身の魔法を駆使して完封してのけたのだ。

伝説に名を連ねるハイエルフの実力を目の当たりにして、アルマたちは即座に師事を乞うた。

そこでエヴェリーナから提案されたのが、この魔力によるおしくらまんじゅうというわけだ。


この魔力の変換が、アルマは壊滅的に苦手だった。

そもそも魔法を発動したことがなく、最近になってようやく使えるようになったマルテとの合唱魔法も魔力の変換はマルテ任せ。

これまでさぼってきた分野が露呈した形だ。


対して、適応力の高さを示したのはマイヤだった。

そもそも魔法の扱いに長けたエルフということもあるが、攻撃より防御が得意なマイヤの気質にあっていたこともあるのだろう。

早々にアルマたちの魔力の波長を覚え、相殺する術を身に付けた。

次いでランダ、シャムス、アルマの順となる。


「アルマはともかく、マイヤはこの程度で満足してはいけませんよ。あなたは防御の要なのだから、あらゆる魔力の流れに即座に対応できるようになることです。」

「わかりました!」

「それから、ランダ。あなたは逆に自身の魔力の波長を変える術を身に付けなさい。あなたの魔法による支援がそのまま攻撃の多様性になる。同じ魔法でも、さまざまな波長で撃てるようになれば相手の妨害を防げますからね。」

「はい。がんばります。」


比較的優秀なマイヤとランダに対しても、新たな課題が次々と出てくる。

魔力の波長を読むことも、自身の波長を変えることも、彼女たちにとっては初めての経験だ。

しかしそれを、彼女たちは乗り越えるべき壁として受け入れていた。


「姉さま!私が手伝います!」

「それじゃあ、ランダはシャムスと特訓ね~。私はマイヤを見るから、アルマはエヴェリーナさまに指導してもらいなさい~。」

「ううう。みんながどんどん先に行くよぉ・・・。」


そうして、屋根上の特訓は新たな局面へと移っていく。

アルマはエヴェリーナの直接指導だ。


「ではアルマ。手を出してください。」

「?はい。」

「これからあなたの手に私の魔力を通します。はい。どんな感じがしますか?」

「えっと・・・なんか冷たい感じがします。」

「ふむ。ではこれは?」

「あ、なんか暖かい感じです!」

「当たってますよ。今のは、最初が水魔法、2回目は火魔法のために練った魔力を通しました。」

「おお!」

「最初は、なんとなくでも違いが分かれば十分です。練習を重ねていけば、より細かい違いが分かるようになります。そうなれば、アルマも普通の魔法が編めるようになりますよ。」

「ほ、ほんとですか?」

「ええ。実はバリガンもアルマと同じように魔法が苦手だったの。この練習はそもそも、魔法を扱えるようになりたかったバリガンが考案したものなのですよ。」

「おおお!そうなんですか!」

「私たちハイエルフは記憶魔法を使うので、他人と魔力の波長を合わせるのが得意ですから。それを参考にしたようですね。」

「なるほどー!」


話していて昔のことを思い出したのか、エヴェリーナの纏う空気が緩む。

アルマの方は、かつての大英雄が考案した練習法と聞いて、俄然やる気を起こす。

山道を進む牛車の屋根上で、アルマ達の訓練は続いた。


異変が起きたのは、小さな渓谷付近に差し掛かった時だった。

牛車を牽いていた牛たちが突然止まったかと思えば、ソワソワと落ち着かない様子で周囲を伺い始めたのだ。


「あれ?タルガットさーん。何かありましたかー?」

「わからん!牛たちがなんかの異変を察知したようだ!」


アルマが声をかけると、馭者台から降りたタルガットが周囲を伺いながら返事をする。

するとその時、山道に接する森の中から、何者かが争う音がかすかに聞こえてきた。


「んんん~?これは・・・人間?冒険者かしら~?」

「これは・・・襲われてるっす!」

「タルガットさん!」

「おう聞こえた!アルマ、シャムスついてこい!」


即座にアルマとシャムスが屋根上から飛び降り、声の聞こえた方へと向かうタルガットを追いかける。

山道脇の森は下向きの斜面になっており、声はその斜面を降りたところから聞こえる。

すでに人間の声はない。

興奮した狼の吠え声が聞こえるだけだ。


「いたっす!あそこ!」


シャムスが叫んだ方をみると、4頭ほどの狼が見えた。

そしてその足元にうつぶせになった人影が見える。


「おら犬ども!そこから離れろ!」


狼の注意をひくため、タルガットが大声を張り上げる。

突然の乱入者に狼たちは警戒を強めるが、折角の獲物を諦める気はなさそうだ。


「マルテちゃんいくよ!ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」

『どーん!』


アルマとマルテの合唱魔法により生み出された光の刃が一頭の足を切り飛ばす。

その間に斜面を駆け下りたタルガットが投げナイフを、シャムスが投斧を飛ばして狼たちを下がらせる。

これでとりあえず倒れている人物から狼を引きはがすことができた。


「けど、獲物を前にして簡単には引き下がってはくれないっすよね!」


今度はしっかりと狙ったシャムスの投斧は、アルマたちの合唱魔法で片足を失った狼に突き刺さり、その命を絶った。

さらにアルマが魔法で、タルガットが投げナイフで他の狼たちをけん制する。

分が悪いことを悟ったのか、残った狼たちは名残惜しそうにしながらも、森の中へと消えていった。


「タルガットさん、その人は?」


狼の姿が見えなくなるのを見届けたアルマが、倒れたままの人を見ていたタルガットに声をかける。


「ああ、なんとか命だけは助かりそうだが・・・ちょっとまずいかもしれん。」

「どういうことっすか?」

「これをみろ。」

「こ、これって・・・。」


そこに倒れていたのは、やせ細っているが、少女のようだった。

タルガットは彼女をあお向けにする。

少女の着る服はボロボロで、ところどころが血で汚れている。

狼に襲われた時のものだろう。

どうやら元々は貫頭衣だったようだ。そうすると、この少女は冒険者ではないのだろう。

だが、アルマを絶句させたのはそのケガや身なりではない。


「額に・・・角が生えてる?」

「ああ。どうやらこの子は、魔族みたいだな。」


タルガットの声には、面倒ごとに巻き込まれてしまったという嘆きの色が混じっていた。


お読みいただきありがとうございます!

なんだか体調不良で更新が遅れました。。。

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