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閑話 ユグ村のナルミナさん

「ウグライ、任せたぜ!」

「おおー!どんとこおい!」

「良く止めた!そうら、姐さん直伝の魔法剣をくらえぃ!」


真っ白な砂浜と広大な海。

美しい風景のなか、ウムート、ハサドギ、ウグライのあまり美しくない声が響く。

彼らが連携して倒したのは、ユグ村を訪れたときに村人にごちそうしてもらったタオタオモナという魔物だ。


「やったぜぃ!どうだい姐さん、俺っちの魔法剣は?」

「どうだいじゃないよ。こいつは村の住人なら素手で捕まえる魔物だろうが。そんな魔物相手に魔法剣なんか使ってんじゃないよ。」

「い、いやそうだけど!こんな大物、村の周辺にゃ出ねえだろう?」

「だはは。確かにな。こいつは村周辺のやつの2倍はあるぞ。」

「姐さん。こいつはさすがに俺らじゃねえと厳しいと思うぜ。」

「だから姐さんて呼ぶなっての。まあいいさ。とりあえず調査はこの辺でいいだろう。そんじゃあ引き上げるよ。」

「そうですねえ。さすがにここから先は難しそうだ。」

「だっははは。まさか迷宮のなかに海ができてるなんて思わんかったからな!」


ジョーガサキの野郎に指示されて、あたしたちがこのユグ島の生協支部を立ち上げてから数十日。

村からすこし離れた山のふもとに、ある日ぽっかりと洞窟ができた。

見つけたのは、冒険者見習いとして三馬鹿の指導を受けていた村の少年たちだ。


洞窟ができたからどうしたって話なんだけど、あたしたちはジョーガサキの野郎から、いずれこの島に迷宮ができるだろうと言われていた。

もしその洞窟がジョーガサキの言う迷宮ならば、結構な騒ぎだ。

冒険者ギルド支部もできるだろうし、多くの冒険者も訪れるようになるだろう。


だが今はまだ冒険者と呼べる者はあたしが連れてきた三馬鹿だけ。

仕方がないので、ウムート、ハサドギ、ウグライの三馬鹿とあたしとで調査にやってきたというわけだ。


洞窟はやはり迷宮だった。

浅い層は兎や羊、鳥など、比較的狩りやすい魔物が多い。

だが3階層からは空間が広がり木々が増えていく。

そして今、あたしたちがいる5階層は海だった。


「こんだけ広い海の階層が5階層だと、この迷宮はあんまり深くはないかもしれねえっすねえ。」

「そうだね、ウムート。だがこの迷宮に来たがる冒険者は増えるだろう。」

「上層の魔物からは肉や毛皮が採れる。木々からはこの島にはない果実が採れる。おまけに海の幸。こんだけ揃ってたら、食うにゃ困らねえやな。」

「後は酒が取れりゃいいんだがな。なあハサドギ?だっははは!」

「酒が飲みてえのはお前だろうが、ウグライ。」


そう。この迷宮はまさに島の者に多くの恵みをもたらすだろう。

ゆっくりと死に向かっていたかのようなこの島の生活は、これから大きく変わっていく。


まるで、この島の現状を見かねた神さまが手を差し伸べてくださったようじゃないか、と思った。

そこから、こうなることを予測していたジョーガサキの野郎のことに思い至って、考えるのをやめた。


あの野郎の仕込みなら、何が起きたって不思議じゃない。

考えるだけムダなら、あたしはあたしのすべきことをするだけだ。


「とにかく、上に戻ったらあたしは一度ラスゴーの冒険者ギルド支部に報告に戻るからね。」

「へ?ここからならオーゼイユの方が近いですぜ?」

「そりゃ、管轄はオーゼイユのギルド支部になると思うけどね。あそこは金の匂いに敏感な商人が多い。事が大げさにならないよう、クドラトの旦那に口きいてもらおうと思ってさ。」

「んんん?冒険者がたくさん来た方がいいんじゃないのか?」

「お前は本当に馬鹿だなウグライ。姐さんは村の人間が変化についていけなくなることを心配なさってんだよ。」


ハサドギが言ったことは当たっていた。

迷宮ができたとなれば、多くの商店が取引に乗り込んでくる。

宿や商店、食堂が村に立ち並び、村は急速に発展していくだろう。

だがその恩恵も、元々この村の住人に届かなければ意味がないのだ。


こんな時にジョーガサキならどうするか。

あたしは村をどういう方向にするのが良いか、考え続けながら迷宮の出口へと向かった。


××××


「それならいっそ、生協指定の共同作業所を作るというのはどうですか?」

「共同作業所?」

「ナルミナさんが教えてくれたおかげで、村でも魔物の解体や毛皮の処理を覚えた人が増えてるんですよ。村で共同出資して、加工と販売を村の人にしてもらうんです。冒険者が増えるなら、食堂なんかも必要ですね。どちらも、交代制にすれば果樹園の仕事をしながらでも続けられますし!」

「あんた・・・いつの間にやら随分しっかりした考えができるようになったんだねえ。」

「何言ってるんですか?ナルミナさんが仕込んでくれたんじゃないですか!」


アイデアをくれたのは、生協売店の売り子として雇ったユカナ・スクウラだった。

この方法なら、村人たちの生活を大きく変えることはないし、選択の幅が広がる。

さらに村に金が落ちる。


「いいね。だったらあんたはそれを進めな。」

「え!進めちゃっていいんですか?」

「いいさ。クドラトにはあたしから言っておく。何だか知らないけどオーゼイユの伯爵はクドラトに頭があがらないらしいから、なんなら支援金をぶんどってくる。食堂の方は・・・ジョーガサキに連絡をとって、タオタオモナを使った料理でも考えさせようか。」

「でしたら、オーゼイユのスイーツ店で働いてるエレナさんが戻ってきてくれるかもしれません!そしたら島でもおいしいスイーツが食べられるかも。」

「いいよいいよ。どんどんやっちまおう。なんか問題が起きたらジョーガサキに丸投げするから安心しな。」


ユカナのアイデアはすぐに村長の承認を得て、村人たちも快くそれを受け入れた。

すぐに空き家の改装がはじまる。

活気づく村をユカナと三馬鹿に任せて、あたしはラスゴーに戻る。



××××



ラスゴー冒険者ギルドのマスター室。

そこには、マスターのクドラト・ヒージャとサブマスターのダリガ・ソロミン、そして新人職員のルスラナ・クエバリフがいた。

彼らにユグ島で進む計画を話すと、すぐに協力することを約束してくれた。


「ああいいぜ。あの島はクナンザム伯爵の所領だからな。伯爵には俺から言っておいてやろう。今後の税収が増えるのは確実なんだから、支度金を巻き上げることもできるだろうよ。」

「後は職人たちの指導者がほしいんだ。解体と皮の加工は最低限教えたけど、あたしは本職じゃないからね。」

「それはオーゼイユで見繕うのがはええな。ダリガ、オーゼイユの冒険者ギルドに連絡しておいてくれ。村の体制が整うまでは、冒険者たちにも商人たちにも情報が漏れないようにしろよ?」

「かしこまりました。」

「なんだい、えらく協力的で気味が悪いね。なんかよからぬことでも考えてんだろ?」

「そんなんじゃねえ。ただこっちもちょっとお前に話があんだよ。」

「話?」

「ルスラナ、頼む。」


そこでルスラナが報告してきたのは、城砦都市ミレンで起こしたジョーガサキたちの騒動だった。

あの町はあたしも行ったことがある。

騎士たちが偉そうにふんぞり返ってて胸糞悪かった記憶しかないけど。

だからアルマたちが守護隊の精鋭を真っ向勝負で打ち破ったという話には驚いた。


「あいつら・・・一体なにやってんだい。」

「がっははは!痛快だろ?あの町では冒険者ギルドの地位が低いからな。そんでよ、ミレンの冒険者ギルドからすぐにでも生協を立ち上げたいって打診があった。だが、そんな騒動の後だから守護隊から睨まれる可能性があんだよな。」

「・・・だからあたしに、今度はミレンに行けってかい?」

「ケガさえなけりゃ銀級にも劣らないと言われたナルミナさんが出張ってくれりゃ、俺としては言うことはねえな。」

「そのケガも、最近はずいぶんよくなったと聞きましたよ?」


クドラトの言葉にダリガが意地悪い顔をしながら乗っかる。

こいつらは二人そろって元金級だ。あたしは思わず顔をしかめる。


「それだけではありません。どうやらミレンでは孤児たちの就職口が乏しいらしく、生協を通じて就職の斡旋もするようにとジョーガサキさんからは言われています。」

「ルスラナ、あんたね。就職ってそんな簡単にいくかい。」

「行くだろ。今お前が話を持ってきたばかりじゃねえか。」

「!!ユグ島に連れてくってのかい?」

「悪い話じゃねえだろ。冒険者になりたい奴はラスゴーに。職人になりたいやつはユグ島に。ついでにオーゼイユも噛ませて商人になりたいやつはそっちに行かせるか。相互の連携は生協が仕切れや。」

「まてまてまて!それはちょっと話が大きくなりすぎだろう?」

「何言ってやがる。町を超えた連携の話を持ってきたのはお前だろうが。」

「そ、そりゃそうだけど・・・。」

「どうすんだ。やるのか、やんねえのか?」


クドラトの言葉にあたしは息を呑む。

ユグ村の話だけでも大仕事なのに、さらにミレン、ラスゴー、オーゼイユまで巻き込むとなると、いったいどんだけの書類仕事がまってるのか。

だがこれが実現すれば、ユグ村だけでなく参加するすべての町で、自分の望む未来を選べる子供らが増える。

いや、子どもだけじゃない。旦那を失った女たちや、引退した冒険者たちも生きやすくなるだろう。


「やってやろうじゃねえか。あの三馬鹿を呼び戻したら、すぐ行くよ。」


クドラトは満足そうにうなづくと、気持ち悪い笑みを浮かべて言う。


「それにしても、あのナルミナがこうなったか。」

「なんだい、気持ち悪い顔して。文句あんのかい?」

「文句なんかねえよ。ただ、冒険者やってるときより生き生きしてんじゃねえかと思ってよ。」

「うっさいね。あたしはジョーガサキの野郎に振り回されるのが気に食わないから、好き勝手やってあいつに仕返ししてやろうと思ってるだけだよ。」

「そりゃ俺もそうだ。」

「同じく。」


クドラトとダリガが笑う。これで話はまとまった。

ジョーガサキめ。こっちはあんたの尻ぬぐいで大忙しだ。

その結果どんだけ仕事が増えようとしったこっちゃない。精々後で後悔するんだね。

あたしたちはそう言って、笑った。


「なぜかジョーガサキさんに仕返ししようと思うほど、私たちの仕事が増えていく気もしますけど・・・。」


笑いあう私たちの横で、ルスラナがつぶやいた。

そうかもしれない。むしろここまで、ジョーガサキの掌の上って気もする。

だがそれもいいさ。


なぜかとても、気分がいいんだ。


お読みいただきありがとうございます!

次回から新章の予定でございます!

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