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7-11 脅迫

その後、アルマたちの祝勝会はつつがなく行われた。


実はエヴェリーナを訪ねる客は意外と多いのだが、それはすべてこの村のかつての住人だ。

旅先で出会った孤児を連れて来たり、村を援助するために食料を持ち込んだりと目的はさまざまではあるが、いずれにしても、村の誰かしらが知っている。

だからアルマたちのような、客人らしい客人は村人にとって初めて遇する存在なのだ。


そしてアルマは、村で語り継がれている槍マルテから認められた正当な相棒であり、もしかしたら村の祖バリガンの後継者となるかもしれないのだ。

この村ではバリガンはもちろん、エヴェリーナと並ぶ英雄。

さらにアルマ以外の娘たちも、試練を乗り越えるためにここ数日、大変な努力をしているのを村人たちは見ていた。

村人たちにとってアルマたちの試練突破は、我が事のように嬉しい出来事だった。


「さあさあアルマちゃん。ぐいっと!」

「いやあの、私はその、お酒は・・・。」

「はいは~い。お酒はこっちにまわしてね~。」

「おお、エリシュカ姐さん、さすがの飲みっぷりだな!」

「こっちも負けねえぞ!じゃんじゃん持ってこい!」

「おいおいマイヤちゃん、大丈夫か?」

「シャムスちゃんとランダちゃんはお肉がいいだろ?ほら、これ食べな。あたしがつくったんだよ!」

「い、いただくっす。」

「私はもう・・・うぷ。」


アルマたちは猛烈な歓待を受けていた。

次々と注がれる酒をエリシュカが片端から片づけていくが、いつのまにそこにマイヤも加わっている。

一方でシャムスとランダは村の獣人たちから肉攻めにあっていた。

タルガットはこうなることがわかっていたのか、村の獣人ヤカランシュとともに少し離れた場所で静かに飲んでいる。

酒の肴はアルマたちの困惑ぶり。そして、ジョーガサキだ。


「・・・私は自分のペースでいただきますので。」

「何言ってんだい!そんなにひょろっちくちゃ、アルマちゃんたちに笑われちまうよ!ほら、これも食べな!」

「わ、私は自分の分は持ってきてますから。」

「あらあんた、それ美味しそうね!こっちのと交換しておくれよ!」

「!!!!」

「やだこれ美味しい!ちょっと作り方教えておくれよ!」

「わ、わかりました。紙とペンを。あ、ちょっと口を付けたスプーンで!!!」


ジョーガサキは面白いほどに翻弄されていた。

生協売店の売り子ナルミナとのやりとりでもわかっていたことだが、ぐいぐい距離を詰めてくるタイプは苦手なのだろう。

だが同時に、あからさまに善意で近寄って来られると無碍にできないのだ。

それなのに、こうしてこの場にとどまっているのは、むしろジョーガサキが成長しているということなのかもしれない。

タルガットはそんな風に感じて、ジョーガサキの様子をほほえましく見ていた。


と、アルマのもとに一人の少年がやってくる。


「ねえお姉ちゃん、マルテさまが人化の術をできるようになったってほんと?」

「うん、ほんとだよ!見たい?」

「見せてくれるの?見せて!」

「って言ってるけど、マルテちゃん、良いかな?」

『・・・しょ、しょうがねえな。』


躊躇しながらも嬉しさを隠しきれないといった感じでマルテが答える。

そんなマルテの反応も、村人から「さま」づけでマルテが呼ばれていることも、アルマにとっては嬉しいできごとだった。


「よっし、そんじゃあやるよー!古より継がれし一条の槍マルテに(こいねが)う・・・」


アルマがエヴェリーナに教えてもらった呪文を唱え、マルテが人化すると歓声があがる。


『だっははは!見ろ、これがあたしの新必殺技だ!』

「マルテさま・・・なんとお美しい・・・。」

「それもそうだが、あの力強さはどうだ・・・。」

「マルテさま!せっかく人の姿になったのなら、ぜひこれを食べてってください!」

「あ、これもどうぞ!」


たちまちのうちに並べられるごちそうに目を丸くするマルテ。

だが、ひとしきり匂いを嗅いだところで、珍しく困った顔で言う。


『あー。なんだ・・・せっかくのごちそうだけど、さすがに食べるのはムリだな。姿はこんなだけど槍だしな。てか錆びちまうわ馬鹿どもが!』

「え、たいへん!どなたか、油と砥石を!」

『食えるか馬鹿アルマ!』


アルマとマルテのやりとりに、周囲から笑いがこぼれる。

その様子を、エヴェリーナは驚きを含んだ笑みを浮かべて見つめていた。


宴は、夜が更けるまで続いた。


明けて翌日。

アルマたちは早朝からベイルガントに向かうため、村を出た。

村に残ったのは、タルガット、エリシュカ、ジョーガサキだ。

ちなみにジョーガサキは宴の途中で村を離れ、村の外に待機していた牛6号に乗って森に泊めてある牛車で夜を明かしたのだが、朝早くに再び村に戻ってきたらしい。


そして今、ジョーガサキたちはエヴェリーナの案内で、磐座最奥の小部屋に来ていた。


「なるほど。たしかにこれは迷宮核のようですね。迷宮核が魔素を集め、それを魔力に変換して鎧に蓄える。これはエヴェリーナ・リーカネンさんが?」

「私はバリガンが何をするつもりだったのかは知りませんでしたよ?魔力の変換や定着の魔法陣などについて聞かれたことを教えはしましたけど。同じ仕掛けをつくれと言われても私にはつくれなかったでしょうね。」

「なるほど。元からあった技術を複数用い、さらに改変しているわけですか。しかし、この仕掛けが優れていることはお分かりですよね?」

「ええ、迷宮核が魔素を集めるのであれば、村の住人がいるかぎり魔素は枯渇しない。さらにその魔素は魔力として鎧に蓄えられるので、迷宮が暴走することもない。今後はその魔力が村の結界に使われるので、鎧に集まる魔力があふれることもなく村の安全も守られる。よく考えられた仕掛けですね。」

「さらに住人を識別する仕組みもありませんか?」


ジョーガサキに言われて、エヴェリーナは迷宮核に刻まれた魔法陣を観察する。


「・・・なるほど、一定期間村で生活した者は結界を通れるようになっています。それ以外は、村の人間と一緒でなければ通れないようですね。魔力パターンの識別方法について、バリガンから聞かれた覚えがあります。」

「そこまで環境を整えたのは、エヴェリーナさんに自由にしてもらいたかったからよね~。」

「そうかもしれませんね。ですがこの村で余生を過ごすことが私の望みですよ、エリシュカさん?」


エリシュカがさりげなく村を離れる意向を確認するが、エヴェリーナの反応は薄い。

そんなエヴェリーナの反応を気にする風情もなく、ジョーガサキは持っていた魔導鞄から小さな板と小箱のようなものを取り出し、エヴェリーナに問いかける。


「ところでエヴェリーナ・リーカネンさんは神さまにお会いしたことはありますか?」

「・・・は?」

「神さまです。」

「・・・聖獣と呼ばれるものに会ったことはありますが・・・。」

「ああ、それも神さま、あるいは神の御使ですね。呼んでもいいですか?」

「は?・・・え、は?」

「呼びますね。・・・ヌアザさま、ケリドウェンさま、もし声が届きましたら御姿をお見せください。」


ジョーガサキが取り出したのは小さな祭壇、ジョーガサキが呼ぶところの神棚だった。

ジョーガサキがそれを文机の上に置き声をかけると、小さな男性の姿をもつ神と、女性の姿をもつ神がひょこりと姿を現す。


「はいな。ジョーガサキはん、呼んだかいな?」

「な、なっ・・・!」


目を見開くエヴェリーナをよそに、ジョーガサキがヌアザ神とケリドウェン神に事情を説明する。

この村や磐座の迷宮のこと。バリガンの意思や村人の思いなども包み隠さずすべてだ。


「・・・というわけで、エヴェリーナさんが後顧の憂いなく旅立てるように、たまにこの村の様子を見ていただきたいのです。この神棚は置いておきますので。」

「なんやもう。相変わらず神使いの荒いやっちゃなあ。」

「けど、アルマはんとの縁も深そうやしなぁ。まぁしゃあないかなぁ。」

「・・・あ、あなたは一体・・・というか、なぜ私がこの村を出ていく前提なのですか?」

「こちらに御座す二柱の神は、今は私が企画した生協の守り神となっていただいております。ですが、元々は多くの信仰を集めた古き神だったのです。」

「まぁ、信仰を失って消えかけとったんやけどな?」

「もう大したことはできひんけどなぁ。おかげさんでなんとかこうして神やらせてもうてます。」

「は、話が見えないのですが・・・。」

「神さまというのは、人々の信仰の在り方でその御姿を変えるのだということです。」

「それが、私とどう関係すると?」

「周囲の信仰の在り方で姿を変える。それは、ハイエルフとよく似ているのではありませんか?」

「なっ!」

「エルフという種族は、神と人との混血によって生まれたのだそうですね。長命なのもそれが理由なのだとか。ならば、神のシステムをエルフが受け継いでいても不思議ではありませんよね?村の崇敬を集めた者だけがハイエルフになれる、とか。」

「・・・ハイエルフに至る方法は、そこにたどり着いた者のみが知るエルフの秘儀。何もお教えすることはできません。」

「ではそこは触れないでおきましょう。ですが私は、あなたに謝らなければならないことがありまして。」

「な、なんですか?」

「この森に、山姥という妖怪が出るという噂をアルマさんたちに流してもらっています。」

「は?」


一定以上の崇敬を集めることがハイエルフに至る条件なのだとすれば、なぜ彼らは神にはならないのか。

最近では牛6号でさえ聖獣になってしまいそうなのに。

それは、「ハイエルフは神に近い存在ではあるけれど、神ではない」という認識がすでにできあがっているからではないか、と、ジョーガサキは考えた。

であれば、そこに「得体の知れないモノへの畏れ」を加えたらどうなるか。

そう考えてジョーガサキが出したのが、山姥という妖怪の噂を流すという方法だった。

ベイルガントの住人はエヴェリーナを知らない。村人とベイルガント住人との交流もない。だが、村を離れた元村人がその噂を耳にすれば、エヴェリーナと結びつけるかもしれない。

彼らの畏敬が集まれば、信仰を体現しやすいはずのハイエルフには影響があるかもしれない。


「・・・つまりあなたは、神か妖怪になりたくなければこの村を去れ、と、こう言いたいわけですか?」

「理解が早くて助かります。まあ噂を流したのは私の個人的ないやがらせと、村の安全を補強する意味もありますが。」


呆れたエヴェリーナがタルガットとエリシュカを見ると、彼らは気まずそうに視線を逸らす。

ヌアザ神とケリドウェン神はやれやれといった表情だ。

そんな周囲の様子を見て、エヴェリーナは思わず吹き出してしまう。


「ぷっ・・・あはははっ!こんな・・・こんな滅茶苦茶な脅迫ってある?まったく、アルマもたいがいだけど、あなたも相当ね!今の世界は、こういう人たちが普通なのですか?」

「いや、それは違う。アルマとジョーガサキは特別枠だ。俺たちはまっとうだぞ?」

「あははは。タルガット、彼らを受け入れている時点であなたたちもたいがいでしょうに。いいわ、でしたらジョーガサキ、あなたたちの旅に同行させてもらうことを条件にしましょう。あなたのつくったセーキョーとやらを教えてください。それであなたの謝罪を受け入れます。」

「わかりました。」

「正直に言えば、マルテのことが心配でありました。それに、バリガンの試練の果てになにがあるのかも。・・・これは、必然なのでしょうか?」

「さあ。私には何もわかりません。ただ、あなたが同行してくださるのは心強いというだけですね。」

「ふふふ・・・まさかこの年で、こんな思いをすることになるなんて。ヌアザの聖名とケリドウェンの聖名を宿す尊きも大いなる二柱。古き神々に畏み申す。かような面倒ごとをお引き受けくださり、感謝の言葉もありません。何卒、この村をお守りください。」

「ま、まあ、あてらは本当に見ることしかできひんけどな?」

「見る分にはちゃんと見とくから、安心してくださいな。」


エヴェリーナは神棚の前に跪き、深く頭を垂れる。

こうして、エヴェリーナがアルマたちの旅に同行することが決まったのだった。


お読みいただきありがとうございます!

ちょっと間が空いてしまいました、ごめんなさい。

年末に向けて、忙しくなってまいりました。。。

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