7-7 決戦①
最後の挑戦を翌日に控えた夜。
マイヤは村の外れで、エリシュカの指導を受けていた。
「ダメダメ~、また防御にしか意識がいってないわよ~。攻撃を意識して~。」
「く、くそっ!」
元々、攻撃が得意ではないマイヤは、攻撃しようとするとそちらに意識が集中してしまい、防御が疎かになってしまう。
鎧たちとの初日の対戦も、そこを突かれ、聖盾が破壊された時の対応が遅れてしまい決定打を受けることになった。
攻撃に意識を向けても防御の質を下げないようにするには、半ば無意識でも聖盾を操れるほどの熟練が必要になる。
たった一日の訓練でなんとかなるものではないが、少しでも熟練度をあげようとこうして特訓を行っていたのだ。
「ん~。やっぱまだムリね~。違う方法を考えた方がいいかも~。」
「そんなことができたら苦労しねえよ!」
エリシュカの多彩な攻撃に完封されてしまったマイヤが、肩で息をしながら座り込む。
と、そこにランダがやってきた。
「でしたら、役割分担をしませんか、マイヤさん?」
「あらランダ、どうしたの~?」
「今のままでは鎧さんたちに勝てそうもないので、ちょっとだけ作戦を考えたんです。」
そうしてランダはエリシュカとマイヤに自分の考えを告げた。
「確かにそれができれば相手を崩す可能性はあるけれど~。ランダもマイヤも、危険な賭けになるわよ~?」
「わかっています。でも、こちらの方が可能性は高いと思うので。」
「・・・おもしれえじゃねえか。いいぜ、ランダ。その賭け、乗ってやる!」
「ふふ。じゃあ、早速練習といきましょうか~?」
エリシュカの声に、ランダとマイヤは揃って頷いた。
一方その頃、シャムスは別の場所でタルガットに稽古をつけてもらっていた。
「おら、また悪い癖が出てるぞ!一部を見るな、広い視点で相手の攻撃を感じろ!」
「はいっす!」
シャムスの課題は、相手の人間離れした動きに対応すること。
その課題を解決するためにタルガットが上げた解決法は「見ない」ことだった。
相手の動きが見えてしまうから、体がそれに反応できてしまう。
それは普通の相手であれば強力な武器になるが、変則的な動きをする鎧を相手にする場合には、そうした予測はむしろ不要だ。
「だったらいっそ、こうするっす!」
「なっ!!!」
突然のシャムスの行動に、タルガットが目を見開く。
数合の打ち合い。
シャムスはタルガットの攻撃を捌いて見せた。
だが数合まで。シャムスはタルガットの蹴りに吹き飛ばされてしまう。
「おいおいシャムス。無茶するな。」
「・・・いえ、なんかこれ、行けそうな気がするっす。もうちょっとお願いします。」
シャムスは再び、タルガットに向かって走り出す。
そしてアルマは・・・。
「やっぱ、『ぼよよん』なんだって!」
『だから、それは何度もやって失敗しただろうが!』
「じゃあどうするのよ!」
『なんかこう、あるだろ!あ、「顕現!」とかどうだ?』
「え、なにそれかっこいい・・・。」
『よし、やってみっぞ!』
マルテの人化に向けて、呪文を練っていた。
しばらく前からそれを見ていたエヴェリーナが呆れた口調で言う。
「あなたたちは一体なにをやっているの?」
「あ、エヴェリーナさん!ふふふ、必殺技の開発ですよ。」
「・・・あなたはなにを言っているの?」
呆れた目線から痛い子を見る目線に変わったエヴェリーナに、アルマが説明する。
「なるほど・・・勇者の魔法。しかも合唱魔法・・・。」
「そうなんです!エリシュカさんによると、マルテちゃんは魔力の変換がすっごくうまいらしいんです。だからきっと、人化もできると思うんですけど・・・。」
「マルテが・・・。そう、そんなことができたの。」
『ふん、いつまでも昔のあたしと思うなよ。』
「マルテちゃんすごいんですよ。いまでも、光の刃を飛ばしたり、盾をつくったり。」
「たしかにそんなことやってたわね。合唱魔法とは思わなかったけど。というか、このタイミングでそこに情熱を注ぐって・・・あなた、少しズレてるって言われない?」
「えへへ。」
「ほめてないから。」
「あれ?」
「まあいいわ。それで、できそうなの?」
「う~ん。イメージを合わせないとダメだってエリシュカさんが言うんですけど難しくて・・・。」
「イメージね。だったら、いい方法があるわ。」
「へ?」
その日の遅くまで、アルマたちの練習は続いた。
明けて翌日。
それぞれに夜遅くまで特訓を重ねたアルマたちは、少し遅めに起き、しっかりと静養をとった。
朝食は軽めにし、しっかりと体をほぐしてから広間に向かう。
「よし。それじゃあ準備ができたら行くぞー。」
広間の手前でタルガットが声を掛ける。
全員が頷き、広間に足を踏み出そうというタイミングで、今度はアルマが声を掛ける。
「みんな。私とマルテちゃんのためにありがとうね!ほら、マルテちゃんもなんか言って!」
『・・・助かる。』
珍しく殊勝なことをいうマルテに、メンバーが目を丸くする。
だが、出てきた言葉はアルマとマルテの予想外のものだった。
「は?いや、自分のためっすよ?」
「そうね。別にアルマさんとマルテさんのためというわけでは・・・。」
「そうだな。どっちかというと自分の成長のためだな!」
『なっ・・・・。』
「え?そ、そうなの?」
「そっすよ。だから別に気にする必要はないっす。それに、今日は私も、秘策があるっすから。」
「あら。秘策というなら私とマイヤさんにもありますよ?」
「ああ、今日は絶対勝つ!」
「そ、そうなんだ・・・。」
唖然とするアルマ。
だが、それは同時に頼もしい反応でもあった。
「そっか・・・。うん、だったら私も、秘策を見せちゃうからね。思いっきり行くよー!」
『ああ、目にモノ見せてやる!』
「ちょっとまつっす。な、なんか一気に不安が・・・。」
「アルマさん、ほどほどで・・・。」
「ワクワク担当仕事すんな。」
「な、なんでよ!ほら、いくよ!」
そして、広間に踏み出す「銀湾の玉兎」の面々。
大して、鎧たちもまた動き出す。
並んで向かい合う、4人と4体。
と、誰が声を掛けるわけでもなく、アルマたちが一斉に駆け出した。
走りながらアルマが叫ぶ。
「みんな行くよ!ぴかぴかぴかぴか、ぴかぴか!」
「うわ!まじっすか!」
「アルマさん!」
「馬鹿、いきなりかよ!」
『へへへ、お前らうまくよけろよ?どどどーん!!』
瞬間、アルマの掲げた槍マルテから、無数の光の刃が飛び出す。
全方位に。
これまでの対戦では使ってこなかったアルマの全方位攻撃に鎧たちの足並みが乱れる。
だがそれは、アルマ以外のメンバーも一緒だった。
「アルマ何してるんすか!」
「アルマさん、後でお説教です!」
「仕事すんなつったろが!」
「・・・あれ?」
メンバーに向かう光の刃は、辛うじてマイヤが複数の魔法の盾を生成して止めていた。
見れば広間の入り口の辺りでエヴェリーナがあんぐりと口を開けているのが見える。
その横では、タルガットとエリシュカが頭を抱えていた。
「お、おかしいな?」
『ぶはははは!気にすんな、アルマ。先手は取った、このまま一気に畳みかけろ!』
「そ、そうだね!いくよマルテちゃん!」
「ふざけんなっす!」
「アルマさん抜け駆けは許しません!」
「アルマあとで殴る!」
アルマが仲間全員から罵倒されながらという、これまでにない展開で、最後の挑戦がはじまった。
お読みいただきありがとうございます!
前にも書かせていただきましたが、来週の水曜日くらいまでかなりハードで更新が滞りそうです。
申し訳ありません。