7-6 集団戦の行方
「ちょっとちょっと~、いきなりすぎるでしょ~!」
文句を言いながらも、エリシュカはすでに弓を構えていた。
アルマ達前衛組に迫る鎧たちに向けて矢を番える。
だが、同時に、鎧組の弓使いがエリシュカに矢を放つ。
飛びのきながら、エリシュカも弓使いに対象を変えて矢を放つが、こちらの矢も難なく躱されてしまう。
「支援はムリっぽいわよ~。」
「では私が。雪さん、シノさんお願いします!」
ランダがネズミの雪さんとサカナのシノさんを呼び出すが、対する鎧組の杖使いが杖を振るうと、小さな鳥型のゴーレムと猫型のゴーレムが生成され、対応してくる。
さらに鎧魔導士が杖を振るうと、火の矢が数本生成され、ランダに迫る。
ランダも魔法を使ってこれに対応するが、動きを封じられてしまった形だ。
同様にマイヤにも杖をもつ鎧が魔法で攻撃を仕掛けていた。
マイヤは魔法の盾を生成して防ぎながら矢を射かけているが、対応に手一杯で他には支援はできそうもない。
一方で、タルガット・アルマ・シャムスには、それぞれ剣使い・槍使い・斧使いが迫る。
剣使いは双剣、斧使いは大斧だ。
「気をつけろ!こいつら、素早いぞ!」
「力もあるっすよ!」
「マルテちゃんいくよ!ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」
『ばーん!』
アルマがマルテの刃先辺りに生成した盾で相手の攻撃をいなし、姿勢を崩す。
だが鎧は人間離れした動きで、崩れた姿勢のままアルマに蹴りを放つ。
不意を突かれたアルマは、なんとか槍の柄でその蹴りを受け止めるがそのまま吹き飛ばされてしまう。
「隙ありっす!」
蹴りを放った状態の槍使いにシャムスが迫る。
だが横合いから斧使いが迫り、大斧を振るってシャムスを迎え撃つ。
「シャムス!」
タルガットが慌てて剣を振るう。
シャムスはその剣の腹に足を乗せ、後方に飛びのく。
「ありがとうっす!」
「うかつに飛び掛かるな、こいつら強いぞ!」
即座にアルマが戦線に戻ってくるが、タルガットとシャムスはそれぞれに別々の場所に引き離されてしまった。
『どうやらこいつらは、1体1での対決をご所望のようだな?』
「そうみたいだね!」
『相手は人型だが、関節の可動域が異常に広い。人間とは思うなよ!』
「了解!」
だが頭で理解していても、実際に対戦してみると厄介だ。
普通に対戦していても相当な熟練者と思わせる多彩な技。
そのうえ素早く、力強い。
そんな相手が、さらに肘を反対側に直角に曲げるような動きを混ぜてくる。
体勢を崩して背後をとっても、首だけくるりとこちらを向けば、もうそちらが前面になるのだ。
前衛陣は変則的な動きに、後衛陣は相手の手数に、次第に追いつけなくなっていく。
拮抗が崩れたのは、マイヤからだった。
相手の魔法を防いでいた盾が、その攻撃力に耐えかねて破壊された瞬間。
音もなく走り寄っていた杖使いにマイヤが吹き飛ばされる。
「マイヤさん!」
マイヤに気を取られるアルマとシャムスの隙を、鎧たちは見逃さない。
ついに相手の武器がアルマとシャムスの首元に届く。
だがその刃先は首に触れる手前でピタリと止まった。
すると、鎧たちは揃って元の位置に移動をはじめ、そのまま静止して動かなくなる。
「・・・こりゃあ、どうやら今回は不合格ってことらしいな。」
片手剣を肩に担いだタルガットが、ポリポリと頬を掻きながら言う。
「みたいね~。どうやら合格するまでは相手をしてくれるってことかしら~?」
「そのようだね。それじゃあ、一旦戻りましょうか。皆さんお疲れさま。マイヤ、立てますか?」
エヴェリーナが声をかけると、マイヤはゆっくりと起き上がった。
どうやらケガは大したことはないようだ。
「あ、ああ・・・悪い、みんな。」
「マイヤさんのせいじゃないよ!」
「そうですよマイヤさん、お気になさらず。」
「今回は私らも自分の相手で手一杯だったっすからね。仕方ないっす。」
「な、なんか普通に慰められると余計に刺さるんだが?」
「じゃあ反省しろっす、足手まといっす。」
「それもなんかちがう!」
こうして、この日から鎧たちとの対戦という試練がはじまった。
鎧たちとの対戦は、広間を一旦出れば何度でもできるようだ。
勝敗の判定は、誰かが決定的な一撃を与えられたら即座に終了。
逆にこちら側はすべての鎧を倒さなければならないらしい。
その日は、さらに2回挑戦したが、いずれもわずかな隙を崩されて不合格となった。
翌日。
鎧たちの動きに最初に対応してみせたのはエリシュカだった。
遠距離攻撃の打ち合いであれば、相手の変則的な動きはさほど問題にならない。
相手の挙動の癖を覚えたあとは、徐々に手数で圧倒するようになっていった。
次いでタルガットが対応してみせた。
初日から相手の攻撃にはなんとかついて行けていたタルガットは、変則的な動きにもすぐに馴れ、速度と巧みな体術で相手を翻弄し、同等以上にわたりあっていた。
だが、その二人もさすがに他の応援をするほどの余裕はない。
二人が自分の相手を倒しきる前に他のメンバーの誰かが決定打を決められてしまう。
この日は、4回対戦したが、結局攻略することはできなかった。
3日目。
タルガットとエリシュカが、戦闘メンバーには加わらないと言い出した。
「どどど、どうしてですか!」アルマが問う。
「ここままやっていけば、いずれ俺たちのどっちかが相手を倒す。手数で優位になりゃあ、試練は合格できるかもしれねえ。けど、それじゃあもったいねえだろ?」
「私たちは、指導係みたいなもんだし、いっつもあんたたちと一緒ってわけでもないからね~。せっかく鍛えてもらえるチャンスなんだから、あんたたちだけでやってみたらいいかなって~。」
「うううう。」
「まあ、相手が認めてくれるのかはわからんから、広間の近くまではついていくさ。」
『ふん、上等じゃねえか。アルマやるぞ!』
「ええええ・・・。」
いざ広間に行ってみると、鎧たちはこちらの意図を理解したかのように数を減らしてきた。
こうなってはやるしかない。
アルマ、シャムスが前衛、ランダ、マイヤが後衛だ。
だが、対戦結果は惨憺たるものだった。
アルマとシャムスはいまだに相手の変則的な動きに対応しきれていない。
ランダとマイヤは、相手の手数に押され、周囲に目を配る余裕がない。
これまでの連戦もたたって、動きに精彩を欠くようになってきた。
結局この日は、前日よりも1戦少ない3回で広間を後にしたのだった。
4日目。
この日はひたすらに、相手の動きに対応することだけを意識した。
攻撃は確実に攻められるときのみとし、とにかく相手の動きを注視する。
前日休めたこともあり、体力もかなり戻っていたので6回戦を行った。
相手の動きに馴れてきたこともあり、戦闘時間は少しずつ長くなっていく。
だが、受けに集中している分にはなんとかなるものの、攻め手を見出すことはいまだにできていなかった。
「さすがにジョーガサキの方も気になるし、明日で最後だ。お前らだけで崩せなかったら、2回目は俺とエリシュカも加わる。それでもだめなら、いったん町に戻る。いいな?」
「ううう。しょうがないか・・・。」
『アルマ。特訓だ!明日までに必殺技を開発するぞ!』
「あとちょっとでいけると思うんすけど・・・。」
「まあ、今日はしっかり休んで、明日全力で挑みましょう。」
「エリシュカ!あたしも特訓するぞ、つきあってくれ!」
「いいわよ~。ギッタンギッタンにつきあうわ~。」
「あ、やっぱなし。タルガットに頼む。」
そして5日目。
最後の挑戦が、はじまる。
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ちょっと今週来週とPCの前にいる時間が少ないため、更新が滞るかもしれません。
がんばりますが、ご理解いただきますよう。。。