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7-3 ベイルガントにて

町の正面に建てられた巨大な像は、がっしりとした体躯と獅子を思わせる蓬髪が特徴的な、獣人のような姿をしていた。


「わあ!あれがバリガンさん?強そう!」

『・・ああ、そうだ。』

「その隣で跪いているのは・・・獣人っすか?」

『あれはホルミズド。バリガンの従者だった虎獣人だ。」

「この辺り一帯を支配していた獣人部族の長ホルミズド。バリガンは彼との一騎打ちに臨み、これを下す。以降、ホルミズドはバリガンへの忠誠を誓う。建国神話に語られる一幕ね~。」


大人3人分ほどの巨大な像を横目に、エリシュカが教えてくれる。

ランダが興味深そうに頷く。


「なるほど。獣人たちが支配していた地域を基盤に、国土を広げていったのですね。」

「そうそう。たしかホルミズドは忠誠を誓う際、バリガンに一筋の槍を献上したのよね~?」

『ん?ああ、それがあたしだ。』

「まじか、マルテ。ちょっとしたハイエルフより年寄りじゃねえか。」

「・・・女子力の、減衰っ!!」

『マイヤ、アルマ、反応しにくいコメントをありがとう。』


バリガン像が立つ町の入り口を抜けて、町の中へ。

かなり古い時代からの観光都市ということで、道幅は狭く、昔ながらの商店が数多く軒を並べていた。

だが、少し町の中を進むとすぐに耕作地の割合が多くなる。


「この辺は森以外は岩場ばかりだからね~。城壁の外に畑や牧場をつくりにくいし、すぐ魔物に襲われちゃうらしいわよ~。」

「なるほどー。でも、これはこれで長閑でいいですねー!」


エリシュカの説明を受けながら牛車は町の冒険者ギルドへ。

冒険者ギルド周辺はごちゃごちゃと商店や宿屋が立ち並んでいるが、ギルドの裏手には耕作地が広がっており、牛車はその近くに置いておけばよいとのこと。

そこでいったんジョーガサキとは別行動だ。


「さて。それではわたしは例によって生協立ち上げ準備の指導に入ります。皆さんは自由にしてくださって構いませんので。」

「俺は例によって宿をとるが、お前らはどうする?」

「折角温泉地に来たんだから、温泉に入れる宿を探そうぜ!」

「いいですね。」

「まあここまで食費も宿泊費もかかってないから、たまにはいいっすね。」

「賛成多数!エリシュカさんもいいですよね?」

「もちろん、いいわよ~。」


というわけで、まずは宿探しをすることになった。

冒険者ギルドの受付で宿を紹介してもらうと、女性客に人気の宿があるというので揃って移動。

町の中心からはだいぶ外れた場所ではあるが、客室からは耕作地と城壁越しの山の稜線なども見えて、なかなか景色が良い。

ちょうど客室も空いていたので、女子組が大部屋を、タルガットが個室をそれぞれ使うことにした。


「俺は夜は適当に飲みに出るから、そっちも自由にやってもらうとして、明日からの予定はどうする?」

「そうですね。まずはバリガンさん所縁のところを見てみたいけど・・・みんないいかな?」

「別にいいっすよ。」

「私も構いません。」

「観光名所だろ?なら、なんか美味いものも近くにあるだろ。あたしもいいぜ!」

「意義な~し。」

「マルテちゃんもいいかな?」

『か、構わねえけど、それなら、ついでに寄ってほしいところが・・・。』


珍しく口を濁すマルテの言うところによると、実は観光名所にはなっていないバリガンの墓所が町から少し離れたところにあるとのこと。

そんなところがあるなら、アルマとしても花くらい持っていきたい。

他の面々も異存はないということで、行くことになった。

ただ、墓所までは少し遠いので、翌日は観光、翌々日に墓所参りというスケジュールだ。


とりあえずの予定が決まったところで、この日は各自自由行動となった。

アルマたちは当然、温泉だ。

エリシュカは、タルガットと一緒に飲みに行くと言って町の中心部に繰り出していった。


「マイヤは行かなくていいんすか?」

「ん?ああ、いいんだ。」

「・・・どうしてですか?エリシュカさんと二人にして、いいんですか?」

「んんー。なんていうか・・・あの二人、以前この町に来たことあるって言ってたろ?そういう思い出をさ、あんまり邪魔したくないっつうか・・・。昔二人の間に何があったのかはわかんないけど。あたしはあたしで頑張るけど。今日のところは、まあいいかなって。」

「ぶわああ!マイヤさん乙女だよー!」

「わ、馬鹿やめろアルマ。抱き着くな!お湯、お湯が顔にっ!!!」


そんな感じで、アルマたちは久しぶりの温泉とあたたかいベッドを満喫した。

その夜は、久しぶりにマイヤのタルガット愛vsシャムスのランダ愛で熱く論戦が交わされ、さらにそこにマルテがバリガン愛を語る一幕まであった。


『とにかく自由なんだよ!技がさ!常識の枠にとらわれないっていうか!こう、ビュッとさ!』

「ビュッとがなにを現してるのかわからないっすけど、常識の枠にとらわれないって意味ではアルマも負けてないと思うっすよ?」

「そ、そうかな?えへへ・・・」

『馬鹿!アルマの外し方は斜め下方向だろうが!バリガンと一緒にすんな!』

「ななななっ!」

「アルマさん。良い意味ですよ?」

「そうなの?それならいいか・・・て、ならないよランダちゃん!?」

『こいつは一番最初、あたしを踏み台に使いやがったからな。断じて良い意味じゃねえぞ。』

「マルテちゃん陰湿っ!!」

「それよりお前ら、あたしの話をきけよ!」


夜は更けて。明けて翌日。

アルマたちは揃ってバリガンの生家を訪れた。

タルガットとエリシュカの顔色が若干悪いが、自業自得だろう。

生家には、さすが観光地らしく、バリガン所縁の品々が整然と並べられていた。

と言っても、さすがに大昔の品々であるし、ほとんどが模造品の上、幾度もの修復を経ていたが。

その中に、ひと際アルマたちの目を引くものがあった。

それは、一人の女性を模した胸像だった。


「マルテちゃん、この人は?」

『ああ、これはバリガンの母親の像だな。よく似てるよ。』

「きれいな方ですね。」

「うん。そっすね。」

『そうか?実物はオーガの群れより怖かったけどな。』

「まじか。ちょっと見てみてえ!」

「あー、すまんお前ら・・・」

「今ちょっと・・・大きな声は頭に響くから~」

「それじゃあ、酔い覚ましに美味しいものでも食べに行きましょう!」

「いいな。情報は仕入れてあるぞ。キノコたっぷりの麺料理が名物らしいから行ってみようぜ!」


マイヤの先導で一行は料理屋へ移動。

料理はさすがに名物だけあって、彼女たちの舌をうならせるものだった。

さすがに昼食後はタルガットとエリシュカも体調を持ち直したので、揃って観光を再開。

バリガンの足跡を辿りつつ、商店や露店を見てまわった。

さすがにその日はタルガットとエリシュカも大人しく宿で夕食を取り、就寝。


さらに明けて翌日。予定通りバリガンの墓所をめざして、揃って町を出る。

マルテの先導で町近くの森へ。

ひたすら歩を進め、昼を過ぎてもまだ目的にはたどり着かなかった。


「マルテ~。さすがにこれ以上はきびしいわよ~。野営の準備とかしてないし~。」

『ああ。問題ねえよ。墓所はある村の中にあるんだ。寝泊まりはできる。』


半信半疑のまま、一行は進む。

と、もうそろそろ夕刻、これ以上はというときになって、突然一行は周囲の空気が変わるのを感じた。


「エリシュカ、これって・・・?」

「そうね・・・エルフの結界が張ってあるわね~。」

「エ、エルフですか?」アルマが目を丸くする。

『ああ。もうすぐ目的地だよ。ほら、お迎えが来たぞ。』


マルテに言われ、周囲を伺っていると、突然木の陰からエルフの女性が現れた。


「・・・何者かと思ったら。久しぶりですね、マルテ。」

『ああ。お前も元気そうで何よりだよ。エヴェリーナ。』


その女性を見て、エリシュカとマイヤが身を固くする。

それに気づいたランダが尋ねる。


「エリシュカさん?どうかしましたか?」

「・・・ハイエルフ。」

「え?」


どうやらマルテを知るそのエルフの女性は、ハイエルフであるらしい。


お読みいただきありがとうございます!

マルテちゃんの過去が徐々に明らかに。


ブックマーク&評価いただけると嬉しいです!

※生家探訪の箇所をちょっとだけ修正しました。

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