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7−2 ベイルガントへ

「いい、アルマ〜?魔法っていうのは、イメージを具体的な形に変換することで発動するの。」

「はい!」

「でもって〜、魔力の変換が致命的に下手なのがあんたよ、アルマ~。」

「ぐあ!ナチュラルに毒吐かれた!」

「だけど、あんたにはマルテがいるでしょ〜?マルテは自分で魔力を生み出せない。でも、どういうわけか~、魔力の変換がすごくうまい。」

「おお、だから合唱魔法になるんですね!」


合唱魔法の仕組みを改めて知らされたアルマが目を輝かせる。

アルマに魔法講義を行なっていたエリシュカは指を立ててアルマを制し、話を続ける。


「普通は魔力の受け渡しなんてできない。それに、発動する魔法のイメージが揃ってないとダメ。あんた達はなぜかそこら辺のセンスがうまいこと揃っちゃったみたいだけど、あんた達がぽんぽん使ってる合唱魔法って、わりととんでもないのよ〜?」

「マ、マルテちゃんと一緒のセンス・・・っ!」

「え?引っかかるとこそこなの?」

『しかもなんでショック受けてんだよ。こっちのセリフだっつうの。』

「・・・ということは、マルテちゃんの人化ができないのは、人間になったマルテちゃんのイメージが揃ってないから?」

「そもそもできるかどうかもわからないけどね〜。あくまでできると仮定しての話よ〜?」

「なるほど。。。ありがとうございます、エリシュカさん!」

『どうするつもりだ?』

「まずはイメージの共有から。絵を描いてみようか!」

『お前、絵描けるのか?』

「なんとかなるって!」

『いや、普通に心配なんだが?』


ベイルガントに向かう牛車の上。

ここ数日、アルマとマルテは特訓と称して、魔法でマルテを人化できないか色々と試行錯誤を重ねていた。

だがどうにも実現のめどが立たず、エリシュカにアドバイスを求めたというわけだ。


とりあえずの目途がたったアルマは屋根を伝って1輌目まで渡ると、そのまま扉を開けて中に入ってしまう。

そこはジョーガサキの執務室になっている。

ほどなくしてアルマが紙とペンを持って戻ってきた。


「よし、それじゃあマルテちゃんの似顔絵づくりを始めようか!みんなも手伝って!」

「魔物も少ないから別にいいんすけど。アルマはお気楽でいいっすねえ。」

「うふふ。まあ、マルテさんが人の姿になれるんなら見てみたいし、いいんじゃないかしら。」

「おおアルマ、あたしにまかせろ!絵は得意だぞ!エルフだからな!」

「エルフ関係ないっすよね?」

「あたしはパス~。アルマの魔道具解明に勤しむわ~。」


こうして、エリシュカ以外のお絵かき大会がはじまるなか、ガタゴトと音をたてて牛車は進む。

周囲の景色は相変わらず岩だらけの殺風景なものだったが、気づけば所々に小さな林が見え隠れするようになっていた。

だが相変わらず魔物は少ない。

標高が高くなってきたこともあいまって、この地域は魔物にとっても暮らしにくいのだろう。

魔物すら棲まない不毛の土地と、定期的に魔物が大量発生する森に挟まれた城塞都市ミレンの特殊さが改めて実感できる。


「みんな描けた?それじゃあ順番に見せ合おうか!審査員はマルテちゃんね。」

「それじゃ、まず私からいくっすよ。」


シャムスがイラストを描いた絵を出す。


『こ、これは・・・。』


そしてマルテが絶句する。

シャムスが描いたのは、黒いコートと黒いロングブーツ、黒い手袋と、全身を黒づくめにした女性?だった。

なぜか片目に古傷が残っており、閉じられている。

よく見れば片腕は義手、というか義剣になっている。


『か、かっこいいじゃねえか・・・』

「マルテちゃん!?正気にもどって?」

「無駄に絵がうまいのがよけいに痛々しいというか・・・若気の至りそのものという感じで、見てて恥ずかしくなりますねこれは。」

「姉さま!?」


幼い子どもが一度は考えつく妄想をそのまま形にしたようで、見ているとみぞおちの辺りがどうにもむずむずしてくる。


「ちょっとまて、判断するのはあたしのを見てからにしてくれよな!」


次に出してきたのはマイヤだ。

それは、手足が槍でできたカカシだった。髪の毛までが槍の刃先になっていて、人間というよりは兵器だ。


『・・・めちゃくちゃイカスな!!』

「マルテちゃんこれは人化って言わないからね!?」

「おい、かっけえだろうがっ!!」

「はいはい、では次は私ですよ。」

「お、おい流すの早えぞ!」


マイヤの訴えを無視して、むん、と両手を握り、ランダがイラストを出してくる。

その絵を見たアルマが叫ぶ。


「か、かわいいっ!!」

『これは・・・』


そこに描かれていたのは全身フリフリのフリルに包まれた少女だった。髪の毛もクルクルと巻かれていて瞳はやたらと大きくなぜか黒目の中に星が浮いており、異常に首が細く足が長い。

ついでになぜか、人物の周囲にたくさんの大輪の花が咲いていた。


「これはこれで別の恥ずかしさがあるっすね。」

「シャムス!?」

『これは別の意味で人間て言わねえと思うぞ?』

「マルテさんまで!?」

「正直、これはねえと思うぞランダ。」


シャムスとマルテ、マイヤにまでダメを出されてランダは涙目だ。


「うっふふふ。では、最後は私ですね!私の考えるマルテちゃんはこれです!」

『うおおおお!こ、これはっ!・・・・これ・・・は・・・・?』

「ひ・・・人っすか・・・ね?」

「いや・・・蜘蛛だろ?」

「三つの顔をもつ・・・スライム?」

「え?え?いやちがうよ、これはほら、正面の顔と横顔。あと、ここは胸とお尻。手足じゃないから。」


アルマは壊滅的に絵が下手だった。

そして正面の構図と横からの構図と同時に表現するという前衛的な画風がその絵をさらに未知の生物へと昇華させていた。

もちろん、本人は無自覚だが。

メンバー全員から、自身の作品を棚にあげた罵倒を受けたアルマは強引に話を進める。


「さあマルテちゃん、こんなかのどれにする?あ、マイヤさんのは人間じゃないから失格ね。」

「お前の方がよっぽど人間離れしてるだろうが!」

「うふふ。そうすると、シャムスのも失格ですね。隻腕隻眼とかちょっと・・・ね?」

「ね、姉さま、それを言うなら背中に花背負ってるのもおかしいっすからね?」

「ほら、マルテちゃん!」

『うるせえ!こんなので決められるかっ!』


喧々囂々と議論が交わされるなか、牛車は進む。

やがて上り坂が途切れ下り坂へと至り。

周囲はさらに、すこしずつ緑を増していく。


「おおい、お前らそろそろ黙れ!町が見えてきたぞー!」


馭者台に座るタルガットの声が響く。

一同はそれを受け、身を乗り出して前方を見る。


「わわ!なんか煙がでてるよ!」

「あれは多分、温泉の煙っすよ。」

「意外と大きな町ですねえ・・・。」

「おいあれ見ろ!町の入り口になんか立ってるぞ!」


そしてついに、次の目的地ベイルガントの町がその全容を露わにする。

周囲を森に囲まれたその町は、あちこちから煙を上げていた。

事前に聞いた話の通りなら、あれは湯煙なのだろう。

そして、町の入り口には何か巨大な像が見える。


牛車が進むと、その像の詳細が次第に明らかになってくる。

遠目に見えたその像の手には巨大な槍のような武器。

あれこそが、マルテのかつての持ち主。

バリガンの像なのだろう。


こうして、アルマたちは次の目的に、ベイルガントにたどり着いた。

城塞都市ミレンを出立してから、実に8日目のことだった。


お読みいただきありがとうございます!

ちょっと更新が不定期になって申し訳ないです。

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