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6-13 未来への約束

騎兵隊との模擬戦後の数日間、アルマたちは変わらず孤児院での手伝いをして過ごした。

模擬戦の後、隊長格の男はアルマたちの戦いぶりを卑怯だとして無効だと言い出したりといった一幕もあったが、そもそもどんな手を使っても構わないと言い出したのはその隊長自身であり、それは見物に来ていた町人たちがしっかりと聞いている。


立会人としてその場にいたジョーガサキからそのことをネチネチと指摘され、さらにタルガットから「なんなら次は俺とあんたとで、1対1でやりあおうか」と言われると、顔を真っ赤にしてその場を後にしてしまった。


守護隊の在り方に不満を持っていた住民や冒険者たちはひどく喜び、その日は町のあちこちで酒盛りが開かれ、タルガットはいくつかの酒場に引っ張り出されたという。


今回のできごとによって、町の体制が大きく変わるわけではない。

今後も守護隊依存の運営はそのままだろうし、冒険者の地位が大きく向上することもないだろう。


だが、人々の意識は変わった。

それは特に若い冒険者たちに顕著で、彼らのうちの何人かはアルマたちに稽古をつけてくれと頼んできた。

とはいえ、さすがに一人前の冒険者を指導するのは、アルマたちには荷が重い。

そこで、ジョーガサキの口利きのもと、タルガットとエリシュカが若い冒険者たちの指導を行うことになった。

若者の熱気に当てられて、中級以上の冒険者のなかにも参加するものが増えてきているという。


また、アルマたちの活躍ははからずとも生協の有用性を示すことになったようで、ミレン冒険者ギルドでは王都の決定を待たず生協を立ち上げることが決まった。

兎獣人のギルド職員ニコレグが、そのまま生協の担当職員となる。


生協独自の物流が生まれれば、今までは乏しかったラスゴーとの交流も増え、必然的に両町を多くの冒険者たちが行き来することになる。

ミレンの冒険者が護衛依頼を受けてラスゴーまでたどり着けば、経験の浅い冒険者でもなんとかやっていける定時制の迷宮がある。

逆にミレンの町には経験豊富な冒険者が訪れる機会が増え、それはミレンの冒険者にも守護隊にもさまざまな影響をもたらす。


ミレンの町に残り、大きな危険もない代わりに大きな収入もない暮らしを選ぶ冒険者もいるかもしれないが、ともあれ選択の幅は広がる。

すぐに大きな変化はないだろうが、徐々に冒険者たちの生活環境も改善していくだろう。


一方、アルマたちはアルマたちで孤児院の子どもたちからの希望を受けて、冒険者をめざす子どもたちに簡単な指導を行っていた。

訓練に参加した子どもたちの中には、あのムスリカ少年もいた。


ムスリカ少年とは、模擬戦について取り立てて会話もなかった。

それでも、アルマたちを受け入れているような気配は感じられて、それがアルマたちには嬉しかった。


指導の合間には、牛車の厨房を利用して屋台を出したりもした。

こちらも孤児院からの要望を受けてのもので、特に女の子たちの実地訓練をかねたものだ。

ミレン孤児院はいち早く生協のメンバーとなることを表明。今後生協の食材を活用して屋台を開き、孤児院の経営安定化と子どもたちの雇用拡大をめざすつもりなのだという。

メニューについては、アルマたちが直談判してジョーガサキからオリジナルレシピを用意させてある。


いつも以上の渋面を浮かべながらジョーガサキが用意したのは、オーゼイユのスイーツとはまた違う甘いパンのような焼き菓子だった。

いずれミレンの名物となるかもしれない。

ちなみに食材は、ジョーガサキが持ち込んでいたものを孤児院に寄付するという形で賄った。

アルマたちの了解なく模擬戦を取り付けてきたという弱みがあったため、ジョーガサキも協力せざるを得なかったというわけだ。

そういう意味でも、模擬戦を行って良かったのだろうとアルマたちは納得した。


そんな感じで模擬戦後も慌ただしく過ごしていたが、ジョーガサキの引継ぎも無事に終わり、いよいよミレンを出発する日となった。


牛6号が先頭に立ち、巨大な3輌連結の牛車で街中を抜け、ミレンの南側の通用門へ向かう。

するとそこには、多くの冒険者と、孤児院の子どもたちが見送りにやってきていた。

冒険者ギルドの職員ニコレの姿も見える。

さらにやや離れたところでは、守護隊員が何とも言えない微妙な表情を浮かべて見守っている。


「お疲れさまです!」

「エリシュカ姐さん、またしごいてください!」

「タルガットさ~ん!こっち向いて~!」


どうやらタルガットとエリシュカは若手の冒険者からの評判はかなり良いようだ。

エリシュカは鷹揚な態度で冒険者たちに手を振っていた。

タルガットは照れ臭いのか、馭者台から降りもせず、曖昧な反応を見せている。


「ラスゴーの生協本部には連絡を入れておきました。準備ができ次第、こちらに人員を送りますので、受け入れの準備をお願いします。」

「は、はい!ご期待に添えるよう頑張ります!」


ジョーガサキは生協支部開設に向けての最終確認をニコレと行っていた。

ニコレは最初にあったときよりさらに疲れた様子で、心配になるほどだ。

おそらくジョーガサキにさまざまなノウハウを叩きこまれて、思考が追い付いていないのだろう。

だがその表情は以前よりも活力が戻っているように見える。


「皆さん、本当にありがとうございました。皆さんに来ていただいて良かったです。」

「いえいえ!こちらも、色々と考えることができましたので良かったです。」

「姉ちゃんたち、また来てね!」

「次来るときには、美味しいお菓子つくれるようになっておく!」

「俺はもっと強くなるよ!」


アルマたちの元へは、孤児院の子どもたちが群がっていた。

一方のシャムス、ランダ、マイヤもまんざらでもなさそうだ。

と、院長の後ろに控えていたムスリカ少年が、院長に促されてアルマの前に立つ。


「あの・・・最初に来た時・・・嘘つきだなんて言って、ごめんなさい。」


そう言ってムスリカは頭を下げた。


「あはは。いいよいいよ、あんな話、信じられないもんね。」

「それは・・・うん。正直、今でも信じられないけど・・・。」

「だよね。でも、そうだなあ。マルテちゃん、お願いしてもいいかな?」


そう言って、アルマは手に持つ槍マルテに話しかける。


『はぁ・・・しょうがねえな。おら、これでいいのか?』


その瞬間、ムスリカは目を丸くしてマルテを見た。

マルテの声が聞こえたのだ。


「本当に、槍がしゃべった・・・。」

「えへへ。実は私ね、冒険者になって最初の半年は、薬草集めしかしてなかったんだ。」

「え?」

「その頃は、たぶん一生薬草集めで終わるんだろうなって思ってた。でも、ある日、ジョーガサキさんていうギルドの職員さんに出会ったのね。それから、マルテちゃんに出会って、タルガットさんやシャムスちゃんたちに出会って・・・これまでに色んな体験ができたのは、みんなのおかげなんだ。」

「・・・・・。」

「だからあんまり偉そうなことは言えないけどさ、勇気を出して一歩を踏み出したら、その先にはきっと、想像もできないような未来が待ってる。良いことも悪いことも色々あるだろうけど、最初からあきらめるなんてもったいないよね!」

「・・・うん。」

「冒険者をめざすの?」

「そのつもり・・・。俺は・・・父さんや母さんみたいな冒険者になりたい。」

「そっか、じゃあ、応援するよ。そうだ!私の弟もラスゴーで冒険者の見習いやってるの。いつかラスゴーに来たら、よろしくね。もちろん私たちのことも忘れちゃだめだよ!」

「わかった・・・いつか、必ず行くから。」

「うん、待ってるね!」


こうして、予想外の大人数に見送られてアルマたちはミレンの町を離れたのだった。


ところが昼食時に問題が起こった。


「そういえば、ジョーガサキさん。騎兵隊との模擬戦で私たちが勝つって確信してましたけど、あれって鑑定スキルですか?」


アルマの問いに、ジョーガサキはメガネを押えながら答える。


「確かに鑑定でも確認しましたが、鑑定せずとも勝ちは確信していましたよ?」

「え?どういうことですか?」


首を傾げるアルマの方は見ず、ジョーガサキはこんなことを言い出した。


「以前、アルマ・フォノンさんたちが私の家で食事をしたところ、アルマさんに【勇者の卵】という称号がつきましたよね?」

「はい・・・とても迷惑しています。」

「しかし、他の人には称号がつかなかった。それが気になって、色々と考えたのです。その結果、世話になっているという認識を本人が強く持つことが重要なのではないか、という結論に至りました。」

「はあ・・・。」

「今回、アルマ・フォノンさん以外の全員が武器を新調した。つまり、全員が私から借金をしていることを強く自覚しましたね。」


アルマは思わず他のメンバーの顔を見る。


「したっすけど・・・。ちょ、すごく嫌な予感がするんすけど。」

「そしてこの旅では、衣食住のすべてを私から提供されています。」

「まさかとは思いますが・・・ジョーガサキさん、もしかして・・・。」

「そして全員が、私の手作りのスイーツを食べましたね?」

「おいおい!まさかあたしらにも、なんか称号がついたとか言わねえよな?」


だがその質問にジョーガサキは直接答えず、食器を片付けながら言う。


「皆さん、成長目覚ましく嬉しい限りです。今後も生協の拡大のため、しっかりと活躍してください。そのための支援は惜しみませんから。」

「ちょちょちょ、まつっすよ!どこ行くんすか!」

「仕事がありますので。」

「わ、私たちになにか称号がついたんですか?」

「おおおい!ジョーガサキ!まてって!」


今度こそジョーガサキは黙って、自分の牛車に戻ってしまった。

だがアルマの目にはその横顔は、珍しく、とても上機嫌そうに映った。


お読みいただきありがとうございます!

ここのところ牛歩に拍車がかかっており、申し訳ないです。。。

ちょっと忙しいのもありますが、無理せず、納得いく形で更新していきたいと考えております。

温かく見守っていただければ幸いです。。。


ブックマーク&評価いただけると嬉しいです。

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