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6-11 守護隊の思惑

「・・・と、悪い。まだ依頼が終わってなかったんだな。」

「はい。もう少しで終わりますので、それからでもいいですか?」

「ああ。そこで待ってるよ。」


タルガットは思いがけず子どもたちの注意をひいてしまったことに動揺しているようだった。

もしかしたら、子どもは苦手なんだろうか。

それはとにかく、依頼は最後まで全うしたい。

アルマはタルガットに待ってもらうことにした。

だがそこで、一人の少年が立ち上がる。


「とっとと行けばいいじゃん。ここにいたって大してすることもないんだから。」

「ええっと・・・まあ、そうだけどね。あはは。」


それは先日、アルマの冒険話に言いがかりをつけてきたムスリカ少年だった。

門の向こうで、タルガットが目を丸くして少年を見ていた。


「どうせなんかくだらないことをして守護隊に目をつけられたんだろ?僕たちのことなんか気にせず行ったらいいじゃんか。」

「いやいや、一応依頼は最後までちゃんとやり遂げたいからさ。」

「お前らなんかいてもいなくても一緒だって言ってんだよ!冒険者なんて、守護隊のご機嫌をうかがわなきゃ生きていけないんだから、恰好つけてないでとっとと行けよ!」

「あらあら、一体何の騒ぎかしら?」


ムスリカ少年が張り上げた声を聞きつけた院長が顔を出す。

結局、アルマとタルガットが院長室で事情を説明することになった。


「まあ・・・守護隊との模擬戦ですか?」

「この町に来るときに、魔物の群れが町の前に集まってたんですよ。俺たちは向かってくる魔物を倒しただけだったんですが、その素材を冒険者ギルドに売り払ったのが気に入らなかったようで・・・守護隊から引き渡すようにとの連絡が冒険者ギルドに入ったらしいんです。」

「ええええ!なにそれひどい!」

「そこからの経緯は俺も聞いてねえんだけどな。とにかく、ジョーガサキ・・・ああ、冒険者ギルドの職員がそれを断ったらしいんです。そこからなぜか話がこじれて、模擬戦っつう話になったらしい。んです。」

「何がどうなったらそういうことに・・・?」

「それは俺も・・・詳しくはジョーガサキに聞かねえとなんとも。」

「わかりました。そろそろいい時間ですし、こちらは構いませんので行ってください。」

「す、すみません。」

「いえいえ。ムスリカとはちょっとこじれちゃいましたけど、それも含めて、皆さんに来ていただいたのは良い刺激になったと思っていますので。ただその・・・」

「なんでしょう?」


口ごもった院長の様子を見て、アルマが問いかける。


「その、模擬戦ですか?もし可能なら、それを子どもたちに見せていただくことは可能でしょうか?」

「は?」

「年少の子には刺激が強すぎるかもしれませんが・・・危険があることも含めて、冒険者という将来の選択肢を考えるいい機会になると思うんです。」


アルマとタルガットは互いに顔を見合わせる。

タルガットには孤児院の事情は話してあるので、院長の申し出の意味も理解できる。

答えたのはタルガットだった。


「なるほど・・・わかりました。もし見学が許されるのであれば、皆さんにもお知らせいたします。」

「どうかよろしくお願いします。」


院長の了解が得られたので、アルマは他のメンバーを呼びに行き、揃って冒険者ギルドに向かった。

途中でエリシュカも合流。冒険者ギルドの受付でジョーガサキを呼び出してもらうと、別室に案内される。

しばらくするとジョーガサキは不機嫌そうな表情で、一人の若い職員を伴って現れた。


「皆さん、お疲れさまです。こちらはミレン支部のニコレグさん。生協立ち上げにかかる準備を担当してくださいます。ニコレグさん、こちらは生協組合員の『銀湾の玉兎』の皆さんです。生協の初期組合員でもあります。」

「ニ、ニコレグと申します、よろしくお願いします。」

「よろしくな。」

「「「「よろしくお願いします。」」」」

「よろしく~。」


ニコレグは兎獣人だった。小柄で、それゆえに長い耳がひと際目立つ。

だがそれよりも感情が抜けきったような表情が目に付く。

きっとジョーガサキの詰め込み教育で追い詰められているのだろう、とアルマたちは思った。


「さて。タルガットさんからお聞きかと思いますが、模擬戦を行っていただきますのでよろしくお願いします。」

「いやいやいやいや!理由!理由を説明してくださいよ!」


あっさり説明を終えようとするジョーガサキに食いついたのはアルマだ。


「はあ・・・町の守護隊がアルマさんたちの素材ばかりか私の牛車まで接収しようと言い出したのです。腹が立ったので、アルマさんたちにとっちめていただこうと思いまして。」

「はあ?ちょ、ちょっと、全然意味がわかりません!」


詳細を説明するのが面倒なのか、飛躍しすぎていて意味がわからない。

渋面を浮かべるジョーガサキに食い下がり、説明を引き出すと、徐々に事態がわかってくる。


守護隊は冒険者たちが勝手をしだすのを嫌ったのか、まずアルマたちの素材を引き渡すように要求したらしい。

要求してきたのは、おそらく町の外でアルマたちが出会った騎兵小隊の隊長格だろうという。

それをジョーガサキが言下に断る。ところが隊長は、ジョーガサキの牛車までも供出することを重ねて求めてきたという。


「いくらなんでもそんな権限はねえだろう。」

「この町の守護隊は、領主からかなりの権限を認められているようですね。私たちは国からの要請で王都に向かっているところなのだと言ってお断りしたのですが、ならば守護隊から護衛を出し、代わりの馬車で送ると言い出したのです。」

「そこまでするか・・・。」

「もちろん、護衛については専属の冒険者がいるのでとお断りしました。すると、冒険者風情に任せるのは信用ならんと言い出しまして。」

「なるほど・・・。」


牛車そのものの価値を抜きに考えれば、たった一人の職員を送迎するために守護隊が護衛につくというのは異例の待遇だ。

だが重要人物の安全を確保するためと言われれば、文句を言う筋合いもない。

要するにまっとうな理由をふりかざして、体よく牛車と素材をかすめ取ろうとしているのだ。

単なる嫌がらせである。

護衛にしても途中までは同行した後、なにか正当らしい理由をつけて町に戻るつもりなのだろう。


「色々めんどくさくなりましたので、依頼している冒険者の方が安心できるし強いと言ったら、証明してみせろということになりました。」

「おい・・・。」

「それで模擬戦?なんというか、売り言葉に買い言葉ってやつね~。」


不機嫌そうな顔で淡々と答えるジョーガサキにタルガットが力なくつっこみをいれ、エリシュカが呆れた声を上げる。

と、そこで口を挟んできたのはニコレグだった。


「あ、あの・・・こんなことを言うのは無責任なのかもしれませんが・・・正直、冒険者ギルドの方では今回の模擬戦、みんなすごく応援してるんです。職員だけじゃなく、冒険者たちも、町の人々もです。」

「それはまた・・・なんでそうなる?」

「残念ながら、今までも守護隊からの嫌がらせというのは頻繁に起きていて・・・この町の冒険者ギルドや商店の力はすごく弱いんです。それが、もしかしたら生協ができることによって変わるかもしれません。」

「まあ、生協に加入すりゃ、独自ルートの商品なんかも買えるしな。」

「はい。恐らく、今回彼らがこんな言いがかりをつけてきたのも、生協の話を聞きつけたからだと思うんです。自分たちのやりたいようにできなくなるかもって、たぶんそう思ってるんです。」


守護隊による専横の弊害は、どうやらアルマたちが思っている以上に深刻で、冒険者や孤児たちでなく、町の住人全体に影響をあたえているらしい。

生協が動き出して独自の商品などを扱うようになれば、守護隊が一括して管理している町の物流に風穴をあけることになる。

守護隊はそれを嫌っているのだ。


「だから私、生協はなんとしても立ち上げたいんです。お願いします。みなさん、勝手ですがお力をお貸しください。」


そう言ってニコレグは頭を下げた。

どうやら彼女から感情を奪っていたのは、ジョーガサキではなく、町の守護隊のようだ。


「なんか、だんだん腹がたってきたっす。」

「おお、そういうことなら、あたしらでいっちょ、連中をとっちめてやろうぜ!」

『ぶははは。ようやくあたしの出番だな!』

「そうですね。ムスリカくんたちも見に来るなら、がんばりましょうか。」

「ジョーガサキさん、これは貸しですからね!」


シャムス、マイヤ、マルテが気炎を上げ、ランダが同調する。

アルマはひとり違うところに食いついていたが。

それを受けて、ジョーガサキが答える。


「皆さんがそうおっしゃると思っていたので、より効果がでるよう、タルガット・バーリンさんとエリシュカ・アールヴルさんは不参加ということにいたしました。」

「なななな、なんでですか!」予想外の発言にアルマがつっこむ。

「若い女性4人に負ける方がより屈辱でしょうから。問題ありません。皆さんなら勝てますから。」


そう言ってジョーガサキは、悪魔のような笑顔を浮かべた。


お読みいただきありがとうございます!

連休ですね!みなさま良い連休をお過ごしください。


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