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6-10 ミレン孤児院でお手伝い

城塞都市ミレンについた翌日、アルマ達は依頼をこなすため町の孤児院を訪れた。

タルガットとエリシュカは別行動。

子どもたちがケガをするとまずいということで武器はエリシュカに預ける。つまりマルテもお留守番だ。


「皆さんありがとうございます。今日はよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」


飾り気のない応接室で応対してくれた孤児院の院長は、やや痩せた年配の女性だった。

苦労の跡がにじみ出ているような印象だ。

孤児院の経営に人手や資金などが不足しているのだろう。

施設のあちこちが痛んでいるのが軽く見回しただけでもわかる。


「ええっと、今日は子守ということでお伺いしてたのですが。」

「はい。と言っても、特にこれをしてほしいということはありません。ただ子どもたちとふれあっていただければそれでいいのです。」

「え?それだけですか?」

「はい。いわば職業体験の一環と思っていただければ。」

「ああ、実際に冒険者とふれあうことで、将来のことを考える機会にするとかって感じですか?」

「その通りです。その意味では、よその町で活躍されている皆さんが来てくださったのは本当にありがたいことです。この町の冒険者の皆さんは、なんというか・・・控えめな方が多いのものですから・・・。」

「はあ・・・。」

「とりあえず、子どもたちと会わせてもらうのがいいっすかね?」

「そうだな。あとは成り行きでいいんじゃねえか?」

「それと、手分けしてお掃除や食事の準備をしたらいいかと思います。」

「ありがとうございます皆さん。あまり謝礼もできませんので、ムリはなさらずに・・・。」


ということで、早速子どもたちと顔合わせをすることとなった。

現在、孤児院で預かっている子どもたちは16人。職員はおらず、院長がひとりで切り盛りしているのだという。


子どもたちに紹介してもらったあとは基本的に自由行動となる。

さすがに建物の補修はアルマたちの手には負えないが、庭の草むしりやら掃除やらはできる。

アルマたちは交代で一人が子どもたちの相手をすることとし、残りは作業をすることにした。

子どもたちは見慣れない冒険者に緊張していたようだったが、次第に気を緩め、思い思いに遊びだした。

年長の子どもたちは進んでアルマたちの手伝いもしてくれる。


だが、なんというか孤児院全体の空気が重い。

年少の子どもたちはそうでもないのだが、年長になるほど静かというか、おとなしいのだ。

と、そんなとき、年少組の女の子がアルマに話しかけてきた。


「ねえねえ、お姉ちゃんたち、冒険者なんでしょ?」

「そうだよー。」

「今までどんな冒険したの?」

「今まで?そうだなー。森で神さまにあったりとか、迷宮で幽霊にあったりしたかな。」

「えええええ!」

「なにそれ、どういうこと?」


それをきっかけにアルマはこれまで経験したことを語ることになった。

心を持つ槍と出会った話。

森で神域に迷い込んだ話。

迷宮に出る幽霊の話。

鹿の姿をした神獣と温泉にはいった話。

遠い島の不思議な魔物の話。


年少の子どもたちはいつの間にかアルマの周りに集まり、目を輝かせて話を聞いていた。

だが突然、その雰囲気を打ち壊すような大声が院内に響き渡った。


「お前ら、そんなウソ信じるなよ!」


突然の大声に、子どもたちもアルマも驚いて声の主を見つめる。

それは年長の少年だった。

少し離れた場所で本を片手に、アルマの話を聞くともなく聞いていたのだが、その内容が信じられなかったのだろう。


「あ、あはは・・・我ながらウソっぽいなあとは思うけど、全部実際に体験した話だよ。」

「そんなわけあるか!くだらないウソにだまされて、こいつらが冒険者をめざすなんて言い出したらどうするんだよ!無責任なことを言うな!」

「えーと・・・あはは・・・。」


男の子はアルマをにらむと、乱暴に本を本棚に戻して庭の方へ行ってしまう。

残された年少組の子どもたちも気まずくなったのか、それ以降はアルマたちと距離を置くようになってしまった。

そして、微妙な空気だけが残されて。結局その日は、最後までそんな感じで終わってしまった。


「そうですか・・・そんなことが・・・。」


ほぼ半日、孤児院で子どもたちの相手をした後、アルマ達は再び応接室で院長と向かい合っていた。


「せっかく来ていただいたのに、申し訳ありません。」

「いえいえ!別に謝っていただくようなことではありません。ただ、なんか子どもたちが元気ないような気がして、気になったというか・・・。」

「確かにそうですね・・・。それは皆さんに来ていただいたこととも関係あるのですが・・・。」


そこで院長が切り出したのは、この町の守護隊の話しだった。

魔物が頻繁に現れるこの町は、あらゆる面で守護隊に頼ることで成り立っている。


「命を張って私たちの安全を守ってくださっているのです。協力をするのは当たり前だと、私自身も思っています。ただ、その体制が長く続いたせいでしょうか。この町の人間は、あまり夢を見なくなってしまったように思うのです。」

「夢・・・ですか?」


アルマの問いに院長が頷く。

守護隊を維持するため、この町では高額の税金が課せられている。

はじめからそうだったわけではないが、毎年のように少しずつ税が引き上げられ、気が付けばかなりの額になっていたのだそうだ。

町の農作物や畜産物は基本的に守護隊がすべて購入。また、他の地域との商取引も基本的に守護隊が一括し、それを町の商店に卸す形になっているため、割高になっているのだという。

住民からすれば2重に税を払っているようなものだ。


「元々は緊急時にも守護隊を維持できるように、ということだったそうです。それがいつの間にか慣例化してしまったのですね。」


一方で高額な税負担への救済策として、守護隊周辺の雑事を行うことで税の免除や賃金を得られる制度もある。

さらに生活困窮者に対しては、守護隊が定期的に炊き出しを行うのだという。


「だから、悪いことばかりでもないのです。病弱な者、生活の基盤を持たない者。そういった者もこの町ではなんとか生きていけます。でも、変化もない。」

「年長になって、自分の将来がわかるほど未来に夢を見れなくなっていくってことですか。」

「はい。それでも、はじめから夢をあきらめるようなことにはなってほしくないのですが・・・。」

「なるほど・・・。だから冒険者に来てもらおうと。」

「少しでも彼らの刺激になればと思ったのですが・・・。特にアルマさんに突っかかった子はムスリカというのですが、ムスリカの両親は冒険者だったのです。彼の幼い頃に亡くなったのですが・・・。そのことを思い出したのかもしれません。どうか、気を悪くしないでくださいね。」

「それは全然・・・でも、そうか、そういう理由もあったんですね・・・。」


生活基盤をもたない人間にとって、冒険者になる道があるというのは大きい。少なくとも自分が狩った肉は食べられるし、大物を狩ればそれなりの金も手に入る。

だがこの町では守護隊によって冒険者の行動がかなり制限されているため、たとえ冒険者になったところで生活の質はあまり改善されない。

その状況で無理をすれば、ムスリカの両親のようになる。

冒険者はあきらめて商店などで働くことができればまだましだが、税や物価が負担となる。

つまりこの町は、そういった夢を代価にして安全を保証しているのだ。


「うーん。なんかこう・・・息がつまるなあ。」

「多分、子どもたちもそう思ってるんすよ。アルマに怒ったのだって、そういうモヤモヤした気持ちを持て余してのことだと思うっすよ。」

「そうだな・・・夢を見ない方が平穏だなんておかしいだろ。」

「でも・・・難しいですね。夢を見ることを強制するのも、それはそれで間違っていると思いますし。」

「とにかくさ・・・私たちにできることを考えてみます。ご依頼は何日でもってなってましたけど、明日も来てもいいですか?」

「こちらはもちろんありがたいのですが・・・いいのでしょうか?」

「はい!あ、それじゃあさ、明日はあれ、ジョーガサキさんに教えてもらった焼き菓子つくってもってこよう!」

「おお、いいっすね。」

「どうせなら、ここでつくらせていただいて、子どもたちにつくり方を覚えてもらうというのは?」

「いいなランダ。それでいこう!」


こうしてアルマたちは、翌日以降も孤児院に通うこととなった。

だが、年少組はともかく、年長組の子どもたちとの距離はなかなか埋まらなかった。

どうやらアルマたちとは深く関わらないようにと、年長組の子らには暗黙の了解ができてしまっているようだ。


しかし、距離を埋める手立てが見つけられないまま迎えた翌々日。

事態は思わぬ方向から変化を迎えることになる。

アルマたちのいる孤児院にタルガットがやってきたのだ。


「あれ?タルガットさん、どうしたんですか?」

「アルマ、悪いけどみんなを集めてすぐ来てくれ。どういうわけか、俺たちと守護隊とで模擬戦を行うっつう話になってるらしい。」

「ええええ?なんですか、それ?」


突然現れたタルガットに、子どもたちの視線が集まった。


お読みいただきありがとうございます!

なんだか6章は長くなりそうな予感・・・ですが。

ゆっくりお付き合いいただければ幸いでございます。。。

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