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6-9 ミレンにて

魔物たちが散り散りに離れていくミレンに向けて再び牛車を走らせると、逃げ出す魔物の幾頭かが牛車に向かってきた。

その多くは牛車の威容を見て山側に進路を変えるが、興奮した魔物はそのまま向かってくる。

牛6号の背に乗った雪さんが石礫を飛ばして威嚇射撃を行うが、それでも向かってくる魔物に対しては軛を自ら外した牛6号が体当たりをかましていく。


牛6号が弾き飛ばした魔物は、アルマたちが魔法で仕留めていく。

本来なら素材をはぎ取り死体を処理したいところだが、数が多いため、移動が優先だ。

と、5人の騎兵隊がアルマたちに向かって進んできた。


「牛の魔物だ!大きいぞ!」

「左右から突撃!一気に仕留めるぞ!」


どうやら軛から離れて暴れる牛6号の巨躯を見て、野生の魔物と思われたらしい。

騎兵たちが牛6号へと突っ込んでいく。


「ち、違います!その子はうちの・・・」


アルマが叫ぶが騎兵たちには届かない。

3人の騎兵が左右から牛6号へと切りかかる。

それを見ていたタルガットが馭者台を離れ、牛6号の元へと走り寄ると、右から切りかかってきた騎兵の剣をかちあげて逸らす。

予想外の方向から剣を打ち返された騎兵は姿勢を崩し、少し進んだところで落馬してしまった。

左側から迫ってきた騎兵にはエリシュカが矢を射かけ、騎兵に矢を打ち払わせることで牛6号への攻撃を回避していた。

さらに、正面から突っ込んできた騎兵は牛6号がひょいとかわして腕をくわえると、首を振って投げ飛ばしてしまう。


「貴様ら!なぜ邪魔をする!」

「こいつはうちの牛だ。攻撃をするのはやめてくれ!」

「なんだと?ではなぜ軛を外しているのか!」

「魔物が向かってきたから威嚇するためだよ。悪かった。」

「魔物を狩るのは我らの仕事だ、邪魔をするな!疑われたくないのなら大人しくその牛を軛につないで隠れておれ!」

「ああ、悪かったな。そうするよ。」

「貴様らも冒険者如きに後れを取るなどたるんどるぞ!さっさと起きんか!」


後方に控えていた隊長格と見られる男性が怒鳴り、タルガットが答える。

どうやら誤解は解けたようだが、誰ともわからない冒険者にいいようにあしらわれたのが腹に据えかねるようだ。


だがさすがに、それ以上こちらに絡んでくることはないようで、隊長と見られる男は不機嫌そうな表情のまま押し黙る。

隊員たちからの印象も悪いようで、落馬を免れた面々はアルマ達を睨みつけてくる。

そして、倒れていた隊員が再び馬に乗ったところで騎兵隊はその場を去って行った。


「なんすか、あれ・・・。」

「魔物を狩るのもダメだと、襲われたら私たち死んじゃうわね~。」

「なんで笑ってんだよ、エリシュカ!あんな奴ら、ぶっとばせばいいじゃねえか!」

「まあまあマイヤ、ああいう手合いはまじめに相手すると損するわよ~。」

「どっちにしろ、揉めると面倒だ。言われた通り適当なとこに牛車をとめて待機。ついでに近場の魔物の処理をやっちまおう。」


タルガットは肩をすくめながら牛車の近くまで戻ってくると、言われた通りに牛6号を軛につなぎ、道から少し離れたところに牛車を移動させた。

魔物の死体を放置しておけば、そこに別の魔物が群がる。

素材もとれるので、放置するべき理由もない。

アルマたちは交代で魔物の処理を行うことにした。


その後、魔物の相当数が山側へ逃げ込んだのを確認し、ようやく移動を再開。夕方前には城塞都市ミレンへと入ることができた。

ミレンの冒険者ギルドは大通りに面しているため、そのまま牛車で移動。

だがギルド横に設けられた厩舎には収まらないため、ギルド近くの空き地に停めさせてもらうことになった。


「私はここで数日業務を行う必要がありますので、皆さんはその間、ご自由にお過ごしください。」

「業務?王都に向かう最中になんの業務をする必要があるんだ?」


騎兵隊とひと悶着あった際にも姿を見せなかったジョーガサキが、突然そんなことを言い出した。

驚いて理由を尋ねるタルガットにジョーガサキが答える。


「ギルド生協ミレン支部開設の下準備です。」

「ははあ。それがジョーガサキくんの言ってたもう一つの理由ってわけね~?」

「え?え?なんです?どういうことなんです?」アルマが問う。

「ジョーガサキくんが黙って王都行きを承諾するのが不思議だったのよ~。要するに、道中で自由にセーキョーの普及活動をさせることを交換条件にしたってことね~。」

「試験運用という形ではありますが、すでにラスゴーでは正式に組織化されておりますし、ユグ島にも支部を広げており、組合員は順調に増加しております。今回の王都訪問は生協の正式運用について稟議にかける意味もあるのですよ。正式運用が決まれば各冒険者ギルドに専任の職員を配置する必要がありますし、生協独自の業務も発生します。混乱を防ぐために立ち寄った冒険者ギルドで担当者を選定し、事前に生協についての理解を深めていただく予定です。」

「なんというか・・・ジョーガサキさんらしいというか・・・。」

「効率的に進めているだけです。」


素っ気なく答えるジョーガサキに一同は呆れ顔だ。


「そういうことなら、とりあえず宿を決めないとな。」

「私たちは牛車でかまいませんよ?ねえ、みんな?」

「まあ、武器や防具揃えて金欠っすから・・・。」

「私も構いません。」

「あたしもいいぜ!どうせ寝るだけだしな。風呂も調理場もあるんだし問題ないだろ。」

「そうね~。それじゃあ私もそうしようかしら~。」

「そ、そうか・・・宿は俺だけか・・・。わかった・・・じゃあ俺は宿を見てくるから、お前らはジョーガサキについて行って素材の買取を済ませてきたらいい。夕食は・・・俺が知ってる店でいいなら案内するが?」


後で落ち合うことを決めて、アルマ達は冒険者ギルドへと向かった。

冒険者ギルドはラスゴー支部と比べてかなり小さく、ギルドを利用する冒険者も数が少ないようだ。


「どうせ何日間か留まることになるんなら、なんか依頼でも受けようか?」


アルマの提案で一行は依頼書を張り出してある掲示板へと向かう。

だが、どうやらこの町では魔物の討伐は守護隊が行っているようで、魔物関連の依頼そのものが随分と少ない。

その代わり、町の内部での雑用や守護隊の支援などが多いようだ。


「これなどはいかがでしょう?」


ランダが示したのは孤児院の子守の仕事だった。

シャムスとランダは孤児院の出身だ。他の町の孤児院は気になるだろうし、勝手もある程度わかるだろう。

マイヤは若干難色を示したが、結局その仕事を受けることに決まった。

受付で申し込みを済ませ、その後ギルド内の買取所に町の外で集めた魔物素材を持ち込む。

買取所の担当は禿頭の中年男性で、持ち込んだ素材の量に驚いていた。


「この街じゃあ魔物は兵隊さんらがほとんど持っていっちまうからな。うちに持ち込まれる量は常に不足しているからありがたいぜ。」

「そうなんですか。魔物はたくさん出そうだし、冒険者の出番も多そうですけど。」

「普段は兵隊さんらが訓練をかねて巡回してるし、定期的にあふれる大群はこっちも組織で対応するしかないからな。町からかなり離れたところで狩りをするか、今日みたいな群れを叩いた後で放置された魔物を狙うくらいしかねえんだよ。」


どうやら魔物の大群が町を襲うのは日常茶飯事のことらしい。

数百という規模になると、確かに大きな組織でなければ対応が難しいだろう。

魔物が多いがゆえに冒険者の仕事が減るというのは、なんとも皮肉なことだ。


「まあその分、冒険者は比較的安全に暮らせる。よそに比べりゃ稼ぎは少ないし、物価も高いが悪いことばかりでもねえのさ。」


魔物の素材などはほとんどが兵が集めたものを民間に卸す形になるため、冒険者ギルドを通すより割高になるのだという。

アルマたちが持ち込んだ素材が喜ばれたのも、そのせいなのだろう。

ところ変われば、冒険者の在り方も立場も変わる。

そういえばオーゼイユでも、冒険者の仕事は護衛の割合がかなり多かった。

こういった町の形もあるのだと感心しながら、アルマ達は冒険者ギルドを後にしたのだった。


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