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6-8 城塞都市ミレン

ラスゴーを出たジョーガサキとアルマたちの乗る牛車は、順調に旅を続けていた。

3頭の牛たちは朝、決まった時間に自律的に出発し、自律的に食事と休憩を取り、決まった時間に野営地へと牛車を運ぶ。

ジョーガサキは王都までの移動について事前に行程表を作成していたが、旅の行程はわずかの狂いもなく、ただ静かに消化されていった。

アルマたちは、ただただ屋根の上で揺られるだけだ。


3輌目の屋根に据え付けられた戦闘時用の折り畳み式防護柵は展開した状態のままとなり、そこが野営時のタルガットの寝場所となった。

女性陣と同じ空間で寝起きするのはためらわれたらしい。

浴室やトイレはさすがにどうしようもないので共用となったが、タルガットが遠慮して、彼だけは午前中に浴室を使う事と決まった。

そもそも、普通は野営時に浴室など望むべくもないのだから、アルマたちは共用であっても気にはしていないのだが。


ちなみに、野営時の夜番もなしとなった。

ランダの結界魔法と牛たちの警戒網で十分と判断されたためだ。

よほどのことが起きれば牛たちが鳴き声で知らせてくれるし、屋根の上のタルガットがすぐに対処できる。


順調そのものの旅路ではあるが、さすがにただ揺られているだけというのは飽きるし辛い。

アルマたちは朝稽古に加えて、夕方にも簡単な稽古をすることにした。

さらに移動中の屋根上は主にエリシュカによる魔法の薬草学の教室となった。


「それにしても、お前のことだからあの変な鳥で行くかと思ったら牛車とはな。」

「私は野営も嫌いですが、知らない人が整えた寝具で寝るのも同じくらい嫌いです。いずれにせよ王都では何日間か留め置かれるのですから、それなら寝室ごと移動した方がましですから。」

「あ・・・さいですか。」


3日目の昼食時。タルガットの問いにジョーガサキが答える。


「それと、これ以上ラスゴー迷宮関連で注目されるのは面倒です。迷宮産の魔鳥が移動に活用できるとなれば厄介なことになるのは目に見えてますからね。」

「なんとも、ジョーガサキくんらしい理由ね~。」

「理由というならもう一つありますが、それはまあ、次の町についたときにわかりますよ。」


そう言うと、ジョーガサキは一足早く食事を終え、自身の車輌へと移動してしまう。


「なんだよ、意味深だな。てか、もうそろそろか。お前ら、今日あたりから忙しくなるから気を引き締めろよ。」

「この先に何かあるんですか?」アルマの問いにタルガットが頷く。

「もう少し行くと大きな川にぶつかる。その川に阻まれてこっちには来ねえが、橋の向こう側は強い魔物が現れるうえ、数も多いんだ。」

「退屈で飽き飽きしてたとこだからな、ちょうどいいぜ!」

「魔物が現れても基本的に移動しながら追い払うのよ、マイヤに出番はないでしょ~。」

「へへへ、長弓のいい練習相手になるじゃねえか。」

「馬鹿ね~、矢を回収できないから、弓はダメよ~。」

「な、なんだとぉ!」

「それじゃエルフ魔法の実践っすね。」

「おおお、腕が鳴るね!」

『アルマとあたしのはエルフ魔法じゃねえけどな。』

「牛6号に雪さんを乗せていただきましょう。周囲はシノさんにお願いして警戒していただきます。」


昼食後しばらく進むと、タルガットが言う橋が現れた。

対岸まではかなりの距離があり、川の流れも速い。

確かにこれなら、魔物は渡れないだろう。

橋は跳ね橋となっており、両岸には番小屋が設けられていた。

緊急時には橋をあげて通行を遮断するのだという。


橋を越えてからは少しずつ魔物の姿が目立つようになってきた。

この辺りは大陸を横切る山脈が海側に張り出す形になっており、その尾根伝いに魔物が下りてくるのだという。


ジョーガサキの用意した牛車はこの辺りの魔物にも威圧感を感じさせるようで、向かってくる魔物は少ない。

だが時折、狼などの魔物が群れを成して向かってくる。

それもアルマたちが屋根上から魔法で蹴散らせば、諦めて離れていくのだが。


この日は結局、何事もなく、やや入り組んだ岩棚の近くで野営をすることとなった。

そして翌日も前日と同様、直接攻撃を仕掛けてくる魔物は魔法で威嚇しながら進む。


「ん~、どうも魔物の数が多すぎるわね~。」

「そうなんすか?」

「前来たときはここまではでなかった。ていうか、こんな有様じゃあ普通の商人はラスゴー方面に向かおうとは思わないでしょ~。」

「それは・・・確かにそうっすね・・・。」


と、牛車が上り坂の頂点に差し掛かったところで、馭者台にいたタルガットが叫ぶ。


「もうすぐ町が見えるぞ。」


その声にアルマたちが立ち上がる。

だが、そこで見た景色に、牛たちが足を止めた。


「うっわ!何あれ!」


それは、峡谷を城壁でふさいだ砦のような街の姿だった。

だがアルマが声をあげたのはそれではない。


「魔物だ!町が魔物に襲われてる!」


城塞都市ミレン。

その堅牢な城壁の前には数百に及ぼうかという魔物が集まっていた。


「大変だ!応援にいかないと!」

「ああ~、問題ないわよ~。」

「え?だ、だって・・・」


焦るアルマに、エリシュカがのんびりした声で答える。


「まあ見てなさいって~。」


するとその時、城壁の上から大量の矢が降り注ぎ、眼下の魔物たちに降りかかった。

さらに城門が開かれ、同時に数十の騎兵が列をなして現れる。

騎兵は列を崩すことなく魔物の群れに突撃し、分断していく。


「おおお、すっげー!なんだあれ!」


マイヤが歓声をあげる。

騎兵はそのまま魔物の群れを突き抜けると一転し、再び魔物の群れへと突入していく。

そうして数度の突撃を繰り返す。

さらに城壁の上からは無数の矢が降り注ぐ。

魔物たちは次第に数を減らし、ついに潰走を始める。


「す、すごいっすね・・・。」

「あれはミレン城塞都市が誇る騎兵隊だな。」


いつの間にか屋根の上に登り、戦況を眺めていたタルガットが言う。


「いいか、お前ら。あの町じゃ冒険者より守護兵たちの立場が圧倒的に強い。町に入ったら、兵たちには気を付けろよ。」


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