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6-7 チート牛車

アルマたちが拠点とするラスゴーは、ミズガル王国に属する一地方都市である。

南北に細長く広がる領土を持つミズガル王国は、東方を海、西方を山脈に囲まれ、ミズガル王家は大陸でもっとも長い系譜を誇る由緒正しき血統のひとつと言われる。

王都ヒュペルボレオスは王国全土のほぼ中央に位置し、ラスゴーからは南方という位置関係にある。


その王都に向けて、いまアルマたち一行は、ジョーガサキが用意した巨大な牛車で移動していた。

小屋ほどもある箱型の荷台が3輌連結しているということだけでもすでに人目を引くが、その牛車を牽くのがわずか3頭の牛であり、しかも普通の馬車よりも速い速度を出している。

それはまさに目を疑う光景であり、すれ違う馬車は一様に道を譲る。

さらにその威容ゆえか町から近いからか、近寄ってくる魔物もほとんどいないため、アルマたちは荷馬車の屋根の上に陣取り、ただ長閑に日向ぼっこをしながら過ぎゆく風景を楽しんでいた。


「アルマさん、お母さまや弟君と折角再会できたのに、残念でしたね。」

「んー。でもまあ、これで二度と会えなくなるってわけでもないし。」

「もしかして、気を使わせていたらすみません。私たちは平気ですからね。」

「え?あ、ううん。う、うちは元々あんな感じだから。ちゃんとあいさつはできたし。」


ランダの言葉にアルマが慌てて手を振りながら答える。

ランダとシャムスは幼い頃に両親を失っているので、アルマが遠慮してしまっているのではないかと言っているのだ。

もちろんランダやシャムスへの遠慮がなかったといえば嘘になるが、アルマにしてみれば婚前旅行などと妙な勘違いをしていた母親と弟を黙らせたかったというのが真相で、別れのあいさつもそこそこに出発を急がせた経緯がある。

気まずくなったアルマは、話題を変える。


「そ、それよりもこれ、一体何積んでるんだろうね。」

「ジョーガサキのことだからろくでもないことには違いねえだろうが。昼時に説明してくれるつってたから、それまではのんびりしようぜ。」

「そうね~。こんなにのんびりした旅ってのも、なかなかないものね~。」


しっかり早朝の朝稽古をこなしてきたためか、マイヤがまだ寝足りないとばかりに寝転がったまま答える。

その言葉に同意したエリシュカは、先ほどから小さな魔道具と格闘中だ。

それは以前、アルマがオーゼイユの露店で購入したものだった。

エリシュカに預けてその使い方を調べてもらっているのだが、いまだに用途はわかっていない。


「こうやって、手順通りにズラしていくっていうのはわかるんだけど~。こっから先に進まないのよね~。」


元々箱型だった魔道具は複雑な模様に隠された部品をずらしていくことで形を変える細工がなされていた。

ある程度は手順を解明できたものの、それでも用途はわからないようだった。


「なんすかね。変形することに意味があるわけでもないんすよね?」

「わからないのよね~。なにか他のものと組み合わせて使うのかもしれないけど。まあもう少し調べてみるわ~。」

「すみません。よろしくお願いします。」


そんな話をしていると、突然牛車は道を逸れ、やや拓けた場所で止まった。


「ブモオオ!」


先頭の牛6号が鳴き声をあげると、後続の牛たちは自ら(くびき)を外し、2輌目の荷台に向かう。

荷台の下部には横長の桶が据え付けられており、さらに桶上部には魔石が据え付けられている。

牛6号がそこに魔力を通すと魔石から水があふれ、桶にたまっていく。

桶にたまった水で喉を潤した牛たちは思い思いの場所に寝転がり、休憩をはじめてしまう。


「なんていうか・・・手がかからなくていいんすけど・・・。」

「うふふ~。ただ荷台で揺られるだけで王都までたどり着いちゃいそうね~。」


アルマたちが呆れながらも牛たちの様子を見ていると、1輌目の扉が開き、ジョーガサキが不機嫌そうな顔で現れる。


「そろそろお昼時ですね。皆さん、食事の準備をお願いします。」

「わかりましたー。簡単にスープとパンとかでいいですかね?」

「いえ。一応この旅の間の献立表を用意してきました。材料もあります。調理台の準備の仕方をご説明しますので、お手伝いください。」

「調理台の・・・準備?」


良くわからないままにアルマたちは屋根から降りる。

馭者台に座っていたタルガットもこちらにまわってきた。


「調理はこの2輌目で行っていただきます。今のままでも仕込みはできますが、まずは見ていただきましょう。シャムスさん、そちらの下部に留め金がついているのがわかりますか?」

「あ、これっすかね?」

「その留め金を外せば、上下に開きますので。」

「こうっすかね。うわ!」

「おお!なんだこれ、すげー!」


箱型の側面にあたる部分が上下に別れ、中が露わになる。上部の板は下から柱が伸びて庇となり、下部の板は倒せばテーブルとなるようだ。

さらに内部には調理台が置かれており、調理台を開いた板側に動かせば複数人で調理をすることもできそうだ。


「これは私の国では一般的な移動屋台を参考につくったものです。調理台はそれを使ってください。調理台の下に鍋や包丁が入っています。奥にあるのが収容庫となっています。冷蔵、冷凍が可能です。」

「なんと・・・。」アルマが息を飲む。

「ちなみに野営時には、皆さんには3輌目を使っていただきます。浴室とトイレ、簡易寝台が据えてありますので。」


アルマたちは興味津々で3輌目に群がる。

後方に扉が設けられており、開けると内部には両側面から伸びる形で細長い板が据えられていた。やや高めだが、向かい合わせで座ることができそうだ。

さらにその上部にも折りたたまれた状態で同じ板が据えられている。

板を倒せば棚として、あるいは簡易寝台として使える。転落防止の柵も用意されていた。

左右で上下2人ずつ。さらに床面もつかえば上下3人ずつ、計6人が横になれる計算だ。

さらに一番奥には2つの小部屋が設けられており、それぞれが簡易の浴室とトイレになっている。

天井には出入り口が設けられており、そこから屋根の上に上がることもできるようだ。


「ちなみに排水は中央に集めて浄化したうえで投棄しますのでご心配なく。それと、3輌目は戦闘車両としても使えます。緊急時は屋根の上に折りたたんだ柵を立ててください。」

「緊急時って・・・何を想定してんだよ。」


呆れながらタルガットが言う。

だが女子チームは多機能ぶりに興味を惹かれていてそれどころではないようだ。


「1輌目は?1輌目には何があるんですか?」

「・・・1輌目は私の執務室となります。」

「見ていいですか!」


アルマたちが興味を示すと、ジョーガサキはとても嫌そうな顔をしながらも内部を見せてくれた。

アルマたちには見てもわからない書類の束と執務机。その壁面にはやはり小部屋が2つ。浴室とトイレだ。

さらに書棚の天面がそのまま細い階段となっており、そこをあがると寝室。1輌目は2階建てになっているのだ。

さすがに寝転がるだけで天井スレスレだが、屋根が左右に開くようになっており、開くと屋根を壁面として雨水除けの天幕が展開される仕様となっていた。


「ジョーガサキさんだけズルい!」

「私が快適に過ごすために用意したものですのでズルいと言われましても。皆さん用の車輛を用意しただけでも感謝していただきたいのですが。」

「ぐぬぬぬ。でもズルい!」

「おおそうだな。あたしたちにも使わせてくれるんならいいけど、それがイヤなら対価を要求する!」

「・・・応える義務はありませんが、一応対価の中身をお聞きしましょうか?」


抗議の声を上げたアルマとマイヤは互いの顔を見て頷きあうと、声をそろえて言う。


「「オーゼイユの『八十八果亭』で出してる新作スイーツ!!」」

「・・・仕方ありませんね。明日の間食として用意しましょう。」

「「やったー!!」」


こうして、移動中の衣食住について普通では考えられない好条件を得たパーティは、さらに食後のスイーツについても好条件を引き出すことに成功したのだった。


だが、この波に乗れない者がただ一人。


「野営やら夜番やらは想定の範囲だったから、それと比べりゃはるかにマシだがよ・・・風呂もトイレも俺が使うわけにもいかねえし・・・俺は1輌目を使わせてもらってもいいんだよな?」

「いえ。もちろんダメですけど?」


ジョーガサキにすげなく断られ、タルガットだけが肩を落としたのだった。


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