6-6 王都へ
「そんじゃあ最初はお前らだけでやってみろ。危ないと思ったら俺も入るが、できればお前たちだけで仕留めてみせろ。」
「「「「はい!!」」」」
少し離れた所にいる黒雷蛇を油断なく見据えながら、タルガットが指示を出す。
新防具を手に入れるため、ラスゴー迷宮の10階層まで黒雷蛇を狩りに来ているのだ。
アルマ以外のメンバーが手にしているのは、生協お抱えの鍛冶職人ヘルッコが用意してくれた新武器だ。
今日は新しい武器の試験でもある。
「先手はあたしがもらうぜ。」
そう言ってマイヤが手にした長弓を構える。
黒雷蛇の方はまだアルマたちを敵とは認識していない。
マイヤは集中し、つがえた弓と矢に魔力を纏わせていく。
ヒュッ!
しっかりと魔力を乗せた矢が素晴らしい速度で黒雷蛇に飛んでいき、その胴へと突き刺さる。
十分に魔力を乗せれば、固い鱗も突き通せるようだ。
「ジュラアアアァッ!!」
不意打ちを受けた黒雷蛇が鎌首を上げ、アルマたちに目を向ける。
完全にこちらを敵と認識したようだ。
「素材にするのに胴周りを傷つけてどうするんすか!」
「わりい!まだ微調整がうまくいかねえみたいだ。」
『言ってる場合か!おら、いくぞ!』
アルマとシャムスが黒雷蛇に向かって走り出す。
「四海、四地、九星、九天、遍く御座す諸神の御先、祝咒を饗とし御象為せ。雪さん、シノさん、おねがいします。」
ランダが咒を唱えると、ネズミの雪さんとサカナのシノさんが彼女の両脇に現れる。
新たに手に入れた錫杖の石突でトンと地面を叩き、錫杖の先端を黒雷蛇に向けると、雪さんとシノさんは一気に走り出す。
同時に雪さんが石礫を、シノさんは氷塊を打ち出していく。
新たな武器をランダが手に入れた結果、ランダの魔力を用いてより強力な魔法を使えるようになったのだ。
さらにマイヤが矢を射かけ、黒雷蛇をけん制。石礫、氷塊、矢による攻撃にさらされた黒雷蛇は、得意とする雷魔法を撃つ間もなくアルマとシャムスの接近を許してしまう。
「一気にいくっすよ!」
「了解!ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」
『しゃきーん!』
アルマの持つ槍マルテの刃先が淡く光を放つ。
アルマとマルテの合唱魔法により切れ味を増した攻撃が黒雷蛇の首元を浅く傷つける。
以前は通らなかった攻撃がしっかりと届いている。
だがまだ浅い。
アルマがその場を飛びのくのと入れ替わりにシャムスが飛び掛かり、斧を振りかざす。
その攻撃はアルマのつくった傷口を寸分の狂いもなくなぞり、傷口をさらに広げていく。
シャムスの攻撃力もまた大きく向上している。
「ジュラアアアァ!!」
「祝給えよ。野面覆う八十の雑草、蛇の長道となりて敵を拝ません。」
チリン!
ランダが錫杖とは反対の手に持つ鈴を鳴らしながら咒を唱えると、黒雷蛇の周囲の草が触手のように伸び、黒雷蛇を拘束していく。
動きを封じられた黒雷蛇の頭に、雪さん、シノさんが集中攻撃を加えていく。
怒り狂った黒雷蛇が周囲に雷を纏わせていく。
「聖援!」
黒雷蛇の動きを見て、マイヤは弓からワンドに武器を持ち替え、アルマとシャムスに防御魔法をかける。
『アルマ、一気に決めちまうぞ!』
「了解!」
「雪さん、シノさん下がるっすよ!」
「ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」
『しゃきーん!』
「もういっちょっす!!」
アルマとシャムスの攻撃が黒雷蛇の傷をさらに広げる。
命の危険を感じた黒雷蛇は身を震わせるが、ランダの拘束魔法はほどけない。
焦る黒雷蛇は当たりもつけずに周囲に雷の矢をまき散らす。
「聖盾!アルマ、シャムス、魔法で決めろ!」
「了解!ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」
『どーん!』
「ごうり、ごうら、ごうごうと滾れ。その根源たる力は不撓。不羈なる業火よ、敵を滅ぼせ。」
「ジュラアアアアアアッ!!!」
アルマとマルテが放つ光の刃が、シャムスが放つ火の弾が、そして雪さんの放つ石礫とシノさんが放つ氷塊が、黒雷蛇の首元に集中する。
すでに首元を大きく傷つけられていた黒雷蛇は魔法による飽和攻撃には耐えきれず、ついに沈黙する。
「やった!倒した!倒しましたよ!」
『ぶははは!ざああみろ!』
「よくやったなお前ら。たいしたもんだ、完勝じゃねえか。」
タルガットがここまで手放しで褒めるのは珍しい。
アルマたちの顔もほころぶ。
「よし、そんじゃあセーキョー村に持ち込んで、素材の換金と受け取りを済ませたらエリシュカんところにいくか。」
「「「「はい!」」」」
黒雷蛇は皮以外にも牙、骨、肉などほぼ全身が買い取り対象となる。
従来はそれほど多くの素材を持ち運ぶことが困難なため、その場で皮や牙をはぎ取るのが精々であったが、今はすぐ近くにセーキョー村がある。
アルマたちは大きな布を広げて黒雷蛇を乗せ、そのまま持ち込むことにした。
セーキョー村の買取所で解体を依頼し、皮だけを受け取って町へ。
エリシュカが営む道具屋へ向かった。
「エリシュカさん、黒雷蛇の皮もってきました!」
「は~い、どれどれ~?おお、ずいぶん状態良いじゃない。これなら、高値で買い取れるわよ~。」
「良い防具にできそっすかね?」
「ん~?ああ、この皮はこれから鞣すから防具には使わないわよ~。さすがに出発までには間に合わないからね。あんたらの防具はもう別口でつくってるから。てか、素材的にはそっちの方が上等よ~。」
「ええ、そんじゃ黒雷蛇狩る必要なかったじゃんか!」
「何言ってるのマイヤ、あんたたち防具代払えないでしょ。安くなるんだからいいじゃない~?」
「もちろんです、ありがとうございます。」
「うふふ。ランダは誰かと違って素直ね~。じゃあついでだから、サイズ調整もしちゃおうか。タルガットはもういいわよ~。」
「へいへい。そんじゃあお前ら、旅の準備しとけよ。」
「「「「はい!」」」」
こうして、無事に新しい防具の手配も済んだアルマたち。
その後は、長期の旅に備え、食材などの準備を進めた。
そして、いよいよ王都へ向けて出発の日。
アルマたちは町の入り口に集合していた。
オーゼイユに向かったのとは異なる、町の南側だ。
「えっと、馬車はジョーガサキさんが手配してくれるって聞いたんですけど・・・?」
「ああ、あいつのことだ。時間に遅れることはねえだろうが・・・。?」
その時、辺りが騒がしくなる。
アルマたちは声のする方を見る。
「なっ!なんだあれ!」マイヤが驚きの声を上げる。
「・・・ああ、あれっすね。」
「うふふ。あれみたいですね。」
「まちがいないわね~。」
人々が慌てて開けた場所に大きな牛車がはいってきた。
2頭の牛を従え、先頭で牽いているのはひときわ大きな体躯をもつ牛。牛6号だ。
だが、注目すべきは牛6号と比べてもさらに大きな箱型の荷台だろう。
それが3輌。連結した状態になっているのだ。
その馭者台に座っているのは・・・
「ロ、ロラン!と、お母さん。」
つい先日再開したアルマの母親ローザと弟のロランであった。
牛車がアルマたちの前で止まると、ローザはアルマに駆け寄って声をかける。
「お母さん、見送りに来てくれたの?」
「アルマ、お母さん、そんなに固いこと言わないから!楽しんできていいんだからね!」
「は?お母さん何言ってるの。私たちは王都に行くんだよ?」
「うんうん。わかってる。婚前旅行だからって、気にすることないわ。むしろこの機会に、がっちりジョーガサキさんの心と胃袋をつかむのよ!」
「なっ!!!そそそそういうんじゃないからっ!」
「姉ちゃん照れなくてもいいぞー。」
「やめてロラン!」
わいわいと騒ぎだすアルマ一家をパーティメンバーは生温かく見つめていた。
と、牛車の1輌目の扉が開く。
「皆さんお揃いですね。では、王都に向けて出発しましょう。」
アルマたちに声がかかる。
そこにいたのは、いつもの通り不機嫌そうな表情を浮かべる平たい顔の男。ジョーガサキである。
お読みいただきありがとうございます!
ちょっとバタバタしてて週末に更新できませんでしたごめんなさい。
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