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6-5 生協のお仕事

ヘルッコの下で新しい武器を調達し、武器手入れの方法について学んだ翌日、アルマたちはラスゴーの冒険者ギルドを訪れた。

新人職員ルスラナから、とある依頼を受けたからだった。


「新人の指導係・・・ですか?」

「はい。ご存じの通り、現在ラスゴー迷宮は他の迷宮に比べて安全性が高くなっておりますので、セーキョー村では新人冒険者の研修を引き受けています。しかし、肝心の指導係が不足しており、困っているのです。」

「いやでも、私たちだってほぼ新人みたいなものですし・・・。」

「でも黒鉄級ですよね?」

「それはなんというか特例みたいなもんですし・・・」

「でもタルガットさんからしっかり指導を受けてますよね?」

「経験もあまり・・・。」

「森の迷宮騒動から始まって海の向こうのユグ島まで、他の冒険者では経験できないことを経験されてますよね?」

「むぐ・・・。」

「実のところ、指導係が不在なのは、ユグ島で冒険者育成の指導係として駆り出されているからなんですよね。ちなみに私がここで受付をやらされているのも、ユグ島にセーキョー支部を立ち上げるためにナルミナさんが出張されているからです。」

「うぐっ!・・・そ、そういう事情なら・・・お引き受けしないわけにはいきませんね・・・。」

「ありがとうございます。そう言っていただけると思っておりました。ちなみに今回は新人冒険者ではなく、将来冒険者になろうかと迷っている年少の子たちの職業体験みたいなものです。基本的には町の近くの森で採集などの体験をさせるだけですから、あまり気負わずに。」

「そ、そんなことまでやってるんですね・・・てか、ルスラナさん・・・ちょっとジョーガサキさんに似てきてません?」

「似てきてません!」

「ひぃっ!!!」


と、そんな経緯があったのだ。

ただアルマがルスラナにやり込められただけとも言えるが、いずれにしても、引き受けた以上は依頼を達成するべく最善を尽くすのみ。

朝稽古の後でしっかりタルガットから指導する際の注意点を聞き、研修に臨むアルマたちだった。


「とにかく、出合い頭の印象が肝心っすよ。」

「おおそうだな。なめられるわけにはいかねえ。」


一部、タルガットの教えを曲解している者もいたが。

ほどなくしてルスラナが冒険者見習いの5人の少年少女を連れてやってくる。


「あれー?姉ちゃんだ。」

「ええええ、ロラン?なんでこんなところにいるの?」

「なんでって、冒険者体験に参加したからに決まってるでしょー。」

「え?だってロランの年じゃまだ冒険者になれないんだよ?」

「姉ちゃん馬鹿でしょ。将来冒険者になるために学んでおくべきことを知るのがこの体験会の趣旨なの。10歳以上は参加できるんだよー。」

「うっく。そ、そうでした・・・。」


癖の強い髪質以外は、アルマとそっくりの少年がポヤッとした声で言う。アルマの弟ロランだ。

声のトーンとは裏腹に、思いのほか利発そうなアルマの弟に他のメンバーたちが目を丸くしていると、ルスラナが説明をはじめる。


「はい皆さん。今日皆さんを指導していただく『銀湾の玉兎』の方々です。ラスゴー生協の初期会員であり、現在は黒鉄級のパーティです。きちんと指示を聞いて、くれぐれも勝手なことはしないようにしてくださいね。」

「えー!姉ちゃんのパーティに教わるの?不安すぎるー。」

「ロ、ロラン、その姉ちゃんてのやめなさい!指導くらいちゃんとできるから!」


思いがけない弟の登場で予定が大幅に狂ってしまったアルマたちだが、ともかく少年たちを連れて町を出て、森へと向かう。

子どもたちは普段出られない町の外に出られるとあってにぎやかなものだが、アルマたちは彼らを警護しなければならないので気は抜けない。


そんなアルマたちの苦労も知らず、ランダがネズミの雪さんとサカナのシノさんを呼び出すと子どもたちは大騒ぎだ。


「すごーい!かわいい!!」

「お魚が空飛んでる!」

「雪さんとシノさんです。近くに魔物がいたら知らせてくれるのよ。魔物に突然襲われないように備えるのも、冒険者になるために大切なことなの。」

「「「「「すごーい!!」」」」


その後、ランダが護衛依頼を受ける際の注意点などを説明しながら移動。

シノさんが近くに針兎がいるのを知らせ、シャムスが投斧で倒して見せると歓声があがる。

用心のためにとマイヤが魔法で作り出した盾にも子どもたちは興味津々で、パーティは瞬く間に子どもたちの信頼を勝ち取った。


「姉ちゃん。姉ちゃん以外の人たちすごいね。」

「なっ!!わ、私だってすごいから!薬草の採集は私がばっちり指導するから!」


アルマはそう言うが、ロランは疑わしそうだった。

その後、森に入った辺りの採集場所に到着した一行。ここからは、パーティで最も採集の経験が多いアルマが説明役となる。のだが。


「・・・というわけで、同じ薬草を採集するのでも、何に使うかによって採集するべき部位が変わるんだよね!どれが薬草かを覚えるのも大事だけど、その薬草のどの部位が必要かってのも覚えておくといいよ!」

「お姉ちゃん、この草は何の役に立つの?」

「え!そ、それは・・・どうだろう?」

「じゃあこっちは?」

「えええ!そ、それもよくわかんないな・・・。」

「姉ちゃん、使えない。」

「ぐはっ!・・・つ、使える薬草を覚えればいいんだよ!全部の草を覚える必要はないの!ほら、分かったら、さっき教えたとおりに採集を始めてね!」


アルマの株は下がる一方だが、半ば強引に説明を切り上げ、子供たちに採集を実体験させる。

実際に採集を体験して、お金を稼ぐ苦労と喜びを感じさせるのもこのプログラムのポイントなのだと、ルスラナから言われているのだ。


その後しばらくは、問題なく進んだ。

アルマの株は下がったが、少年たちは熱心に言われた薬草を採集していく。

だがそこで、ネズミの雪さんが魔物の接近を知らせてくる。


「魔物が近づいています!数は5!皆さんこちらに集まってください!」

「灰狼っす!」

「えええ!なんでこんな場所に?」

『言ってる場合か!アルマ準備しろ!』

「もうしてるよ!」

「あたしは子供らを守る!」

「雪さんはアルマさんたちを、シノさんはこちらの警護をお願いします!」


瞬く間に体制を整えるアルマたち。

灰狼はこれまでも何度も倒している相手だ。

ランダとマイヤが防御に徹していようとも倒せない相手ではない。


「アルマ。一気に決めるっすよ!」

「了解!」


シャムスの腕が光を発する。

ここ最近でかなりコントロールできるようになった獣身化だ。


「わあ!お姉ちゃんが変身したー!」

「すっげええ!かっけええええ!!」


子どもたちが手を叩いてはやしたてる。


「マルテちゃん行くよ!ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」

『ばーん!』

「いったよシャムスちゃん!」

「まかせろっす!」


アルマが吹き飛ばした灰狼をシャムスが一刀両断にする。

獣身化と新しい武器が相まって、今までをはるかに超える破壊力だ。

だが、今までよりも高い破壊力に慣れていなかったシャムスの体が流れる。

そのわずかなスキをついて、後続の狼がシャムスの横をすり抜けて子どもたちの元へ向かう。


『アルマ!』

「ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」

『どどーん!!』

「うわあ!聖盾!!!!」


咄嗟に唱えた合唱魔法による光刃がすり抜けた狼を両断しただけでとどまらず、子どもたちのすぐ横を飛ぶ。

慌ててマイヤがその光刃を聖盾で防ぐ。


「「「「「・・・・・。」」」」」

「あぶねえだろアルマ!」

「ごごごごめんなさい!!」

『味方にあてるようなヘマ打たねえよ!!』


唖然とする少年たち。

その横でマイヤとマルテが言い争いをはじめ、アルマはひたすらに謝る。

なんとも締まらない展開だが、とりあえずケガ人は出なかった。

だが、この辺りまで灰狼の群れが現れるのは珍しいので、万全を期してアルマたちは町に戻ることにした。


「通常とは異なるできごとは、とても大きな情報なの。それには必ず理由がある。例えば、より強力な魔物から逃れてきた、とかですね。だから、冒険者は常に、どんな細かいことにも気を配って、異変を察知する能力が必須なんですよ。」

「「「「「はい!」」」」」


すっかり委縮してしまった少年たちに、ランダが冒険者の心得をやさしく諭す。

もっとも、委縮する原因をつくったのはアルマなのだが。

ともあれ、帰路は大きな問題もなく、一行は無事に冒険者ギルドへと帰り着いた。

ランダが事情を説明し、念のために冒険者に周囲の森を警戒してもらうように手配を頼んだ後、子どもたちはそれぞれに自分が採集した薬草を買い取ってもらう。


「「「「「ありがとうございました!」」」」」


わずかとはいえ、自分の手でお金を稼ぐという体験を得た子どもたちは満足そうにそれぞれの帰路についた。


「姉ちゃん、反省してるー?」

「うぐっ・・・危ない攻撃をしちゃったことは反省するけど・・・・ででででも、私の攻撃だってすごかったでしょ!私一応、このパーティのリーダーまかされてるんだよ!すごいでしょ!」

「うーん・・・なんていうか・・・」

「な、なによ?」

「呪文がダサすぎる?」

「ぬがっ!!!」

「でもまあ、攻撃はすごかったよー。それにさ。」

「姉ちゃんが冒険者やめても、僕が今度は支えられるようにがんばるから。だから姉ちゃんは、いつでもジョーガサキさんのところに嫁いだらいいよー。」

「ななななっ!何言ってるの?そんなんじゃないからっ!!」

「あはは。それじゃね。みなさん、ふつつかな姉ですが、なにとぞよろしくお願いします。」

「ちょっとロラン?ちがうから、ちがうからね!!!」


アルマの声が空しく響く中、ロランは走り去っていく。

こうしてアルマたちの指導係体験は、アルマ一人が株を下げて終わった。


お読みいただきありがとうございます!

ちょっと寄り道なんかしたりして。。


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