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1-10 お泊り会と、新たなはじまり

「ようこそ、我が家へ!」


食材やら毛布やら、大量の荷物を抱え込んだアルマが、食堂のテーブルにどさりと荷物を置いて、明るい声でそう言った。


「我が家っていっても、借家だけどね。このテーブルも前の持ち主が置いてったものなんだ。」

「「お邪魔します。」」


対してシャムスとランダは、おそるおそる、と言った口調だ。

ずっと孤児院で暮らしていたため、人族の個人宅になど上がった経験がないのだ。


「そんなに緊張しないで。とりあえず、お風呂だよね。そんでご飯にしよう!」

「あ、手伝います!」


と、落ち着く間もなく準備にとりかかる。

洗い場には、水を溜める甕が置いてある。お湯の方が喜ばれるが、魔力も時間もかかる。いまの季節であれば、水でも構わないだろう。水は魔法でもつくれるが、共用の井戸が近くにある。

井戸からの水汲みをシャムスに任せて、アルマとランダで食事をつくっていく。


力仕事はシャムス、料理や裁縫などはランダと、それぞれ得意分野があるようだ。

今日のところは、アルマがメインとなってスープをつくっていく。

といっても、市場で見つけた食材を適当に切ったり、すり下ろしたりして放りこんでいくだけだ。

味付けは塩のみ。

竈に鍋を掛けて、下に薪を並べて生活魔法で火をつけたら、後は放置。メインとなる肉料理は、食事の直前に焼けばいいだろう。


一品の準備が整ったところで、買い込んだものやシャムスとランダの荷物を整理。その間にシャムスが水をくみ終えたので、順番に体を洗ってもらう。

最後にアルマが体を洗い、さっぱりしたところでようやく食事だ。メインとなる肉を焼き、食卓に並べる。


「なんか、色々手伝ってもらっちゃってごめんね!それじゃあ食べよう!」


そこでシャムスとランダは、胸の前で両掌を上に、次に掌をそのまま腕を左右に、最後に両手の指先を合わせて小さな菱形をつくるという変わった動作をした。


「それって、孤児院のしきたり?」

「いえこれは、私たちの一族の習わしですね。天と、地と、命の恵みに感謝する意味があります。」とランダ。

「ほえええ。それって私もやっていいのかな?」


二人の承諾を得て、アルマも感謝を捧げる。


「そうだ、雪さんは?ご飯はいいのかな?」

「え?」

「ご飯は食べない?」

「いえ・・・そのようなこと、考えたことがありませんでした。」

「え!そうなの?それじゃあ食べられるか聞いてみようよ。パンでいいのかな?」


ランダがネズミの雪さんをテーブルの上に召喚する。そこに、アルマがパンの欠片を差し出して言う。


「雪さん、お食事はいかがですか?」


すると雪さんは、しばらく臭いを嗅いだ後、欠片を両手にもって食べ始めた。それを見て喜ぶアルマを、ランダがじっと見つめる。


「ふおおおお。雪さん可愛い。可愛すぎる・・・」

「アルマさんは、やさしい方ですね。」

「え?そう?」

「はい。ありがとうございます。」

「そんな。私も、冒険者になってからお友達と食事とかあんまりしたことないから、嬉しいんだ。さ、私たちも食べよう!」


雪さんの可愛らしさもあって、食事が始まると、シャムスとランダの緊張も徐々に解けてきた。

それに伴って、会話も増えてくる。


「姉さまは一族の巫女になるはずだったんだ。巫女は本当に選ばれた者しかなれないんだよ!」

「すごいね!」

「うん、すごいんだ!だから、姉さまを守れるよう、あたしは強い戦士になるんだ。」

「そっかそっか。」

「姉さまさえいれば、一族もきっと・・・。」

「えっと、その一族は・・・?」

「魔物に襲われたんだ。それで、村のみんなは散り散りに逃げたんだけど、魔物に追いつかれて父さまも母さまも・・・。」

「そんなことが・・・。それで孤児院に・・・」

「でも、生き残ってる人もきっといる。姉さまさえいれば、一族もきっとまた集まれるから。」

「シャムス、そんな暗い話はやめて。アルマさんも困るでしょ。」

「ぶわあぁ!シャムスちゃん、いい子すぎるよぉ!」


その後は、アルマが泣きじゃくりながらシャムスを抱きしめたり、なだめたりすかしたり、雪さんを愛でたり、そしてまた笑い合ったりして過ごした。


それは食事が終わり、寝室に移ってからも続いた。

だが次第に夜は更け、まずシャムスが眠気に負け、続いてアルマが落ちた。

残ったランダは、気持ちの良い微睡の手前で、今日の出会いを感謝した。


『なんか良からぬことを考えてるんじゃねえだろうな、キツネ。』

「心配ですか、マルテさん?」

『んなわけあるか。』

「おや。いいんですか?アルマさんは、バリガンさまの導きを受けているのに。」

『その名前を口にするな。』

「大切な方なんですね。マルテさんにとって。」

『だまれ。』

「ひとつ、私が持つ巫術についてお教えしましょう。」


マルテとの会話で目が冴えたランダは、身を起こして言う。


「巫術のひとつに、『精霊降ろし』という業があります。加護をもたらす精霊をお姿を現世に顕すというものです。」

『・・・何が言いたい?』

「バリガン様をお呼びすることができるかもしれません。」

『なんだと?』

「今はまだ、小さな絆。でも、あなたとアルマさんの絆が、もっと大きく強くなった暁には、ですけれど。」

『・・・誰が巫女のなりそこないのいう事なんて信じるかよ。』

「うふふ。そうですね。私ももっと、修行を積まないといけませんね。」

『うるさい。巫女のなりそこないの、できそこない。巫女そこない!』

「はい。申し訳ありません。」

『ち。とっとと寝ろ!』

「はい。おやすみなさい。」


ランダはそう言うと、再び体を横たえて、目を閉じる。

寝息しか聞こえない暗闇のなか、マルテだけが思考を繰り返す。

数えきれないほど経験してきた、いつもと変わらない、1人だけの夜。

だがランダの一言は、マルテの心に刺さる小さな棘となった。

そして翌日。


『起きろ馬鹿娘!いつまで寝ている!』

「ふぁっ!」


マルテの呼びかけで、アルマは目を覚ました。


「おはようマルテちゃん。どうしたの?マルテちゃんが起こすなんて珍しい。」

『おはようじゃない。キツネどもはもう、稽古に出かけたぞ。』

「え?」


そうだ、昨日はシャムスとランダが泊まっていったんだった。


『とっとと準備しろ。稽古だ。』

「ちょ、マルテちゃん?どうしたの?」

『うるせえ。今日からお前は、あたしがみっちり鍛えることにした。』

「えええええ?」

『とっととしろ!』

「マルテちゃんが鬼教官になったー!」


言いながらも、アルマは身支度を整え、外に出る。

ようやく日差しが差し込み始めたばかりの小さな空き地に、シャムスとランダはいた。


「二人ともおはよう!早いね!」

「アルマおはよう!」

「アルマさん、おはようございます。うふふ、マルテさんおはようございます。」

『うるさいぞ巫女そこない。』

「はい、すみません。」

「巫女そこないってなんぞ?」

『巫女になりそこないのできそこないだから、巫女そこないだ。』

「な!お姉さまになんてことを!」

「うふふ。いいのシャムス。」

「ラ、ランダちゃんとマルテちゃんが仲良くなってるー!」


その後は3人で、朝の稽古。

アルマは初めてなので、シャムスから槍の型を教えてもらってそれを繰り返した。

そして、市場の露店で朝食を買って冒険者ギルドへ。

タルガットと落ち合い、前日と同じくラスゴー迷宮の3層をめざす。


「ランダ。疲れたら言うんだぞ。シャムスはどうだ?怪我はないか?痛いところとかは?まて、この先は危険だ。俺が先に行くから、俺の歩いた道を通れよ。いいか?良く見てな!わかったな?」

「これは・・・・一体?」

「さあ?」

「タルガットさんが、過保護なポンコツ親父になってるー!」


昨日と同じメンバー。

昨日と同じ作業。

でも昨日よりも少しだけ、互いの距離感が変わった一行の、新たな一日が始まった。


初期のメンバーが出そろって、ここまでで第1章は終わります。

次は第2章のはじまり。

ですが。。。週末はお休みです。書きためないと。。。

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