ゴールデンウイーク
ゴールデンウイーク、四月二十七日の午前三時、ある場所に男が訊ねてきまして、「こんばんは、いらっしゃいますか? 照明が点いてますから、いらっしゃいますよね?」と、申します。
すると、家の戸が少し開き、良い身なりの中年男性が訝しげな顔を覗かせました。
「こんばんは。こんな夜分に何の御用ですか?」
顔を覗かせた人物の身なり、言葉使いを聞きまして、男は内心にやりとしました。
男は、「つかぬ事をお伺いしますが、あなたはお金持ちでらっしゃいますよね?」と、申します。
それを聞いた男性は「そうでもあるし、またそうでもない」と、答えました。
「はい?」
訪ねて来た男は意味がわからず問い返します。
「この家に、お金は無いのですか?」
その問いに、男性は困ったように答えます。
「現金はないが、家財道具でも売り払えば幾ばくかの金に換えられそうではありますね」
ますます、訪ねて来た男には意味がわからなくなってしまいます。
「では貴方、もしかしてこの家の住人ではないのではありませんか?」
男の疑問に男性は素直に答えました。
「そうです。あなた中々、察しがいいですね。すると、あなたも此処の住人の知り合いとか借金取りの類ではなさそうですね」
男も感心して言います。
「貴方、頭いいですね。そのとおりです。私は此処の住人とは一面識さえありません」
「では、あなたは一体何者なんですか?」
男性の問いに、男も素直に答えます。
「はい。私は強盗です」
そういうと男はよく見えるように、右手に持った出刃包丁を男性に突き出して見せました。
「こんな所で立ち話もなんです、上がらせて貰ってよろしいでしょうか?」
「今取り込んでいますので、と言いたい所ですが、しかしまぁ、強盗に駄目ですとも言えないでしょうから。住人に成り代わり、どうぞ」
男性が開けたドアから玄関に入り、「夜分に失礼します」そう言って行儀よく靴を脱いだ強盗の男は、目に入ったものに驚いて悲鳴を上げました。
「ひっ」
何しろ其処には、六畳間のテーブルに突っ伏して、目を見開き口を大~きく開けた、顔の色が紫の死体が男を迎えて居たのです。
「ひっ、人殺し!」
強盗の慌てぶりに困った男性は、「まぁまぁ、そんなに怖がらなくても。只の死体ですよ」と言いました。
「貴方なんで、こんな所で人殺しなんてしてるんですか!」
強盗の疑問に人殺しの男性は質問で返します。
「あなたこそゴールデンウイークに強盗するなんて、どんな事情があるっていうんです?」
強盗は人殺しの冷静な突っ込みに少し落ち着きを取り戻して答えました。
「だって、花のゴールデンウイークだって言うのに、肝心の金がなくてはお話しにならないじゃないですか」
「それもそうですね。あなた強盗なのに面白い事言いますね」殺人犯は、そう感心しきりに言いました。
「しかし、あなたもツイていませんね、殺人現場に強盗に入るなんて」
「なら、貴方こそ強盗殺人犯ではないのですか?」
訊ねられた殺人犯は、頭を振って否定します。
「まさか。私は金に困ったので、コイツに貸した金を返して貰いに来ただけなのですが、返す気が無いようないので、ついカッとなって殺してしまったのですよ」
「似た様なものの気もしますが、それはお気の毒に。借金を踏み倒された上に殺人犯にまでなってしまって。心中お察し申し上げます」
そう言って強盗は殺人犯にお辞儀をしました。
「これはどうもご丁寧に。ありがとうございます」
殺人犯も礼儀正しく強盗にお辞儀を返します。二人ともごく普通の一般市民なのです。犯罪というものの多くは、普通の人達が起こすものなのかもしれません。
「それはそうと、これからどうする御つもりで? 死体の解体とか遣っちゃうんですか?」
「まさか。借金を踏み倒された上に、剰え殺人犯にまでされ、その上、折角のゴールデンウイークまで死体の処理に潰されるなんてことになったら目も当てられません」
「そりゃあそうだ。借金を踏み倒された上に殺人犯にまでなって、金もないときたら踏んだり蹴ったりだ」
「そうですよ。こんな奴、殺したって一銭にもなりゃしない。強盗のあなただって、いい迷惑だ」
「確かに! 本当にとんでもない死体だ! では、このまま放置するんですか?」
「まさか、それでは警察沙汰になってしまいます。そうなると警察も犯人を逮捕しなくちゃあいけなくなる。折角のゴールデンウイークだと言うのに迷惑な話です。だから私はコイツの葬式を出そうと思うんですよ」
「でも葬式って、そんな簡単に出せるもんなんですか?」
「出せます。コイツは天涯孤独で身内は居ない。そして私はこう見えても医者でね。死亡診断書を書くなんて朝飯前なんです。それを役所の休日窓口に提出するだけでいいのです」
「なる程。しかし、それでは今流行りの家族葬といったって金が掛かりますでしょ? 借金を踏み倒された上に人殺しにまでされ、その上、死亡診断書代も葬式代までも貴方が出さなきゃいけないなんて、そりゃあ、あまりにも気の毒だ。この野郎の家財道具を売り払ったとしても、とても足りやしない」
二人が困り果て途方に暮れておりますと、先程から傍で話しを聴いていた、殺された男の幽霊がすまなそうに言いました。
「御二方には、まことに申し訳ございませんが、残念ながらわたくし、御足はございませんので」
〈了〉




