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しかし、ある時を境に奇妙な変化が現れた。
紫式部の花びらの反応は急に消えたり、現れたりを繰り返すようになってしまったのだ。それは本当に不規則な反応で、隊員の中には「花びらがかくれんぼでも始めたのではないか」と冗談を言う者までいた。
このまま回収を実行しても支障はないのか。それを確認するのに時間がかかったため、今回の回収任務は延期されていたのである。
「その波線が消えている部分が、花びらの反応が消えた状態を示してる。原因は今もわからないんだ。でも結局、スーパーコンピューターによる分析や専門家たちの検証を経て、タイムパトロールは予定通り回収を実行することに決めた」
サノの説明中、英麻はずっとふわーっとした表情だった。一応、「はあ」だの「へえ」だの形だけはうなずいていたものの、サノが言ったことの半分も意味はわからなかった。ハザマが英麻を振り返った。
「おまえ、本当はわかってないだろ。時の花びらに関わる見過ごせない問題だっていうのに」
「う、うるさいわね。ほっといてよ」
「時の花びらは時空および歴史の平和と秩序を守るための重要な道具なんだぞ?これ見て少しは勉強しろ」
ハザマがずいっと小さな黄色い手帳を英麻に突き出した。
「何、これ」
「時の花びらの基本マニュアルダヨ。花びらに関するいろんなことがそこには書いてあるんダネ」
ニコが言った。
マニュアルを開くと、そこには時の花びらの性質やら機能やらが事細かに書いてあった。
〈時の花びら取扱いにおける注意事項〉
第一項 時の花びらの表面には常に特殊なエネルギーが存在している。
第二項 前項のエネルギーは互いに強力に反発しあうため、複数の花びらを扱う場合は、必ずこれらの間に十分な距離を保たなければならない…などなど。
「ふうーん…」
何となく英麻は読み始めたが、途中でシリウス328の真上にひときわ大きな雲がかぶさってきた。急に手元が暗くなり、英麻は顔をしかめた。
「んー、何か読みにくい」
「ハザマ、読書灯つけてあげて」
サノの指示でハザマが操縦席のボタンの一つを押した。
ふわっと手帳の文面が明るくなった。
英麻の左後方にある電球らしきものが、絶妙な具合でちょうど手帳あたりを照らしている。
「わあ、明るい」
「この読書灯はシリウス328やスピカも含めて、タイムパトロールすべてのタイムマシンについてるんだ。僕たちも天候が悪くて操縦席の操作パネルが見づらい時とかよく使ってるよ」
前を向いたまま、サノが補足する。手帳を照らす灯りは、ほっとするような柔らかな色を帯びていた。
「すごーい。さっきより段違いに読みやすくなったあ」
「明るさはいいからマニュアルの内容を見ろ、内容を」
ハザマがすかさず文句を言ってきた。
深い青色の飛行船は時空の中をまっすぐ進んでいく。