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リュックサックを背負い、ニコを肩に乗せた英麻は正面玄関から校庭へ飛び出すと、全速力でシリウスを目指した。
「サノさーん、お久しぶりですっ!ニコから聞きました、紫式部の花びら回収の準備ができたって。でも、どうしてこの前は延期になっちゃったんですか?っていうか今回はほんとに大丈夫なんですか?巻き込まれるこっちの身としてはですねっ…」
「うるさい。現れた早々、やかましいんだよ。このおしゃべり女」
「何よ、ハザマ。またあんたなの?そっちこそ会っていきなりいちゃもんつけないでよっ」
英麻も負けじと言い返した。相変わらずハザマは口が悪い。サノが英麻をなだめた。
「まあまあ抑えて英麻ちゃん。この前は急がせちゃってごめんね。回収延期の理由は後で話すよ。まずは一緒に平安時代へ行こう」
「はあ。了解でーす…」
英麻は渋々、左手のスカイジュエルウォッチを構えた。その中に収納されている飛行機型のタイムマシン、スピカを出そうと思ったのだ。だが、サノがそれを止める。
「スピカは出さなくていいよ」
「え?」
「英麻ちゃんはタイムアテンダントの使命を託された、いわば選ばれし女の子だ。だから、それ相応の敬意を表して毎回、僕たち隊員がシリウスで送り迎えすることに決まったんだよ、タイムパトロールの全体会議でね。さあ、どうぞ」
サノが紳士的な動作でシリウス328のドアを開けた。
「そうなんですか!?…いやあー、そういうことなら喜んで。でも、何か照れちゃうなー。選ばれし女の子だなんて、へへ」
気を良くした英麻はニコを連れ、一目散にシリウス328に乗り込んだ。
「いいんですか、先輩?」
ルンルン気分の英麻を横目に、ハザマがサノに耳打ちする。
「会議で決まった実際の内容は、『足立英麻を単独で過去にタイムスリップさせた場合、前回の弥生時代のように何をしでかすかわからない。ゆえに今後は現地で落ち合わず、最初から隊員が同伴してタイムスリップを行うこととする』だったはずじゃあ」
「シーッ。この方が本人のためにはいいだろ?」
当の英麻はまだ調子づいていた。
操縦席に乗ったサノとハザマが発進の操作をした。
一気に鳴り出すエンジン音。
校庭にぶわっと砂ぼこりがわき上がり、渦を巻く。
シリウス328に青い光が満ちる。青い光はいくつもの帯となり、機体を包み込んでいく。
直後、見慣れた北小山中学校の校庭は一変した。