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その時計の針の音が止んだ時、英麻とニコ以外の教室の風景は完全に静止していた。人も物も。
固まったままの角宮と補習中の生徒たち。松永が落とした小さな消しゴムまでもが、ぴたりと空中で止まっている。
「えっ?えっ?」
英麻は立ち上がり、教室を落ち着きなく見回した。初めてのタイムスリップを経験した、遊園地での出来事を思い出す。あの時もこんな感じだった。
「転換時計の作用で時間が止まったんダヨ」
リュックサックから離れたニコがぽんっと机にとび乗った。
「えっ、ニコ、どういうこと?転換時計って?」
「転換時計ッ!過去の時代でタイムスリップを行う時に周囲の時間を止める未来の時計ダヨ。時空時計とはまた別のネ。まだ時間移動の技術が生まれていない201X年みたいな時代でタイムスリップを成功させるには、タイムスリップの直前に時間の流れを止める必要があるんダネ。だから、この人たちはみーんな止まっているんダヨン」
「へええ。そういう仕組みだったのかー」
「そうダヨ。校庭も見てみるんダヨ、英麻チャン」
英麻は言われた通り、窓から校庭をのぞき込んでみた。
放課後の校庭に点在する生徒たち。彼らも皆、誰もかれもが一切の動きを止めていた。
グラウンドの片隅に深い青色の飛行船が見えた。タイムマシン、シリウス328だ。
飛行船の前には見覚えのある二人がいる。
青い制服の少年たち。片方は綺麗な顔が台無しになるほどの仏頂面で腕組みをし、女の人のように優しい顔立ちのもう片方は軽く笑って手を振っている。前回、英麻の時の花びらの回収をサポートした、タイムパトロール第八部隊のハザマとサノだった。
ニコがくるんと宙返りしてからこう言った。
「どうやら今度こそ回収のOKが出たみたいダネ」