偽装交際で逃げたい!その2
あらすじに書いていませんが、多分50話もありません。
終わる時は清々しいほどバッサリ終わらせます!
朝飯を二人で食べ、俺と桐華ちゃんは学校へ向かう。
おかしいーー鼎がうちに来なかった。
いや、期待なんてしていなかったけど。
だが、あの先輩先輩! 大好きです! 付き合ってください! と、うざいくらいに周りをうろちょろしていた鼎となるとこうも静かなのかーー。
鼎が核爆弾として、終戦した気分になる。
「鼎来なかったっすね」
「良いよ、これくらい静かなのが俺は好きだから」
「先輩は本当、鼎から逃げてるっすね。いや、分かるっすけど……あいつの気持ちも理解はしてあげてほしいっすよ」
「さっきと言ってること違くないか? 助けてくれるんじゃないのかよ」
助けると言ってくれたのに、今度は鼎を理解しろときた。
どうしたら良いんだ俺は……。
鼎を理解すればするほど、やはりただの変態で危険人物の現実が色濃くなるだけだと思うのだが。
「先輩、あれ……鼎じゃないっすか?」
「あ、本当だ。あれ誰だ?」
考えながら歩いていると、桐華ちゃんが鼎を見つけた。
鼎は知らない男と、話している。
口は笑っているが目が笑っていない。
「あれは……鼎にしつこく迫ってる奴っすよ」
「へえ。モテてるんだやっぱり、あれとくっつくいてーー」
「……先輩?」
うーん、急にモヤモヤしてきた。
しつこ過ぎる鼎が、しつこい男に迫られている光景を見て自業自得ーー天罰と思ったが、スルーできない。
今俺は、偽装交際として桐華ちゃんと付き合っている設定だ。
だから助けてしまうと鼎を更に勘違いさせることになるのでは?
いや、そもそも助ける必要なんて無い。
自業自得、自分のしていたことが天罰として降り掛かっているだけーー
うんうん、スルーしよう。
あいつはこれで、自分のしつこさを自覚をするべきだ。
「ああ先輩! 鼎が腕を捕まれたっす!」
「ーーおいテメェこらああああ!!」
「結果行くっすか!? 先輩逃げたかったんじゃないっすかああ!?」
鼎が男に腕を捕まれ、振り払おうとしている姿を見て何故か腹が立った。
本当に何でか分からないけどーー腹が立った。
イライラと、頭に血が昇るのを感じる。
俺は叫ぶながら全速力で駆け出し、鼎と男の間に割り込んだ。
「鼎お前何してんだ!? 自分が俺にしてることされて、流石に逃げようとしろよ!」
「どうして……先輩が……」
「あ? 何だお前」
うわ、格好付けて割り込んだは良いけど、こいつうちの高校で有名なチャラ男じゃん。
滅茶苦茶チャラいじゃん、てかまだ春なのにカッターシャツは早すぎるじゃん。
「俺は……俺は……えーと……」
「はっきりしねーな、誰だお前はって聞いてんだよ」
やばい、ここに来て人見知りが限界突破してしまった。
俺は男に睨まれながら、人見知りのせいで上手いこと言葉を見つけられない。
鼎を背にして格好良く守って、さっと桐華ちゃんの元へ戻って見せつけられるかと思ったのにーー
今の俺は、世界一ダサい男だ。
勇気よりも、抱くはずのない感情に任せて飛び込んで、結果どうにもできないなんて、ラブコメディーではありえないぞ。
「てか同じ学校じゃん。へえ、二年生?」
「ま、まあ……?」
「じゃあ分かってるよな? 先輩の言うことは絶対だろ?」
「そう、すね」
俺は理解を示したようにみせて、全く理解してできなかった。
人間として明らかに中学生から成長できていなさそうなチャラ男に、後輩と思われたことが屈辱だ。
人間設定1の挙動を見せるチャラ男は、俺が素直に従うと勘違いしたのか、肩に手を置いてくる。
俺まで人間設定が1になってしまいそうだ。
「じゃあ退いてくれるよね? 後輩君」
「できませんね、先輩さん」
「はあ? お前さっきまで口震わせて言葉も出てきてなかったのに、何? 今更格好付けんの?」
「いやいや、格好付けてまでしてストーカーを守ることはしませんよ」
売り言葉に買い言葉、チャラ男の眉間に皺が寄る。
「先輩……」
「はいはい、三人何やってんすかっ!? 生徒指導呼んだっすから、問題になりたくなったらここは互いに引くっすよ!」
「……桐華ちゃん?」
「チッ……ならお前で良いや。可愛いし、俺とちょっと遊ぼうや」
「良いっすよ! ただーーうちには彼氏が居るっすから学校始まるまでっすけど」
と、俺の彼女役であるはずの桐華ちゃんは助けてくれたがチャラ男と何処かへ行ってしまう。
おいおいと思ったが、助けてもらったことに変わりはない。
それにしても格好悪いな、俺。
最後は後輩の女子に助けられてしまうなんて、みっともないたらありゃしない。
貴之が話を聞いたら、手を叩いて爆笑しそうだ。
「あのう、先輩?」
「あ? ああ、ほら早く学校行けよ。俺は桐華ちゃん追い掛けるから」
「え、いや、何で桐華ちゃんとーー」
「お前には関係ないだろ? 良いから、ほら早く行かねーとまた変なのに捕まるぞ」
「……はい」
偉く今日は素直だな? 俺と桐華ちゃんが一緒に居たことが、それほどショックだったのか?
鼎は結局、俺と桐華ちゃんのことを何も聞くことはなく、落とした鞄を肩に掛け直して学校へ一人向かっていく。
「……あ、やべ。おーい桐華ちゃん!」
鼎はまあ、放置しておいて、俺は一応付き合っている設定の桐華ちゃん追い掛ける。
桐華ちゃんを追い掛けて少し走ると、
「す、すいませんでしゅた……!」
「良いっすか? 高山先輩と親友の鼎には近づくじゃないっすよ? 次近付いたら東京湾に沈めてやるっすから覚えておくっすよ? ちなみに、うちは親父がヤクザの頭っす、どうにでもできるっすからね!?」
「は、はい! もう近付きません……すいませんでしたああ!!」
男は制服をズタボロにされ、泣きそうな顔で走って逃げていった。
ーー桐華ちゃんて、ある意味でやばい子じゃん。
★
桐華ちゃんと合流し、再び学校へ向かう。
「驚いたっすか? うちの家、極道なんすよー!」
「うん、驚いたけど納得だった」
「あれ、それにしても先輩は平気みたいっすね」
「いやあ……もうね、ストーカーと極道の娘って畳み掛けられると、これ以上どうリアクションをとれば良いか分からないんだよな、むしろ無になる」
ストーカーと極道の娘が親友になる確率を、誰か計算してください。
「ーーで鼎は一人で行かしたっすか?」
「良いだろ、あいつも今日は素直だったし」
「そうっすか! なら話は早そうっすね!」
「そうだと良いけど……」
だけど、何か裏があるようで、恐ろしくもある。
ストーカーが突然ストーカー行為をやめる時、それは目標が死ぬ時だと、ニュースや新聞に取り上げられるストーカー事件を思い出してゾッとなる。
「まあ、大丈夫っす! 先輩はうちの彼氏っすから!」
「ん? あれ、設定だったよな?」
「あー……そうっす! 設定! 彼氏って設定っす!」
むしろ今の発言の方が、俺としては驚きだった。
桐華ちゃんはそっから急に喋らなくなり、頬を赤らめて下を向いたまま。
気づいたら俺達は学校に着いていた。
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あと、分からないネタがありましたら感想にかいてくだされば教えます(笑)