ストーカーから逃げたい!
いつも通り七時半に家を出て、ゴミをマンション専用のゴミ出し場に捨ててから自転車を駐輪場から引っ張ってくる。
「ーーおはようございます先輩!」
「……」
朝から小悪魔が俺の前に姿を現した。
駐輪場で謎に俺を待ち伏せしていた天堂鼎ちゃんが、小悪魔的行動力と反対に天使のような笑顔を振りまいてくる。
この笑顔を学校で見せてくれるならまだしも、教えていない上に学校でも数人(教師を含む)しか知らない俺の住むマンションで見せられても反応に困る。
どうしたものか、完璧なストーカー行為に文句すら言えない絶望感と相手の中身を心配する自分が居る。
天堂鼎ちゃんーー彼女について少しは触れるなら、昨日俺に告白してきた後輩だ。
色々と運の悪いことに、三日前たまたますれ違った際に勘違いを二つほど受けて惚れられた。
そしてラブレターと一緒に自分のパンツを回復アイテムのおまけと言わんばかりに、下駄箱に入れて俺を喜ばそうとした馬鹿野郎。
後輩と認めたくないが後輩なので、強くパンツについて指摘するつもりは無いがーーあれは流石に、無い。
人生で初めて、普通に何気なく引いてしまったくらいだ。
それにしても、昨日俺は振ったはずなんだが……。
劇的な人生の変化を捨てて、選んだのは現状維持。
だから素直に、むしろ清々しいくらいに、しっかりと振らせていただいたのですがーー
「ーー先輩、一緒に行きましょう!」
おかしい、全てがおかしい。
この子の脳内がハッピーであること、図太いこと、そしてーー超が付くほどの彼女面。
俺には到底、手に負えないぞこんな後輩。
早く逃げたい……こんな後輩に好かれるくらいなら、まだ男に好かれるほうがマシだ。
「ごめん、俺自転車だからーーじゃあまたねっ!」
俺は自転車通学を理由に、彼女から逃げることに決めてペダルを全力で漕ぐ。
マウンテンバイクで国道に入り、原付きより少し遅いか程度のスピードで学校へ向かう。
俺は今日から、天堂鼎と言う後輩(危険生物)から逃げ続けなければならないようだ……。
★
「ーー先輩、最終的には受け入れてくれるんですね、嬉しいです♡」
語尾にハートマークを付けられても、萌えない。
何でだ、俺みたいな廃ゲーマはむしろ御褒美なパターンのはずかのに、全く嬉しくない。
後ろに美少女の後輩を乗せて、違反の二人乗りをして走っているというのにーー
「ママチャリもあったんですね!」
「あるにはあるけど、あのまま他人のチャリを学校まで持って行かれてもだし」
「またまた、先輩はそう言いながらチャリを漕ぐ私を放置できなかったんですよねー」
「いや、むしろ放置したかった割と本気で」
苦笑すらできない展開だ。
誰か予想できるか、女子高校生がたかが一人の男を追い掛けるだけに適当な鍵の掛かっていないチャリをパクろうとするなんて。
後でちゃんと返すとか、そう言った問題ではなく学校問題からの教育委員会へ持って行かれてしまう案件だ。
マウンテンバイクを相手にママチャリで並走して着いてきた時、俺は逃げられないと悟ってしまった。
元あった場所に返させて、ママチャリに乗り換えて二人乗りで警察のパトロールルートを外れた遠回りで学校に向かう俺の額は不快感さえ覚える嫌な汗が覆いつくしている。
「明日かもこうして、先輩と二人乗りで学校へ行きたいです」
「いや、俺は行きたくないから。明日からは普通に登校してくれない?」
「お断りしたかったりします」
「うん、それならお断りしないで嬉しく受け取って」
涼しい春風を切りながら、河川敷を二人乗りで走る俺達はラブコメディーの主人公とヒロインさながら。
しかし、主人公(別にそうでもない)の俺は後ろに乗る美少女をヒロインと認めていない。
簡単に逃げられるような相手でない事実、これが現実と言うことか。
辛いなあ、本当に辛いなあ。
誰かに見られていたら、確実に学校で噂になるレベルだ。
「ーー先輩、好きです。付き合ってくださーい!」
「河川敷ならロマンチックになると思うなー、お断りしまーす!」
「先輩に拒否権は生まれてからありませーん!」
「日本には自由権があることを忘れるな後輩よ。その自由権に拒否する自由が含まれているのだー」
ストーカーと河川敷を抜けて橋を渡る。
海は広くて綺麗だが、俺の人生は一気に澱んでいる。
ーー海よ、俺の人生の色を青く染めてくれせめて伊勢湾程度に、それ以上は望まないから!
「好きです」
「知りません」
「ーー海が」
「……」
恥ずかしいの一言に尽きる。
「自分のことと思いましたか? では付き合いましょう!」
「来世にな」
「じゃあ今から二人でこの青い海で散り、来世を迎えーー」
何この子、普通に怖いと言うか投身自殺に俺も巻き込むの!?
来世で待っててほしい、君がまた世を立ったくらいに生まれるから。
「先輩は彼女、できたことないんですか?」
「うん? ああ、まあ……」
だって廃ゲーマだし。二次元にしか恋したことないし。
三次元って面倒だし、相手の真意が全く掴めなくて苦手な心理ゲーム風になっていくし。
それに全くモテなかったしーー
今の俺は一人の後輩にモテている。
それを認めることは簡単で、既に認めている。
それで逃げようしているのだから、三次元はやっぱり想像してた通りの恋愛しか来なかった訳だ。
橋を渡り切り、高校が見えてくる。
腕時計で時間を確認してみると、とりあえずは間に合うか……と、言ったところだ。
「先輩、お昼ご飯はどうしてるんですか?」
「購買だけど」
「一緒に食べて良いですか? 駄目なら、見守りながら食べるので」
「諦めて友達と食べるって発想は無いのかよっ!」
結局どっちにしても俺と一緒に食べる気満々じゃんか!
「友達居ますけど先輩優先です!」
「お呼びでないので友達と仲良く食べててくれ、大人しく」
「…………」
さっきまであれこれ喋って止まらなかった天堂鼎ちゃんは、突然黙った。
チラッと後ろを向くと、スマホを弄っている。
バランス感覚が半端ではない。
さっきもママチャリで俺のマウンテンバイクの本気に着いてきたくらいだから異常だとは思ったが、両手を離して芯を振らさず、スマホをする余裕があるなんてーー新体操選手でも難しいと思うんだけど。
「ーー先輩」
またまた突然に、俺は名前を呼ばれて肩をビクつかせてしまった。
「何?」
「友達が「彼氏とかあ! おk、美味しいお昼を!」って、言ってくれました」
「友達も友達か……ああ、もう、分かったから! 俺は親友と食べるから向かいな!?」
友達にちゃっかりとお昼を一人抜けると伝えていたらしい。
その友達もちゃっかり気を利かせてないでさ、彼氏じゃない俺のことを少し考えてくれないか。
「ーーて、彼氏? 彼氏居るのか?」
「先輩ですよ?」
「勝手過ぎるだろ!?」
「大丈夫です、ノー問題オールグリーン! シンクロ率300%オーバーで覚醒ですよ!」
「やめろ! 唐突な○ヴァネタを絡めてくるな! てか覚醒して何勝手にサードインパクト起こそうとかしてんの!?」
○ヴァをぶっこまれ、思わず突っ込んだが、物騒なネタで怖い怖い。
やっぱりこの子、危険人物過ぎて手に負えない。
と、そんな馬鹿らしいやり取りをしているうちに、学校に着いてしまった。
ショートホームルーム開始まで約五分。
この時間にもなると、誰も外を歩いていない。
流石は一応進学校として県内では名の通っている高校だけはある……全員真面目だ。
「ほら、早く降りて教室行きなよ」
「先輩を待っています!」
「自転車止めるだけだから」
「……はい!」
一拍おいて急なシリアス感を出してもいい返事かよ。
自分が生理的に拒否されていることに全く気づいていないのか?
恐るべし自己中ヒロインーー2ちゃんねるで叩かれてしまえ!
「天堂ちゃん、もう本当に良いから」
「鼎でお願いします、私も先輩ではなくてあなたと呼びますから」
「急にぶっ飛ばせば折れるとでも? むしろ俺の心は固まったぞ?」
ーーうん、俺は絶対に一ヶ月以内にこの子から逃げきって拒否されていることを自覚させよう。
俺は心を強固にして、彼女から本気で逃げ切ることを決める。
だから強い味方を付けようかーー親友よ、手を貸してくれ!
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