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すいません、お断りします!

 ゴミを捨ててから、俺は下駄箱へ向かう。

 誰か話せる子と会えるかと期待したが、誰も居ない。

 それもそうだ、今日まで三限授業だから部活の無い生徒はみんな嬉しそうにして、そそくさと早足で帰っていったのだから。



 この時期にこの時間帯、全く人通りの全く無い下駄箱に一人の俺。

 寂しいとは思わないが、本当に自分は高校生なのか? そんな疑問を抱いてしまう。



「……帰ったらネッ友とフレンド対戦しよ……」



 帰ってからすることを口に出してみる。

 誰の返事もない、まるでひとりぼっちのようだ。

 ーーひとりぼっちだな、俺。



「ん? なんだこれ」



 下駄箱を開けてみると、中には手紙と紙袋に入った何か柔らかくて小さな物が入っている。

 自分の下駄箱を開けて何かが入れられていた時ほど怖い物はない。



 ーー嫌がらせか、新手のテロか。

 この柔らかい物は実は爆弾かもしれない。

 そんなことを考えながら、まずは手紙を読んでみることにする。



『お話したいことがあります。是非、お時間ありましたら屋上へ来てくださると嬉しいです』



 丁寧に書かれた果し状だ。

 俺と話したいこと? なるほど、ゲームの果し状か。

 ある特定のゲームで対戦してくれと、直接会って申し込むとは、やるな。

 俺の壮大な勘違いかもしれないが、それくらいしか呼び出される理由が無い。



 続いて、紙袋を開けてみる。

 もしかすると、古いゲーム趣味をしていて、任○堂DSのカセットを布で包んで外気との接触を遮断しているのかもしれない。



 手を突っ込み、やはり布だったそれを引っ込抜く。

 すると、布だったには布だったがーー



「……新手の、テロだな」



 まさかのーー純白パンツだった。



 ★



 屋上に行く理由はただ一つ。

 嫌がらせをやめることと、パンツを返すこと。

 タグが付いていないのが、使用済みか新品か、見分け難いが多分新品であると信じたい。



 新手のテロにしては斬新、嫌がらせにしては悪質……これは間違いなく、男達が組んでいる。

 俺の下駄箱に入っていたことから、女子の線は無に等しいから概ねゲーム仲間の友人四人だろう。



 俺はずんずんと強い足取りで再び屋上へと戻る。

 さっきさよならしたはずの屋上は、俺が帰ってきたことに驚くと思う。

 そもそも、パンツを返すためだけに屋上へ戻っている俺が一番驚いている。



 屋上に近づくに連れ、もしやばい連中の気まぐれだったらと、嫌な予想が頭に過りパンツを持つ右手に力が入る。

 ぶん殴って少年漫画風に解決できないよ俺?

 友情!・努力!・勝利! みたいな、熱い主人公じゃないしなーー



「ーー誰だ! 俺の下駄箱にパンツ入れた野郎は!」

「……先輩?」



 うわあ、普通に可愛い女子が屋上居るのに、パンツとか叫んで空へ掲げたよ俺。

 明日になったら俺は有名人確定だ、どうしようーーいじられて、職員会議問題とかになったら。



「ああ、えーと……男子数人をここで見なかった、ですか?」

「見ていないですよ? 私しか今、ここには居ないので」

「逃げられたか……」



 俺はパンツを握り締め、犯人逃走に悔しくなる。



「いえ、逃げてませんよ。ここに居るじゃないですか先輩!」

「ーーここに居るのは君とパンツ手にして本気で悔しがる不審者くらい……え? なんて?」

「だーかーらー、私ですよそれ? 先輩へのラブレターと一緒に送らせてもらいました♡」

「…………いや、パンツは普通……無いって」



 うんーーこの子、多分中身が不審者だ。

 目の前に立つ可愛い子から、爆弾発言を聞いてしまい、右手の力が抜けてしまう。

 パンツは突然吹いた春風にもっていかれ、空へ向かって舞っていった……。



 ★



「ーー私は天堂鼎と言います。先輩、私と付き合ってください!」



 人生分岐と運命分岐が同時に襲い来る。

 この場合、俺は彼女ーー天堂鼎てんどうかなえちゃんの告白に良い返事をすることで、両方の分岐点で良い方に進むことができるかもしれない。



 しかし、中身が不審者な危ない子だ。

 艶のある真っ直ぐな黒髪を姫カットにし、高校一年生では平均的な身長だが胸はわがままを言ったのか大きい。

 細身でくびれが何とも言えない曲線美を描いている。



 だが何度も言うようにーー中身が不審者だ。



「えーと……俺?」

「はい!」

「……何で? 君、俺と話したこと無いよね?」

「ちゃんと話したのは今日が初めてですけど、会ったこととちょっとだけ言葉を交したことはありますよ?」



 ……全く覚えていないのだが。

 でも向こうは俺のことを知っているようだし、そうなのかもしれない。



「どこで? いつ?」

「二日前に、保健室を一人で探している私に道を教えてくれたじゃないですか」

「……人違いだと思うけど」

「いーえ! 先輩は、困っている私の横を通り過ぎると同時に保健室の地図を落としていってくれたじゃないですかーーああ、あの時の先輩の気遣いが忘れられなくて私……!」



 俺は慌てて制服のポケットに手を突っ込み、中をこねくり回す。

 無い、保健室への道を描いてもらった地図が無い!

 三月に、花粉にことごとくやられていくティッシュの補充をしようとして、初めて行くから保健室の地図をメモに描いてもらったのにーー!



 まさか、俺の地図が天堂鼎ちゃんに渡っているとは……。

 思い返せば二日前に、確かに俺は一人で保健室へ行ってその帰りに……ああ、この子とすれ違っている。

 あの日は貴之が熱出して、帰るまでにあと一限あったから様子見に保健室へ行っている。



 そうか……あの時に落とした地図が、行き方を教えたことになっていて、『大丈夫かな』と貴之を心配してぼやいた一言が天堂鼎ちゃんを心配する声に聞こえてーー

 全てが美化されてこの子の記憶には残っているのか!?



「いやそれ違うーー」

「なので先輩に私は一目惚れしました! 先輩しか居ません! 私と付き合ってくださいお願いします!」

「だからあれは違うんだって! 俺は地図を落としただけだし、友達を心配するあまりぼやいた一言ーー」

「私じゃ……ダメですか?」

「聞いて? 人の話聞いて!? パンツ渡してくるような変な子だと思ったけど、人の話聞かないとなるともう手付れねーよお!」



 俺は思わず逆ギレして、頭を両手で抱えて叫んでしまった。

 ーーもう手が付けられない! この子はダメだ!

 自己中心的に全てが回ると勘違いしているタイプだ。

 ライトノベルで言うところの、自分良ければ全て良し主人公より私がメインと勘違いしている痛いヒロインレベル。



 もうやめてくれ、見た目を中身が裏切って痛い子に見えてくるからそれ以上俺に告白しないでくれ。

 人生分岐? 運命分岐? 俺は現状維持で良い。

 何も変わらなくて良い、花は咲かなくて良い、春は来なくて良い。



 だからーーーー




「ーーすいません、お断りします!」

「……え、えええ!?」



 ーー俺は現時刻を持って、高校生活最初で最後だろう春の訪れを、自ら逃げて回避した。

お読みいただきありがとうございます。

こんな後輩居たら、最高ですか? それとも最悪ですか?

私はちなみに変わった子が好きなので最高です(笑)

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