いつもの通りの最後の日
「ーー先輩、私と付き合ってください!」
ーーそれは突然の告白だった。
人生とは、唐突な人との出会いで劇的に変化するらしい。
今俺は、その劇的な変化が起ころうとしている人生の分岐点に立っている。
その分岐点は、多分ここでの返事次第で良くも悪くもなれば、また変わることはないのかもしれない。
人生を良い方へ変えようとするならば、恋愛経験値が片思い程度しか無い俺は、告白を受け入れて良い返事をしてあげるべきだと考える。
恋愛経験豊富なイケメンとかなら、断っても良い距離感を維持できるだけの技量を持っているんだろうな。
こうした場で、迷いが生じる俺はまだまだチェリーボーイだということかもしれない。
いや、実際問題高校二年生になってまだチェリーボーイだ。
この状況に至るまでの経緯を思い返してみれば、俺は人生の劇的変化を望まず、そして彼女を傷付けずに良い先輩後輩の関係を築けるかもしれない。
振り返ろうーー。
……ああ、ダメだ……。
振り返れば振り返るほど、俺はカノを傷付けずに振る方法と今の人生を維持する方法が見つからない。
だってなーー下駄箱にラブレターと、
『パンツ』が入っていたら、無理だろう。
★
二年生に進級して早くも三日が経った。
一年の頃にできたゲーム仲間とは、クラスがバラバラになってしまったが、保育園からの付き合いがある親友とは同じクラスでいられた。
クラス替えで幸いだったのは、ぼっちにならずに済んだことだ。
親友の津田貴之が起点を利かし、少しだが陽キャとも会話できた。
連絡先の交換もできたし、俺の高校生活は今日から変かる気がする。
昼飯を貴之と屋上でとりながら、心地良い風に吹かれてーー
「大丈夫そうだな」
「……うーん、まあな。貴之悪いな、俺がこんな性格だから」
目立つよりも目立たずに、人以上ではなく人以下で、人間設定を低く保ってきた俺は、いつからか人見知りになっていた。
高山朝日、そんな名前と真反対で親に申し訳のない気持ちでいっぱいだ。
高い山の山頂から見る朝日のように大きく、人を笑顔にできる温かい心を持った子でありますようにーー
俺の名前の由来だ。
ーー海外転勤でシンガポールに今居る両親へ。
ーー本当にごめんなさい。朝日どころか月にもなっていません。
人見知りで月の背中に隠れるとんだ臆病な太陽です。
「ーーまあ、良いじゃん。今から変わろうぜ! じゃあ俺部活あるから、一人で事故せずに帰れよー」
「すまん、サンキューな」
「春が来るぜー!! 俺らにも!!」
「来ねーよ。来ても俺は逃げるぜ? まだ春は来なくて良い」
「そんなこと言ってたら一生春来ずして冬だけの人生になるわあ。花も咲かない」
「……良いんだよ俺はそれで。ほら、早く部活行ってこいよゴミ捨てて俺は帰るから」
「はいはい、じゃあまた明日なー」
俺はゴミ袋を受け取って、親友を部活へ急がせる。
この時、もし仮にも俺は親友と二人で外へ行ってれば、この後起こる異常事態を回避できたかもしれない。
人生の分岐点に、行き着かずに済んだかも……しれない。
お読みいただきありがとうございます。
是非続きもお読みください!