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川発見

 川を見つけるのは光由に任せて、俺は猪の解体作業に入るため、サドゥへと人格を変える。

 まずは、僕の力『土』の能力でナイフのような物を作る。


(何も無い所から作れるのか。便利だな)


「一番便利な異能だよね。汎用性が桁違いだから、愛用しているよ」


(俺が貰った『硬化』は滅茶苦茶使いにくいんだが?)


「でも使いこなせば便利でしょう?」


(まぁ、そうなんだがな‥‥‥)


 景章君との会話はこうやって声に出さなければ、細かい所が伝わらない為、成立しづらい。だから、人前では

 『土』の能力で作ったナイフで猪の頭と内臓を切り取る。解体作業は昔からやっているから手慣れたものだ。

 食べられない部分は『火』の能力で燃やしておく。普通は埋めるらしいんだけど、折角の能力だし、有効活用しないとね。

 大体の解体作業を終える。肉は長くは持たないため、そこまで多くは残していない。それでも五人分はあるけどね。

 『土』の能力で作った皿に、五人分の肉を乗せて準備は終わりかな?あとは光由君を待つだけだけど‥‥‥


「あったぜ景章! こっち側に川が!」


 右方向から声をかけられる。どうやら光由君が無事川を見つけたようで、声を弾ませて自身の後ろを指で指し示している。


「本当かい? それなら、そこを拠点にしようか。肉の準備も出来たし、案内を頼めるかな?」


「その口調‥‥‥あぁ、サドゥに変わってんのか。いいぞ、俺っちに着いてきな」


 光由君は、少し怪訝な表情になったけど、すぐに笑顔に戻る。まだ、友人の変化には慣れないようだ。

 

 光由君に着いて行き、三分ほど歩くと視界が開けた。

 そこには、透き通った水が陽の光を反射しながら流れ、川の辺りには、赤や黄等のカラフルな花が所々に咲いていた。空気はとても美味しく感じるし、いい匂いだってする。ここに妖精が飛び回っていても不思議じゃない光景があった。

 景章君は、二日ぶり位だけども、僕としては森の中を彷徨い続けていたのだから、すごく久々の陽の光を身に受けて、晴々とした気分になる。やっぱり人間には陽の光は必要だね。

 

「いいとこだろ? ここ」


 光由君が伸びをしながら聞いてきた。


「そうだね、想像以上だよ。日差しも気持ちいいしね。おっとそうだ、急がなきゃね」


 猪の肉は、血が回ってしまうと、固く、不味くなってしまう。だから水などで血を抜く作業をしなければいけないのだ。

 『土』で桶を作って水を汲み、肉をその中に漬け、血を抜いていく。透明度が高かった水は直ぐに赤黒くなってしまった。


「うわっ! 何だこれ、血を抜いてんのか?」


 光由君は、水の様子を見て、メガネを少し上げ、ギョッとして見つめている。


「そうだよ、血を抜かないと、味も悪いし、時間がたつほど、固くなっていくからね」


「ほ〜、血抜きって顔ぶった切って、吊してやるイメージだったんだが、そういう方法もあるんだな」


「まぁ、水が無かったら、吊るす位しか方法ないだろうしね」


 会話をしながら、何回も水を汲み直しながら血を抜いていく。

 そして、漬けて絞っても、水が赤くならなくなってきた所で血抜きは終了だ。

 集めてた薪に火をつけて、肉を焼いていく。美味しそうな匂いが辺りに立ち込める。

 僕の口からも、光由君の口からも涎がこぼれ落ちる。

 焼き上がるのを確認するや否や、二人して肉にかぶりついた。

 だが、肉は口に入れると臭みがあり、そして固くなるのを防いだとはいえ、元々の固さはある。

 光由君は顔をしかめながら食べているが、元々こういう食生活を送ってきた僕にとっては、気にならない。

 ‥‥‥でも、コショウや酒で調理した柔らかく、臭みがない肉の味が記憶の中にはある為、それを食べたい気持ちは強いけどね。


「美味いのは美味いけど‥‥‥でも焼くだけだとこんな物なのか‥‥‥帰りたくなってきた」


「迷い込んだ原因が分からなければ、帰る事は出来ないだろうし、記憶にある、召喚って単語も聞いたことないから可能性は薄いだろうね」


「だよなー、馬鹿二人が知恵出し合ったって解決しないしなー」


「そんな感じだから、慣れていくしかないよ。幸い、この世界に関して無知ではないから、絶望的ではないと思うよ」


「飯不味いだけで充分、絶望的だよ‥‥‥」


 とは言いつつも、キチンと三人分食べている光由君。


「さて、食事も一段落済んだし、今度は魔物の討伐でもやってみるかい?」


「さっきのゴブリンみたいな奴とかか?」


「他にも種類はいるよ。ここにも色々いるけど、強いのは生息してないね」


「ちなみに魔物の定義ってあるのか? 決まってこれがありますーとかいうの」


「明確にはないね。僕達人間にとって、害をなすなら、魔物って事になる。冒険者に対する依頼で来るのは魔物確定だね」


「ほーん。あんまりよく分かってないってことか。ま、どうでもいいか。その魔物って奴、倒しに行こうぜ」


 坊主頭を掻きながら聞いてきた光由君だったが、考えるのが面倒になったのか、何も考えてないのか‥‥‥記憶からしたら何も考えてないんだろうね。

 

「それじゃ、まずはゴブリン討伐からだ」




 戦闘という事で、人格をサドゥから戻した俺は、少し拠点から離れた所でキョロキョロとしていた。


「多分ここらへんにいると思うがな〜‥‥‥あ、いたいた」


 茂みの間から、覗いてみると、三匹の棍棒を持ったゴブリンがギャッギャッいいながら、話し合いみたいな事をしていた。

 三匹かー、不意を撃てば一匹は倒せるのか? 二匹、ゴブリンくらいなら、光由のストレート一球で沈むだろ。


「おい光由ー。いたぞゴブリン、三匹だ」


「おー、マジか。いきなり三匹とかー。武器持ってる」


「肌見放さず持ってやがるぜ」


「あれちょっと怖いんだよなー」


 少しおどけて言う光由。俺は例外として、この状況にすでに慣れて余裕を見せているのはすごいと思う。


「お前結構、対応力高いのな」


「ネガネガするのは精神的動揺だ。そんなことしてたらコントロールが狂うからな。俺っちはいつでも、大胆不敵に何でも来やがれ精神よ!」


 メガネをクイッと押し上げ、ドヤ顔を決める光由。妙に様になっているのに対し、頼もしさを感じる。


「頼りにしてるぜ。今回も要はお前だからな。サポート頼むぞ」


「任せろい」


 よし、と息を整え、振り返った俺達が見たものは。

 棍棒を振り上げ飛びかかってくる三匹のゴブリンの姿だった。

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