状況確認
説明回です。
「お、もう戻ってたか」
集合場所に帰ってくると、既に光由がカッターシャツ姿であぐらをかいていた。
「おせーぞ景章」
「ま、色々あったからな」
こちらに気付くや否や、ニヤッと笑って文句を言う光由を流す。
集めた食料は、地面に敷かれた光由の学ランの上に集めてあったので、そこに置いておく。もちろん毒は捨てた。
「帰る途中に、鳥が一羽取れたぜ。少ないけど肉があるってのはいいよな」
「おーマジか! てか、火は付けられるのか?」
「そこも含めて、色々説明するわ」
食料を挟んで、期待してる光由と向かい合って座り込む。
丸くて赤いきのみを口に含んでから話し始める。
「まずはこの世界の事だけど、ガルアって言うらしい。完全なる異世界だ。言語も違うから、意志の疎通も、光由じゃ難しいと思う」
「ん? なんで俺っちだけなんだ?」
「それについては、この情報を手に入れた方法と被るし、面倒だから後で説明させるわ。んで? どこまで説明したっけか‥‥‥あ、ここ異世界には冒険者って職業があるらしい。ま、想像通りのやつだ。クエスト受けて、魔物倒してってやつ」
「面白そうじゃん! 俺っちもやりたいぜ!」
光由の声が明るくなる。冒険者に興味が出てきたようだ。
「ただ魔物‥‥‥というか生き物を殺さなくちゃいけない。俺はもう問題ないけど、光由は大丈夫そうか?」
その問いに対して光由は胸を張り答える。
「どのスポーツもメンタルってのは大事だからな、特に野球のピッチャーともなると、相当図太くないとやってけないから、俺っちは大丈夫だぜ」
光由の言う通り、どれだけ打ち込まれてもコントロールを乱さないし、光由が精神やられて潰れてしまう、ってのは考えづらい。
「あとは、多少魔法が使えるようになったが、このガルアの世界において、魔法使いは30人くらいしかいないから、そうとう希少らしいぞ」
「げっ、マジか。じゃあ俺っちには使えそうにないな〜」
多少ガッカリしたようだが、それでも異世界で冒険者になるワクワクが強いのか、そこまで落ち込んではいないな。
「魔法を使えるようになるには、一度死にかけて、それでも生きたいという強い意志があれば使えるようになるらしい。覚醒、ってやつだな」
「そりゃ無理だな‥‥‥ってお前一度死にかけたって事か!?」
目を見開き、俺の体を忙しなく見つめる光由。なんか説明も面倒になってきたな。変わるか。
「ま、俺の場合は特殊なんだよ。あと、今から俺の雰囲気とか変わると思うが、俺は俺だから落ち着いて、話を聞いてくれ」
「はぁ? 何言ってんだ景章?」
面倒くさいので、その疑問は無視する。
右手の人差し指と中指を、こめかみにズラして当てて、二本の指を入れ替える。こうする事で、人格を変える事ができるのだ。
「ふぅ、じゃあ後は僕が光由くんに説明するね」
(人格の入れ替え完了だ、光由の反応は‥‥‥流石に戸惑っているな。ま、急に変わったから仕方ないか)
「か、景章、なのか?」
「そうだよ。正確には、景章くんの中の別人格、だけどね。二つの人格を自由に変えられるって事だね」
光由くんは、目を白黒させて取り乱している。まぁ、親友が変になったら、誰でもこうなるのかな。
「ちょ、ちょっと待って‥‥‥スゥー‥‥‥ハー‥‥‥よし、落ち着いた」
驚いた。胸に手をつけ深呼吸するだけで、こんな短期間で、表面上でも落ち着けるなんて、やはり光由くんも大物で、景章くんを信頼しているんだろうね。
「凄いね、君も彼も‥‥‥」
(だろ?)
少し呟きが、漏れてしまう。光由くんには聞こえなかったようだが、景章くんには聞こえたようだ。一体化しているから当然だけど。
「つまりあれか? 所謂二重人格ってやつ? それが魔法なのか?」
光由くんが、落ち着いた目でこちらを見つめ、問うてくる。
「魔法使いっていうより、異能って言った方が正しいんだろうけど、そういうものだね。ちなみに、この状態でも、景章くんの人格に記憶は共有されているし、会話もできるから記憶が抜け落ちる、なんてことはないよ」
「そう、他に何か使えるのか?」
その問いに頷き、説明を続ける。
「使えるのは、この状態だと、火を付けられる火の能力、力を強くする強化、物を作れる土能力の三つかな。景章くんの状態だと、体の一部分を硬くする硬化が使えるよ」
「結構色々使えるのか」
「その分、性能は弱めだから、器用貧乏って所だね。もう、光由くんにも強化はかけておいたから、多分戦えるはずだよ」
そう伝えると、光由くんは「ほ〜」と呟きながら自分の体を動かしている。
「ま、こんな所かな。これから、このガルアでの生活、頑張っていこうね」
まずは、この森を抜ける所かな。その方法から、考えていかないとね。