化物と状況の推測
ゴブリン? が茂みの中にいた。
よくゲームとかアニメとかで見る魔物だが、リアルで見てみると、とても気持ちが悪い見た目だ。
ゴブリン? の周りが歪んで見えるのは、鼻先ににぎりっぺされたような臭いのせいか。すぐさま口呼吸にチェンジだ。
「お、おい景章‥‥‥なんだよ、あいつ」
震えた声を出して、光由が話しかけてくるが、答える余裕はない。
なんでこんな生物がいるのかを考える。答えは一つしか出なかった。
「‥‥‥異世界?」
認めがたい単語が自分の口から漏れた。認めたくない故に、更に深く考え込む。
「景章、何ボッ〜としてんだ! 逃げるぞ!」
「えっ、なっ、ちょまっ‥‥‥」
光由に腕を掴まれ、強制的にゴブリン? から逃げる事になった。
幸い、ゴブリン? は気づく事もなく離れることが出来た。案外鈍いんだな。
逃げては来たものの、まだ変わらずに森の中。少しばかり広い場所で、二人で座り込み、息を整えていると、光由が口を開く。
「なんだよ‥‥‥あの緑チビ」
「多分、ゴブリンとか言うのじゃないかと思う。」
「ゴブリィン? ゴブリンってあれ? あのファンタジックなヤツ?」
「それそれ」
「んじゃ何? 俺っちと景章は、異世界にでも来ちまったって事?」
「そうなるのかな?」
そもそも、目が覚めたら森の中でしたって状況からありえないのだから、少しはありえない事を疑うのが真実に近くなるのでは、と思う。
でも異世界か。正直、俺にも異世界に行ってみたいとは思った事はあるものの、言うだけなのと実際に来てみるのとでは大きな差がある。
もし仮にここが異世界だとして、どんな生物がいるかとか文化とかの、この世界の知識が一つもない。よく知りもしない会社に入らされて、研修もなしに業務につかされるみたいなものだ。しかも側に経験者は誰もいないときた。
知識がないというのは、非常に面倒な事だ。これをすればいい、という判断も出来ないからどうしても手探りになる。
‥‥‥なんか考えるのも面倒になってきたな。まぁ、なるようになるだろ。
「思ったんだが景章、ここが異世界だとすると、魔法も使える可能性があるって事だよな?」
魔法。魔力を使って不思議現象を起こすアレだ。確かに使ってみたいとは思うが、ホントに使えるのかね?
「まぁ、異世界でゴブリンって言ったら、剣と魔法のファンタジーだよな。使えるんじゃね?」
光由は目を輝かせて立ち上がり、前方に右手を突き出し、手のひらを開いて叫んだ。
「ファイアーボール!」
「‥‥‥何も出ねぇな」
「‥‥‥」
意気揚々とやったのに失敗、これ程恥ずかしい事もない。
羞恥からか、光由の顔がほんのり赤くなっている気がする。面白半分で提案してみようか。
「魔法といえば、呪文の詠唱とかもあるよな。やってみたら?」
光由は、ハッ! として、少し考え込んでからブツブツと呟きだした。
「赤き精霊よ、我が魔力に呼応し力を貸せ‥‥‥ファイアーボール!」
「‥‥‥やっぱ何にも起きないな」
「使い方とか‥‥‥分かる?」
もう半泣きだった。
「分かるわけないだろ」
「やっぱり?」
そんなくだらない雑談をしていると、グ〜ッというマヌケな音がした。そういえばその問題もあったな。
「食料、手分けして探すか〜」
「そだな、じゃ俺っちは向こう行ってくるわ」
「はいよ、学ランを近くの木にかけとくから、それ目印に集合な、迷うなよ」
「りょうか〜い。じゃそっちも頼んだぜ」
俺から見て右の方向を指差してそちらに歩を進める光由。
「じゃ、俺はあっちか」
そう呟きながら学ランを側の木にかけて、俺も西の木々の中へと入って行く。