散策
森の散策をしている際中、物を拾った。
それは何の変哲もない銀色の刃の短剣だった。
「これ良くない? 短剣作れるとはいえ、実物ゲットしたのはでかいだろ」
(いいね、短剣ということは誰かの落とし物だろうし、街はこっち方面にあるかもしれないね)
「んじゃ明日は光由と一緒に来た方がいいな。もういい頃合いだろうし、一回戻ろうか」
俺は短剣を裏返したりして、観察しながら答える。
(方向決まっただけで、充分な成果だね。できればここに拠点を移したいけど‥‥‥)
「携帯あったら楽なんだけどなー。まぁ電波あるのかって言ったら、無いだろうけどよ」
(こっちにはそんな物ないからね)
よくある異世界モノの定番では、元の世界の技術を、異世界で生産して無双する、といった事をするが、ただの高校生の俺じゃそんな知識はない。電波とかそういうのだって、あるから使ってるだけだしな。
いざ考えてみると、自分の知識のなさに苦笑いがもれる。
「まぁでも、あからさまに人工物の短剣が落ちてるんだから、人が住んでる所を探すならこっちの方が、見つけやすそうだな」
(そうだろうね、にしても短剣を落とすなんて相当な間抜けだね)
俺もよく物を落とすので、耳が痛い話だ。
「俺は人の事言えねぇからな‥‥‥」
短剣を回収して、懐に入れる。
他にもいい落とし物がないか探す。気分は、ゲーセンで金を使い切ったときに、機体の下に硬貨が落ちてないか探る時みたいな感じである。
しばらく経ち、そろそろ帰ろうかという頃に、それは聞こえた。
「助けてーーー!!」
その悲鳴は結構近いのか、とてもはっきりと聞こえた。
この声はおそらく人の声、女の子の声か? 内容的にピンチな状況だろうから、急いだ方が良さそうだな。
「あっちの方で合ってるよな?」
左の方を指差して確認をとる。
(そうだろうね。僕も、そっちから聞こえたと思うよ)
「それじゃ、さっさと行くか」
その方向に真っ直ぐと進む。念の為気配を殺しながら行く事にする。
そして、大体三十秒くらい歩いていった先に男が二人、女の子が一人いた。
男はどちらも身長百七十くらいで、鎧を着た男と小太りで髭をはやした男が二人、涙目の小さなツインテールの女の子を囲んで、下卑た笑いを浮かべて、日本語ではない、この世界の言葉で、会話していた。
「やっと追いついたぜ、手間取らせやがって。どうせ一回ヤッたら病みつきになるんだからよ、安心して俺達の欲望のはけ口になれよ」
「そうだぜぇ? 食わず嫌いしてないでよ、受け入れた方が楽になるぜぇ」
「いやっ! 絶対にいやっ! なんでアンタ達なんかとっ! ‥‥‥!」
ツインテールの少女は、鎧を着た男達をキッと睨み付けた直後、その真後ろにいる存在に気付いたのか、驚きで目を見開く。
不意打ちするんだから、存在を悟られるような行為は勘弁してほしいのだが、もう大丈夫だろう。
小太りの方の男の真後ろに移動していた俺は、充分に後ろに引いた右拳を、小太りの男のがら空きの後頭部へと、振り抜いた。
ドゴォ!! と音がなり、小太りの男は声を上げる間もなく倒れ、気絶した。
気絶を確認し、ようやく俺は声を出す。
「脳みそでも揺れたか? これで一人はオッケー。さぁ胸糞悪いクソったれは、あと鎧を着たオメーだけだな? 潰してやるから覚悟しろ」