目が覚めたら
初めてなので至らぬ所があれば申し訳ありません。
目が覚めたら薄暗く、不気味な程に静かな森の中にいた。
周りを見渡しても、目に入ってくるのは背の高い木々ばかりだ。寝る前にいた白塗りの部屋と、かすりもしない風景が広がっていた。
「教室が‥‥‥森になった?」
何言ってんだ舞島景章十七歳、ボケるにはまだ早すぎるだろ。
こんなボケた事を他人の前で口走ったときには、一発アウトの頭おかしい奴認定されるだろう。だが、そうとしか表現の仕様がなかったのも事実なのだ。
理解出来ない状況から、救いを求めるべく周りを注意深く観察する。すると、俺の後ろの方に、見慣れたメガネ坊主、親友の次宮光由が仰向けで寝ている姿を発見した。
「光由‥‥‥か?」
このメガネな坊主は間違えようがないが、何故光由もここにいるのだろうか。まぁ、光由もいるなら話し合った方がいいな。
「おい、起きろよ」
揺さぶって起こそうと試みるも、全く起きる気配が無い。面倒くさいし蹴って起こすか。
「さっさと起きやがれ馬鹿野郎がッ!」
「ぐぉっ‥‥‥いッてぇ! 何すんだ景章ッ!」
苦しげに呻き、起き上がるやいなや俺に抗議してくる光由。この状況で寝てる方がやべぇだろ。
「起こしてやったんだ。文句垂れる前に周りを見てみろ。やべぇ事になってんぞ。」
「何言ってんだお前‥‥‥何だここッ!?」
「俺にもさっぱり分からん。気が付いたらここにいた。」
やっと光由も状況が飲み込めたらしい。この反応を見るに、光由も何が起こったかは分からないようだが。
「そうだ! スマホで調べりゃいいじゃんかよ! なら位置も分かるだろ‥‥‥あれ!? 俺っちのスマホがない!?」
そうだ、スマホが無いだけでなく、俺は何も持っていなかった。寝ていた時に着ていた少し窮屈な制服しかない状況だ。
ろくに野宿もした事がない高校生二人が、何も持たずに森の中でサバイバル生活。待っているのは間違いなく死であるという事は誰しもが思うだろう。めちゃくちゃやばい状況だよな。
そんな状況でもそこまで取り乱してないのは、やっぱり一人じゃないってのがあるんだろうか。
因みに、光由も何にも持ってないようだ。
「さて、状況は飲み込めた?」
「超やべぇんじゃないかって事ぐらいは分かったよ‥‥‥」
「まぁ、それくらい分かっときゃ充分でしょ。とりあえず、ここから動こうぜ。森から出られるかもしれないし。」
「そうだな‥‥‥行くしかないよな〜。」
ここが何処なのかを知る為に、俺と光由は森の中から移動し始めた。
「ホントに、ワケが分からんわ」
そもそも何でこんな所にいるのか。考えられる事柄としては‥‥‥ここに来るまでの記憶が失くなった、というのが一番ありえそうか?
「なぁ景章、腹減らね?」
俺が考えている最中に、光由は腹を抑えて、マヌケな音を鳴らしながら話しかけてくる。そういえばそろそろ昼飯ぐらいの時間かね?
「そだな〜、今は多分昼飯時だろ? 何かないもんかね。」
「何もないなら餓死一直線じゃね? やべぇだろ死ぬだろ!」
取り乱す光由。森の中だし最悪、草でも食えば何とかなるだろ。
「ま、森の中だし木の実くらいあるでしょ。」
ていうかないと困る。非力な高校生は狩りなんか出来るはずもないし。いや、光由だったらワンチャンあるか?
「光由、お前直球何キロ出るんだっけ?」
「ん〜、最近測ってないけど‥‥‥まぁ、百三十キロくらいかね」
光由は、野球部のピッチャーである。確かコントロールが自慢とか言っていた気がする。これなら鳥くらいなら狩れそうではあるよな。
「そこら辺の石でも拾って鳥とかに投げて狩れば、焼き鳥とかになるんじゃね?」
「焼き鳥食えるの!?」
心なしか目がキラキラしている光由。そのジュルッとしたよだれを、是非とも拭いて欲しいものだ。焼き‥‥‥あ、そういえば火がねぇな。
「火の起こし方分かる?」
「ライターとか?」
「それがないからこんな事聞いてるんだろうが」
「‥‥‥」
さて、希望がなくなり落ち込んでいる光由はさておいて、食料問題が解決しないな‥‥‥
何があるかを探しながら考えていると、物音が聞こえた。何かが歩いている音、右方向の茂みの奥だ。
「‥‥‥」
その方向を向き、少し汗が出てくる。熊とか猪とかだったらどうしよう。
「どした景章?」
「静かに聞けよ?そこから物音がした。何かいるかもしれん」
「!!」
息を呑む光由。戦闘力はこいつの方が高いはずだから、見つかったら任せるか。
「俺は、茂みの中を覗いてみる。光由は石持って待機しててくれ。」
「わ、分かった。気をつけろよ!」
その声を聞き、恐る恐る茂みの中を覗く。
そこにいたのは、身長六十センチくらいで人の形をしていたが、明らかに普通ではなかった。緑色の肌に半裸の出で立ちは妙な気持ち悪さを感じさせ、ギョロッとした目に若干尖った耳が獲物を探すかのように動いている。口からはよだれを垂らしており、その臭いが顔をしかめさせる。そして何よりも恐ろしいのが手にしている物。持ち主と同じくらいはある木の塊を引きずりながら歩いていた。
その容姿はファンタジーモノのアニメやゲームでよく見るゴブリンという魔物と重なった。