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94話 あの人は今

ご来訪ありがとうございます。

ちょっと短めです。


 お庭では、美しい花々が咲き誇っている。

 もうすぐ、お客様がいらっしゃるのよ。

 とても楽しみね。


 お父様とお母様にお願いして、王都で流行りのお衣装を仕立てていただいたの。

 ふんわりとした布地に、小さな宝石の粒がちりばめられて、まるでお星様のよう。


「素敵ねレティーシャ、夢のように可愛らしいこと!」

「ああ、おまえが一番可愛らしい! 王女様方なんか目ではないぞ!」


 まあ。お母様もお父様も、大袈裟なのだから。

 そんな失礼なこと、言ってはいけないのよ? うふふ。

 誰もが溜め息をつかずにはいられない、まるで壁画に描かれた聖女のごとき姫君――なんて。

 あの方々は、社交辞令でしかそんなふうに言ってもらえないのよ?

 生まれながらの美しさにはかなわない、なんて。

 本当のことを指摘してしまったら、可哀想だわ。


 それにしても、お母様もお父様も困ったこと。

 そんなふうに正直に誠実に、嘘をつかずに本当のことをはっきり仰ってしまうから、皆様に誤解されてしまうのよ?

 妬み、というのかしら。

 我が家がとっても繁栄してて、お二人が毎日優雅で素敵な日々を過ごしてて、そして一人娘がわたくしなのだもの。

 わたくし達がとっても幸せに暮らしていることを、「狡い」なんて、つい思ってしまう方が現われても、仕方のないことなのよ。

 悲しいけれど、これが大貴族という身分に生まれついた者の宿命というものなのね。


 それにしても、待ち遠しいわ。

 王子様と。たくさんのお客様方と。

 そして、――遠くにお住まいの、あのお客様達。

 辺鄙な所に住んでいらして、とっても苦労なさっているに違いないから、王子様やわたくしとで労わってさしあげたいの。

 たくさんの〝お友達〟と一緒に。

 うふふ。楽しみね。

 皆様からのお返事は、もうそろそろ届く頃かしら? 





「…………」

「……あ、あの……姫様……」


 テーブルに、大量の手紙が並べられている。


 王太子シルヴェストル――諸事情により謹慎中のため出席不可。

 某辺境伯親子――領内の改革事業により多忙のため出席不可。

 某侯爵子息――投獄により出席不可。

 某伯爵子息――没落により出席不可。

 某子爵――行方不明により出席不可。

 ――出席不可。

 ――出席不可。

 ――出席不可……


「ひ……姫様……」

「…………とっても。悲しいけれど。皆様、きっと、お忙しいのね。仕方ないわ……」

「姫様……!」


 寂しげな笑みを浮かべ、健気に〝お友達〟の皆様を気遣う主に、侍女は素直に感動して目を潤ませた。

 しかし、侍女は知らない。

 自室に戻った姫君のもとに、とどめの一通が届くことを。

 伝書鳥が運んできた、某神殿にいる〝可哀想なお友達〟からのお手紙。


「あら、うふふ……」


 機嫌は、多少戻るかと思われた。

 が。


「…………」


 麗しの美貌が引きつる瞬間を目撃した者は、幸い、誰もいなかった。




◆  ◆  ◆




「あれで良かったのかしら?」

「良いのよ。なんかあんたの話聞いてると、そのお嬢さん、絶対プライド高いでしょ。内心見下してたあんたに自慢話されまくったあげく、『あなた可哀想ね、強く生きるのよ!』なんて可哀想なヤツ扱いされたら、顔面ぴくぴくさせんじゃないの?」

「あぁ、いるのよねぇそういうお馬鹿さん。お綺麗なお顔で、可哀想可哀想って、同情だけはたっぷりくださるんだけれどねぇ」

「逆に白けた顔で『は? どこが?』ってあしらわれたら、絶句するのよねぇー」

「そうそう。何にせよ、こちらが感情的になったら負けですからね? フフフ……」

「…………」


 ――こんなにたくさん、素敵なお友達ができちゃったの!

 ――家柄と顔だけで寄ってくる上辺だけのお友達しかいないなんて、あなたって本当に可哀想ね! ああ、本当に可哀想!

 ――毎日が虚しくなったらいつでも相談していいのよ?

 ――いつでも私が励まして〝あげる〟から♪


 要約すればそういう内容の返事をしたためた。

 最初に相談したのは、とある同年代の少女一人だけだったはずなのだが……気付けば年下の少女から、上は五十歳~六十歳代の熟女まで、「売られた喧嘩を上品に倍返しするお返事の書き方」をたっぷりと指導してくれた。

 それはもう、大量に。

 これでもかと。


(……世の中、怖い人がいっぱいいるのね)


 けれど少女は、ふかしたイモを皆で分け合って食べながら、いつの間にか細かい不安などすっかり忘れているのだった。




元王女様とは別ベクトルで自分に酔うタイプなのでした。

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