30話 魔女の森と三兄弟 (1)
ひらがなばっかりで読みにくいです(^ ^;)すいません。
ぼくのなまえはシェルロー。
としは、たぶん三さい……かな?
おとうとが二人いる。
ひとりめのおとうとは、エセル。
ふたりめのおとうとは、ノクト。
みんな三さい。
きょうだいなのに、みんなおないどし。
どうしてだろう。こういうことって、よくあるのかな?
ぼくらをつれてきた〝魔女〟は、〝ようし〟ならあるんじゃないか? っていってたけど、ぼくらは三人とも、ちゃんと血がつながってるきょうだいだ。人族たちはそういうのわからないらしいけど、ぼくらはわかる。
そういったら、〝魔女〟がなにかいいたそうにして、でもなにもいわなかった。
ははおやは……いるとおもう。でもなまえがわからない。
ちちおやは……いるとおもう。でもなまえがわからない。
すんでたところは……やっぱり、わからない。
きがついたら、三人でふらふらどこかをあるいてて、わるいやつらにつかまった。
そのまえに、どこでなにをしてたのか、どうしてぼくら三人ぽっちでそこをあるいてたのか、なんにもわからない。おぼえてない。
くびわをはめられて、おりにいれられた。ぼくらのほかにもたくさんのこどもたちがいた。みんなおなかがすいてげっそりしてた。わるいやつらはにやにやしてて、ものすごくいやなかんじがした。
きもちわるくて、ちかよられるとはきそうになるぐらい、そいつらは――なんていったらいいんだろう?
いやな〝こころ〟がにおってきそうなぐらい、とにかくいやなやつらだった。
いつもいつもおなかがすいて、どんどんぼくらも、ほかのこどもたちみたいに、がりがりになっていった。
ぼくら、どうなってしまうのかな。
このままなんにもできなくて、なんにもわからないまま、ぼくらみんなしんじゃうんだろうか。
でもそうはならなかった。
〝魔女〟がぼくらをたすけてくれたから。
〝魔女〟はぼくらにいろいろなしつもんをしたけど、ぼくらはほとんどなんにもこたえられなかった。
でも〝魔女〟はおこらなくて、しかたがない、っていいながら、ぼくらを森につれていってくれた。
〝魔女〟はとてもふしぎなひとだった。かおはぜんぜんうごかないんだけど、〝こころ〟のなかはすごくいろんな〝きもち〟がいっぱいあふれてるんだ。
あったかい〝きもち〟、すごくあつい〝きもち〟、ひんやりつめたい〝きもち〟、すずしいそよ風みたいな〝きもち〟、なんていったらいいかわからないぬるい〝きもち〟なんてのもある。
かおはいっぱいうごくのに、〝こころ〟があんまりうごかないやつとか、すごくきもちわるくてどろどろしてる〝こころ〟をかくそうとしてるやつとか、人族にはそういうやつがおおい……って、だれかにきいたような……きがするんだけど。
ぼくらをさらったわるいやつらのなかに、ちょうどそんなかんじのやつがいたんだけど。
でも〝魔女〟や、〝魔女〟のまわりのおとなたちには、そういうやつがいなかった。
〝魔女〟の森は、とてもほっとするところだった。こわいけはいや、こわいにおいがぜんぜんしないんだ。
すんでるところをみてビックリした。森のなかなのに、すごくすごくきれいな――さいえん? があって、そのむこうに、おおきな〝しんじゅ〟がどーん。
え、なんでこんなとこに〝しんじゅ〟があるの?
しかもなんでこんなにおっきいの?
っておもっていたら、〝魔女〟が〝しんじゅ〟のまえにたつと、なんにもしてないのに「ふぉん」ってふしぎなおとがして、ちょっとたかいところでいりぐちが四かくにひらいた。そしてそのいりぐちから「すぅー」ってななめに光がおりてきて、それにそって、まるくてうすい台が、ぼくらのまえまでおりてきた。
はんぶんとうめいの、みがいた貝がらのうちがわみたいに、きれいでとてもうすっぺらいのに、ぼくらよりずっとおおきな〝魔女〟がのってもビクともしないんだ。
ぼくらみんなをのせると、その台はぼくらをのせたまま、「すぅー」っていりぐちまでのぼっていった。そしてぼくらみんながなかにはいると、ぼくらのうしろでいりぐちがきえた。びっくりした。
すごい。この〝魔女〟は、まほうのおしろにすんでるんだ。
おしろのなかは、もっとすごかった。
まっしろだったカベにとつぜん外のけしきがみえたりとか、まっしろだったてんじょうがいきなりきえて、ゆうやけの空がひろがったりとか。
【べつに壁や天井が消えたわけではないよ。外の風景をそのまま映し出しているだけだ】
びっくりしすぎてあんぐり口をあけたぼくらを、〝魔女〟はふしぎなしろいおへやにつれていった。
だれも手でふれてないのに、とびらは〝魔女〟をむかえてひらく。
まわりぜんぶがしろくて、まんなかにしろい台があって、〝魔女〟はぼくらに、ひとりずつそこによこたわるようにいった。
【少しだけ我慢していなさい。痛くなったり苦しくなったりするようなものじゃない。おまえ達が今、どんな状態にあるのかを調べるだけ。万が一、気分が悪くなったりしたら言いなさい】
ぼくらのあたまをなでてくれながら、〝魔女〟の〝こころ〟はとってもあたたかかった。
だからぼくらはうなずいて、いうとおりにした。
《【スキャンを開始します。目を閉じてください】》
どこからともなく、〝小鳥〟のこえがした。
ぼくらは〝魔女〟はぜんぜんこわくないけれど、〝小鳥〟はなんだかちょっとにがてだった。どんな〝きもち〟でいるのか、あの〝小鳥〟はぜんぜんわからないんだ。
でもいまは〝魔女〟のちかくに、〝小鳥〟のすがたはみあたらない。
どこにいるんだろう。
それにさっきのこえ、どこからきこえたのかぜんぜんわからなかった。
ちいさく「ふぉん」ってふしぎなおとがして、ふしぎな光が「すうー」ってぼくのからだをなでていった。めをとじなさいっていわれてたのに、うっかりうすくひらいてて、ちょっとだけまぶしかった。
ぼくら三人ともおなじようにして、すきゃん? ていうのはすぐにおわった。
「………………」
〝魔女〟はずっとだまってた。かおはぜんぜんうごかない。
でもぼくらはしってるんだ。きこえないけど、〝魔女〟はだれかと――たぶん〝小鳥〟と、〝こころ〟のなかでおはなしができる。
なにをはなしてるかはわからないけど、よくないことだとおもう。
なにか、ぼくらにはあんまりよくないところがあって、それをくわしくしらべようとしたのに、けっきょくちゃんとわからなかった――そんなかんじがする。
ぼくらのせいで、〝魔女〟はいつもこまってる。
これいじょうこまらせないように、ちゃんといいこにしなきゃ。
◆ ◆ ◆
十日がたった。
びっくりしない日はなかったんじゃないかな、ていうぐらい、まいにちがびっくりでいっぱいだった。
朝、おきたら顔をあらう。
顔をあらったあとには、〝せんじょう液〟で口をゆすぐ。
しょくじのあとにもちゃんとゆすぐんだ。なんの薬草でつくったんだろう、〝せんじょう液〟はとてもすっきりして、ゆすいだあともきもちいいのがしばらくつづく。
ふくは、〝魔女〟のふくのなかでいちばんちいさな〝しゃつ〟を、さらに小さく仕立てなおしてきせてくれた。
「私の身体が小さい頃に着てた服ってないの?」
《既に解体し、繊維に戻して現在の衣類に再利用しております。もし残っていたとしても、サイズが大きすぎてどの道そのままでは着られないでしょう》
「そりゃそっか。十歳と三歳だもんなあ。つうか城で借りた幼児服って、繊細過ぎて破くのが怖いわ。普通のでいいってのに」
《幼児でも、この国における扱いは貴族の子弟と同等ですからね。さらに幼児だからこそ、肌に優しい上質な衣類をとなるのでしょう。この年齢なら乳母や世話係が常に控えているものですし、汚し放題、破き放題になる想定はされていません》
「ぬ……貴族か。そうだよね、カルロさん達って貴族なんだよね……」
《マスター。このアトモスフェル大陸のどの国へ行こうと、厳然たる身分制度が存在します。デマルシェリエ辺境伯や騎士団の方々は、間違いなく世界レベルで上から数えたほうが早い、話のわかる有能な人格者揃いですよ。それをうっかり失念されたままでいると、次第にゲーム世界と錯覚した行動をとるようになってしまいかねません。くれぐれもお気を付けください》
「――うん、すまん。大丈夫。そこんとこはさすがに混同してないよ。初っ端から知り合ったのがカルロさん達だったの、ものすんごくラッキーだったんだよね。あれが標準だって思っちゃいけないってのもわかってるよ。――まあとりあえず、この服はなるべく着せないでおくことにするわ……どう見ても森歩きには向かないし」
なにかむずかしそうなふんいきでお話ししてたけど、もしひつようなら、ぼくらにわかることばで話してくれるだろう。
だからたぶん、ぼくらがきいちゃいけないことなんだろうな。
それより、この〝せんめん室〟っていうおへやがすごい。
床から天井まで、かべいちめんがいちまいの〝かがみ〟になってて、それだけでもすごいのに、まるでぼくらがすぐそこにもうひとり立ってるみたいに、ものすごくきれいにうつるんだ。
こんなに大きな〝かがみ〟、しかもこんなにしっかりカンペキにうつるのなんて、みたこともきいたこともない……と思う。いまは天井が青空になってて、それが〝かがみ〟にうつってて、よけいにすごいとしか言いようがないおへやになってる。
まるでぼくら、空に立ってるみたいだ。
それだけじゃない。〝かがみ〟のまえにはしんじゅいろの、貝がらのお皿みたいなうつわがあって、そこにあるぎんいろのぼうみたいなのに手をかざすと、かってにみずが出るんだ。
ぼくらはなぜか〝まりょく〟の使いかたもわすれてしまってて、〝まどうぐ〟だってもちろん使えないはずなんだけど、ここではぜんぜんかんけいなかった。〝まりょく〟がなくてもうごく〝まどうぐ〟なんて、今までみたこともきいたこともなかった……と思う。
でも、このふしぎなしんじゅのお城には、そんなふしぎなものばっかりだった。
〝魔女〟のしもべたちもふしぎだった。
ぼくらのにがてな青い〝小鳥〟。彼は〝魔女〟に〝アーク〟ってよばれてる。
それから、白くてまるいへんなかたちのからだに、手足が何本もついてる召使いがいて、かたほうは〝アルファ〟、もうかたほうは〝ベータ〟ってよばれてた。
〝小鳥〟もアルファもベータもなにをかんがえてるのか、どんなことを感じてるのかぜんぜんわからないんだけど、アルファやベータはしょっちゅうぼくらに話しかけてくれるから、〝アーク〟ほどにがてじゃないかな。
まあ、ぼくらのことばでお話できないらしいから、なにをしゃべってるのかはわからないんだけど。身ぶり手ぶりでなんとなくわかるし、みてておもしろい。
けさのしょくじは〝ぽとふ〟っていうスープだ。しょくじはいつもアルファがつくる。
アルファはりょうり上手だ。いつもおいしい。〝ぽとふ〟は見たことのないやさいがたくさんはいってて、味つけもしお味だけじゃない。なにを使ってるんだろう? さいしょに食べてすっかり好きになったからか、毎日いちどは出してくれるようになった。
ドーミアっていう人族の町で買ったらしいちょうづめ肉が、たっぷりやさいといっしょに食べるとさいこう。
おいしくておなかいっぱいたべられて、あとなんだか、食べたあとにあたまとからだがすっきりするんだ。前はずっとおなかがすいてたからかな?
【……肉は好きか?】
【うん。とってもおいしい】
【おにくすき!】
【すきー】
「……そうか。肉好きなのか。つうかマジで肉喰えるんだエルフ……」
《雑食で助かりマスね~。メニューに気をつかう必要がないデス》
「うんまあそうなんだけど……正当派エルフって、眉をひそめて鼻をおさえつつ『肉を食すなど信じられん』とか、場の空気崩壊もののセリフ吐きそうなイメージだったのに……ここのは正当派じゃなかったのか……」
《いんじゃないッスか? そんなんと一緒にメシ喰ったってまずくなるだけっショ。むしろこいつらがマスターのイメージする〝正統派エルフ〟と違っててよかったじゃないスか。なつこいし》
《とゆうかマスター、〝正統派エルフ〟がベジタリアンって、どこ情報なのデスか?》
「え!? 違うの!?」
《それ以前ニ、神経質な冷徹高慢キャラはお嫌いとか仰ってませんデシタ?》
「だって、何だかんだで世界がやばい時には心強い味方になってくれたりするし、ツンツンからの熱い友情展開がなんといっても萌えたぎるんだもん……! 放っといてくれ……!」
《好みって奥が深いのデスねえ……》
〝魔女〟がアルファやベータたちと何かおはなししてたけど、あんまりにもスープがいい香りでおいしすぎて、ついつい食べるのにむちゅうで、ほとんどきこえてなかった。
いけない。いじきたないっておもわれてしまうかな。気をつけないと。
すると、どこからともなく〝小鳥〟がぱたぱたと羽ばたいて、〝魔女〟の肩にとまった。
そういえば、きょうはじめてすがたを見る。どこかにおでかけしてたのかな。
「――あ~、やっぱりそいつが黒だった?」
《はい、確定です》
「カルロさんのほうは大丈夫そう?」
《王家主導で捜査をさせると身内の恥を隠蔽されかねませんので、第一王妃の全面バックアップのもと、順調に進めているようです。なお、第一王妃はシロです》
「ああ、ライナス君の未来のお義母様だっけ」
《はい。偽者に騎士服を与えた輩をなあなあで見逃したりはせず、徹底的に追及させる構えのようです》
「心強いなあ。でもカルロさん達の立場悪くなったりしない? 邪魔に思った奴が刺客を差し向けてきたりとかさ」
《辺境伯を暗殺などしようものなら、帝国が大喜びで侵攻を開始しますよ。その程度の判断力もない雑魚が相手ならば、たかが知れているかと》
「うん。でも帝国と手を組んでるアホなら暗殺とか目論みそうって思ったんだけど」
《有り得ますね》
「有り得るんかい」
《その場合、ご自分が最後まで無事でいられるかどうか、その程度の想像もつかない種類の雑魚と思われますが》
「ああ、なんか美味しい餌ぶらさげられて喰いついたけど、最後は用済みでポイされるパターンね……」
なんだか、むずかしそうなお話をしてる。なんとなく、ぼくらのことを話してるようなきがするんだけど……。
ぼくらがしっておかなきゃいけないことなら、〝魔女〟はちゃんとぼくらにもわかることばでお話ししてくれるだろうし。たぶん、きいたらいけないことなんだろうな。
「奴らが破滅しやすくなりそうな情報、片っ端からカルロさんの耳もとで囁いてきてくれる?」
《既に実行中です》
「さすが小鳥さん、その調子で頼むわ。――ククク、愚か者どもめ、逃れられると思うなよ……?」
しょくじのあとは、森のなかをおさんぽ。どこになにがあるのか、あぶないばしょはどこか、食べられるものがどこにあるのか、そういうことをおそわりながら歩く。
あんまりおぼえてないんだけど、ぼくらは〝森のたみ〟って言われてるらしい。だからなのか、おさんぽはすごくたのしかった。
森は大好きだ。とくに、ここの森はすごくひろくて、なのにあぶない〝まもの〟なんかがいないらしくて、まもってもらってるような感じがする。まるで〝魔女〟みたいに、どこへ行ってもあんしんできるところなんだ。
お昼になったら、川のほとりのおおきな岩にこしかけて、みんなで〝おべんとう〟。
いちばんさいしょに〝魔女〟が半獣族の子たちにたべさせてあげてたみたいな、ああいうかんたんな食べものじゃなくて、たくさんのりょうりをつめこんだかごを持っていく。アルファのつくったおかずをはさんだパンや、くだものをねりこんでやいたおかしがいっぱい入ってて、いっしょに食べるのはすごくたのしくておいしいんだ。
ぼくらは手がちいさいから、たまに〝魔女〟がパンを小さくちぎったり、口にはこんで食べさせてくれることもある。
なんだかしあわせで、ふわふわして、むずむずする。
夜。みんないっしょにおふろにはいる。
――さいきん、ちょっとこまる。
だって、〝魔女〟はなんでか男のふくばっかり着てるんだけど……
【………………】
【………………】
【………………】
【ん? どうした?】
【な、なんでもない】
じいっと見てたら、へんなかおをされてしまった。いけない。
なんでだろう。さいしょはぜんぜん気にならなかったのに、さいきんちょっと、〝魔女〟がふくをぬぎはじめたら、どきっとするようになった。
ぼくだけじゃなく、エセルもノクトもおなじだ。だっていまも顔を見あわせて、おなじきもちだなってわかる。
ていうか、昼間は男のふくばっかり着ててあんなにかっこいいのに、なんでそんな下着つけてるの!?
とっても豪華なのに繊細な、こまかいレースと刺繍の下着。花のもようのはしっこがちょっとすけてて、なんていうか……なんて言えばいいんだ……うすぼんやりとした記憶のなかの〝同胞〟のおとなたちだって、そんな下着だれも持ってないよ? 人族の〝きぞく〟だって持ってないんじゃないかな。
はだのいろも、ぼくらとはちがってて……とにかくなんだか、どきどきするんだ。
ぼくらは小さいから、からだを洗ったあと、〝魔女〟にだっこされて湯ぶねにつかる。
これもさいきん、ちょっとこまる……。
〝魔女〟はとってもきたえてて、じぶんのことを【男なみの筋肉のかたまりですまんな。かたかろう】なんて言ってたけど、そんなことはない。ぼくらの〝同胞〟では、たたかうじょせいがこのくらいシッカリした体つきをしてることがよくある……と思うし、きたえてる男なんかは、もっとごつくてカチコチだったはずだよ。
しかもそんなこと言いながら、【されどこれは男にはついていないものだぞ。くらえ】とか言って、おしつけながらぎゅーってだっこするのはやめてほし……くもないかな……こまるけど。
小さいとか平らとか言ってるけど、ふつうなんじゃないかな? 人族の女の人はもっと大きめの人がたくさんいるみたいだけど、ぼくらからみたらひょうじゅん? ぐらいだよ。
やわかくて、ふにふにするし、いいにおいするし…
「ほれ。ぎゅーっとな」
【きゃー♪】
【きゃー♪】
【きゃー♪】
……まあいいよね。いまさらだし。




