260話 その頃、勇者達は (2)
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※(2)を一新し、以前の(2)を(3)に移して少し修正しました。 2020.9.16
護衛騎士が半減した状態で、王子の一行は夕暮れを迎えた。
どのみち今から町へ引き返すこともできず、彼らは大急ぎで野営の準備を始めた。ただし天幕は王子と、侍従と、位の高い騎士長の分のみ。それ以外の者にはもともと用意されていなかった。
ひときわ大きく豪華な天幕に、金糸で刺繍を施された王家の旗が、斜陽を受けて眩しいほど輝きながら垂れ下がっている。もしどこかで眺めている者がいれば、それらは実に滑稽に映っただろう。
さらに、数名の料理人が肉を焼き始めた。壁も結界もなく、足手まといを大量に抱え込んでいる中、豪勢な肉料理を出すとは、よっぽど魔物の餌になりたいらしい。
ちなみに王子と側近の一部は結界石を持っていたが、この大人数をまかなえる数はなかった。一行の中に魔術士はおらず、自力で結界を張れる者もいない。もし地獄絵図を見たければ、そこに最弱の魔物一匹でも放り込めば一丁あがりだった。
夕食を終える頃には、辺りはすっかり夜に包まれている。分厚い雲が月光を遮って闇は深く、陽輝石の灯りをこれでもかと配置していたが、まるで上空を通りかかる妖鳥に見つけてくださいと言わんばかり。恐ろしい闇を追い払うのに夢中になり過ぎて、闇の中から自分達がどう見えるのか、想像力が働かなかったようだ。
護衛騎士が交代で守りを固めているのは、王子と侍従のみ。他の大勢は放置である。気休めの柵を準備する間もなく太陽が沈み切ってしまい、恐怖に満ちた声なき悲鳴が、ぴりぴり辺りに充満していた。
しかしこの状況を作った元凶はその自覚がないのか、それとも大声で恐怖心を誤魔化そうとしているのか、夜更けになってもやかましい。さすがに騎士が諫めたようだが、さらなるわめき声が響き渡った。
「魔物ごとき、そなたらが始末すればよかろう!! そのためにいるのだからな!!」
無茶苦茶である。
やがてわめき疲れたか、単純に馬車の中より天幕のほうが快適だからか、眠りに落ちて静かになった。
護衛騎士は必ず何名か、己の魔馬とともに天幕の周りを警戒し、順番に横になっていたが、ちゃんと睡眠が取れているかは定かではない。使用人は言うに及ばず。
じりじりと時は過ぎ、やがて遠くの山裾が白み始めると、やはり寝付けなかった誰かの安堵が、小さな歓声となってそこここであがった。
煮炊きの湯気と煙がたちのぼり、腹を満たしながら、彼らはじっくりと噛みしめていた。
何事もなく、恐ろしい時間を乗り越えられた、その幸運を。
――一行を監視していた者達は、呆れを通り越して哀れになってきた。
◇
天はどんどん青みを増し、くっきりと弾力のありそうな白い雲が浮かんでいる。そんな素晴らしい好天の下、やや離れた丘の上に、複数の人影があった。
気配や声を気取られにくくする魔道具を身につけていたが、さらに念を入れて身体を低くし、交わす言葉はなるべく潜めている。
「おいおい、まだ居座る気みてーだぜ? 今度は騎士だけじゃなく使用人も入ってら。……正気かよ」
「よくやるよなあ、あいつら……もうとっくに、お目当ての勇者クンはいねえってのによ」
「意地になってんだろうさ。引くに引けねえってやつ。……ああいうの見てっとよ、王子様とかお貴族様の使用人て、なるもんじゃねえんだなって思うぜ」
切なそうに呟くのに、頷く者が何人か出た。
このうちの何人かは、空腹のあまり木の皮や根をかじる子供時代を過ごした。お貴族様の屋敷で働けるとなれば、最低限の衣類や食事は与えられる、それだけでもキラキラして見えたものだが。
「……貴族の末席に加わる身としましては、耳が痛いですね」
とある貴人――光王国宰相と、バシュラール公爵の命で派遣された文官は、神妙に瞼を伏せた。
彼に与えられた役目は、とある我がままお坊ちゃまの監視である。そして周りにいる数人は、監視人の護衛として雇われた高ランク討伐者のパーティだった。
監視人をつけられるほどの我がままお坊ちゃまとは、言うまでもなく光王国の第三王子殿下である。
困った王子達の中でも、とりわけ金遣いの荒い第三王子は、限度を超えた贅沢を再三注意されているにもかかわらず、改める気配がまったく見られない。しかも頻繁に兄二人と張り合おうとするので、煽られた兄王子達まで「あいつよりもっと高価で素晴らしいものを」と言い出し、浪費の連鎖が発生する。
この先も国庫へ打撃を与え続けるに違いなく、宰相達は彼を餌に選び、王妃達もそれを承認した。
誘導されたとも知らず、王子が早々に辺境を目指したまではいいのだが、その後の展開には頭痛を禁じ得ない。
王族は他の貴族より、近場への外出ひとつとっても、護衛計画を入念に練らなければいけなかった。旅行ともなればなおさらである。ゆえに王子の行き先や日程、通過するルートなどは、必ず事前に王宮へ報告する義務があるのだが、第三王子はそれを完全に無視し、気まぐれで直前に行き先を変更した。
(提出された日程通りならば、あと二日はイシドールに滞在しているはずだったのだがな。これほどあからさまに王妃陛下を舐めてかかるとは)
王子だけでなく、その侍従までもが不遜極まりない態度を隠さなかった。そして、この王子に菓子を与えてすり寄ろうとする連中も、心を同じくする同志というわけである。
己の上位者が気に入らない者であった場合、命令には従わないし王族の決まり事さえ破る――あの森の手前にいる連中は、自らをそういう愚物であると証明してしまった。第三王子のために菓子や宝石や芸術品、あれこれ贈り物をしてお近付きになろうとする高官や貴族は、自分達がせっせと餌を与えているつもりで、実は自分達こそが餌に釣られる魚だったのだと、まな板に並べられて初めて気付くだろう。
「それにしても侍従どもめ。強い酒をすすめて酔い潰し、意識のない間にさっさと町へ戻るなりすればよかろうに。目覚めたら『殿下のご命令だったのですが、憶えておられませんか?』とでもすっとぼければいい。その程度の機転も働かんのか?」
「後でバレたら怖いからじゃねえ? 侍従同士も仲良しこよしじゃなく、盛大に足の引っ張り合いしてんだろ?」
「『おそれ多くも殿下にこんな真似しやがったヤツが~』とかって、チクる野郎とかいそうだもんな」
「なるほど……否定できん」
嘆かわしい、と文官は頭を左右に振った。
「――よぉ、向こうの連中とお喋りついでに、何匹か始末してきたぜ。そっちの首尾はどうだ?」
岩陰に身を隠しながら声をかけてきたのは、褐色の肌の偉丈夫だ。南方諸国の容姿を持つ、この討伐者パーティのリーダーである。
「お帰りさん、リーダー」
「減ってると聞いちゃいたが、やっぱいたんだな?」
「まぁな。以前と比べて激減してんのは間違いねえが、そろそろ数が戻って来やがる頃合いなんだろうよ。見かけたのはどれも弱いやつで、あそこの坊ちゃんの戦力でもどうにかなったと思うが……あと半月も後だったら話は変わっただろう。戦えねえ奴がこの場所にのんびり天幕張るなんざ、自殺行為だぜ」
ここはドーミアの町をだいぶ離れ、国境砦との中間にあたる。東の地とは長らく断絶状態にあり、将来的に安定すれば国交も結ばれようが、今はまだごく一部を除いて行き来がない。ゆえにこの街道は昼間でも滅多に人が通らず、野宿など言語道断な地点だった。
ところが、実は現在、この近辺に魔物の心配はない。彼らを含め、いくつかの討伐者パーティが、こっそり掃討して回っていたからである。
今回、灰狼や辺境騎士団へ協力の要請はされておらず、あくまでも王家の〝家庭の事情〟として討伐者ギルドに依頼が出されていた。遊び感覚で危険地帯をうろつく恥のかたまりの護衛など、断じて〝公〟に分類していいものではないし、したくもないのだ。
「私の最大の任務は既に果たされている。〈黎明の森〉への不法侵入、野営のため〈森〉の木材その他資源を無断利用。王家の名において交わされた契約へ唾を吐きかけたに等しい行為であり、これだけで充分、身分の剥奪を問えるだろう。――あとは、〈森〉に侵入した者達だが……」
「それについちゃ、さっきチラっと灰狼に聞いたんだが、今も迷いまくってるらしいぜ?」
「……そうか」
「あんたらの大事な証人ってのぁちゃんとわかってっから、最終的には全員保護してくれるとさ。まぁその代わり、しばらくは怖い思いをしてもらうとよ」
「…………」
そう言われると素直な感謝を口にしづらくなるが、非難の言葉を口にするのも見当違いだろう。
迷いの森だと警告されたはずだ。それに〈黎明の森〉が、とうの昔にこの国の領土ではなくなっているのも、王家の一員なら知らなければおかしい。
正しい入り口たる〈門番の村〉の場所が曖昧だからといって――ギルド長が詳細な情報を与えなかったからだが――適当な所で強引に入り込もうとし、挙句に〈森〉の財産を勝手にいくらか拝借した。
棲み処を荒らす者には、相応の報いを。ちょっとぐらい大目に見て欲しいなどと、そんな甘えは許されない。残念ながら、人は一度甘えを覚えると、際限を見失いがちな生き物なのだから。
「連中のお守りは、あとどのぐらい続ける予定だ?」
「あの様子では、二日か、三日だな。付き合わせてしまって申し訳ないが」
「構わねえよ、仕事だしな。あんたこそ、制御のきかない坊ちゃんの監視は大変だろ。急に予定変えやがったって聞いたぞ?」
「そうなのだよ。おかげで彼らへの連絡がギリギリになってしまったのだ。閣下も久々に、お嬢様に怒られてしまうやもしれんな」
文官はぬるいまなざしを遠くに向けた。
嘘ではない。長いこと会話のなかった娘に、どう連絡をとればいいかわからなかったバシュラール公爵が、いきなり予定変更をかました王子に「まったく、何をなさっておられるのか……」などと失望感を漂わせるフリで、内心嬉々としてペンをとったのだろうと想像がつくぐらいである。
ちなみにお嬢様――フラヴィエルダは、殴り書きで「お父様ったら遅いですわよ、もう!」と苦情の伝書鳥を送っていた。後日それを受け取ったバシュラール公爵は、久方ぶりの〝娘からの手紙〟を額に入れ、己の書斎に飾っていたという。
「『お嬢様』か……」
リーダーの呟きに、文官はおや、と片眉を上げた。
声に含まれたものに気付いているのかいないのか、仲間達が「エルダちゃんも変わったよな~」と頷く。
「あの迷惑千万な坊ちゃまと比べたら、前のエルダお嬢ちゃんのほうがマシだったんじゃねえかって気がしてきた」
「だな。ちっとズレちゃいたけど、あの王子ちゃまの『きさまがやれ!』と違って、エルダちゃんは基本『自分でできますわ!』だったしよ」
「……エルダをアレと比べんな」
少し不機嫌そうな声音に、仲間達はおっ? と目を瞠った。
そして彼らも気付いたらしく、一斉にニヤリとした。――一部は「爆散しやがれ」などと不穏な台詞を吐き捨てていたが。
「んだよ?」
「いぃーえぇー?」
「なぁんでも~?」
「……ちっ」
リーダーは仲間達のからかい顔から逃れようとし、その視線が文官とばっちり合ってしまった。
「なんだ? あんたまで言いたいことでもあんのかよ?」
「……あるな。公爵閣下より、君に伝言を預かっているのだが」
「伝言? 俺に?」
「言おうか言うまいか多少迷ったのだがね。ご命令なので悪く思わんでくれ。――『その首、常に綺麗に洗っておくが良い』……だそうだ」
「…………」
男は一瞬きょとんとした。
次いで、ゆるりと笑みを浮かべる。
リーダーらしく慎重で落ち着きのある人物という印象だったのだが、綺麗に裏返り、獰猛な魔獣めいた光が瞳の中にちらついていた。
その変化を見やって、文官はやれやれと溜め息をついた。
「君の返事は閣下にも伝えておこう」
「んだそりゃ? まだ何も言ってねえぞ」
「その表情で充分だ」
これはどうやら悪手でしたね、公爵。
心の中でそう呟くのだった。
◆ ◆ ◆
アスファ達の一行は、夜明け前に〈門番の村〉を出ていた。
途中、沢を越えたり、森を突っ切ったりする箇所もあるので、馬車は使えない。そして新人討伐者の四人とも、雪足鳥に乗ることはできても、道なき道で全速を出せるかどうかは別の話である。
よって、精霊族が手綱を握り、その後ろに乗せてもらうという心臓に悪い道中となった。
自力では出せない速度で進む鳥に騎乗し、振り落とされないようしがみつくのに精一杯で、緊張を覚える余裕はろくになかったのが幸いと言えよう。
そして陽が高くなる頃には、イシドールの町が目の前に見えていた。
精霊族とはそこで別れ、四人はそれぞれが手綱を受け取って門を目指す。先ほどの全速力に慣れた後では、いかにも雪足鳥に乗せてもらっているという、普通の早足にしか感じられない。
自尊心に傷がつく以前に、鳥に舐められた早足が、妙にほっとする四人だった。自分で制御できる速度というのはいいものだ。
イシドールには既に話が通っており、関係者専用口を利用させてもらい、後ろめたい気持ちに蓋をしつつ、一般の人々の列を横目に悠々と町へ入った。
四人は唖然とした。本当に来てしまったのだ。ドーミアより大きな町の威容に、感動する以前に頭がついて行かず、呆然とするしかない。
南の国へ向かった時も、遠い地と地を繋げる〝秘密の道〟を使ったのだが、あの時はもっとちゃんと旅をしている感覚があった。しかしこれは、異国よりも近いとはいえ、何かが違う。むしろ近いせいで、有り得ない感が余計に生じてしまうのかもしれない。
とりわけ高位貴族に生まれ育ったエルダと、その屋敷で働いていたリュシーは、改めてその〝道〟の危険性にぞっとしていた。
(これ、もし戦になったら、防ぎようがないしどこから来るのかもわからない、ってやつですわね……防衛線の内側に突然大軍が現われるなんて、反則もいいとこですわよ)
(すべての森を焼き払い、しらみつぶしに〝道〟の出入口を閉ざす、なんて現実には不可能ですしね……)
一方、庶民育ちのアスファとシモンは、単純に急がされた疲労感でげっそりとしていた。
こんな強行軍になってしまったのも、あれよという間に移動完了して実感が置き去りになっているのも、すべては灰狼の族長が小鳥の指示をうっかり忘れていたせいだ。
第三王子の件とは無関係で、青い小鳥が族長にアスファへの伝言を託したのは、数日前だったというのだから。
「憶えてろよおっちゃん」
「ん? 何をだ?」
本気でわからない様子で首を傾げるガルセスだった。
――そう。この男も一緒に来ているのだ。
小鳥の指定した日は『今日までにイシドールへ』というものであり、ちゃんとその日までに着いているので、深刻に慌てる必要は確かになかった。が、余分に疲れさせられたアスファ達が、「はっはっはすまんすまん!」で済ませてやりたくない気分になるのも致し方ないだろう。
さらに言えば小鳥も小鳥の主も結構時間にうるさいタイプで、余裕をもって事前に行動する者を好む。のんびり着けばいいと構えていたガルセスを見かね、いよいよギリギリになってきた頃、精霊族が雪足鳥の騎手を買って出たのだが、そこで実はこの男が指示そのものを失念していたと判明し、ガルセスではなく彼らの頭の中が一瞬ホワイトアウトした。
あの小鳥の言葉をうっかり失念できるなど、大物は大物で困ったものである。一行の中に、木漏れ日の妖精のように麗しい精霊族ラフィエナの姿もあるのは、勇者一行のお守りを仰せつかったガルセスのお守り役をするためである。
副族長ラザックのような知的なタイプではなく、あえて豪快な族長ガルセスを選ぶだけの理由が何かあったのだろうが、それはそれ、これはこれだ。
灰狼の族長ガルセスは毛並みを黒に染め、ラフィエナは頭に布を巻いて耳を隠していた。が、もとの種族がわからなくとも、二人の外見は非常に目立っている。
ガルセスは中身を知らなければ実に堂々とした偉丈夫であり、ラフィエナは芸術家が寝食も惜しんで精巧につくりあげたような麗しい容貌を持つ。
(正体隠してこれかよ……)
アスファの視線に気づいて、ラフィエナがにっこりと微笑んだ。その瞬間、ざわつく通りすがりの人々。
(こ、こいつら、一緒に行動したくねえ……!)
――こんなのが居て俺が勇者? そんなん、可哀想な子って同情されるだけじゃん!? 嘲笑されたほうがなんぼかマシだっての!!
アスファは胸の中で血涙を流した。せっかく討伐者として順調に仕事をこなせるようになってきたのに、故郷の母へ別の意味で顔向けできなくなってしまった。
そんな少年の葛藤を余所に、六名の操る雪足鳥は、門兵から聞いた道順を頼りにこの町の討伐者ギルドを目指す。
ドーミアと根底は似通った雰囲気なのだが、やはり大きい町はそれだけで迫力が違った。
「今度はもっと、のんびりできる時にまた来ようぜ……」
「そうですね……」
「ん? なんだアスファ、リュシーにデートのお誘いか? 若いなぁ! しかも二人で旅行とは、なかなかやるな!」
「ち、違ぇーよみんなで来ようぜっつってんだよ何言ってんだこのおっさんはぁあッ!!」
「……ッッ!!」
あえて誰もがはっきり言わないことを、言ってはいけないタイミングで堂々と口にするガルセス。
みるみる茹で上がったアスファとリュシーをからかう余裕もなく、エルダとシモンは自分に飛び火してこないよう、さささ…とラフィエナの向こう側に移動した。おそらくこの面子の中で唯一、ガルセスに対抗できる最凶無敵の壁である。
壁の向こう側とこちら側で被害状況は明確に分かれ、とりあえずエルダとシモンの精神は無事なまま、一行はギルドに到着した。
疲弊した向こう側の二人から恨みがましい視線を受けながら、エルダは宿を紹介してもらうべく受付へ向かう。
こちらも話が通っていたのか、すんなり済ませたエルダが戻ると、ガルセスが珍しく深刻そうな様子でラフィエナと顔を突き合わせていた。
「アスファ、あれ、どうかなさいましたの?」
「ああ……なんか、カシムとカリムが来てるみたいなんだけどよ、引き止められてるみてー」
「引き止め?」
「といいますか、半拘束ですね。このギルドに呼び出されて、かなり長い時間が経っているようです」
「ええっ?」
会話が耳に届いたのか、ラフィエナがアスファ達に向き直った。
「言いがかりのようですので、問題ないとは思いますが。わたしとガルセス殿は状況を確認し二人を回収しますから、あなた方は先に宿をとっておいてください」
「――わかった」
「わかりましたわ」
心配だが、自分達がここにいてもできることは何もない。とりあえず言われた通り宿をとり、小鳥の連絡も待たねばならないだろう。
ギルド員に案内されていく二人の背中を見送り、四人は建物を出た。
「……あっ?」
「?」
「アスファにーちゃんだ!」
「え? ――ミウ? なんでここに?」
しっかり者トリオのひとりが、全身で喜びを現わしながら駆け寄ってきた。
「にーちゃん達こそ、どーしてここに……ってそんなのどうでもいっか! わぁんよかったぁぁ、大変なんだよお!」
ほかの二人の姿が見当たらない。ドーミアの町ならばともかく、ここはイシドール。
ミウの単独行動には、トラブル発生以外に思いつけるものがなかった。




