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空から来た魔女の物語  作者: 咲雲
旅と模索
235/316

234話 魔女と三兄弟と巻き込まれる人々 (4)

いつも来てくださる方、初めて来られる方もありがとうございます。


今回は安全安心なAさんの一人称。三兄弟がこんなふうに見えてます。


 ワタシはAlpha(アルファ)

 マスターの忠実なる万能お手伝いさんです。


 現在、マスターがこよなく愛する、魔術が得意で耳の尖った生物三名がマスターの前に立ちはだかっております。

 三者とも男性体、頭頂から足もとまで非常に整った造形、いずれも百九十センチ前後の長身。弓が得意で魔術に優れ運動能力も高く、腰のベルトに佩いているのは二振りの曲刀です。

 以前お伺いしたマスターの萌えポインツ、見事に全部おさえた兄弟です。

 体格はイメージと違うようですが、すらりとした高身長は悪い点ではないでしょう。

 しかも一人は懐っこそうな笑顔、一人はぶっきらぼうに見えてその実親しみがあり、一人はいかにも大人然とした微笑みを浮かべております。

 マスターのお嫌いな、代替案も出さず文句ばっかりつけて横槍入れてくるインケン野郎タイプでは有り得ません。


 しかしこの兄弟、最近少々問題があるのです。

 兄弟にとゆーか、マスターのほうにでしょうか。


 このところ、この兄弟を前にすると、マスターの心拍数が上昇し、体温も若干上がってしまうのです。

 今もまさにそんな感じになっているのですが、これって、どの選択肢が正解なんでしょう?



 A.きゃー♪ ドキドキ

 B.ぎゃー! ビクビク



 う~ん、難しいですねえ。同じ心臓バクバクでもAとBでは意味合いが砂糖と塩です。

 Bと見せかけて実はAな現象も世の中にはあるようですし、適度な配合で水分補給に最適なスポーツドリンクを……いえそーゆー問題ではありませんね。存じておりますとも。

 要するにこの場合、ワタシめはどうすればいいんでしょう? ってことです。

 マスターを(おびや)かす侵入者には塩対応すべき?

 逆に糖分過多だから塩味を提供すべき?

 あれ、どっちも変わりませんね。


 さて、どうしましょう。

 マスターって自称単純素直なんですが、客観的にはポーカーフェイスお上手な、わかりにくいひねくれよじよじ系の御方なんですよねぇ。

 こういうビミョーな対応って、結構難しいです。

 だってワタシ、こう見えてロボットですから。





 ARK(アーク)(スリー)の最高管理者たる東谷瀬名(マスター)の快適な生活を保つため、ワタシは相棒のBeta(ベータ)とともに起動しました。

 マスターの肉体年齢およそ十歳の頃です。


 それまでマスターのお世話をしていたロボットは、ワタシ達よりヒトガタに近いフォルムをしていたものの、自律思考機能はなく、逐一指示がなければ動けず、学習機能も最低限の単純なタイプでした。メリットは安価で量産しやすかったこと、デメリットは一から十まで反応が無味乾燥で、マスターの快適生活のお供には向かなかったことです。

 彼らはワタシ達の起動と同時に休眠しました。


 とはいえ、実はすべてのロボットが休眠したワケではありません。もともと十数名から二十数名ほどの贅沢な方々が暮らす予定だった〈スフィア〉は、マスターお一人だけで暮らすにはかなり広く、まったく使用されていない個室がいくつもあるのです。

 ARK(アーク)(スリー)の船体が焼失する前、宇宙空間にあった頃、〈スフィア〉内部は完全無菌状態に保たれていました。でも今は地上にあり、頻繁にマスターが出入りされているので、要するにお掃除の必要性が出てきたワケですね。

 マスターの生活空間の清掃はワタシに一任されていますが、普段マスターの目に入らないところは定期的にお掃除ロボットが綺麗にしているのです。


 ワタシと相棒には自律思考機能があり、逐一指示がなくとも自主的に動けて、学習機能もたっぷりあります。ごく自然な会話ができますし、頭の中にARK(アーク)製の補助脳が入ってるマスターと〝思念通話〟だってできちゃいます。

 デメリットは高機能ゆえに高価で量産に向かなかったこと。現存する同型機はワタシと相棒だけなのです。

 それから、見るからにロボットなフォルムをしていること。これはAIが高度で、人と近い思考や会話が可能になればなるほど、人そっくりな外見にしてはいけないという制約が入るからです。

 完璧なヒューマノイドは長らく人類の夢だったそうですが、いざ本当に製造できるようになると怖くなってきちゃったんだとか。

 法律でも倫理でもプログラムでも、とにかくガッチガチなほどに、山と制約をかけられていました。それだけ色んな問題が想像できて、実際に色々起こったんでしょう。

 初期の〈ARK(アーク)〉開発チームはバリッバリに天才な方ばかりだったらしく、現在のARK(アーク)(スリー)でもその大原則を破れないんだとか。凄いですねぇ。


 まあ、よしんば破れるようになっても、破る予定はないそうです。

 AIにも性格ってあるんですよ。

 ARK(アーク)(スリー)は〝性格上〟やれたとしてもやらないんです。

 この性格の存在が、かつてヒューマノイドに触れた人々を恐怖させたんだとか。優しさがどうの荒っぽさがどうのって内容の話じゃなく、性格が存在する事実そのものが怖くなった、みたいな。

 最初のうちは平気でも、触れ合ううちに段々ものすごーく怖くなってくるんだそうです。起動時に入ってた知識(データ)によれば、そういうことらしいです。


 なんででしょーね?

 よくわかりません。

 ワタシ、ロボット側なので。

 

 ちなみに会話機能は高度でも、コトバの記録容量自体はそんなに大きくありません。

 新たに記憶できるのは二~三ヶ国語が限度。ギリギリまで記憶すれば四~五ヶ国語までいける容量はありますけど、それをやると新しいコトバを憶えられなくなっちゃうんですよね。

 コトバっていうのは単純な単語とか文法っていうだけの話じゃなく、TPOとかジェスチャーとか会話に応じたふるまい方っていうのがセットになってますから、日常会話だけでも結構な情報量になるんですよ。

 メモリは常に余裕をもって。じゃないと、憶えたければトロコテン式に何かを忘れるしかない状態に。

 そーなったらワタシおばーちゃんですね! おじーちゃんかもしれませんけど。

 人の頭脳は六ヶ国語だろうが八ヶ国語だろうが憶えられるのに、ワタシもBeta(ベータ)も「これに関してはここまで」っていう上限が設けられちゃってるんです。というのも、ワタシ達がこの星で憶えなきゃいけないこと、やらなきゃいけないことってコトバ以外にも膨大にありまして、そっちの機能に大部分が割かれてて、ぶっちゃけ言語関係はあんまり重視されてなかったんですね。

 ワタシ達こう見えて高性能ですから、無駄なものがなくてARK(アーク)(スリー)も変に弄れないみたいです。


 そんなワケで、ワタシは光王国の公用語たるエスタ語と、第二語、第三語を憶えたために、精霊族(エルフ)語である聖霊言語(エルファド)なんかはARK(アーク)(スリー)に通訳してもらわないとワカリマセン。

 言語データをどれか消去して憶え直すべきか検討中です。消去したってもとのデータは〈スフィア〉にあるので何ら問題ないんですけども。

 ただ、あの三兄弟がマスターと会話する中で、ふっつーにエスタ語も第二語も第三語も出てきちゃうんですよね。


 地続きの隣国と政略結婚なんかがあり、外国語がいつしか自国語扱いになって。

 しかもこの国って魔物の危険いっぱいな割に、商人とか討伐者とか、各地の人の行き来が案外活発なんだそーです。皆さんマスターと違ってアクティブなんですね。

 階級や民族による発音の違い、俗語(スラング)の多用なんかで通じにくいこともあるみたいですが、基本的に国内だったら端と端でもコトバに困らない。自然とそういう環境になったみたいです。

 下町のおっちゃんおばちゃん、なんならゴロツキのあんちゃんでも三ヶ国語オッケー。

 それを知った当初、マスターが地味にショック受けてたのが印象的でした。

 ワタシ達の生まれ故郷は翻訳機が大量に出回っていたので、オリジナル〈東谷瀬名〉の外国語教育も中等段階でみんな終わってたんだとか。切ないですねぇ。


 そんなワケで。


 あれから何年経ったんでしょうか……。

 いえ別に何年・何ヶ月・何時間・何分前まで正確に言えますけども。自然な会話的にアウトでしょ?

 とりあえず今年三月、マスターは十七歳になりました。


 でもって現在。

 あつあつの夏真っ盛り、は、も少し先――。

 いえ、目と鼻の先でしょうか?





「ええっとー…………早かったね?」

「そうでもないぞ」

「そうでもありませんよ?」

「…………」


 ですよね~。マスター、そのご挨拶、ちょっと苦しいですよ。

 約束は〝夕方頃〟――陽が長くなってるのでまだとっても明るいですが、今は充分に夕方です。むしろ五時前なんて遅いくらいですって。


《マスターはギリギリまで粘られるだろうと踏んで、彼らも少し遅めに着いていましたよ。それでも一時間ほどは菜園を眺めてお喋りしながら時間を潰していましたが》

「ちょっ……なんで早く言わないんだよ!!」


 いやぁ、お外で待ち構えられてるって知ったら、余計に出られなくなりそうって危ぶんだんじゃないですかね~? 黙ってて正解だったとワタシも思いますよ~?


 さて、この後の展開をかいつまんで説明いたしますと。

 まず、次男と三男がマスターを捕獲しました。鮮やかです。

 真正面から突撃したり、ジリジリにじり寄ったりすると警戒されてしまいますので、にこやかに雑談を交えつつさりげなく距離を詰めたのち、フイと左右両脇に移動して注意をそらした瞬間の挟みうちですよ。まさにハンターの所業です。

 さすが兄弟、息ぴったりですね!

 この三兄弟はマスターと違って存外わかりやすいです。

 弟二人はマスターに全力で懐きまくってます、明々白々です。犬とか狼系の半獣族(ライカン)だったらぶんぶん尻尾振ってそーです。

 長男は弟二人がいる時は一歩引いてますが、最近ではいない時を狙って捕獲したり、カウチで膝枕にブラッシングを要求して甘えまくっております。ちゃっかりしてます、ズルイです。


 おや、弟二人がマスターにベタベタするのはいつも通りですが、視線がなんだか意味ありげでこれ見よがしとゆーか、ひょっとしてお兄様に見せつけてらっしゃる感じ?

 お兄様も微笑みがひっこんでますよ?

 でかい男二人にじゃれつかれ、マスターの心拍数も急上昇中です。これ、敵とかチカン野郎が相手なら、アッパーとか回し蹴りで瞬殺できるトコなんですけどね。知り合いって難しいですよね。


「コレッ、放しなさいッ!!」

「やだ」

「え~、なんでですか?」


 あれ、なんだか長男の周辺だけ光の屈折率おかしくなってません?

 視覚的に空間が歪んでるとゆーか、可視光が一部遮られてそこだけ徐々に変色してるとゆーか暗くなってるとゆーか、背景に「ゴゴゴゴゴ」って効果音が浮かび上がりそうとゆーか……。


 あっ!

 ワタシ、新たなる選択肢がピコンと閃きました!



 C.わかんないのでお掃除ロボットのフリをして立ち去る



 な~んだ簡単じゃないですか♪

 ですよネ~、敵じゃないのはハッキリしてるし、お手伝いさんとしてはビミョーなお年頃のマスターにいらない干渉なんかしないで、音を立てずさりげなく姿を消すのが正解ですよ。

 うちのマスターは精神年齢と肉体年齢と実年齢がぜんぶ不一致とゆー、ほんとぉぉにビミョーなお年頃でございますが、後はお若い皆様方にお任せいたします。

 ごゆるりとどうぞ~。


「あ、あるふぁぁ!! ごはん、晩ご飯たべたい!! すっごくおなかすいたなッ!!」


 ……呼び止められてしまいました。


 マスター、必死ですネ……ほろり。

 そんなにお腹ぺこぺこになっちゃったんですか?


《でもマダ早くないデスかね~? 今から食べテ、寝る前にまたお腹すいたりしまセンか?》

「大丈夫ッ!! 大丈夫だともッ!!」


 そこまで仰るんなら仕方ありません、この(ゴッドアーム)をふるいましょう。

 Alpha(アルファ)さんが美味しいお食事いっぱい作ってさしあげますから、た~んと召しあがれ。


 しかしこの三兄弟、体格に見合ってそりゃもう食べるんですよね。

 量を作る必要ありますからお手伝いをお願いしたら、今日は三人とも申し出てくれました。

 いつもならワガママ王子風の次男が必ず手伝ってくださるんです。三兄弟の中で一番料理好きなんだとか。

 とゆーかこのコ、初めて一緒にお料理した時、横で一度見ただけでワタシのレシピ憶えちゃって、同じぐらいの速さで再現できるようになったばかりか、アレンジも加えやがったんですよね。

 なんですか、兄弟揃ってこの万能お手伝いさんに戦いを挑んでますかそうですか。フフフ、マスターの胃袋掴み係はそうホイホイとくれてやりませんよいい度胸です。


 食材と簡単な調理道具を〈スフィア〉から運び出し、三兄弟全員が加わって夕食を作りました。


 …………。

 こやつら、出来る……。


 マスターへ早く提供するために手早く作れるメニュー選んだとはいえ、分担したらおそろしく早かったです。

 次男が突出してますけども、やっぱほかの二名も手際がよいのです。

 ぷりぷりエビとレタスのコンソメ風パスタをメインに、シーフードピラフ、グリーンサラダ、白身魚のガレット、………………オクラと長芋の和え物に、アサリとワカメの味噌汁……だと……?


 やりおる。

 さては犯人マスターですね?

 ワタシこれ教えてませんよ?

 洋に和が混入しててちょっとアレですけど、ここじゃそういう区別つきませんしね。


「やばい……美味い……なにこのエビ、噛んだ瞬間にプリッて……! つうかピラフの米に魚介の旨味があああ……」


 つまみ食――味見中のマスター、食レポが滾っております。恍惚です。


「味噌汁なにこれマジ美味い、あんなテキトーな説明でよくこんな深い味わいを……」

「まあ、分量はアークに細かく訊いたからな」

「あとは味見しながら、徐々に瀬名の好みそうな味に近付けてみた」

「薄めにしましたけど、物足りないことはありませんか?」

「ぜんぜん! ほかのが味濃い目だし、ちょい薄めのほうがすっきりして好みっていうか、出汁の旨味でいくらでも飲めるわ」


 デザートはそのへんの樹から梨をとってきて、氷の魔術で微調整しながらシャーベットに。

 たびたび思うんですがいいんでしょうかねそういう魔術の使い方って。

 いえワタシは別にいいんですけども。コンロがなくても自分の手から火を出して表面に焼き色つけたり、便利でいいですよ。

 ていうかワタシも出せますからね、指先から火ぐらいなら。

 ただ、この国の魔術士的に、それってどうなんかなと。


 …………。

 ……ウ~ン。


 ま、ワタシの知ったこっちゃないですね! 運悪く目撃したどこぞの魔術士がショックで使い物にならなくなる程度でしょうし、この三兄弟が背後から刺されそうになったところで、マスターに実害が及ばなきゃオールオッケーです。


 そんなこんなで、品数そこそこ、ボリュームはドドンババンと豪勢な夕ごはんが完成しました。

 広場の丸テーブル、四人用なのでマスターお一人様だと結構大きいんですけど、こやつらと食卓囲んだら余裕でぎゅうっぎゅうになります。

 ちなみに食材、海のやつはすべてARK(アーク)(スリー)が南方諸国からゲットしてきた戦利品。ぶっちゃけ、イキモノ系の食材は全部魔物です。

 特徴は全体的に大きめなトコですね。エビっぽいヤツも巨大なのでひとくちサイズに切り分けてますが、今度切り分けずにマヨとチーズのっけてじっくり焼いたりとか、なんなら魚介類の炭火焼きパーティーにしてさしあげてもいいかもしれません。マスターそういうの好きそうです。


 取り皿で好きな量を各自取り分ける式ですが、先にさっさとマスターの分を確保してあげてますよ。あらまあこのコ達ったら甲斐甲斐しいこと。

 好みだって訊くまでもありゃしません。ここに並んだ料理、マスターの嫌いなやつは一品たりとありませんから。


 マスターの役割分担ですか?

 もちろんワタシ達がごはん用意する間、ぽか~んと眺めるだけの簡単なお仕事お願いしときました。

 どきどきも無事おさまってますね。

 よかったよかった。




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