232話 魔女と三兄弟と巻き込まれる人々 (2)
短いです。
「いいのか?」
「うん、俺らにはまだ早ぇから。この武器と防具のおかげであんなに戦えたけど、今の俺らだと、こいつらに見合った実力がねえ。だから、いつかもっと相応しくなってから堂々ともらいに来るぜ!」
「そうか」
アスファ達が聖銀の武具を返却に来た。
彼らは南の地の戦場で抜きんでて目立っていたわけではないが、足手まといにならず、充分に戦力になったと聞いている。教え子に甘いウォルドはともかく、ゼルシカが太鼓判を押した以上、知り合い贔屓で目を曇らせている心配はない。
しかしアスファが自己申告したように、装備の性能に助けられた部分も大きいのだろう。将来性はあるが、まだそれらが相応しいと断言できるほどの実力には達していない。
素直に力不足を認め、強者達と同じ戦いの場に立てた経験に高揚感を覚えている。
そしてそれらを目標に繋げていた。
良いことだ。
この勇者の卵も仲間達も、このまま成長していけば良い。
そうすれば、いずれ望んだものを手に入れられるだろう。
とはいえ。
この武具類、興に乗ったアークに好き放題〝工作遊び〟をされてしまっている。
変に弄ったら危険な気がするので――とりわけ鉱山族は嬉々として弄り倒しそうで怖い――さっさとアークに引き渡すのが吉だ。
「これからすぐ採集へ?」
「うん! 夏にだけ生える薬草の群生地ってとこに行くんだよ」
「瀬名に何か伝えておきたいことはあるか?」
「えっ」
…………。
何故頬を染めた。
視線も泳いでいるぞ?
無意識にだろう、落ち着かなげに両手をわき、とさせている。
エルダとリュシーのまなざしが瞬時に凍った。
シモンが冷や汗を流しつつ逃亡態勢に入っている。
ささやかな親切はするものだな。訊いておいて正解だった。
この坊やをかなり年下の弟のように感じている瀬名は、以前、深いショックを受けている彼を励ますつもりで、頭を胸に抱き込んだことがある。
あの時、彼女はよりによって胸当てを装着していなかった。
だが、この様子。
アレとはまた別件だな?
「あ、あれ!? なんでいきなり地面から柵が!? ていうか足に蔦がっ!? ちょっ!?」
まあ、あの群生地はすぐに枯れるものでもないし、足が生えて逃げるたぐいでもない。
数時間ぐらいのんびりしていけばよかろう。
◇
アスファに吐かせた。
なんと彼は今朝、わたしより先に瀬名に会っていた。
調べものだのなんだのと理由をつけ、丸三日あの真珠の城に籠もっていたくせに、随分ではないか。
あそこに籠もられてしまうと、我々は彼女と会う手段がまったくなくなる。
もとの姿に戻って以来、わたし達は真珠の城の内部への出入りが許されなくなった。いや、もとから自由に出入りできていたわけではないので語弊があるか。
あの頃は逆に、アークの許可がなければ出られなかった。それは我々兄弟を保護するためだった。そうでなければ、本当は誰も一歩も入っていい場所ではなかった。
アルファやベータの姿、彼らが世話をしている菜園、それらを目にする許可を与えられただけでも、我々は破格の特別扱いをされているのだ。
ところであの城の名称は〝スフィア〟というらしい。
〝アーク〟ではなかったのか?
しかし漠然とだが、〝スフィア〟はあくまでもそれを示す名称のようなもので――樹を「樹」と呼び、森を「森」と呼ぶような――名前とは異なるものなのではないだろうか、とも思う。
瀬名がそれを口にした瞬間、そういう感じがしたのだ。
ともかく、忙しいと言うから大人しくしていたのに。
運動不足が気になってきたから朝の散歩?
アスファ一行が〈森〉に着いた頃、歩いている彼の頭上から瀬名が落ちてきたらしい。何をやってるんだ。
ごめんごめんちょっと疲れててさー、鈍ってたわ! と謝られたらしい。なら何故樹にのぼる。
しかもどうやら、枝から枝へ飛び移っている最中に足がツルリと滑って、らしい。先日降った小雨でまだ濡れていたのかもしれない。少年を発見し声をかけようとして、注意がそれたのかもしれない。
結果的にアスファの真上に落ちた。
落下してくるものから反射的に身を守ろうとした手が、丁度よりによって胸の位置に。
降ってきた衝撃を支えきれず、仰向けに押し倒される形になったらしい。
よりによって例のごとく胸当てはなかった。
何でもない顔で硬直する坊やを助け起こし、怪我がないと確認した後は「じゃ!」と去っていったそうだ。
「やわかくてふにってああああ…!」だったらしい。そうだろうとも。
せっかくなので剣の稽古をつけてやった。
わたしも今日は弟達と用事があるからな。ほんの一時間ほどで切り上げることになって申し訳ない。
次の機会にはじっくり時間をかけて鍛えてやるとしよう。
なに、遠慮するな。
次回は兄弟集合。




