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空から来た魔女の物語  作者: 咲雲
旅と模索
233/316

232話 魔女と三兄弟と巻き込まれる人々 (2)

短いです。


「いいのか?」

「うん、俺らにはまだ早ぇから。この武器と防具のおかげであんなに戦えたけど、今の俺らだと、こいつらに見合った実力がねえ。だから、いつかもっと相応しくなってから堂々ともらいに来るぜ!」

「そうか」


 アスファ達が聖銀(ミスリル)の武具を返却に来た。

 彼らは南の地の戦場で抜きんでて目立っていたわけではないが、足手まといにならず、充分に戦力になったと聞いている。教え子に甘いウォルドはともかく、ゼルシカが太鼓判を押した以上、知り合い贔屓で目を曇らせている心配はない。

 しかしアスファが自己申告したように、装備の性能に助けられた部分も大きいのだろう。将来性はあるが、まだそれらが相応しいと断言できるほどの実力には達していない。

 素直に力不足を認め、強者達と同じ戦いの場に立てた経験に高揚感を覚えている。

 そしてそれらを目標に繋げていた。


 良いことだ。

 この勇者の卵も仲間達も、このまま成長していけば良い。

 そうすれば、いずれ望んだものを手に入れられるだろう。


 とはいえ。

 この武具類、興に乗ったアークに好き放題〝工作遊び〟をされてしまっている。

 変に弄ったら危険な気がするので――とりわけ鉱山族(ドワーフ)は嬉々として弄り倒しそうで怖い――さっさとアークに引き渡すのが吉だ。


「これからすぐ採集へ?」

「うん! 夏にだけ生える薬草の群生地ってとこに行くんだよ」

「瀬名に何か伝えておきたいことはあるか?」

「えっ」


 …………。

 何故頬を染めた。

 視線も泳いでいるぞ?

 無意識にだろう、落ち着かなげに両手をわき、とさせている。

 エルダとリュシーのまなざしが瞬時に凍った。

 シモンが冷や汗を流しつつ逃亡態勢に入っている。

 ささやかな親切はするものだな。訊いておいて正解だった。


 この坊やをかなり年下の弟のように感じている瀬名は、以前、深いショックを受けている彼を励ますつもりで、頭を胸に抱き込んだことがある。

 あの時、彼女はよりによって胸当てを装着していなかった。


 だが、この様子。

 アレとはまた別件だな?


「あ、あれ!? なんでいきなり地面から柵が!? ていうか足に蔦がっ!? ちょっ!?」


 まあ、あの群生地はすぐに枯れるものでもないし、足が生えて逃げるたぐいでもない。

 数時間ぐらいのんびりしていけばよかろう。





 アスファに吐かせた。

 なんと彼は今朝、わたしより先に瀬名に会っていた。

 調べものだのなんだのと理由をつけ、丸三日あの真珠の城に籠もっていたくせに、随分ではないか。


 あそこに籠もられてしまうと、我々は彼女と会う手段がまったくなくなる。

 もとの姿に戻って以来、わたし達は真珠の城の内部への出入りが許されなくなった。いや、もとから自由に出入りできていたわけではないので語弊があるか。

 あの頃は逆に、アークの許可がなければ出られなかった。それは我々兄弟を保護するためだった。そうでなければ、本当は誰も一歩も入っていい場所ではなかった。

 アルファやベータの姿、彼らが世話をしている菜園、それらを目にする許可を与えられただけでも、我々は破格の特別扱いをされているのだ。


 ところであの城の名称は〝スフィア〟というらしい。

 〝アーク〟ではなかったのか?

 しかし漠然とだが、〝スフィア〟はあくまでもそれを示す名称のようなもので――樹を「樹」と呼び、森を「森」と呼ぶような――名前とは異なるものなのではないだろうか、とも思う。

 瀬名がそれを口にした瞬間、そういう感じがしたのだ。


 ともかく、忙しいと言うから大人しくしていたのに。

 運動不足が気になってきたから朝の散歩?


 アスファ一行が〈森〉に着いた頃、歩いている彼の頭上から瀬名が落ちてきたらしい。何をやってるんだ。

 ごめんごめんちょっと疲れててさー、鈍ってたわ! と謝られたらしい。なら何故樹にのぼる。

 しかもどうやら、枝から枝へ飛び移っている最中に足がツルリと滑って、らしい。先日降った小雨でまだ濡れていたのかもしれない。少年を発見し声をかけようとして、注意がそれたのかもしれない。

 結果的にアスファの真上に落ちた。

 落下してくるものから反射的に身を守ろうとした手が、丁度よりによって胸の位置に。

 降ってきた衝撃を支えきれず、仰向けに押し倒される形になったらしい。

 よりによって例のごとく胸当てはなかった。

 何でもない顔で硬直する坊やを助け起こし、怪我がないと確認した後は「じゃ!」と去っていったそうだ。

 「やわかくてふにってああああ…!」だったらしい。そうだろうとも。


 せっかくなので剣の稽古をつけてやった。

 わたしも今日は弟達と用事があるからな。ほんの一時間ほどで切り上げることになって申し訳ない。

 次の機会にはじっくり時間をかけて鍛えてやるとしよう。

 なに、遠慮するな。




次回は兄弟集合。

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