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空から来た魔女の物語  作者: 咲雲
和やかな会議
229/316

228話 素晴らしき会議 ~こんなはずじゃなかったのに

いつも来てくださる方、初めて来られる方もありがとうございます。


果たして瀬名のささやかな野望は…。


 《最後に、帝国のこれからについてですが》


 別画面が浮かび上がり、プレゼンテーション資料が表示された。

 瀬名はもう何も言わない。エスタ語と図表による解説、わかりやすいではないか。

 わかりやすい・憶えやすいは正義である。


 イルハーナム神聖帝国は、純粋な帝国人の血を重んじるあまり、中央に権力を集中させ過ぎていた。

 領地持ちの貴族でも皇都に邸を構え、領地経営は代官に任せきり。

 都を出されるイコール左遷、そんな状態だったので、万一のために権力を分散させておくという対策も一切取られていなかった。第一、そんなことをすればクーデター一直線である。

 ところが皇宮は崩壊し、長らくトップに居座り続けていた人々はごっそり消えてしまった。


 ARK(アーク)氏は今後の予測を何パターンも用意していた。

 中でも最も「こうなりそう」という流れが以下だ。



 ・生存者の中で最高位の官吏により皇宮の捜索、情報収集を指示。


 ・皇族および高位貴族の生存は絶望的と判明。箝口令を試みるも、取り締まりを行う皇都軍が機能せず救助活動も難航。


 ・前例のない事態に緊急貴族会議が行われるも紛糾、結論は出ず。


 ・所有者が権利移譲や相続をせず亡くなった奴隷達の隷属契約が自然消滅。自我を消されなかったタイプの元奴隷が現状を把握し逃亡、一部は暴徒化。


 ・下民と虐げられていた他部族や元他国人が次々と帝国貴族の代官を放逐、同時に帝国からの離脱・独立を宣言。帝国貴族は阻止どころか、捕縛のために送り込む兵士確保のめども立てられない。



《危険な前線には辺境軍や戦闘奴隷を配備させ、勝利が見えた途端に中央の兵が前に出てきて手柄を攫っていく。デマルシェリエの方々はご存知かと思いますが》

《ああ、よく知っているとも。我々は帝国の中央軍とまともにやりあったことはない。実際に刃を交わすのは、もっぱら支配された辺境の軍勢だった》


 華やかな武勲は後から来た都の軍勢に与えられ、地方の軍には何もない。

 帝国のみならず、かつて光王国でも小国との小競り合いで、似たようなことを何度もやっていた。


《中央軍の軍規は乱れ、まともな訓練は行われておらず、大半が実戦経験のない兵だったようです。もし壊滅していなかったとしても、彼らいわくの〝下民で構成された田舎軍〟には到底歯が立たなかったでしょう》


 傀儡(かいらい)をぶち立てたり、帝国貴族の生き残り内で権力争いをするにしても、実現させるための手札がない。

 祖先の代に褒賞で与えられていた領地は現地民どもに奪われ、そうなると内乱すら起こす手段がなかった。

 手近にある私財をかき集め、暴徒から身を守るために用心棒を雇い、とりあえず身ひとつで速やかに逃げるしかない。


《故国を取り戻した人々は、まず防備を固めるでしょう。中央軍がどの程度の戦力を残しているか、正確な情報が伝わるまでには時間を要しますし、盗賊に変貌した暴徒が襲ってくるかもしれません。それと並行して、食糧事情の改善や民の生活の立て直しを図ります。まずは疲弊した土地の回復が最優先となり、秋の収穫期を過ぎるまで大きな戦は起こりにくいと思われます。東の地に戦乱の世が訪れるとすれば、来年以降になるでしょうね》


 戦をするにも先立つものが必要だ。

 今はどこにも、その体力や精神的余裕がない。


《帝国貴族による暫定政権が軌道に乗ることもありません。事実上、先日の魔王討伐をもってイルハーナム神聖帝国は崩壊しました》





 もしかして、とは思ったけど。

 思ったけど。

 やっぱりそうなのか……。

 皆々様の沈黙がとても重い。そして痛い。瀬名のハートがきゅっと縮んだ。

 青い小鳥は(あるじ)と違って欠片も意に介さず、淡々と続ける。


《辺境伯が憂慮なさるべきは、東の地から流れてくるであろう難民の対策です》

《……私もそれを案じていた。かなりの距離ではあるが、それでも我が地方に逃れてくる者はいような》


 瀬名は「あれ、お仕事? お仕事のにおいがする? もしかして私の出番じゃない?」と一瞬期待で目を輝かせる。

 が。


《避難民と犯罪者の選別は我らがやるぞ》


 エセルディウスに封じられた。


《おお、お任せして良いか?》

《ああ、任せるといい》

《わたし達の得意分野ですからね。難民の当座の住まいや仕事もなんとかできると思いますよ》

《ありがたい! 是非お願いする》


 口を挟む隙もなく、さくっと解決してしまった。


(あれ? か、カルロさん? そこは心苦しそうに辞退する場面では……いや、それなら私がお手伝いを申し出ても辞退されることになっちゃうか……)


 上手くいかないものである。

 

《ラザック、元戦闘奴隷だった者どもはどうなると思う? 奴らの大半は半獣族(ライカン)のはずだが》

《俺よか、そいつらの事情はカシムとカリムのほうが詳しいと思うぜ?》


 話を振られた二人が渋面を作った。


《ああ……暴徒化しそうな最有力候補だよな……》

《頭も弱いしねあいつら……でも頭が弱いから、徒党を組まれない限りは意外とそんなに厄介じゃないよ。反目し合ってる連中も多いし、ひとつの群れの数がそこまで膨れあがることはまずないと思う》

《地方の首領には、半獣族(ライカン)向けの防衛戦に詳しい奴が多い。中央の奴らと違って実戦で叩きあげられた連中ばかりだからな。頭の切れる奴なら、マシな半獣族(ライカン)を傭兵として雇うこともあるだろうさ》

《都で暴れたら満足して故郷の地に戻り、前のようにそこで暮らすか。食べるのに困って余所の集落を襲い討伐対象にされるか。……あとは、どこにも居場所がなくなって難民に加わるだろうね。貴族に媚びてでかいツラしてた奴らなんかは特に》

《そうなっても態度のでかさが改まってない奴は、精霊族(エルフ)と灰狼の連中が軽くひねってやりゃ大人しくなるだろ。本能的にも強い相手と思い知ったら逆らわねえよ》

《へっへ! そりゃ楽しみだ》

《キュッとやってやろうじゃねーか》

《そーゆーのは大得意だぜ》


「………………」


 これもまたあっさり解決してしまった。

 その後もいくつかの細かい疑問点が挙げられ、そのたびに誰かが即座に解決策を示し。

 …………。


「えー……それでは皆さん、そのようにお願いいたします」


《ああ》

《わかった》

《何かあればまた報告する》

《それでは…》

《また会おう、レ・ヴィトス殿》

《じゃあ瀬名、兄上。さっさと片付けて戻る》

《お土産ありますからね~♪》

《ではマスター、失礼いたします》


 会議は終了した。


 …………。


 ………………。



(あれ? あれれ?)



 空中に投影されていたすべての映像がふ、と消え去り、いつも通りの森の姿が戻った。

 朝に開始し、まだ昼前である。


 …………。


 瀬名はロダンの〝考える人〟のポーズを真似っこしてみた。

 妙に落ち着く。

 お土産って何だろう。

 じゃなくて。


(おかしい。こんなはずがない。何かが変だ)


 会議とは。

 もっとこう、だらだらとして、ほとんどの項目は進捗が遅滞気味で。

 その場で建設的な解決策が決まるものではなく、「この議題については次回」とするのがお約束ではないのか。


 今回挙げられた文句(いちゃもん)を持ち帰って検討し、解決策をひねり出し、次の会議で発表する。

 そこで出た文句をまたさらに持ち帰って検討し……と、何度も発表会を重ねてようやく決定、そういうものではないか。


 おかしい。

 何故、懸案事項がいっこも残っていないのだ。

 一度の会議ですべてさっぱり片付くとか、そんなのあっていいのか。


(馬鹿な!? 半日どころか四分の一日すら経っていないぞ!? 何が起こったんだ!?)


 次回の約束すらできなかったなんて!?

 戦慄した。

 呑気に〝考える人〟のポーズをとっている間に、周囲はとても静かになっている……。

 頼んでいないのに二人きりにされてしまったようだ。

 空気を読むのが上手すぎる種族と、危険に鼻のきく種族がいると、時にこういう悲劇が起こるらしい。

 そしてしばらく、厄介なお仕事がこちらにまわされることはなく、暇な日々が続くようだ。


 背筋をつつう、と冷や汗が落ちていった。





 その後。


「いいか、話せばわかる。まだ間に合う。キミの時間はもっと有意義に使うべきだ。世の中には一時の気の迷いという言葉がある。こんなところで人生棒に振るんじゃあない。冷静になって考え直すんだ」


 にっこり。

 それが答えだった。

 説得が相手に届くことはなく、抱擁とともに耳元で甘くあまーく膝枕を強請(ねだ)られ(分割払い)幽体離脱しそうになる瀬名がいた。


(ぎゃ あ あ あ あ あ ぁ ぁ ……)




忙しくしてれば安全が確保できると思ってたのに、当分ヒマが確定してしまった主人公。

どうしてこうなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 落ちが無理 女性側が避けている特定の野郎が抱き着いてきて甘い言葉をささやいてくるとかゾッとするね
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