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空から来た魔女の物語  作者: 咲雲
和やかな会議
224/316

223話 素晴らしき会議 ~沈黙の価値


 待ちに待った会議の時間である。

 退屈でつまらない報告会?

 適当に原稿にまとめて発表すればいいだけの時間潰し会?

 やる意義あるの?

 無理解による偏見とはなんと恐ろしいものか。これほど有意義で素晴らしい時間などほかにないではないか。

 瀬名は愚かな過去の己を叱り飛ばしてやりたい気持ちでいっぱいだった。

 こんな素敵なものを面倒がって避けようとしていたなんて、無知も甚だしい。馬鹿ではないか。


(会議って素晴らしいよね!)


 場所は黎明の森、いつもの広場。

 EGGS(エッグズ)から空中に投影された各地メンバーの映像を眺め、瀬名は万感の思いとともに溜め息をついた。

 やる意義なら山ほどある。何故なら、少なくともこの時間だけは、己の精神衛生と身の安全が保障されているのだから。

 身から出た錆とはいえ、あの取り立ての間、がりがりがり、ぞりぞりぞり、ずごごごごご…と耳の奥で響き続けた、魂がすり減ってゆくあの幻聴の恐ろしさときたら。

 〝どんなダメージを受けてもライフポイントが1だけ残る〟状態で生き残り続け、這うように臨んだこの日、この瞬間の感動をどう表現すればいいか。


 ちなみに荷物のフリで逃げた裏切者の雪ダルマもどき。奴が荷物のフリで乗っていたキャリーカートには、遠隔操作可能なエアカーとしての機能もついていた。小さなタイヤを仕舞い込み、地上から少し浮き上がって、地面の凹凸を気にせず自力でついてきたのだった。

 さすがにこれは他の人々に見せるわけにいかず、〈黎明の森〉の手前で再びタイヤを出してカラコロし始めたのだが……勝手に動くキャリーカートに目をむく連中が続出した。とりあえずその連中には、「これは高度な幻術だ」と納得させている。

 雪ダルマには「超豪華なディナーを作れ」と命じてあった。Alpha(アルファ)のほうが料理上手なので、厳しい料理長と見習いシェフごっこをやらせている。……単なる憂さ晴らしだ。眺めてほのぼのとなごむぐらい良いではないか。そうでもなければやっていられない。


 ともあれ、数日前と打って変わって、やる気に満ち溢れた笑みで待ち構えていた瀬名に、画面の向こうの何名かが一瞬だけ後退りつつ頬を引きつらせていた。

 が、瞬時に平然とした態度で覆い隠した。むろん「おまえ何があった」とは誰も訊かない。

 持つべきは沈黙に価値を見いだせる思慮深い友人達である。





 まずは順番に通常の報告を行い、その後に全体で今後の方針確認に入る。

 一番手はエスタローザ班からだ。

 辺境伯カルロ=ヴァン=デマルシェリエ、イシドール騎士団団長。

 特別参加枠で叡智の森ウェルランディアの王配オルフェレウス、同じく王配のハスイール、それにエセルディウスとノクティスウェルが代表者として映っていた。真面目な顔をしてしれっと立っている弟二人に物申したい瀬名だったが、あえて突っ込まない。そしてたかが特別参加枠の存在感がやたら強いのも、まあ、世の中そういうこともあるだろう。


 瀬名のメンバーが山脈国や帝国へ行ってあれこれしている間、予想に違わず光王国全体で魔物の活性化が見られたようだ。とりわけデマルシェリエで凶悪種の数が増えており、比較的少ない地でも魔物の目撃例が増加していたらしい。

 辺境伯やイシドール騎士団団長は彼らの領地を重点的に、そして精霊族(エルフ)は灰狼や各地の討伐者ギルドと連携して、光王国全体の大掃除を繰り広げた。

 ついでに精霊族(エルフ)の連中は、人の着ぐるみを来た魔物も発見次第捕獲、もしくは討伐していってくれたそうな。


《あくまで、通りすがりの〝ついで〟で申し訳ないのだが》


 ウェルランディアの面子はにこやかに詫びてくれたが、その影響で貴族の上位を占める名が大幅に書き換えられるのは必至だそうだ。

 結果的に光王国が前よりも綺麗になるのだから、その程度の手間は王国民として受け入れるべきであろう。もちろん瀬名は書き換え作業で大変になるであろう人々に、「みんな頑張れ!」と応援を惜しまない。差し入れのお菓子を作るぐらいの労力も惜しまないつもりだ。


 ちなみに、上位から名前を消されることになった連中の大半は、魔王出現が騒がれはじめてしばらく経つのに、「馬鹿馬鹿しい」と鼻で嗤って何もしなかった連中である。自分のキラキラな日々がこの先もずっと続く、そう根拠もなく信じて無策のままだった者のみならず、やはりいた裏切者。

 事が成った暁には帝国の重要なポストを約束されていたり、光王国の領地の「あそこからあのへんまでよろしく」と約束していたり、抜け目なく証文を交わしていたお馬鹿さんもいれば、口約束だけで信じていた純真無垢なお馬鹿さんもいた。


《証拠があろうとなかろうと、奴らが約束を守らぬことなどわかりきっていようにな》


 魔王の勢力が力を増すのに手を貸していた。そう知らなかったとしても、帝国がこの地を蹂躙した日、自分達だけは安全でいられると思うのが大間違いだ。

 過去の例から学べんのか、と愚痴気味に切り捨てる辺境伯は少々お疲れのようである。

 瀬名は瞳にいたわりの気持ちをこめつつ頷いた。


「約束守って報酬を与えた直後、難癖つけて没収して投獄っていう〝上げて落とす〟もあるのにね」

《まったくだ。その程度の想像力もない輩が多過ぎて嘆かわしい》


 瀬名の背後や映像の中の数名がザッとのけぞった。

 その数名はとても帰りたそうな視線を浮かべているが、のけぞらなかった面々によって黙殺された。


《それから、これは光王国の臣下たる我々にとって頭の痛い問題なのだが……》


 辺境伯いわく、やはりというか、国王をはじめとする王家の方々がとてもご立腹らしい。

 彼が疲労感と頭痛を覚えている最大の要因がこれだった。

 王の妃達やフェリシタ王女は、むろんデマルシェリエ側に立っている。しかしこの国は男性優位であり、女性王族の権限や発言力が男性王族のそれより重視されることは滅多にない。


 早い話が、無駄に最高権力を持った御仁が、ひたすらずっと蚊帳の外にされていた現実を今さら知って、とても怒っているのだそうな。

 そしてまた何やら色々、浅知恵で画策しそうな気配が濃厚になってきたのだとか。


「素晴らしい。それでこそ国王陛下だ」

《え?》

《な、なんでそーなるんだ?》

《いや、訊くな。絶対聞かねえほうがいいやつだ》


 辺境伯は目を丸くし、おもに他の画面からどよめきがあがった。

 手放しで称賛しているのに、それを悪意でとるとは失礼な連中である。


(己の立場に対して未練がましく、あきらめが悪く、無駄を無駄と理解できないお粗末な判断力――そう、それこそが今まさに、私が王族諸君に求めるものだ。素晴らしいではないか。きっと君達は私の求める才能と働きを立派に示してくれるに違いない……いいや、国王の名と矜持にかけて、是非とも見せてくれたまえ!)


 何故か。

 もし奴がいらんことをやらかして深刻なトラブルを増やしてくれたら、「しょうがないナー」と渋りつつ巻き込まれることができるからだ。

 進んで巻き込まれてくれよう。

 とても厄介な案件であればあるほどいい。


「ふふふ……ささっと片付けるのも失礼にあたるだろうからね。ゆっくりじっくり、たっぷり時間をかけてお付き合いしてさしあげようじゃあないか……楽しみだよ」


 目的はひとつ。瀬名の今後の精神衛生のためにだ。

 ところが、沈黙は金とはよく言ったものである。この不用意な発言と、無意識に浮かべた「にやり」が原因で、瀬名はデマルシェリエの面々を「絶対こいつが出張ってくる事態だけは避けねば…!!」と奮起させてしまったのだった。




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