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空から来た魔女の物語  作者: 咲雲
南の地にて
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180話 【小さなやつら】と【大きなやつら】


 しばらく前に喰い尽くした獲物の骨をざらざらと舐めながら、数匹の【小さなやつら】はうつろな眼窩に似た穴の中で、時おりうつらうつらと船をこいでいた。

 全員が完全に眠り切ったりはしない。何故なら、見張りという大事な役目があるからだ。

 ここは地面よりそこそこ高い場所にあるので、それなりに遠くまで見渡せる。

 役目なんて面倒臭いが、とても大事だ。さぼったらさんざんに殴られ蹴られ、ひょっとしたら食べられるかもしれない。

 さぼらなければ、面白おかしく、今までどおりだ。


 最近、余所から【大きなやつら】がやってきて、穴倉の前に陣取った。

 【大きなやつら】はとても乱暴で偉そうで腹が立つけれど、その代わりとても強くて硬くて頼もしい。

 そいつらがやれと命じたので、【小さなやつら】は見張りをしている。

 大変だし疲れるしやりたくないけれど、やらなければ酷いことになるので、やるしかない。


 自分達より大きくて、【大きなやつら】よりも小さな、けれど同じように二本足で走るやつらがいるのだ。

 そいつらは大抵、ここからは離れた場所に集落を作っていて、大抵は弱い。

 ここいらの四本足やたくさん足、足なしのずるずる、飛ぶやつらなんかは強いのが多くて、【小さなやつら】はだいたい、みんなで弱い二本足を襲いに行く。

 みんなが移動するのは、眩しくてぎらぎらしたものが森の向こうに隠れる頃だ。そういう時は二本足にほとんど出くわさないので、自分達の姿も見咎められることがほとんどない。それでも一応、別の強いやつらに見つからないよう、こっそり歩く。

 ずっと近い場所まで近付いて、二本足のやつらが頑丈な囲いから出てきたり、はぐれているのを見かけたらそれを狩るのだ。


 理想はやわらかい弱いメスや子供。でも滅多に見つからない。

 若いオスは馬鹿なのが多い。ほんの少し怯えた顔で林にでも逃げ込んでやれば、すぐ追いかけてきてくれるので捕まえるのが楽だ。

 獲物をさらう頃には、眩しいぎらぎらがまた上がっているけれど、その頃でないと二本足はそうそう巣穴から出てきてくれなかった。

 たまに二本足の棲み処の囲い自体が弱っちくて、簡単にやぶれることもある。そういう集落を見つけたら、嬉しさのあまり小躍りしたくなった。

 そんなところは大概、頑丈な囲いには必ずある嫌なにおい、嫌な感じもしない。もしくはとても薄かったりするので、狩りがとてもたやすかった。


 けれどたまに、二本足でも強いのがいる。

 そいつらはたまに、こんなところまで襲いに来る。

 もっとお山の深いところに入り込んでしまえば追ってこないけれど、そうなると別の強いやつらに食べられてしまう。

 だからこの辺りに棲むのが丁度いいのだ。

 眩しいぎらぎらが徐々に血のような色になって、そろそろ、もうあとどのぐらいで森の向こうに沈み込んでくれるだろう。

 狩りに行っている時はいつも起きているので、穴倉に戻った頃にはだいたいみんなグースカしている。

 こういう時は、狡賢い二本足に襲われることが多いのだ。【大きなやつら】がそう言っていた。

 だから、見張りは大事なのだ――ああそれにしても瞼が落っこちそうだ、ほんの一瞬そこにゴロンとしたっていいじゃないか、とは思うけれど。

 みんなに怒られるし、凶暴な【大きなやつら】にぐちゃぐちゃに潰されるのは嫌だ。

 だから、我慢だ。そうすれば痛い目には遭わされないし、【大きなやつら】は怖いけれど頼もしい。



 ここに来た頃、【大きなやつら】が言った。

 もうすぐだ、と。


 王様が来る。


 【大きなやつら】よりも遥かに強くて、遥かに怖いらしい。

 それだけでなく、王様がいると、下々の弱い者達までみんな強くなれるのだそうだ。


 そうなれば自分達も、今よりもっと美味しい獲物を、今よりもっとたくさん捕まえて、いつでもお腹いっぱい食べながら笑い転げて暮らせるようになる。

 【小さなやつら】はみんなそれが楽しみで、そんな日々を思い描いてはニンマリするのだった。


 王様はとっくの前に生まれていて、今はまだ雛にすぎない。

 けれど、辺りが冷たい真っ白に包まれて、それが消えて水に変わり、暑苦しくなって、涼しくなって、またつらい真っ白の日々が来て――そのひとまとまりを、指を折ってあと三、四本ぐらい繰り返せば、もうすっかり大きくなっている。


 そうなれば、ぜんぶ王様のもの。


 王様に敵うやつらはいない。


 自分達はそんな王様のしもべになるのだから、つまり何もかも自分達のものだ。

 想像してはぐふぐふ嗤いながら、飽きずにざらざら骨をしゃぶり――



「コヘッ?」



 とすり、とこめかみに軽い衝撃があって、どうしてかぐるりと目が回った。

 ずうん、と暗くなり、重い身体に耐えられなくなって、どさりと仰向けになる。それきり、その一匹は動かなくなった。


「ッ!?」

「グギャッ!?」

「グェッ!?」

「キィアァッ!!」


 また一匹、次は胸にどす、と衝撃があった。そこに生えているのは――二本足の道具だ。

 うつらうつらしていた者も飛び起きて、【小さなやつら】は慌てて〝弓〟を構えた。それはもともと二本足が使っているのを見た者が、真似て作ったのが最初だったらしい。

 構えた弓に、細長い棒――矢をつがえる。


 どこだ。

 あの森の中か?

 くんくん鼻を動かすけれど、それらしいにおいは引っかからない。

 がむしゃらに森へ向けて放ってみる。悲鳴は聴こえないし、傷を負ったにおいもない。

 まるで手応えがなかった。

 誰かが仲間の頭に生えた矢をひっこ抜いて使おうとして、「ギャッ!」と飛びのいた。触れかけた指が焦げている。しゅううと嫌な煙のにおいが鼻を突いた――いまいましい。


 それにしても、どこだ? 【小さなやつら】はぎょろぎょろと忙しなく目をこらすが、そよ風のかすかなざわめき以外、二本足は影も形もなく、どこかを移動する音もさせていなければ気配もにおいもない。

 けれど、間違いなくどこかにはいるのだ。

 

「グゴァアアァアッ!!」

「グゥオオオォォッ!!」


 いきなり、【大きなやつら】が咆哮をあげ始めた。

 自分達の血のにおいに気付いたのか――いや、違った。

 【小さなやつら】はギョッとする。

 周りの地面がぼこぼこ波立ち、盛り上がって、【大きなやつら】に襲いかかっていた。




今まで出てきた大物級ではないですが、戦闘回です。

襲って来た二本足の正体は…。

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